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「新学期になりました。三年生の皆さんはいよいよ最後の高校生活となります。最高学年として何事にも全力で取り組み、悔いのない一年間としましょう」
毎回恒例となっている校長の長ったらしい挨拶がようやく終わり、春の陽気が籠る体育館から解放された生徒たち。彼らはぞろぞろと列をなして教室へと戻り、しばしの休憩時間を過ごしていた。
「ねぇヤバくない!? 」
「マジ羨ましー!」
しかし、その休み時間が穏やかなものになることはなく。特に、星が割り振られた3年7組は、新学期特有の浮つきだけでは到底説明のつかない熱気に包まれていた。黒板に張り出された名簿の前には人だかりができ、女子生徒たちの黄色い声が廊下にまで響き渡る。
「同じ名簿に名前が載ってるだけで死ねる!」
「学祭とか遠足とか、行事にも来たりしないかなぁ?」
「いや忙し過ぎて無理っしょ! 特進クラスからわざわざ文転したんでしょ? そんなに忙しいんだーって感じ!」
クラスメートは興奮冷めやらぬ様子で連れ立ち、学校のプリンスと同じクラスになった自慢のためか、次々と教室を飛び出していった。そうでなくとも、周りでは早くも友人や顔見知りと声を掛け合い、新しいコミュニティを作る動きが始まっている。その輪に混ざることができない星はゆっくりと席を立ち、人が去った黒板へと向かった。
チョークの白い粉が少し舞う中、貼りだされた名簿を見上げる。そこに印刷された自分の名前と『篠宮光汰』の文字を目に焼き付けると、星はスマホのカメラを構えた。そしてそそくさと自分の席に戻ると、慣れた手つきでメッセージアプリを開く。
『同じクラスだった! これなら授業がずれないでノートを送れるよ!』
光汰に名簿の写真とメッセージを送り、星は懐かしむようにトーク画面を上へとスクロールした。そこには、あの埃っぽい階段で連絡先を交換してから今日まで重ねられてきた、二人だけの会話が記録されている。星が撮影した授業ノートや配られたプリントの写真。そして、毎週欠かさず送っている、画面を埋め尽くさんばかりの長文感想。星はそれを見つめ、ふふふ、と誰にも聞こえないような笑みを漏らした。
「そうだ、今週の分まだ送ってない……」
星はスマホの画面をメモ帳アプリに切り替え、『インフィニティフェニックス:感想』と名付けられたフォルダを開く。そこには、昨日放送された第7話の感想がヲタク特有の熱量でびっしりと書き込まれていた。文章を一度丁寧に読み直してから「すべて選択」をタップし、コピーした長文をメッセージアプリのトーク画面へペーストして送信する。
その直後。画面から目を離す間もなく、一瞬で既読の二文字がついた。
「おわっ……」
あまりの早さに星が目を丸くしていると、ポンポンと連続で2つの新着メッセージが表示される。
『知ってる。1年よろしく』
『いつも感想ありがと。大切に読む』
画面越しでもはっきりと脳内再生される光汰の声に、星はうっとりとため息をついた。
「毎日が幸せ過ぎて、本気でバチが当たりそう……」
自分の机に勢いよく突っ伏すと、顔を真っ赤に染めたままバタバタと足を暴れさせる。頬に触れる机の冷たさに身を任せてそっと目を閉じた。瞼の裏に浮かぶのは、あの冷え込みが厳しかった一ヶ月ほど前の日曜日のこと。世界が変わり、伝説が始まった朝の光景だ。




