パンとマイムの国
ぽん「あ、ヤバいの見つけちゃった」
もこ「ひぐっ……!」ゾゾッ!
月光を蝕む漆黒に、燐と浮かぶ無数のマネキン。
動きはありませんが、彼らは確かに生きています。
ぽん「それはそれで怖いんだけど」
あそこは、パンとマイムの国。
栄えていた過去、いろんな芸を得意としていた国で、現在は主にパントマイム一筋で落ち着いています。
ぽん「パントマイムって、なんかこーして、こんなことして、こーするやつでしょう」
そうです。
彼らは、そのエアプレイを現実にする力を持っているんですよ。
ぽん「すごー。でも降りない」
名物のパンがあるみたいですよ。
ぽん「お店もなにもないじゃない」
もこ「マネキンが不気味に散らばってるだけやよ」
…………。
ぽん「到着」
ぴょん「びくともしないな」セタップ
もこ「夜にサングラスして前見えんの?」
ぴょん「見えるよ」
もこ「ふーん」
ぽん「ねえねえ。誰が挨拶にいく?」ひそ
もこ「やだっち」やなの
ぴょん「オレも」のんのん
マネキン「ぽんちゃん」肩掴み
もこ「やあああああ!!」にげっ
ぽん「ま」
ぴょん「きゃあああああ!!」にげっ
ぽん「待ってよぅ……」ぷるぷる
マネキン「久しぶりだね」逃がさない
ぽん「誰さん?」
マネキン「誰かな。振り向いてみて」
ぽん「やだあ……」ぽろぽろ
マネキン「泣かないで。泣くと流れる血が減っちゃうよ」
ぽん「え」ぴたっ
マネキン「どうしても呪いたいよ。君をどうしても苦しめたいんだよ」
ぽん「まさか……やどかりの国の」ひやっ
マネキン「思い出してくれたんだね!」
ぽん「誰が助げでえええ!!」号泣
マネキン「彼らはみんな友達。助けてなんてくれないよ」
やんこ「じゃあ、あたしが助けちゃおっか」
ぽん「誰さん?」
やんこ「こっちを見ちゃだめだよ」
ばきめきばきゃ!
マネキン「やめ、やめめ」
めきばきばきゃあ!
マネキン「あ……ぐえ」
ぼぎゅり!
やんこ「終わったよ。こっちみて」
ぽん「やだ」びくびく
やんこ「どうして?ねえ、ねえねえねえどうしてこっちを見てくれないの?助けてあげたよね?嬉しいよね?じゃあ見てよ」
ぽん「はい見ます!」ふりむきます!
やんこ「んふ、やっとみてくれた」にたにた
ぽん「マネキンがお洒落になってる……」
やんこ「こいつはずっとあたしのしもべ、素敵でしょ?永遠に道具としてこき使っちゃうから安心して」
ぽん「ありがとう」
やんこ「じゃあじゃあお礼にしもべになって」
ぽん「は?」
やんこ「あたしはしもべがほしかったんだ。人間のね」
ぽん「子供だからってワガママばっかり言っちゃだめなんだよ」
やんこ「どうして?あたしはこんなにもあなたのことが好きなのにどうしてあなたは好きになってくれないの?ねえ?ねえねえねえ?好きになってよ」
ぽん「いやです!」にげっ
やんこ「あれあれー。照れやさんなんだから」くすくす
ぽんちゃんは走りました。
ただ、急き立つ思いからスワンボートとは反対方向へと走ってしまいました。
ぽん「あれ?」
それを私は教えません。
ぽん「ここどこー!スワンボートどこなのー!」
やんこ「ぽーんちゃん」すっ
ぽん「ひっ!」ゾゾゾッ!
漆黒から滲み出た彼女から逃げようと試みるも、目に見えない壁がそれを阻みます。
ぽん「どうしてここに壁があるの!なにもないのに!」ばんばん!
やんこ「つくっちゃった。これで二人っきりだよ」ふふっ
ぽん「やだやだやだ!」よじよじ
ぽんちゃんは目に見えないロープをつたって、何とか壁を越えました。
やんこ「あたしのためにまだまだ楽しませてくれるんだね」にこっ
ぽん「やだー!」たたた!
しばらくして、ぽんちゃんはあることに気が付きました。
ぽん「マネキンが近づいてきてない?」ぴた
私は返事を返しません。
ぽん「ナレーションさん助けてー!返事してよー!」
それはできないのです。
呪いを受けてしまったから。
ぽん「誰が助げでよおー!」とたとた
ひとりぼっちで激しく泣きながら逃げるぽんちゃんを、私はただ見ていることしかできません。
なのり「ぽんちゃん」
ぽん「ぎゃあー!」たたっ!
悔しい。
自由に動ける体さえあれば……体……はっ!
ぽん「あれ?これエスカレーター?」すー
やんこ「嬉しい、あなたの方から来てくれるんだ」
ぽん「いきません!」ぴょん!
やんこ「飛び降りたって無駄だよ」
ぽん「ひっ!マネキンだらけ!」ゾワワ…!
マネキン「ぽぽぽぽぽんちゃちゃちゃ」
ぽん「やあだあ……」しくしく
そこまでです!
やんこ「だあれ?」ぎょろり
ナレーション「私はナレーションさん!ぽんちゃんを見守り助ける者です!」
ぽん「え!マイマイクマになったの!」
ナレーション「呪いを受けた私は、ナレーションをあなたに届けることができませんでした。それでも助けたい、守りたい。だからこそ、一時的に体を得ることを決めたのです」
ぽん「ぴょんちゃんともこちゃんは?」
ナレーション「急いで駆けつけたので話はしていません。なにより、大切な友達を巻き込めないでしょう」
ぽん「うん、そだね!」
ナレーション「さあ、かかってきなさい!私が相手です!」
やんこ「なにこのへんちくりんマイク、かわいいじゃない」つまみ
ナレーション「こら!離しなさい!」
やんこ「離さない。あなたはもう、あたしのしもべ。この手を千切り取られてもあたしはあなたを離さない絶対に離さないんだからあははは」
ナレーション「助けてー!ぽんちゃーん!」
ぽん「えー」
ナレーション「えーてなんですか!」
ぽん「役立たず」
ナレーション「なんとひどい!せっかく助けにきたのに!」
ぽん「じゃあ助けてよ」
ナレーション「自由になれたらマイマイ拳闘でやっつけてやりますよ」ぱたぱた
やんこ「しもべたち。とっととそれを捕まえて」
マネキン「いけいけいけいけ」
他マネキン勢「か、体の自由が」ぐぎぎ!
ナレーション「そうか……!ぽんちゃん、彼らは呪われているだけです!呪いを解けば彼らは味方になってくれるはずです!」
ぽん「どうしたらいいの!」
ナレーション「超がんばって!」
ぽん「無理でーす!」ばってん
ナレーション「そこをなんとか!」
ぽん「んー……あ!」ひらめきぽん!
ナレーション「良かった。いいアイディーアが浮かんだようですね」
ぽん「えすえふびーだま!」ててーん!
やんこ「あれ?何も持っていないよあなたバカなんだ食べちゃいたいほどかわいい食べたい」
ナレーション「ここはパントマイムが現実に形となる国」
やんこ「え、うん知ってるでもそれは誰にでも出来るわけじゃああーあああーああさっき」
ナレーション「そう。先ほど見えない壁に閉じ込められ必死の状況に追い込まれたぽんちゃんは、無意識にロープを作り出して脱出しました」
やんこ「つまんないのー」ぷくー
ナレーション「さあ!現の国でゾンビを昇天させた、えすえふびーだまをくらいなさい!」
ぽん「ぽーい!」
マネキン「ホームラン!」かきーん!
ぽん「あれまあ」
やんこ「わーい、と」
ナレーション「しまったあ……!」
ぽん「あーあ。どうしよう」
ナレーション「どうしましょう」
やんこ「ねえねえねえ、どうしてしもべになってくれないの?あなた達もあたしのこと好きなんでしょう?ならどうしてどうして?どうして?どうして?どうしてしもべになってくれないの?」
ナレーぽん「好きじゃないからです」真顔
やんこ「そこまで好きならもっと愛してよ反抗的な悪い子ね。あーやだやだお仕置きしなきゃ」
ぽん「やー!離してー!」じたばた!
マネキン「やっとつかまえた」
ナレーション「ぽんちゃーん!」
マネキン「っびゃえ」ぼきい
ぽん「なに?なに?なにが起こったの?」
ナレーション「マネキンの頭が取れました」
ぽん「僕が暴れたから?」
ナレーション「そういうことです。あーそういうこと」
やんこ「どういうこと?」
ナレーション「空想科学服の力を使えばいいんですよ」
ぽん「そっか」
ナレーション「今日は派手に暴れて構いませんよ」
ぽん「マネキンさん!遊びましょ!」
マネキン「ひい!」すたころさっさ
ぽん「頭だけ転がって逃げちゃった」
他マネキン勢「おお、自由に動けるぞ」
やんこ「ふんっ、妄想の力なんて役にたたないの」ぷくー
ぽん「妄想の力だったんだ」
やんこ「まいいや、改めてあたしと友達になりましょう」
ぽん「ええ……」
他マネキン勢「ようこそパンとマイムの国へ」
ぽん「!?」
他マネキン勢「我らと友達になろう。歓迎するよ」
ぽん「えー!」びっくりぽん
やんこ「やーよ。あなた達しもべになりたいんでしょう」
他マネキン勢「それはないな」
やんこ「あなたたちも私のことが嫌いなのね!許せない!!どいつも!!!こいつも!!!!あいつもあなたも!!!!!」
ぽん「どうして僕だけ見るの……」びくびく
やんこ「ああ!あ!ああーあ!」がくがく
ぽん「え?なに?」
やんこ「あなたそこにいたのね」
ぽん「誰もいないよ」
やんこ「会いたかった、だって愛してるんだもの」
ぽん「どうして泣いてるの。なんなの、わけわかんない」
やんこ「これからはずっとずっとずっーと一緒だね。うふふ、嬉しい」ぎゅ
ぽん「壊れたマネキンなんかだっこして、ぷち可哀想かも」
ナレーション「そっとしてあげましょう」
ぽん「でも……やっぱり一人にするのは」
他マネキン勢「我らに任せて」
ぽん「どうするの?」
他マネキン勢「ここにはみんないる。きっと彼女も幸せになるだろう」
ぽん「そう。ならいいけど」
他マネキン勢「これ、迷惑かけたお詫びにどうぞ」はい
ぽん「空気なんですけど」
他マネキン勢「確かに、名物エアパンだよ」
ぽん「ほんとだ。見えないけどパンぽいのある」
他マネキン勢「ぽんちゃん、いつかまた遊びに来てくれる?」
ぽん「え?」
他マネキン勢「あの子に会いにきてほしいんだ」
ぽん「うーん」
他マネキン勢「今より楽しい国にするからどうかな」
ぽん「それなら、ぷちおっけ」
他マネキン勢「ありがとう。それではまたね」
ナレーション「……行っちゃいましたね」
ぽん「ほんとなんだったんだろう」
ナレーション「誰かの悪夢までもが現実になった。とりあえず、そう納得しましょう」
ぽん「ぷちね」
ナレーション「はい、ぷちね」
ぽん「これもぷち」はい
ナレーション「パン、分けてくれるんですか?」
ぽん「うん。いつもありがとう」
ナレーション「こちらこそ、どういたしまして」
ぽん「今は誰もいないし、ゆっくり散歩して帰ろう」だっこ
ナレーション「そうしましょう」
ぽん「はじめてのパン、どう?」
ナレーション「自分で感じる味というのは想像以上に最高ですね。シーチキンマヨうまうまです」
ぽん「テリヤキササミマヨだよ?」
ナレーション「パントマイムで作られたパンですから、食べる人によって味が違うのでしょう」
ぽん「そんなものなの?」
ナレーション「そんなものです」
ぽん「じゃあ、帰ったら。一緒にちゃんと夜ご飯食べようね」
ナレーション「おや、何か作ってくれるんですか?」
ぽん「またナレーションに戻っちゃうんでしょう。だったら、とっておきのササミレタスあんかけチャーハンを作ってあげます」
ナレーション「凝ってますね」
ぽん「ぷちね」
ナレーション「嬉しいです。楽しみだな」
ぽん「楽しみになさい!」うぃんく!
ナレーション「ぷちね」
ぽん「えー」
ナレーション「ふふっ」
ぽん「ナレーションさんひどー」ぷくー
ナレーション「ごめんちゃい」ぺろ
ぽん「ちょっと、さっきからマネしないでよね」ぷんぷくー
ナレーション「はーい」




