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「星ー、学校からのプリント。ポストに入ってたよ。駿平君だと思うけど、いつもみたいに一言くらい声をかけて行ってくれたらいいのにねぇ。部活で忙しいのかな?」
昼時、温かいお粥をゆっくりと口に運んでいた星は、郵便ポストを確認してきた母の声に顔を上げる。母は手にしていた封筒やプリントの入ったクリアファイルを、ソファ前のローテーブルの上にぽんと置いて星へ目配せをした。
「ありがと」
星は手早くお粥を口にかき込んでソファへ向かい、クリアファイルの中身を確認する。
「ええっと……夏休みの課題と、連絡事項と……手紙?」
プリントの隙間から滑り落ちた紙が、ラグの上にはらりと落ちた。星は首を傾げながら拾い上げると、そこには力強い筆跡で『星くんへ』と宛名が記されている紙がある。星はごくりと唾を呑み込み、折りたたまれた紙をそっと開いた。カサリと硬い紙の音が静かなリビングに響く。
『いつも応援ありがとう。俺はフェニクスレッドとして地球を守っている烈火誠だ。今は、兄さんが敵として姿を現し、戦況も厳しい日々が続いているが、ブルーやイエロー、そして新しく仲間になったゴールドと共に、毅然と敵に立ち向かって行こうと思う。君の応援が、俺たちの力になる』
「おぉぉぉっ! 烈火誠直筆の手紙……! 家宝だっ!」
星は手紙を照明にかざして目を爛々と輝かせた。何度も読み返して気が済むと、それをぎゅっと胸に抱きしめる。いくつになっても、ヒーローから届く言葉は魂を揺さぶる。胸の奥に潜む幼い頃の自分が、手紙を掲げてぴょんぴょんと飛び跳ねているようだった。
「あれ……? もう一枚ある……」
そんな折、星はふとクリアファイルの中に同じような紙がもう一枚挟まっていることに気づく。恐る恐る手を伸ばすと、それは、誠の力強い筆跡とは打って変わり、サラサラと丁寧な筆跡で『星へ』と書かれた手紙だった。
『本当は直接会いたかったけど、急に行ったら親御さんにも迷惑が掛かるだろうから、手紙を同封しました。星は俺からの手紙より、烈火誠からの手紙の方が元気が出るかもと思って、烈火誠からも手紙を預かっています』
「だから2通……」
星は紙を握る手にぐっと力を込め、さらに続く光汰の言葉を追う。
『この前、倒れたと聞きました。何も知らないでメッセージを送り続けてごめん。俺が辛かった時は電話で呼び出したのに、星が辛い時に何も知らないで、何もできなかった自分が許せません』
「そんなこと……」
『この前星に電話をした時、俺は演技も何も上手くいかなくて、結構しんどい思いをしていました。そんな中で聞いた星の言葉が大きな支えになりました。俺が誠を演じられるのは、星がいてくれるお陰。本当にありがとう。元気になったらまた連絡ください。 篠宮光汰』
すべてを読み終えた瞬間、星は手紙を抱え込むようにして、ソファの上で小さく蹲った。
(どうしよう……誠からの手紙より、光汰くんの手紙の方が……何倍も嬉しい……)
頬が燃えるように熱い。胸がドクドクと鼓動し、目頭にじんわりと熱いものが込み上げてくる。星は袖口でゴシゴシと乱暴に目元を拭うと、手紙の文字を撫でた。
「会いたいな、光汰くん……」
不意にぽろりと零れ落ちた言葉に、星はハッと息を飲み、弾かれるように顔を上げて手紙やクリアファイルを見つめる。当然、切手も消印もない。
「これ、ポストに直接届いてるってことは……光汰くん、まだこの街にいる……!?」
会えるかもしれないと思うや否や、星は勢いよく立ち上がってスマホだけを握り締め、サンダルを引っかけると勢いよく玄関を飛び出した。
「星!? どこ行くの!」
「すぐ戻るから!」
驚いた様子の母を振り切り、当ても無く炎天下を進む。日差しに顔を顰めながら、星はスマートフォンを操作して発信ボタンを押した。
『もしもし、星?』
数回のコールの後、スピーカー越しに届いたのは、驚き一色といったような光汰の声。星はスマホに向かってなりふり構わず叫ぶ。
「ねぇ光汰くん! まだこの街にいる!? 僕、光汰くんに会いたい!」
通話の向こうで、光汰がそっと息を飲む音が聞こえた。
『……いる。今、駅にいる。……俺も、星に会いたい』
その言葉を聞いた星は、歩いていた道をぐるりと見渡して駅の方向を見定める。
「分かった! 今行くから! あっ……バスない! うわ、財布もない! 光汰くん! 僕、走ってでも行くから……お願い、待ってて!」
星が今着ている服は、部屋着にしていた炎神ブレイズのキャラTに、ポケットも碌に無いような薄っぺらい半ズボンだ。そのポケットを弄っても、小銭一つも出てこない。それも厭わず、星は光汰に懇願した。一方、聞き捨てならない言葉を聞いた光汰が大慌てで声を張り上げる。
『そんなのダメに決まってる! 俺が――』
星は最後まで聞き終わる前に通話を切ると、不格好に腕を振ってアスファルトを蹴った。




