↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
病弱ヲタクが推しを前にして褒めちぎったら、来るはずのない青春が始まりました。  作者: 安藤未粋
1章:【1月のはなし】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
4/43

4

 2年6組の引き戸の前に立ち、星は一度深呼吸をした。久しぶりの教室に入るのは、何度目だろうと緊張する。震える手で扉に手を掛ければ、ガラガラと思ったよりも大きな音が出て、星はビクリと肩を震わせた。暖房の効いた温い風が頬を撫で、同時に教室内にいたクラスメートの視線が刺さる。


「出た、幻の出席番号1番」


「幽霊くん、今日は来たんだー……」


 まるで珍獣を見るような目と冷やかし混じりの声に、星はいたたまれなくなって思わず背を丸めた。


「肌白っ! 憧れるわー」


「いやあれは不健康な白だし」


 窓際で互いにヘアメイクをしていた女子生徒が星を見て笑う。


(気にしない、気にしない。僕は授業を受けに来たんだから)


 星は静かに席に着くと、リュックサックから筆箱とノートを取り出して朝のHRに備えた。


 しかし、授業が始まりしばらくした頃、視界が急激にぐにゃりと歪み始め、星は眉間に皺を寄せた。照明の光が目に刺さる刺激に、星は堪らず目を閉じる。


(……痛い)


 頭を引き絞られるような激痛と、胃がぐるぐると回るような吐き気が忍び寄り、脂汗が吹き出てきた。


「……大丈夫?」


 顔色の悪さに気づいた隣の席の生徒が、声を潜めて尋ねる。


「あ……」


 応えようとするも、喉が引き攣れて掠れた声しか出ない。


「雨宮、体調悪いなら保健室行って菅原先生に診てもらえー」


 教壇からこちらを見ていた担任が、いつものことと流れ作業で扉を指差した。星は何とか立ち上がり、周囲の視線を浴びながらふらつく足取りで教室をあとにする。


 ★★★


「微熱かぁ。教室の暖房で上せたかな?」


 電子体温計の音が鳴り、その値を確認した養護教諭の菅原は、のんびりとした声で星に氷枕を手渡した。


「寝る? 早退する?」


 綺麗にベッドメイキングされたシーツに横たわりながら、星はかすかに首を横に振る。


「薬は飲んだので、寝る、で……」


 消え入りそうな声でそれだけを告げると、菅原は静かに頷き、「おやすみ」と柔らかい声を掛けてカーテンを閉めた。


(情けない……)


 ちゃんと学校に行くからと映画に行ったにも関わらず、登校早々これだ。自分の不甲斐なさに歯噛みしながら、星はきつく目を閉じた。




 どれくらい眠っていたのだろうか。半ば痛みで気絶していた星の意識の隅、保健室の引き戸がガラガラと静かに開く。


「……あれ? 誰もいない?」


 入ってきた誰かの、少し低くて心地のいい声。星は必死に身を捩り、声を上げようとした。しかし、激しい頭痛と吐き気で指一本動かすのすら辛い。


「先生? いる?」


 カーテンの前に人が立つ気配がする。返事をしようにも、星は激しい痛みで声を出すことすら至難の業だった。そうこうしているうちに、誰もいないと踏んだ誰かがシャッと音を立てて白いカーテンが明け放つ。鋭い蛍光灯の光が、何とか開けていた薄ら目に突き刺さり、星は咄嗟に顔を顰めた。光に過敏になっている視界では、犯人の顔が分からない。


「ごめん……大丈夫?」


「だいじょぶ……。ごめん、明るいの、辛くて……」


 何とか絞り出された星の懇願に、慌ててその人はカーテンを元に戻し、星の枕元に立った。少し薄暗くなったことを瞼越しにぼんやり確認した星は、ようやく目を開け上を見る。


「――?!」


 目の前に立っているのは、濡れ羽のような黒髪に、息を呑むほど端正な顔立ちをした青年だった。記憶に新しい、大スクリーンの中で、真っ赤なマントを翻すあのヒーローに瓜二つなのは、決して気のせいではない。


「れ、烈火誠?!」


 あまりの衝撃に頭痛すら飛んで行き、星は飛び上がって悲鳴を上げる。その素っ頓狂な声は、静かな保健室の中で何度もこだました。『烈火誠』こと、『篠宮光汰』は、アワアワと腰を抜かして取り乱す星を前に、小さくため息をついて肩を竦めてみせる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。