40
「おかえり!」
カチャリと玄関が開く音が響いた瞬間、キッチンに居た星はスリッパを鳴らして忙しなく駆け出した。光汰は靴を脱ぎながら、そうして姿を現した星に目を丸くする。
「ただいま。……いい匂い。チャーハン?」
光汰はスンと鼻を鳴らして顔を綻ばせた。部屋一帯は、ごま油の香ばしい匂いで満ち溢れている。
「うん、キッチン借りた。昨日は光汰くんが作ってくれたから。光汰くんに比べたら全然だけど……」
星は気恥ずかしさを誤魔化すように、Tシャツの裾をギュッと指先で握りしめた。光汰はそっと目を細め、ダイニングテーブルへと視線を送る。そこには、少し不格好でゴロゴロと大きな具の入ったチャーハンが二皿並んでいた。
「そんなことない。おいしそう。早く食べたい」
その真っ直ぐな言葉に、星は眉を下げて照れ臭そうに頭を掻く。光汰はソファに荷物を置くと、昨日と同じように星と向かい合って席についた。
「いただきます」
光汰がスプーンを持ち上げて、チャーハンを口へと運ぶ。星はじっとその様子を窺った。口に合うかどうか不安で、光汰がチャーハンを飲み込むと同時に、ごくりと唾を飲み込む。
「ど、どう……?」
「おいしい」
光汰はそっと頬を綻ばせ、チャーハンを運ぶ手を早めた。パクパクと頬張る光汰を見て星は胸を撫で下ろし、パッと華やかな笑顔が咲く。
「よかったー……」
緊張から解き放たれた星は、ようやく自分もチャーハンを口いっぱいに頬張った。一方、光汰は手を進めつつ、星を見つめて話を切り出す。
「オープンキャンパス、どうだった?」
「すごく楽しかった! あのね、文学部って、自分の興味のある授業がいっぱい取れるんだ! 映画と文化の模擬授業も受けてね……!」
星は目を輝かせ、大学で体験したことの全てを夢中で語った。ずっと憧れていた世界に近づけた興奮のまま、星は早口でまくしたてる。
「そっか」
光汰はその一つひとつへ丁寧に相槌を打ち、星はそれが嬉しくて、語る口調により熱が入った。
「あ、あと映像研にね、田神さんって僕と同じ特撮ヲタクの先輩がいたんだ! この大学のこととか、それ以外の大学のことも教えてくれたよ。大学生ってすごいなって思った!」
「……へー」
そう話す途中で、ふと光汰の整った眉が僅かに寄る。一粒の残しも無くすっかり食べ終えた皿へ、光汰は静かにスプーンをその縁に置いた。カランと金属の冷たい音が響く。
「……星は、その大学行きたい?」
そして光汰は頬杖をつき、微笑みを浮かべたまま星を真っ直ぐに見つめた。
「うん! 絶対行きたい!」
「星なら絶対できる」
迷いのない星の即答に、光汰は穏やかな笑顔を浮かべてゆっくりと頷く。
そしてチャーハンを食べ終えた二人は手を合わせ、次いで光汰はひょいと星の食器を掬い上げた。そのままシンクへ運び、手際よく蛇口を捻る。
「星は風呂入ってきて。俺、片付けするから」
「え?! 最後までやって料理だよ!」
目にも留まらぬその所作に呆気にとられ、星は慌てて立ち上がった。光汰はそんな星を制して丁寧に皿を洗っていく。
「いいから。映画のリベンジあるし。星が風呂入ってる間に俺は皿洗いして、台本のチェックするから」
「わ、わかった……」
幼子へ言い聞かせるような光汰の口調に押し切られ、星はおずおずと素直に頷いた。




