↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
3/36

第三話 小谷るかは勝ちたい

人を喰らう獣より、ラブコメ展開が怖い!

イケメン騎士様に守られるよりも、自分で戦うことを選んだ小谷。

いざ、初陣に臨む‼

「倒すって言ったよね。で、何をすればいいの?」

 小谷は準備運動でもするように小さくジャンプし、わくわくした目を固本に向けた。


「儀式は執り行われました。リュウエンがレイスウと繋がり、通り道ができているはずでございます。まだ完全に開かれたわけではございませんが、それを取り出すこと自体は可能でございます」


「……ごめんもう少し分かりやすく言って! こっちは世界観が掴めたばかりで用語集までは知らないよ⁉」


 固本は軽く頭を下げた。

「大変失礼いたしました。急を要する事態でございますので、肝心なことだけお伝えします。

 身の回りをご確認ください。光が集まって渦のようになっている場所がございます。その中にコタニ様にしか扱えない得物がございます」


「出たわね、謎の空間収納術! でも助かるな、拳で戦えと言われたら、さすがにちょっと怖いかも」

 大型動物相手に素手で戦わずに済むことにほっとし、小谷は目を細めて周りを見回した。

 右肩のすぐ近くに、それがあった。固本の周りに見えたのと同じような光が、ゆっくり渦巻いている。

 期待と興奮で胸が高鳴る小谷は、一つ深呼吸して、渦に手を差し入れた。


 不思議な空間には格納された武器――

 べただけど定番。定番こそ王道。

 それだけで小谷は心が躍った。


(どんな武器だろう♪呪符? 機関銃? 弓?

 いやいや、やっぱり定番は剣だよね! ずしりと重めで、振り下ろすとひゅっと風切り音がして)

 指先に感じたのは、冷えた金属の感触。すんなり手のひらに収まる棒状の物体を掴んだ。

 期待感が一気に高まる。

 早く実物を見たいのに、その空間は泥でも詰め込まれているのか、武器を引き出すだけでも一苦労する。


「お急ぎください、レイバクジュツがそろそろ切れてしまいます」

 固本の声に呼応するように、獣を縛り付けていた二本の光の縄のうちの一本が音もなく千切れ、霧散した。

「今やってる!」

 何とか途中まで引き出した武器が、その正体を現す。


 緻密な文様が彫り込まれた柄。

 鍔はなく、そのまま光を吸い込むような黒紫色の剣身へと続いている。

 刃幅(はば)は約四センチ。中央には直線の溝が走り、それを軸にらせん状の曲線が剣先へと伸びている。

 派手さはなく、ただ揺るぎなく、厳かに。


 小谷の望み通り、一振りの剣だった。

 いよいよ剣先が光の渦を抜け、柄を握った右手に左手を添えようとした瞬間――


「っ⁉」


 想定外の重さがのしかかり、腕がもげそうになった。

 渦から抜け出した瞬間、無重力状態から突然10Gがかかったような重み。

 あまりの重みに耐えきれずに手離すと、剣はざくりと地面に突き刺さった。


「えええええええ――⁉」

 体重をかけて引いても、助走をつけて押してもびくともしない。

 動かざること山の如し。もとからコンクリートから生えていたかのようだ。

 

 さすがに小谷も動揺した。

「待って、えっ? なんで石に刺さったエクスカリバー状態になってんの? これ、何の試練⁉」


「リュウエ…力の源とコタニ様の繋がりはまだ不安定で、剣がまだ休眠状態から目覚めていないかと思われます」

「のんきに分析してないで、剣を抜くのを手伝って! 武器が使えないと戦えないじゃない‼」


 それでも固本は棒立ちのまま、数歩離れた場所から動かない。

「お役に立てず、申し訳ございません。結界とレイバクジュツの維持で手いっぱいでございます。先ほど申し上げたように、それはコタニ様にしか扱えない代物でございます。ご自分で対処いただくほかありません」

 突き放すような言葉。透き通った美声で言われると余計にたちが悪い。


 華麗に敵を退治するシナリオがあっけなく崩壊し、小谷はフリーズした。

 最悪なことに、かろうじて獣を押さえつけているもう一本の縄も、光が弱まり、崩れ去ろうとしている。

「急にゴリラの腕力は身につかないよ! ほかに方法はないの⁉」

 他人事のように振る舞う固本に苛たちを感じながらも、小谷は彼を頼るしかなかった。

 物語の指南役なら、きっと解決法を教えてくれるはず――


「さようでございますね。その剣でヨウジュウを屠って頂ければ、剣も自分の役目を思い出し、完全に覚醒するでしょう」


「剣が覚醒しないと獣は屠れないだろうが! 何その『鶏と卵どちらが先』問題――‼」

 怒りのツッコミが校舎裏にこだまし、獣の背中の光の縄はとうとう、ひび割れるように消えていった。

 よろめきながら立ち上がった獣は、痙攣する白い目玉を小谷に向けた。

 唸り。突進。


「うそぉぉぉ――⁉」

 怒りで頭にのぼった血がさっと引いて、小谷ははじかれたように逃げ出した。

「つながりが不安定で覚醒してないってことは…うわ!」

 スカートの裾を噛まれそうになり、さらに足を速める。走りながら叫ぶ。「つながりが安定すれば…ぎゃっ! ――自然と覚醒できたりは⁉」


「可能性はございます」

 固本は逃げ惑う小谷を視線で追いながら、敬語を崩さずに答えた。


「だったら、もう一度その獣を拘束して、完全覚醒まで待ってよ!」

 眼前に迫る壁に気づき、小谷は慌てて手をつき、勢いを削いで方向転換する。

 後ろで獣が壁に激突する音がした。

 ドン‼


 衝突されたら確実に骨を折られる音に、悪寒を覚えた。

 そして固本の言葉はさらに追い打ちをかけてくる。

「申し訳ございません。レイバクジュツは使うたびに効果が弱まります。あと二回が限界で、その都度五秒程度しか足止めできないかと存じます」


「無理ゲーじゃん‼」


 どれくらいの時間が経っただろう。

 走って、よけて、飛び退いて、躱して……。

 戦うすべを持たない小谷は、ただ獣の突進を避け続けるしかなかった。

 何の助けにもならない固本と話しても、無駄に体力と忍耐力を消耗するだけ。ここは自力で切り抜けるしかないと彼女は悟った。


 逃げ回って分かったこともある。

 獣は一度狙いを定めると変えない。逃げる小谷が固本の近くを通っても、やつは一度も固本に目をくれなかった。

 そして体格が大きい分、小回りが利かない。とっさの方向転換にはついて来られず、勢いのまま直進してしまう。


(頭悪いのととろいのは分かったけど、どうやって退治すればいい⁉ 武器も使えないのに‼)

 疲れがたまったせいか、小谷は足元に転がる小石に気づかず、がっつり踏んでしまった。体勢が崩れ、地面が急速に近づく。

「やばっ」


「コウ!」

 固本の助太刀が入る。


 とっさに体をひねって横へ流した小谷は、急接近する地面に腕をつき、衝撃を削いで前転する。

 立ち上がってみると、縄に縛られた獣がよだれを垂らしながら、何度も悔しげに空を噛んだ。


「お見事でございます。レイバクジュツを使わなくても逃げきれたでございましょう」

 どこまでも対岸の火事のように話す固本は、獣に負けず劣らずの憎き敵に思えてきた。獣がいなかったら、まずは彼に一発見舞ってやりたい。

「バレー部のリベロだったんだ、あんまなめんな!」

 こっちだって意地がある。


 五秒だけの時間稼ぎとはいえ、態勢と息を整えるのにはありがたい。

 汗が目にしみ、小谷は急いで腕で顔中の汗を拭く。拭った汗を払い落とそうと腕を振ると、ごつんと何かが当たった。

 地面に刺さった剣の柄だった。

 何の役にも立たないこの無用の長物を、すっかり忘れていたが、さっき受け身を取る方向がもう少しずれてたら、抜き身の剣に当たってケガをしたかもしれない。

 小谷はきらりと光る鋭そうな刃先を見て、今更ながら冷や汗が流れた。


(……ん? ケガする……?)


 剣を見て、獣を見て、固本を見る。

 方向と角度を試算する。

 光の縄が砕け散った瞬間、小谷は再び走り出した。

「固本! そのコウってやつ、まだ一回使えるよね⁉」


「はい、数秒しか持ちませんが……」

「こいつを誘導するから、そのカエデの木の前で一度足止めして!」

 後ろからどしどし近づいてくる足音で距離を測りながら、素早く方向転換し、カエデの木に向かう。


「かしこまりました」

 また後ろから足音が近づく。あともう少し。


「コウ!」

 固本の声に足を止めず、小谷はそのまま剣の前まで駆け戻る。

 膝をついてふっと短く息を吐き、刃先を獣の視線から遮るように立つ。

「よし、かかってこい!」

 挑発が通じたのか、拘束をほどいた獣はひときわおぞましい唸りを上げ、一直線に突進してくる。


(三……二……一!)

 獣の口の汚臭が届くほどぎりぎりの距離まで引きつけ、小谷は真横に飛んだ。

 獣は自ら切られにいくように、全速力で刃にぶつかった。


 コキッ。


 巨体には似合わず、骨の砕けた音は軽やかだった。頭蓋骨を両断された獣は、くずおれた。

 真っ白い血しぶきが上がり、小谷に降りかかる。


「うえ゛え゛え゛! 血⁉ 目、目に入る!」

 後ずさりながら目をこすっていると、誰かが後ろで支えてくれた。


「お疲れ様でございます」

 差し出されたハンカチらしいもので、とりあえず顔を拭く。

 何とか目を開けられるようになり、小谷はどくどくと剣を伝う白い血が、刃にある溝に吸い込まれていくのを見た。


 黒紫色だった剣身の色がゆらりと光り出す。

 まるで再び鍛え直されていくかのように、どんどん色褪せ、透明になっていく。やがてひと際強い白い輝きを放ち、混じりけのない銀色に落ち着いた。

 試しにそっと柄に手を添えてみると、ずしりとした重みはあるものの、片手でも簡単に持ちあげられた。

 そのまま剣を光の渦に戻し――


 キーンコーンカーンコーン。


 勝利の果実を味わう暇もなく、チャイムの音が無情に響く。

 高校に通う学生にとって、獣よりも恐ろしい現実はいくらでもある。


「次、鬼先生の数学の授業‼ 遅刻したら宿題二倍キャンペーン‼ うおぉぉぉ――!」

 小谷は固本を置いて、全速力で教室へ走った。

※小谷るか

主人公。ヒーロー願望を持ち、じっとしていられない性分。

バスケ部、サッカー部、バレー部と、時々でハマったスポーツには全力で打ち込むものの、興味のベクトルが移るとあっさり離れる。

今はダークな世界観が人気のソシャゲ、「呪いの国と祝福の子(ノロシュク)」にどっぷりハマっている。

真っ直ぐな性格で努力家。ただ褒められると調子に乗る。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。