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(いいのかな? こんなに幸せで……)
普通列車は、ガタゴトと一定のリズムを刻み進んでいく。座席に身体を預け、過ぎ去る街並みを目で追いながら、星は胸の奥で何度もその問いを繰り返していた。
(お年玉、残しておいて本当によかった。それにしても、鈍行で東京を目指すのって、思った以上に遠く感じるな……)
“友達”に会うために東京へと向かう車内。連休中で混雑する中で、星は確かめるように何度も自分の頬を強く抓った。さらにポケットからスマホを取り出し、メッセージアプリのトーク画面をスクロールする。
『感想ありがとう。元気出る』
『ねぇ、ゴールデンウィーク、時間あったりする?』
いつものように特撮愛を詰め込んだ長文を送信した直後、そんなメッセージが立て続けに表示された。星は驚きのあまり盛大に咽せ、冷や汗を流しながら必死に返信を打った。
『塾があるけど大丈夫。時間作れるよ。どうしたの?』
『3日の14時から17時、空き時間になった。会える?』
トーク画面の先にいるのは、今まさに全国の子供たちと特撮ファンを熱狂させている烈火誠こと篠宮光汰だ。そんな彼からの誘いに星の思考回路はオーバーヒートし、考えるより先に指が動いた。
『会える!』
星は電車に揺られながら、膝の上で抱え込んだバッグの紐をギュッと強く握り締める。飛び上がるほど嬉しかったはずの感情は、時間の経過とともに冷え込み、重苦しい不安へと形を変えて星の胸を圧迫し始めていた。
(過密スケジュールの隙間にできた奇跡みたいな休み時間なのに……僕なんかと過ごして、本当に大丈夫なのかな? そもそも、どうして僕なんだろう?)
知り合ってから数ヶ月。直接会った回数など片手で数えるほどしかない。授業ノートの写真と、週に一度の感想メッセージのやり取りは続いているが、自分たちの関係は「同じ学校の同級生」であり「演者と一人のファン」の域を出ないはずだ。
(分からない……)
学校では光汰をプリンスと言って盛り上がるファンが山ほどいるし、現場には華やかな共演者やプロの大人たちがいくらでもいる。それなのに、なぜ自分のような病弱でパッとしないヲタクを誘うのか。
(……きっと、ただの気まぐれだよね。でも、たとえ一時の気まぐれだったとしても……。僕の人生で、こんな奇跡は二度と起こらないんだから)
「次はー、品川、品川。お出口は……」
車内アナウンスにハッと弾かれたように顔を上げ、星はゆっくりと立ち上がった。
降り立ったそこは、人の渦と巨大な建造物がそびえ立つ、紛うことなき都会。押し寄せる利用客の波に気圧され、星はくらりと眩暈を覚えた。人酔いで視界が歪むのを必死に堪え、待ち合わせ場所である改札を目指して足を進める。
「ここだ……。改札、でっか……」
なんとか改札口まで辿り着けたものの、途切れることのない雑踏のざわめきに揉まれるうち、星は全身からサァと血の気が引く感覚に襲われた。星は倒れ込むように近くの柱へ身を預け、荒い息を吐いて必死に身体を支える。その時、トントン、と肩を叩かれ、星は弾かれたように顔を上げた。
「星」
「わっ……!?」
目の前に立っているのは深めのハットをかぶり、マスクと太いフレームの眼鏡で顔を隠した背の高い少年。完全に変装をしても隠しきれない圧倒的なオーラに、一瞬で星の目眩も吹き飛んでいく。
「ごめん。待った? 大丈夫?」
「まっ、待ってない、大丈夫! わ、わぁ……烈火誠が、目の前に……」
あまりの至近距離に脳の許容量を超え、ぽぅと呆ける星の頭を、光汰は呆れたようにくしゃくしゃと撫でた。
「光汰だから。……はい、復唱。『光汰』」
下の名前を呼ぶよう指示され、畏れ多さに全身が固直する。眼鏡の奥にある大きな瞳が、逃さないといわんばかりに鋭い視線を放った。追い詰められた星は、観念したように背を丸め、蚊の鳴くような声を絞り出す。
「こ、こ、光汰……くん」
「……まぁ合格」
掠れた声を聞くと、光汰はマスク越しでもはっきり分かるほどの笑顔を浮かべ、星の細い手首を迷いなくギュッと掴んだ。
「行こ。チケット、取ってあるから」
「えっ……チケット……!?」
光汰に引っ張られながら、星は豆鉄砲を食らったかのようにパチクリと目を瞬かせる。




