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演じる。求められる役割に、姿に徹する。
それは、芸能界に入るずっと前から、光汰自身が生きるために身に着けてきた術だ。
完璧な優等生、スポーツ万能、爽やかな好青年……。求められる役に応えれば、そこに居場所ができた。そうして生きてきた中で、皆が光汰に期待し、最も強く求めてきた役がある。そしてそれはいつだって、光汰が全く上手く演じられない役割。
逃げたくても逃げられない、そして、光汰自身も固執して雁字搦めになっている役割。
『篠宮臨汰の弟』。
――お兄ちゃんは何でもできたのにね。
――臨汰の弟? 何かもっと優秀かと思ったわ。
目を閉じれば、何度も言われてきた言葉が簡単にリフレインする。
(……だから、弟を演じることなんて、息をするより容易いことのはずなんだ。兄さんが嫌いで、どうでもよくて、惨めで、邪魔で……)
カメラを向けられながら、光汰は強く拳を握りしめた。
「何で……! なんでだよ、兄さん! アイツらが作ったライフィニティストーンは偽物で、命を与えるものなんかじゃない! 命を削るものなんだ! 頼むから戻ってきてくれよ!」
「――戯言は止めろ、忌々しいフェニクスレッドめ。俺は貴様を好かん」
「何で……? 俺は……俺は、兄さんが大好きなのに……!」
「はい、カット! もう一回行こう、篠宮君、もう少し感情を入れて」
監督の力強い声が響き渡る。途端に張り詰めていた空気が緩み、光汰は、はぁ……と肩を揺らして肺の底から息を吐き出した。汗の浮かぶ額を乱暴に拭うと、先ほどまで冷酷な眼差しで自分を見下ろしていた俳優へ、深々と頭を下げる。
「……すいません、神谷さん。何回もテイク重ねさせてしまって……」
神谷と呼ばれた彼は、模造刀をカチャリと静かに鞘へ収めると、柔らかな笑みを浮かべてポンと光汰の肩を叩いた。
「大丈夫大丈夫。僕だって新人だった頃は何十テイクも重ねて、監督に怒鳴られまくってたからさ。そういう壁を乗り越えてこその若手だよ~。気にしない、気にしない」
「……はい」
先輩俳優である彼のフォローに辛うじて小さく頷いたものの、光汰はその場にしゃがみ込み、膝に肘をついて強く目を閉じる。
(俺に求められているのは、『烈火誠』だ。愛する兄を救いたいと心から願う、純粋で真っ直ぐな弟としての姿だ……)
現在、光汰たちが撮影を進めている『炎神ブレイズ・インフィニティフェニックス』は、夏映画の宣伝準備に加え、本編中盤のクライマックスに向けた重要な局面を迎えていた。物語は激動の展開を見せ、追加戦士の登場、そして物語の鍵を握る誠の兄・『烈火藍之介』との対立など、力を入れて撮るべきイベントが目白押しなのだ。
(……大丈夫。絶対応える。自分の感情に引っ張られるな)
光汰は両手で自分の頬を叩き、その痛みを刻みつけるようにして勢いよく立ち上がる。監督の方へ向き直り、神谷としっかりと視線を交わした。
「よし、二人とも。行こうか」
「……はい!」
眩しい照明の下で、光汰は大きく深呼吸をした。




