108 偶発戦闘と心残り
十五層へと降りて来た五人は、いつもの様にルシアナが罠の有無を確かめてリアーネが先の状態を調べているうちに他三人が休憩の準備を始めるのだった。
階段はどこも薄明るいだけで気にならなかったが、扉の向こうの領域は時刻に合わせて明度が変わるのか、リアーネの掛けたゴーグルが地図の表示をしている間に夕暮れから一気に暗くなっていたのだ。
「どうする? 少し寝てから行く?」
「ん。この先もいくつか領域が別れてる。……暗くなったみたいだし、ゆっくりしたい」
「ここまで来るのにかなり疲れたしね」
「はいはい、休んでくよー。楽にはなったけど台車を降ろすのは疲れたよ」
「夕食は少し豪華にするのー!」
そう言ってロレットは、得られた肉を厚く切り分け叩いて伸ばして塩胡椒を塗し、豆粉、卵を潜らせて、香草と削った乾酪を混ぜたパンの衣を付けたら揚げ焼きにする。
他にもスープの素にたっぷりの肉と野菜を追加し、パンと一緒に頂いた。
食後にはお茶と十四層で収穫した梨を切り分けて、皆は満足するだけ食べたのだった。
交代で休息を取り夜が明けてから食事に出発の準備を終わらせた。
「元気一杯! 張り切って行こう!」
「ん。片付けも終わった」
「迷宮の中の明るさって外と一緒に変化するのかな?」
「そうじゃない? 時計の時刻と変わりなく感じるけど?」
「でもでも、太陽が無いから判り辛いの」
扉を越えて周囲の状況を確認しながら足を進めて行く。
すぐの領域は一面見通すことのできる草原が広がり虫の魔物に樹鎧兎の姿を確認できた。
それらは進行の妨げになるもの、向かってくるものを中心に狩っていき次の領域へと移動する。
目の前には深い森が現れて、他の探索者の歩いたのであろう切り払われた細い道を見ることができた。
「リーネ、こっちで良いの?」
「んー……、方向は向こうだけど、ここを通った方が良いのかも?」
「先人の知恵ってやつじゃない? ボクはこの細道を押すよ」
「ルーナに賛成。森歩きのことだったら任せて大丈夫でしょ」
「なにおー!」
「ふふふ。ルーナ、いつも適当だからなの。珍しく、任せられる場所なの。頑張るのー」
「ロットまでー……」
笑い声を上げながらも、ラウリーの示した細道を邪魔する枝葉を切り払いながらルシアナを先頭に進むことにした。
しばらく進んでいると、木を伝って魔物が集まって来ることをゴーグルが捉えた。
「みんな、木の上なの!」
ロレットの声に見上げると、体長六十センチ程、尻尾まで入れると一・二メートル程になる茶色の毛並みに緑の縞模様のある樹落栗鼠が、手にした木の実を振りかぶっているところだった。
光を発して一斉に落ちて来る木の実を避けるために五人は散開して距離を取る。
落ちた木の実は急速に成長して近くの低木などに巻き付き始め、唯一ロレットが捕まって左足が固定されてしまっていた。
「わっ、わぁー。はずれないの!?」
「追撃される前に倒せばいいよ!」
尻尾の毛を逆立てて混乱しているロレットに指示を出すのはルシアナで、弓を引き絞り木の実を取ろうとしていた樹落栗鼠を射抜いて行った。
続く様にリアーネとロレットも発砲し、少しずつ樹落栗鼠の数を減らして行く。
レアーナはロレットを守る様に近くに控え、落とされた木の実を棍で弾き飛ばしていた。
そんな中ラウリーは駆け上がる様に木を登って樹落栗鼠に近付いて、仕留められずとも枝を切り飛ばして落として行った。
落ちた樹落栗鼠は慌てて近くの木を登って行くが、無防備に身をさらすことになり射撃の的となっていた。
中には歯をむき出しにして近付いて来るものも居たが、樹上に居なければ対処も難しくは無い様で躱して射撃をすればいいだけだった。
「あと、もうちょっとなの」
「くっそ、この木、結構硬いな」
余裕の出て来たロレットとレアーナは剣鉈を取り出し、気を付けながら巻き付いた枝を切り払っていた。
ガッガッガッガッガッガッ!
そんな中で突然に、十メートル程にまで近付いて来ていた、体高二メートルを超える銀色にも見える毛並みを持った銀月猪の歯を打ち鳴らす大きな音が響いて来た。
「「「なっ!?」」」
重そうな足音を響かせて低木などは押しつぶしながら突進を始めた。
銀月猪の進路から外れる様に移動するが、まだ動けないロレットに気付かれて、そちらへと向き直っていた。
パシュッ! カンッ!
ブギャアアァァァァーーッ!!
気を引くためにもリアーネとルシアナが射撃を続けるが、より一層に暴れ始めて迂闊に近付くことができなくなった。
「今のうちに……っと。よっし、もう動けるね!」
「ありがとうなのっ!」
ようやく自由を取り戻したロレットは、『浮揚』の魔法を使い樹上へ逃れて射撃を始める。
レアーナは戦槌を取り出し銀月猪の後方から近付いて行く。
それを気付かせない様にとリアーネ達は射撃を続けて気を引き付ける。
「ドッセーーイッ!!」
右後肢を砕く様にレアーナが戦槌を振り落とし、体勢を崩しながら悲鳴を上げる銀月猪に追撃を掛ける様に樹上から飛び降りたラウリーが短剣二本を背中に突き刺し、短剣を伝って『雷光』の魔法を使うのだった。
ビクッと、はねた銀月猪はラウリーを振り落とそうと暴れ始め、周囲の木に突進を繰り返す。
「うーわぁーーっ!?」
悲鳴を上げながらもラウリーは銀月猪の背中を蹴って飛び上がり、木にぶつかる前に枝にぶら下がることに成功する。
ラウリーが離れたことを確認し木にぶつかって動きが止まったところを狙ってレアーナが戦槌を頭目掛けて叩き込むと、目を回したように身を横たえた。
「止め……ダァーーッ!」
レアーナが渾身の力を持って戦槌を振り下ろし、銀月猪をようやく仕留めることができたのだった。
「はぁーー………。もういないよね?」
「ん。栗鼠の残りも逃げたみたい」
「あんまり素材残さなかったね」
「他の探索者が狩った後なんじゃない?」
「それでもお肉があったの! 楽しみなの!」
魔石を中心に少しの素材を回収し、最奥の領域へと向かうのだった。
「「「あーー………」」」
丘陵地の上を見上げた五人の前方では翼蒼竜を仕留めたところの七人組の探索者が居たのだった。
「お疲れさまでーす!」
「何だ? おぉ、ありがとうなー」
近寄って行ったラウリーが長槍を手に立つ鷲人族の男性に声を掛け、リアーネ達も少し遅れて近付いて、各々が挨拶の声を掛ける。
「嬢ちゃん達、ここいらじゃ見ない顔だな。最近来たのかい?」
「そう! 探索者になったばかりなんだ!」
「ん。この迷宮は、あとは迷宮核に登録して帰るだけ」
「リーネ、ボクらはあれとやり合わないでも大丈夫なのかな?」
「そんなの帰ってから確認すればいいことだよ」
「そうなの。もう疲れたの。早く帰るの」
「ははは。まぁそうだな。俺らと一緒に上に戻るか」
丘陵地の奥には一際立派な扉があり、開けた先は小さな部屋となっていて中央にある柱には大きな迷宮核がはまっていた。
ようやく狩人組合の待合室まで戻ってくることができた五人は、報告よりはまず空いてる卓に着きお茶とお菓子で休憩を取るのだった。
「みんなお帰り。無事でよかったわ」
「「「ただいまー」」」
受付嬢のお姉さんが、五人の着いた卓へと声を掛けて来た。
「どうだった? 十一層以下は凄かったんじゃ無いの?」
「うんうん。ほんとそう」
「ん。迷宮内とは思えない環境」
「あれだったら、中で生活できたりするんじゃないの?」
「さすがにそれは無茶でしょ」
「そうなの。家の中に魔物が発生しても知らないの」
ルシアナの言に微妙な表情になった受付嬢はどこまで行ったのかと聞いて来る。
「迷宮核まで行ってきた!」
「ほんとに!? じゃあ、あなた達だけで翼蒼竜も?」
「あーー、それは、あそこの人達が倒してた」
「ん。リーネ達が行ったときに丁度仕留めたところだったみたい」
「なるほどねー。でも、まぁ、下級迷宮の攻略自体はこれで終了かな? 早過ぎよあなた達」
中級迷宮へ向かうことへの許可も無事に貰えた五人は、数日の休養を取ることにして、本日は早く宿で休むことにしたのだった。
読んでいただけた方が楽しいひと時を過ごすことができれば幸いです。
1月9日 まで毎日 朝7時 に更新します。




