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ギフトショップは、大きなイルカのぬいぐるみやクッキーなど、様々な商品が陳列され、賑やかな雰囲気に包まれている。星はじっくりと棚を吟味し、光汰へ贈るプレゼントを探していた。
(普段使いできるような、邪魔にならないやつ……)
「あ、これ……」
星の目に留まったのは、先ほど館内で光汰が見上げていたノコギリエイのぬいぐるみキーホルダー。星の脳裏には、悠々と水槽を泳ぐ魚影と、それを見上げる光汰の大きな瞳がフラッシュバックする。
(コイツも、かっこいいもんな……)
星はノコギリエイの頭を突いて笑った。一方、星の買い物が終わるまで待機しようと店の前にいた光汰は、ふと顔を上げた拍子に、アザラシの赤ちゃんのぬいぐるみキーホルダーと目が合う。
(……似てる。白くて、ちっちゃくて、かわいい)
光汰は、その柔らかい頬をモニモニと揉んでふっと目を細めた。
★★★
会計を済ませて足早に戻ってきた星を出迎えた光汰は、そのまま水族館をあとにし、隣接するホテルの静かなカフェへと向かった。大きな窓から光が差し込む静寂な店内に、星はキョロキョロと落ち着かない様子で辺りを見回す。片や光汰は慣れた様子で店員の案内に従い、奥のソファ席に腰掛けると、メニューを一瞥して顔を上げた。
「アイスティーひとつ。星は?」
「あ、えっと、僕もそれで」
大慌てでメニューを見るも、目が回って考えられない。それでも辛うじて注文を終えると、星は買ってきたばかりの袋を光汰へと突き出した。
「これ、今日のお礼! 受け取って欲しい!」
「コイツ、さっきの? あと付箋?」
早速小さな袋を開けた光汰は、ギザギザとした頭を持つ魚のぬいぐるみと、様々な魚のデザインがあしらわれた付箋を見て目を丸くする。星はしどろもどろになりながら、眉を下げて白い歯を見せた。
「うん。さっき見たのがかっこよくて。あと付箋は、普段の仕事とかで使ってほしいな」
「ありがとう。大切にする。あと、俺もこれ」
光汰は顔を綻ばせると、バッグから小さいアザラシの赤ちゃんのぬいぐるみキーホルダーを取り出した。眼前で揺れるそれに星は目を見開き、首が取れんばかりに横に振る。
「えっ?! 悪いよ、チケット代だって奢ってもらってるのに!」
「俺が星にあげたいから」
半ば押し付けられるようにそれを受け取った星は、掌に乗ったまるまるとしている白い塊を見つめた。チェーンを持って指でそっとつつけば、空を泳ぐようにユラユラと揺れる。
「かわいい……」
「星に似てた。ちっちゃくて、白いところが」
「それって褒めてるのか分かんないな……」
星は困ったように笑いながら、大切そうにそれを胸元に抱え、ふわふわの頭をそっと撫でた。
「……光汰くん、ありがとう。大切にするね。早速つけちゃおうかな」
そう言って、星はバッグのファスナーにアザラシのぬいぐるみをつける。そのバッグには、赤地に白十字のタグと、『炎神ブレイズ』の歴代ヒーローのキーホルダーがジャラジャラと揺れていた。苦戦しながらボールチェーンをつける星の様子を見守っていた光汰は、その並びの中に、星がメッセージアプリのアイコンにも設定しているヒーローの姿を見つける。
「それ、アイコンにもしてたやつだ」
「これ? これは、12年前のシリーズ『ドラゴンテイル』のレッドドラゴンだよ。僕が一番大好きなヒーローなんだ。光汰くんも世代だから、小さい頃見てたんじゃないかな?」
「だから見覚えがあったんだ」
光汰の中で早起きした時に流れていたテレビの映像がフラッシュバックし、合点が行ったように膝を打った。星は来たばかりのアイスティーを飲み、カラカラの喉を潤してから豆知識を披露する。
「ちなみに、レッドドラゴンこと竜ケ崎巧を演じているのは、尾崎孝明さんだよ」
「……マジか」
尾崎孝明とは、日本を代表する実力派の超人気俳優だ。代表作があり過ぎて、新人時代に『炎神ブレイズ』シリーズに出演していたことは意外と知られていない。光汰もそのうちの一人だったのか、目を丸くして息をのんだ。星はニコニコと微笑みながら光汰を真っ直ぐにみつめる。
「光汰くんにも、いつか尾崎さんみたいに超人気俳優になってほしいなー、なんて」
その視線がくすぐったくなり、光汰はアイスティーへと視線を落とした。褐色の透き通った水面には、釈然としない曇った自身の顔が映っている。
「……ねぇ、何で星は、レッドドラゴンが一番好きなの?」
俯いたまま吐き出された光汰の問いかけに、星の微笑みがふっと切なげな色を帯びた。
「……つらい時に、勇気を貰ったから」
「つらい時?」
呟かれるような小さな声に、光汰は顔を上げて首を傾げる。目の前の星は、困ったように眉を下げ、バッグについている白十字のタグを指先でなぞった。
「……僕、生まれつき病気があって、身体が弱いんだ。小さい時からずっと入退院を繰り返してさ。比較的普通の生活が送れるようになったのも本当に最近なんだ。幼稚園も、小学校も、中学校も、殆どまともに行けてない」
「え……」
思わぬ重みを含んだ言葉に、光汰の喉から掠れた声が漏れ出る。星は光汰と目を合わせようとはせず、視線を落としたまま静かに言葉を紡ぎ続けた。
「小学生にもなると、自分の体について理解できるようになったんだけど……幼稚園児の時は、訳も分からず痛くて苦しい治療をやらされている感じで、本当に嫌だった。手術も、怖くて怖くて仕方なかったんだ」
静寂が満ちるカフェの空間に、星の搾り出すような声が穏やかに響く。光汰は呼吸すら忘れ、目の前で静かに過去を告白する星をただ凝視することしかできない。
「そんな時に出会ったのがヒーローだった。敵と戦う姿が本当にかっこよくて。病室で欠かさず見て、変身アイテムやロボも親にねだって買って貰ってさ。『手術頑張るから、巧も頑張って』なんてファンレターを送ったら、手書きの返事が届いたりして……。本当に、たくさんの勇気を貰えたんだよ」
星は愛おしそうに、バッグに揺れるレッドドラゴンのキーホルダーを指先でそっと撫でた。そして、ゆっくりと顔を上げると、真っ直ぐで眩しい笑顔を光汰に向ける。
「だから、大好き。今の僕を作ってくれたのは、『レッドドラゴン』なんだ」
あまりにも晴れやかな笑顔を突きつけられた瞬間、光汰は胸の奥がギュッと締め付けられる感覚に襲われた。得体の知れない感情の濁流が光汰の全身を駆け巡る。
「……レッドドラゴンが、星のヒーロー?」
「うん!」
光汰が拳を白くなるほど強く握り締めて、投げかけられた問いを、星は何ひとつ濁りのない、まっすぐな肯定で返した。それを目の当たりにした光汰は固く唇を噛み締め、グラスに手を伸ばす星を逃がさないと言わんばかりに見つめる。
「俺も星のヒーローになりたい。だから、頑張るから……見てて欲しい」
唐突の言葉に、星はキョトンと目を瞬かせ、不思議そうに首を傾げた。
「うん……。でも、烈火誠はもう僕にとってのヒーローだよ?」
「もっと、もっと頑張るから……俺を見て」
一歩も引かない光汰の力強い眼差し。その圧に引っ張られるようにして、星はそっと頷いたのだった。




