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新学期が始まって一カ月が経ったばかりの教室は、GWを前にして、どこに遊びに行くだの何だのと浮ついて騒がしくなっている。
「よっ! 星!」
その喧騒とは外れて自分の席で静かにカバンを整理していた星の背中に、陽気な声とポンと軽い衝撃が落ちた。肩を震わせて振り向くと、バスケ部のバッグを肩に掛けた駿平がニコニコと笑いながら立っている。
「駿平!」
「お前、最近ちゃんと学校来てるよな。休んだの3年になって何回だ?」
「驚くなかれ! 2回だっ!」
駿平は近くの席の椅子を引っ張って星の正面に腰掛けると、信じられないものに出会ったような目で星を見た。駿平の目の前でピースサインをして胸を張る星は、少し前まで保健室登校か欠席がデフォルトだった幽霊生徒だ。驚くのも無理はない。
「休むわけにはいかないんだ……。ちゃんと学校に来たくて」
星は照れくさそうに笑いながら、リュックからノートを取り出した。それが半分本音であり、半分建前であることを知る者は星以外いない。
(僕が休めば送るノートに穴が空く。そんなの絶対に駄目だから……!)
光汰の役に立ちたいという一心で、星は今までより一層健康管理に気を配り、意地でも登校し続けていた。
「烈火誠も世界を守るために頑張ってるんだから、僕も頑張らなくちゃ! 聞いてよ、この前の話でね、誠のライバルが……!」
「ははー、口を開けばそれだ。特に今作はどっぷり浸かってるな。やっぱ篠宮光汰のせいか?」
「ふぇっ……!?」
不意を突かれた名前に、星の肩が跳ね上がって奇妙な悲鳴が漏れる。駿平は「やっぱりな」というようにニシシと白い歯を見せた。星は火照る頬をパチパチと叩いて俯く。
「……テレビの向こうに居るのが当たり前だったのに、そんな人が近くにいるから、ちょっと浮かれてるのかも」
「まぁ、同じクラスに俳優がいるなんて前代未聞だからな。……ところでお前、進路どうする? 希望調査票、締め切り連休明けだろ?」
駿平の唐突な問いかけに、ノートを整理していた星の指先がピタリと止まった。
「……まだ、迷ってるかな」
「え? 『炎神ブレイズ』の制作会社とか、特撮の現場に携わりたいんじゃねーの?」
心中を見透かされ、星は言葉を詰まらせる。いたたまれなくなった空気の逃げ場を探すように、ノートをぎゅっと握り締める。
「それはそう、だけど……。僕みたいな人間ができるのか不安だし。それに……好きなことを仕事にして、嫌いになりたくないっていうか……」
「あー……それ分かるかも。俺もずっとバスケやってるけど、中学の時、プロ目指して必死こいてやってた時期が一番しんどかったしな」
駿平は天井を見上げ、腕を組んでしみじみと頷いてみせた。星の葛藤を戯言と切り捨てない駿平の優しさに、星の胸は少し軽くなる。
「ま、そんな重いこと後で考えればいっか! まだ3年始まったばっかだしさ。なぁなぁ、この連休どっかいこうぜ。とは言っても、俺の予定が空いてるの、3日だけだけど」
「あ……その日は、ごめん。普段すごく忙しい友達が、会いに来てって言ってくれて……」
申し訳なさそうに手を合わせる星に、駿平は目を見開いた。
「嘘つけ! お前友達いねーだろ! 俺とお前だって、高1の時クラス一緒で隣の席だったから成り立ってるようなもんなのに!」
「し、失礼な! ……まあ、返す言葉も無いけど」
歯に衣着せぬ駿平の物言いに、星は眉を下げて肩を丸める。そんな明らかに凹む星へ駿平はさらに追い打ちを掛けた。
「おい、まさかネットで繋がった特ヲタのおっさんとかじゃねぇだろうな!? ネットはマジで怖いぞ!」
「違うよ! ちゃんとした人だよ!」
焦って手をブンブンと振る星を見て、駿平は呆れ顔でため息を吐く。しかし、その瞳にはどこか温かい色が浮かんでいた。
「まあ、分かったよ。お前の狭い交友関係が広がるなら、それに越したことはない! その友達とやらに会いに行くなら行ってこい!」
駿平はバンバンと勢いよく星の肩を叩くと、バッグを肩に掛けなおして教室を飛び出して行く。星はその後ろ姿を見送ってスマホを取り出すと、そっと目元を緩めて画面を眺めた。




