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特撮の撮影地として有名な旧採石場では、今日も今日とて『炎神ブレイズ』の撮影が忙しなく行われている。春の日差しを避けるテントの下、自分の出番を待っている光汰は、スマホの画面に届いた一通のメッセージを見つめていた。
『同じクラスだった! これなら授業がずれないでノートを送れるよ!』
「……知ってる」
画面に向かって、誰にも聞こえないような小さな声でぽつりと呟く。通信制に行くという方針を急遽切り替え、あの学校に行き続けるといる選択をした光汰に待ち構えていたのは、授業に出るのが難しいならば、特進クラスに籍を置くことはできないという当然の条件。光汰はそれを飲み、進路を文系へと変更した。
(星と同じクラスになれたのは、想定外だったけど)
送られてきた名簿の写真に、光汰の口元が緩む。と、その時、隣にひょいと一つの影が現れて光汰の肩を叩いた。ブルーを演じる一ノ瀬の登場に、光汰は顔を上げる。一ノ瀬は背の高い光汰の肩に顎を乗せ、スマホの画面を覗き込んだ。
「なんか嬉しそうじゃん。彼女?」
「彼女じゃないです」
食い気味に否定しながら、光汰は咄嗟にスマホの画面を自分の方へ傾ける。しかしそれを恥ずかしがってると捉えたのか、一ノ瀬はニシシと悪戯っぽく笑いながら、さらに距離を詰めた。
「じゃあ友達?」
「……多分?」
友達、という言葉に光汰は一瞬だけ返事を詰まらせる。初めて会ってから数ヶ月。単なる同級生やファンという言葉では括りきれない関係に首を傾げた。そして曖昧に答えた直後、突然長文のメッセージが届き、びっしりと光汰の画面を埋め尽くす。
「多分って……うわ、何だこの長文!」
それを目の当たりにした一ノ瀬は、目を見開いて声をひっくり返らせた。しかし、その文章がアクションや表情まで細かく分析された感想だと走り読みして理解すれば、次に漏れるのは感嘆の声。
「え、これ全部インフェニの感想!? 凄いファンだな」
アウトドアチェアに腰掛けて台本を読んでいたイエロー役の白石も、面白そうに身を乗り出して会話に入ってくる。
「確かに、そこまで褒められたら嬉しいね! だから光汰、放送が始まってから調子良さそうだったんだ」
「……そう?」
無自覚だった指摘に、光汰はパチクリと目を瞬かせた。2人は息ぴったりにうんうんと頷いてみせる。光汰は呆然としながら再び画面へ視線を落とした。この熱い感想の先で、目を輝かせる星の姿を思い浮かべていることに言われて気づく。
「白石さーん! 単独シーン撮りまーす!」
「はーい!」
スタッフの呼ぶ声が響き、白石は元気に返事をした。そして去り際、光汰の肩を叩いて弾けんばかりの笑顔を向ける。
「あとで読ませてね! その熱い感想!」
光汰が返事をする前に白石は頬を叩いて気合いを入れ、スタッフのもとへ飛び出していった。残された一ノ瀬が、肘を突き出しながら光汰をニヤニヤと小突く。
「まさか、お前がこんな濃ゆい友達隠し持ってたとは。今度会わせてよ。すっごく気になる」
「……」
光汰は一瞬だけ不機嫌そうに眉をひそめると、スマホを胸元に引き寄せて画面を伏せた。自分の領域に土足で踏み入られているような感覚に、光汰は思わず唇を噛む。
「一般人だから、駄目です」
「えー、残念」
一ノ瀬が肩をすくめて踵を返すのを確認し、光汰はそっとスマホを開き直した。画面に浮かぶ『雨宮星』の文字。それを見つめ、光汰静かにスマホを握り締める。




