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「来週からちゃんと学校行くから、許してください……!」
無事に予定通りに退院することができた星は、その翌日、分厚いコートとマフラーに身を包み、映画館の前で誰にともなく両手を合わせた。平日昼間の劇場は、シニア層や空きコマを利用した大学生しかおらず、閑散としている。
「三番シアターになりまーす。特典でーす」
もぎりに案内されたシアターは、さらに上を行った完全なる伽藍堂だった。貸し切り状態で真ん中を陣取り、星は二週目の特典をバッグへしまう。じゃらじゃらとつけられたヒーローのストラップと、赤地に白十字のタグが揺れた。
「フェニクスレッドもだけど、この映画の主役は現行の『シャイニングタイガー』だ。その勇姿、焼き付けなくちゃ」
照明が落ち、星はスマホの電源を切って前を向く。
劇中、現れた強敵によって仲間たちが分断されてしまった。リーダーのレッドタイガーは、奪われた仲間を救うため敵陣へ単騎特攻するが、数多の敵に揉まれて変身解除へと追い込まれてしまう。
(こんな敵に一人で? 敵うわけないよ……!)
星は膝の上で拳を握り、固唾を飲んでスクリーンを見つめた。そんな絶望の中、一つの影が炎の軌跡を描いてレッドタイガーの前へ華麗に降り立つ。その影は変身前の姿のままバク転を披露し、壁を駆け、目にも留まらぬ速さで敵をなぎ倒していった。
『……大丈夫か?』
倒れるレッドタイガーに、大きな掌が差し伸べられる。
『き、君は……?』
呆気に取られる“先輩”を前に、不死鳥の彼は大胆不敵に笑ってみせた。
『君たちと同じ、平和を願う戦士さ。ここは俺に任せてくれ』
群がる敵の前に仁王立ちした彼は、どこからともなく変身アイテムを取り出し、高らかに叫ぶ。
『ブレイズアップ!』
真っ赤な炎が彼を包んだかと思えば、次に姿を現したのは、マントを翻したヒーロー。
『消えることなき正義の業火! 炎の戦士、フェニクスレッド!』
伝統の名乗りを決めた烈火誠は、眩いほどにキラキラと輝いていた。
(か、かっこいい……!)
星は口元に手を当て、声なき歓声を上げる。そのたったワンシーンで、雨宮星は、烈火誠・フェニクスレッドに心を奪われた。
★★★
「ただいまー!」
帰宅するやいなや、星は手洗いうがいをして階段を駆け上がり、自室の扉を開け放った。
部屋の壁には歴代『炎神ブレイズ』のポスターが所狭しと貼られ、本棚には設定資料集やパンフレット。飾り棚には、変身アイテムや精巧なフィギュアが完璧なレイアウトで並んでいる。
紛うことなきヲタク部屋だ。
「今年の冬映画も最高でしたー!」
興奮冷めやらぬまま、星は本棚の中からファイルを引き出し、映画の半券と特典カードを収めた。無事にファイリングを終え、星はふんすと鼻を鳴らして微笑む。そして、まだ熱気の残る胸を落ち着かせるようにページを捲り、星はほぅと甘い息をついた。
「……かっこよかったな、烈火誠。フェニクスレッド……」
大スクリーンで見たあの輝きが、目を閉じるたび鮮明に蘇る。星は思い立ったように腰を上げ、飾り棚に歩み寄った。そして、フィギュアが犇めく中へ手を伸ばすと、慎重にそれを動かして少しずつ隙間を作る。
「よし。発売したら、ここが君の場所だからね。フェニクスレッド」
統率の取れた並びが崩れて、先頭のド真ん中不格好な空白が生まれた。それでも星は、その場所を満足そうに眺めて笑顔を見せる。




