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じりじりと容赦なく照り付ける太陽の光は、人々に等しく過酷な夏を運んでくる。期末テストを終えた7月の中頃、学校のグラウンドはクラス対抗球技大会の熱狂に包まれていた。
「パース! こっちこっち!」
「いけーっ、決めろ!」
日光が照りつけるグラウンドを、ボールを追う男子生徒たちが全速力で駆ける。星が所属する7組の対戦相手は、駿平を擁する理系クラスの3組だ。女子生徒たちはハンディファンを片手に歓声を送り、星はその人混みの端でぼんやりと試合を眺めていた。
(暑い……)
星はだらだらと額を滑り落ちる汗を拭い、茹だるような暑さに心の中で悪態をつく。しかし、この猛暑の中で泥臭く地面を駆ける同級生たちの姿が視界に入り、星はすぐに小さく首を振った。ちょうどその時、7組の男子生徒が相手の隙を突いて鮮やかなゴールを決める。弾けるように黄色い歓声が響き渡り、星も遅れて手を叩いた。
「あ! 美穂の好きピがゴール決めたよ! ほら、声かけてやりなよ!」
「ちょっと、茶化さないでよ……!」
ハイタッチを交わした男子生徒は、観客席の女子へ向けて爽やかな笑みを浮かべる。揶揄われた女子生徒は、夏の暑さだけではない理由で頬を染め、照れくさそうに手を振り返していた。そのいかにも「青春」な光景を眺めながら、星の思考はここ最近ずっと胸の奥に引っ掛かっている一つの疑問へと引き戻されていく。
(……好きって、なんだろう?)
星にとっての「好き」は、全てヒーローに注がれてきた。姿を見ればドキドキするし、その活躍や悪に立ち向かう背中にはいつも胸を躍らせている。
(僕が好きなのは『烈火誠』? それとも『光汰くん』? じゃあその好きの正体は?)
ひとりで答えの出ない問いを考えている間にも、試合は着々と動いていた。女子たちの落胆した溜め息が響き、星は慌てて顔を上げる。隙を突かれて同点ゴールを決められてしまったらしい。クラスメートの顔には疲労が滲んでいた。もともと星たちの文系クラスは男子の人数が少ない。交代要員もないまま出場し続けている7組は、少しずつ押され始めていた。
「あーあ。ここにスポーツ万能の篠宮君がいたら、ウチのクラス無敵だったのにね」
「ねー。撮影なんか行ってないで、普通にこっち来てくれればよかったのに」
疲弊していく男子生徒を見ながら、観客の女子生徒たちが不満げに愚痴を零す。
「最初は学校中大騒ぎだったけどさ。ぶっちゃけ、あんな子供番組いまどき誰が見てるのって感じじゃない?」
「分かる! 恋愛リアリティとかに出てくれた方が応援しがいあるのにー」
「――っ!」
そんな言葉が耳に飛び込んだ瞬間、星の頭にカッと血が上った。思わず声が出そうになり、星は慌てて自分の口を両手で塞ぐ。
(落ち着け……僕はただの特撮ファンだ。あの人たちを責める権利なんて、僕にはない……)
ムカムカする胸を落ち着けようと、星はひとりで必死に深呼吸を繰り返した。
(でも……あんなに必死に『誠』を演じている光汰くんをないがしろにして好き勝手言うのは……許せない)
それでも湧き上がる怒りに唇を噛んだ星は、ふと自分の中に芽生えた違和感にハッと目を見開く。
(……どうして? なんで僕は、こんなに悔しい……?)
ヒーローを愛することが世間からは「幼い趣味」と揶揄われることくらい、ずっと前から分かっていた。笑われても仕方ないと、諦めて割り切っていたはずだった。しかし、どうしてこれほどまでに腸が煮えくり返りそうなのか。その疑問に向き合った瞬間、ぐらりと星の視界が大きく歪んだ。
(あ、やばい……)
急に全身からサァと血の気が引き、ひっくり返るような吐き気が胃を襲う。膝から一気に力が抜けて視界が狭まり、星はその場にガクリと崩れ落ちた。異変を察知した駿平が、ボールを追っていた足を止めて目を見開く。
「 星っ!」
引き攣るような悲鳴が、夏のグラウンドに響き渡った。




