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信じられない出来事が立て続けに起きたせいで、星の身体は休む暇を失った。薬が効くまで眠るつもりが、結局効果は表れず、午後もまるまる保健室のベッドの上で天井を睨む羽目になる。ようやく星が身を起こせるようになったのは、日が西に傾き始め、放課後を告げるチャイムが鳴り響いた頃だった。
「無理はしないでね」
「はい、ありがとうございました」
星はひらりと手を振る菅原へ深々と頭を下げ、荷物を回収するために保健室をあとにする。扉を開けて教室へ戻れば、同級生はすでに部活や塾のために出払っており、辺りはしんと静まり返っていた。その寒々しい空間の中で、星は自分の机へと歩み寄り、中に残されていた配布物をファイルに収める。
(帰ろう……。明日こそちゃんと授業受けるんだ)
リュックを背負い直したその瞬間、突然、教室の扉が勢いよく開け放たれた。
「星! いた!」
一人の男子生徒が姿を現し、肩を上下させて息を切らしながら、星の元へと詰め寄る。
「駿平! 久しぶり! 携帯直ったの?」
星はパッと顔を華やがせ、数少ない友人である彼の名を呼んだ。
「データ全部飛んでアカウントから作り直しだっつーの! 後で連絡先登録させろ!」
駿平は真新しいスマートフォンを星の目の前に突き出す。しかしすぐに本来の目的を思い出したようにカッと目を見開き、星の肩をガシッと掴んで強く揺さぶった。
「って馬鹿! そんなことより、あの篠宮光汰が『炎神ブレイズ』の主演ってマジ!? だから最近全然学校に来てなかったんだな!」
「……え、元からそんなに有名人だったんだ?」
きょとんとして問い返す星に、駿平は地球外生命体でも見るかのような信じられない目を向ける。
「マジか……。この学校のプリンスだぞ?! 何年か前にこの高校からT大行ったエリートの弟で、篠宮自身も入学式では首席で代表の言葉を言って! そっからずーっと秀才だイケメンだって騒がれてただろ!」
「あ……入学式、季節外れのインフルで出てないです……」
星は控えめに手を上げ、申し訳なさそうに肩を丸めた。駿平は一瞬気まずそうに言い淀んだが、すぐに溜息をついて星の頭に軽くチョップをする。
「それ、は、しょうがないとして……。お前は『炎神ブレイズ』以外に疎すぎる」
「同じクラスじゃないし。なったとしても、クラスメートの顔と名前なんてまともに覚えられないよ」
言い訳がましく呟きながら、星は不満げに頬を膨らませた。この学校は各学年7組まである大所帯で、特進の1組と理系の2~4組が配置された『北校舎』と、星たちがいる文系の5~7組が配置された『南校舎』に分かれている。校舎自体が違えば、日常の中ですれ違う機会すらない。
「ったく……こっちの校舎は凄かったんだぞ!」
星の言い訳を無視し、駿平はさらに声を張り上げた。
「篠宮が来た今日も、情報解禁明けの月曜日も大騒ぎだったんだからな!」
身振り手振りを交えて熱弁を振るう駿平の声をどこか遠くに聞きながら、星はそっと胸の内で呟く。
(烈火誠がどれだけ凄いか、みんな、本当に分かってるのかなぁ……)
なんとも言えないくすぐったくて不思議な感情がじわりと広がり、星は思わず胸元をそっと押さえた。これが、皆よりずっと前から『炎神ブレイズ』の新作を愛していたというオタク特有の優越感なのか、それとも、はたまた全く別の感情なのか。星はモヤモヤを飲み込めないまま小さく首を傾げた。




