12
スマホのアラームが響き渡ると同時に、星は布団を跳ね上げて飛び起きた。寝起きとは思えぬ軽やかさで階段を下り、バシャバシャと冷水で顔を洗う。リビングのソファに腰掛けていた父は、まるで幼い子供のように浮かれる息子へニヤリと笑って声を掛けた。
「星、準備バッチリだな!」
「当たり前だよ!」
テレビの左上に表示されている時刻の数字が変わっていく。画面の前で正座をして待ち構える星は、その数字が切り替わっていく様子を眺めて肩を強張らせた。たった今、この瞬間から新たなる一年の幕が上がる。
物語は、不死の力を宿す謎の石と、世界征服を狙う敵組織が、大量の歩兵を引き連れて地の底から這い上がるシーンから始まった。容赦なく市民を襲い、街を蹂躙する怪物たち。一話ゆえの気合いが入った映像に、星は釘付けになって固唾を飲んだ。
(コミカルじゃない。シリアス路線だ……)
『待てっ! 待てよ!』
誰もが悲鳴を上げて逃げ惑う中、その流れに逆らって一人の少年が声を上げる。頬を擦りむき、服も乱れた様子の彼は、迫り来る歩兵へがむしゃらに腕を振り上げた。
(誠だ! かっこいい……!)
待ちに待った『彼』の登場に、星は身を乗り出して目を輝かせる。
『皆逃げろ! 早く!』
誠は逃げ遅れた人々を助け出そうと全力で抗っていた。しかし、生身の少年が怪物に敵うわけもなく。誠はあっという間に返り討ちに遭い、地面へと叩きつけられてしまった。
『何で、こんなこと……!』
ボロボロになりながら、誠は地面を強く握り締めてきつく歯を食いしばった。
『俺は、何も救えないのか? 何もできないのか? そんなの、そんなの嫌だ!』
『いい気概だ!』
そんな彼の前に、青と黄色の衣装をそれぞれ身に纏った若い男女が突然姿を現す。二人はあっという間に歩兵を蹴散らし、倒れていた誠に手を差し伸べた。
『アタシ達の仲間に相応しいメンタリティだよ!』
『自分の命がどうなってもいい、その覚悟はあるか?』
黄色の彼女は声を上げて笑い、青い服を着た男は、誠に向かって問いかける。誠はふらつきながら身を起こすと、男に向かって強く叫んだ。
『俺の命の使い方くらい、俺が決める!』
『いいね! とってもワクワクする!』
その言葉を聞いた少女は、笑いながらふらつく誠の肩を支える。
『最高にクールだな! お前、名前は?』
青色の男は、変身ブレスを誠の前に差し出した。誠は目を丸くして、男の顔とブレスを交互に見る。そして、ニヤリと白い歯を見せると、腕を伸ばしてそれを掴み取った。
『誠。烈火誠!』
『よし、誠、行くぜ!』
『ブレイズアップ!』
そして繰り広げられた記念すべき初変身は、キレのあるポーズと、巻き上がる炎のエフェクトが鮮やかなものだった。次いで始まる初戦闘シーンも、鳥モチーフならではの空中戦が映える大迫力のシーンが押し寄せる。星は膝の上で拳を握り、瞬きも忘れてそれに見入った。
「……かっこいい! 最高だった!」
放送後、星は噛み締めるように声を絞り出す。隣で何気なく見ていた父も、いつの間にか身を乗り出し、顎に手を当て深く頷いていた。
「こりゃあかなり完成度高いな。名作の予感がするぞ」
「うん! 凄いよ! そうだ! SNS!」
星は弾かれるようにスマホを取り出し、SNSのアプリを開く。途端、目に飛び込んでくるのはトレンドを独占する『インフェニ』『烈火誠』『フェニクスレッド』の言葉。タイムラインを追えば、コアな特撮ファンもライト層も大絶賛の嵐で、ポジティブな言葉ばかりが溢れ返っていた。
「そうだよね……! 烈火誠、かっこいいよね……!」
星は何度も深く頷き、自分のことのように誇らしくなりながら、片っ端から「いいね」をつけに回る。そんな中、突然スマホが鳴り響き、メッセージの到着を告げた。
「わっ……!?」
『1話、どうだった?』
表示されたメッセージの差出人は、篠宮光汰。あわあわと慌てる中、星はスマホをぎゅっと抱きしめるようにして叫ぶ。
「最高だった! 最高だったに決まってるよ……!」




