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「星っ!」
引き止める言葉を途中で切られ、光汰は思わず舌打ちをした。空を見上げれば、先週よりも牙を剥く夏本番の太陽が、灼熱の光を地上へ叩きつけている。
「あの馬鹿……っ!」
光汰は自販機に飛びつくと、硬貨を数えもせずに入れてスポーツドリンクを買った。そしてすぐさま、星の家へ向かって猛スピードで駆け出す。行き交う人々の顔、反対車線の歩道をみながら、全身から汗を吹き出させて地面を蹴った。
(こんな炎天下で、病み上がりなのに外に出て……っ!)
ジリジリと肌が焼ける感覚が痛みを訴えるたび、星がどこかで倒れているのではないかという恐怖で胃がひっくり返りそうになる。何分そうして走っただろうか。光汰はようやく、陽炎が揺れる歩道の先に、ふらふらと動く小さな影を見つけた。
「あっ、光汰くーん!」
大きく腕を振る星の頬は真っ赤で、だらだらと滝のような汗を流している。その姿に光汰は堪らず唇を噛み締めて速度を上げた。星もそれに引っ張られるように足を進める。しかし、普段運動などしない星の走りは不器用で、足取りもおぼつかない。
「……あっ!」
案の定、足をもつれさせて倒れそうになった星の身体を間一髪、光汰は滑り込むようにしてその腕の中に強く抱き留めた。
「星! そんな走ったらダメだろ……っ!」
「ありがとう!」
怒りのまま声を荒らげた光汰の言葉を遮り、星は光汰の胸元に顔をうずめて叫ぶ。虚を突かれ、光汰はぽかんと目を見開いた。
「手紙、すごく嬉しかった! 本当に、本当に嬉しかった! だから、直接伝えたくて無理しちゃった。……ごめんね、この一週間返事もできなくて……」
「大丈夫だから……。無事でよかった……」
光汰は星の形を確かめるようにその頬を撫で、流れる汗を拭う。星はぜぇぜぇと荒い息で胸を上下させながら、真っ直ぐに光汰を見上げた。
「あのね、光汰くん。先週の回、さっき見たんだ。あの……電話をくれた頃に撮ってたやつだよね? すごく良かった! でも、光汰くんが苦しんでいたのに、僕ばっかり話してちゃってたなって……」
申し訳なさそうに背を丸める星に、光汰ははっきりと首を横に振った。
「いいんだ。星の話を聞けて、俺が星の支えになりたいって、星が俺にとって大切なんだって思えたから」
「へへ……よかったぁ……」
その言葉を聞いた瞬間、星の身体からは張り詰めていた緊張の糸がプツリと切れたように、膝から一気に力が抜ける。ぐらりと傾く星の身体を、光汰は慌てて両腕で支えた。
「星っ!?」
「僕……すごく不思議なんだ……。『烈火誠』が僕の推しだったはずなのに……光汰くんが、光汰くんとして書いてくれた手紙の方が……ずっと、ずっと、嬉しかった……」
光汰の腕の中で、星は熱に浮かされたように呟く。
「これじゃあ……どっちが好きだか、分かんないね……」
そしてにへらと力を抜いた笑みを浮かべ、光汰を見上げた。
「――っ!」
星が無自覚で放った言葉に、光汰の顔は一瞬で真っ赤に染まる。心臓の音が激しく鼓膜を打ち、光汰は一瞬思考を手放した。しかし、その間にも星の身体からはどんどんと力が抜けていく。
「星っ!?」
平日真昼の炎天下の道端。助けを求めようにも人影はなく、通り過ぎる車もまばらだ。そして光汰の腕の中には、顔を真っ赤にして意識を飛ばしかける星。
(どうしよう、俺のせいで……。救急車、)
震える手でスマートフォンを取り出したその時、光汰の目の前に一台の乗用車が滑り込んできた。ぽかんと口を開けている間、窓が開いてそこから男が顔を出す。
「……光汰だよな? こんなところで何やってるんだ、その子もどうした?」
「……兄さん?」
光汰は今朝、既読無視をしたメッセージを思い出して目を見開いた。車から降りてきたのは、出張ついでに実家へ帰省していた兄・臨汰だ。なりふり構ってはいられない光汰は、腕の中の星を強く抱き締め、兄に向かって掠れた叫び声を上げる。
「助けて……助けて、兄さんっ!」




