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時は、五日ほど前に遡る。
「……新作の発表会見、リアタイしたかったのに。映画だって公開初日に行くつもりだったのに……」
病室の白い天井を睨みつけながら、星は自分に恨みつらみをぶつけていた。暦は一月下旬。風邪が流行し、体調を崩しやすい季節だ。そして星にとっては、『炎神ブレイズ』の冬映画公開と新作発表会見が行われる重要な時期である。
(だから万全を期していたのに! なんで……!)
ゆえに、星は手洗いうがいを徹底し、数少ない友人に「小学生か!」と突っ込まれるほど規則正しい生活を送っていた。
……が、しかし。
星は呆気なく風邪を引いたどころか、こじらせて肺炎で入院している。
「病弱な自分が憎い……」
「高熱で倒れてそれどころじゃなかったじゃない。配信は見られるんだし、映画だって何回も行くんでしょ?」
「そうだけどそうじゃないんだよぉ、リアタイにはそれ相応の価値があるんだ……。映画だって一週目の特典逃しちゃったし……。欲しかったよぉ、キラキラクリアカード……」
見舞いに来ていた母の慰めに首を振った星は、病床の上で枕を叩き、苦しそうな呼吸の合間に愚痴を零した。母は慣れた様子でそれを聞き流すと、呆れ混じりの視線を向ける。
「明後日退院できるんだからいいじゃない。はい、スマホ。思う存分見なさいな」
スマホとイヤホンを手渡された星は、頬を膨らませながら渋々と耳の穴にイヤホンを捻じ込んだ。
(本当は家のテレビで大画面で見たかったな……)
はじめはふてぶてしくスマホをスクロールし、眉間に皺を寄せていた星。しかし、アーカイブを再生すれば、みるみるうちにその瞳はキラキラと輝いていく。
まずお披露目されるのは、1分半ほどのティザーPV。作品の世界観、ヒーローのデザイン、ロボ、そして主要キャラが一気に解禁される、瞬き厳禁の時間だ。
『不死の力を宿す石を巡った物語が幕を開ける! その名も、炎神ブレイズ・インフィニティフェニックス!』
勇ましい呼び声と共に、画面いっぱいに不死鳥のロゴが現れる。次に登場したのは、真っ赤なマントを翻して大空を駆けるヒーローだ。襲い来る攻撃を華麗にいなし、色とりどりの仲間と共に天高く舞い上がっていく。
「鳥モチーフだから空中戦があるんだ! カメラワーク凄……」
星はスマホを握りしめ、食い入るように画面を見つめた。そして、PVの中で地面に降り立ったレッドは、その変身を解いてその素顔をあらわにする。
『俺は不屈……! この世界に平和をもたらすまで、俺たちの炎は絶対に消えない!』
赤い瞳を持ち、黒い髪を風になびかせた青年が、空を見上げて高らかに叫んだ。すらりと細くも力強い体躯を躍らせ、青年は迫り来る敵に立ち向かっていく。
「かっ、こよ……」
星は口元に手を当て、猛然と敵をなぎ倒していく彼から目が離せなくなった。
「これは神作かも……」
そして画面はPVから発表会見の会場に切り替わり、司会のハキハキとしたアナウンスが入る。
『では早速キャストの皆さんに登場していただきましょう! まずは主演、烈火誠・フェニクスレッド役、篠宮光汰さん!』
割れんばかりの拍手と共に舞台へ姿を現したのは、劇中衣装に身を包み、先程の映像よりも少し硬い表情をした若い俳優。すらりと長い足を慎重に進め、端正な顔をした彼は深々と頭を下げた。
『篠宮光汰です。このシリーズを愛する皆さんと最高の一年を作り上げたいと思います。よろしくお願いします』
再び会場では拍手が巻き起こり、星もスマホをベッドの上に置いて控えめに手を叩く。新たなるヒーローの誕生に、胸の高鳴りが止まらない。
『続きましてブルー、千早蒼を演じる一ノ瀬翔さん!』
『よろしくお願いします! 夢だったヒーローに……』
次々と登場するキャストたちに、星は呼吸も忘れて目を輝かせた。そして全員が出揃ったところで、司会が主演へと話を振る。
『先程落ち着いた挨拶をしてくれた篠宮くんですが、実は現役高校生なんですよね? 次が3年生だとか』
「えーっ?!」
思わず病室で叫んでしまい、星は慌てて口を塞いだ。仕切りのカーテン越しに刺さる視線が痛い。
(う、嘘、同い年……。そんな年になっちゃったの、僕……)
画面の先では、篠宮光汰がマイクを握りしめて頷いていた。
『はい。学業との両立は大変だと思いますが、どちらにも全力で取り組んでいきます』
その眼差しに宿る強い覚悟を感じ、星は圧倒されてベッドに深く沈む。
「凄いなぁ……」
同い年。片やヒーロー、片や入院中。チクリと胸を刺した痛みは、肺炎のせいに違いない。星は唇を引き結ぶと、うつ伏せになって枕を叩いた。
「早く映画見に行きたい! 先行登場する烈火誠に会いに行くんだー!」
画面の中の烈火誠は、引き続き抱負や裏話を語っている。その姿をうっとりと眺めていた星は、その顔をじっと見た途端、唐突に何かが胸に引っ掛かる感覚に襲われた。ぎゅっと眉間に皺が寄る。
「あれ? この役者さんどっかで……? いや、気のせい?」
はてと首を傾げているうち、会見の話題はブルーへ移っていき、星の興味はそちらに流れていった。




