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ホームに滑り込んだ新幹線に淡々と足を踏み入れ、光汰は二列シートの窓際に腰を下ろした。通路側には、ショートカットのすらりとしたスーツ姿の女性が腰かける。彼女は手慣れた手つきでタブレットをスワイプし、びっしりと詰まったスケジュールを睨みつけた。片や光汰はテーブルを倒すと、リュックから筆箱と台本を取り出す。
「そうだ光汰くん。学年末テストも終わったことだし、高校の編入手続きだけど……」
「朝野さん」
光汰は蛍光ペンを強く握り締め、台本から目を離さないまま、ぽつりと言葉を遮った。
「……辞めたくない、って言ったら、どうなりますか?」
その言葉に、朝野は素早くタブレットから視線を外し、隣に座る少年の顔を覗き込んだ。変装のためにマスクと眼鏡をしていても隠し切れない整った顔立ち。その眉間に、微かな皺が寄せられている。
「どした? 心変わり?」
「……そんな感じです。単位とか、課題とか、なんとかしてもらえるように掛け合ってもいいですか」
いつもなら事務所の方針に静かに従う光汰の我儘に、朝野は意外そうに目を見開くと、念を押すように問いかけた。
「大変だよ? 全日制のまま撮影と両立させるなんて」
「頑張ります」
迷いのない、短く力強い返答。朝野はフッと小さく息を漏らすと、悪戯っ子のような笑みを浮かべて腕を組む。
「あそこには友達も誰もいないって言ってたのに、一体どうしちゃったの?」
光汰は台本から顔を上げ、そっと窓の外に視線を投げた。ハイスピードで流れていく冬の景色が、大きな瞳を滑っていく。脳裏に浮かぶのは、埃っぽい階段の踊り場で自分を引き留めた、不器用で、小さくて、少し変わった同級生の姿。
「……面白い人に会ったから。手放したく、なくて」
「へぇ……珍し。あの光汰くんがねぇ」
朝野はどこか嬉しそうな微笑みを浮かべると、パンと光汰の膝を叩いた。小気味のいい音が車内に響く。
「じゃあ、人一倍頑張りなさい。今日だって、東京着いたらすぐスタジオでアテレコだからね。22時まで時間ないから気張ること!」
「はい」
光汰はキャップを外した蛍光ペンで、台本のセリフに線を引いた。不意に、制服のポケットの中でスマホが短く震える。画面を開くと、グループトークに新着メッセージが届いていた。
『テストお疲れー! 甘いもの買って待ってる!』
先にスタジオ入りしている共演者たちが、シュークリームの箱を囲んでいる。そんな写真に光汰はスタンプを一つ返すと、友だち一覧の画面を開いた。トーク画面の一番上『新しい友だち』の欄に並ぶ、『雨宮星』の文字。それを見つけた瞬間、光汰の目元が柔らかく緩んだ。星のアイコン画像に設定されているのは、龍をモチーフにした赤いヒーローの写真。
(これ、見覚えある……。なんのシリーズだっけ?)
幼い頃の記憶の輪郭を手繰り寄せるように首をかしげたが、すぐに思い出すことは出来ず。光汰はなくなくスマホを伏せ、て台本へと視線を戻した。




