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食事を終えて風呂に入った星は、濡れた髪をタオルで拭きながらソファに座った。冷えすぎていない室温が心地よく、一人きりで目を細め、ほっと息をつく。部屋の主である光汰は、星と入れ替わりで入浴中だ。火照る身体を冷まそうと襟元をパタパタと扇げば、ふわりとボディソープの香りが鼻先をくすぐる。
「……光汰くんの匂いがする」
誰に聞かれるでもない独り言に、星はハッとして頬を赤らめた。気を紛らわせようと辺りを見渡せば、星はテレビ台の下に並んだ洋画のDVDに気付く。
「これ……」
星はいつか聞いた光汰の夢を思い出して、その背表紙を一枚ずつ眺めた。並んでいるのは、聞いたこともないタイトルのSF作品や、ジャケットからしてかなり癖の強そうなゾンビ映画ばかり。
「光汰くん、洋画が好きって言ってたな……」
「星、何見てるの?」
タイトルを眺めていると、入浴を終えた光汰が髪をタオルで拭きながらリビングに姿を現す。星はセットも何もしていない無造作な光汰の姿にドギマギしながら、立ち上がって言葉を紡いだ。
「えっと、今、ここにある映画のタイトルを見たけど、全然分かんないなって。僕、光汰くんの好きなこととか、あまり知らないなって思って……。光汰くんのこと、もっと知りたい……」
心臓の高鳴りを押し殺しながら放った星の言葉に、光汰は目を丸くして頬を赤く染める。そして星の隣に歩み寄って腰を下ろすと、並んだDVDのひとつを手に取って首を傾げた。
「……じゃあ、一緒に見る? 映画」
「……うん!」
星は声を弾ませ、迷いのない即答をした。まるで浮かれる小さな子どものような仕草を見た光汰は、小さく笑って立ち上がる。そして徐にもう片方の手で星の腕を掴んだ。
「じゃあこっち」
光汰は星を寝室へ案内する。そこには先程よりも沢山のDVDが並んだ棚があり、ベッド脇には小さなノコギリザメのぬいぐるみがちょこんと鎮座していた。星が物珍しそうに辺りを見渡す中、光汰は小さなプロジェクターを取り出して電源を入れる。
「おぉ……凄い。プロジェクターだ」
「セールの安物だよ。こうやって、ベッドに座って見る」
星が興味津々にそれを覗き込めば、光汰は照れ隠しのようにそう言ってベッドの縁に腰掛け、自らの隣を軽く叩いた。おずおずと星がその隣に腰を下ろすと、部屋の明かりが落とされ、壁いっぱいに映像が投影される。
「結構昔のB級映画だけど、ちゃんと面白いから」
「おぉー……」
聞き慣れぬ言語の台詞と、安っぽい音楽。星は壁に映し出される不思議な世界観に目を輝かせた。
「僕、映画っていうと炎神ブレイズのやつしか見に行かないから、なんか新鮮」
「それはよかった」
ベッドの上で膝を抱える星の瞳が、キラキラと光っている。そんな横顔を見つめながら、光汰は満足げに微笑んだ。しかし、物語が中盤に差し掛かった頃。旅の疲れが押し寄せ、星の瞼はゆっくりと重くなっていく。
「……星?」
こてんと肩に重みが乗り、光汰は映像から目を離して横を向いた。そこにあったのは、膝を抱えたまま規則正しい寝息を立てる星の姿。壁に反射する映像の光が、すっかり寝入ってしまったその顔を照らしている。
「……可愛い」
誰に聞かれるでもない呟きが、静かな部屋に溶けて消えていった。




