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「光汰くーん、はなして……くるしい」
光汰はぎゅうぎゅうと星の身体を抱き締める。その強さに星は呼吸を詰まらせ、逞しい腕の中で必死に光汰の背を叩いた。星のくぐもった声で正気に戻った光汰は、大慌てでその腕の力を緩める。
「……っ、ごめん」
眉を下げて肩を落とす光汰。まるでしゅんとする大型犬のような素直な反応に、星は思わず笑みをこぼした。
「そんなにしょげないでよ。……僕だって、嬉しいんだから」
「星……」
「あー……ヲタクが推しと付き合うなんて、夢にしても都合がよすぎる……」
星は頬に手を当て、真っ赤な頬を冷ますように小さく息を吐く。光汰はそんな星の揺れる瞳をじっと愛おしそうに見つめ、指先でその頬を突いた。
「でも、現実だ」
「それはさっきの絞め殺されそうなハグで分かってるよぉ。……僕、光汰くんの隣に胸を張って立てるように、頑張るね」
気恥ずかしさを誤魔化すように頭を掻きながら、星は光汰の目を見つめて意気込む。自分を選んでくれた光汰に相応しい自分になりたいという星の決意に、光汰は口を引き結んで緩む口角を必死に堪えた。
「うん。俺も頑張る。……じゃあ、行こ」
そして光汰はすっくと腰を上げ、星にそっと手を差し伸べる。星はキョトンと首を傾げながらも、おずおずと光汰の手を取った。
「ど、どこに?」
「ベッド」
「えっ?!」
光汰の返答に星は寝室の扉を一瞥し、パッと顔を赤くして壁際まで後退る。ゴンと後頭部を打つ鈍い音が響き、若干部屋が揺れた。星は自らの身体を掻き抱き、声を裏返させる。
「そっ、それは早すぎるといいますか、いきなりキスってのも性急だったのに……!」
「はは、何言ってんの。星が言ったじゃん『映画のリベンジ』って。俺、そこまで狼じゃないつもり」
光汰は腹を抱えて笑い、壁に背を貼り付けて警戒する星に歩み寄ってスマホを見せた。そこには、今朝のトーク画面が映し出されている。
「あ……」
一人で早合点して盛大に勘違いをしていたことに気づかされ、星は耳まで真っ赤にして顔から湯気を出した。光汰は悪戯っぽく口元を緩め、そんな星を促して二人で寝室へと移動する。
静かな寝室で、プロジェクターの青白い光が壁を照らした。ベッドの端にちょこんと座らせられた星が、暗がりでDVDの棚を吟味する光汰へ問いかける。
「昨日寝落ちしちゃった映画の続き?」
「ううん……今は、これを星と一緒に見たい」
光汰はゆるゆると首を横に振り、一本のDVDを取り出して星に手渡した。画質も古い名も無き洋画。星は特撮以外の映画の知識がからっきしである。故にこの映画がどのような価値を持つのか、星には分からない。
「大事な映画?」
しかし、この日、この時に光汰が選ぶ映画というだけで、何か意味があるのだろうと察した星は、プロジェクターの調整をする光汰へと問い掛けた。そうすれば光汰は、御名答と言わんばかりに頬を緩め、こくりと首を縦に振る。
「うん。俺がスカウトされたときに見に行ってた映画」
「おぉ、光汰くんのオリジンだ」
星は目を輝かせ、光汰にDVDを渡した。それをプレーヤーにセットし、光汰もそっと星の隣へ腰を下ろす。プロジェクターが唸り声をあげ、壁に映像を映し出す。光汰にとって特別な作品を自分に見せようとしてくれていることに、星は感無量といわんばかりに口を引き結んだ。横に腰掛けた光汰は、そんな星の様子そっと見つめ、星の手に自分の手を重ねる。星も嬉しそうに微笑むと、その手をしっかりと握り返した。




