Act1 樹家の食卓-朝食の契約
樹家の食卓に何故航聖が混じっているのか、書いておくことにする。
ある日の放課後の事だ。航聖はいつものようにパウチ入りのゼリーを飲んでいるのを見て、希は顔をしかめた。
「……ねぇ、航聖。……それって美味しいの?」
「……ん、美味しいから飲んでいるわけでは無いな。短時間で脳に必要な糖分と栄養素を取る為……かな」
「忙しいのは分かるけどさ……ただでさえあたしよりも白い顔してさ、もし、ぶっ倒れでもしたら、あたしも龍輝も司令塔が無くなると困るんだよねえ」
「……大丈夫だ……そんなヘマはしない」
「……」
(してんじゃん。時たま保健室に、行ってるのヒメに聞いたんだから)
希は知っていた。航聖の両親は、海外勤務で不在。海外と国内のダブルの給料で経済的には裕福な家庭だが、一人っ子で兄弟はいない。少年時代は、加納家の耀心と仲が良かったが、今は高級マンションで一人暮らしだ。食事は航聖らしく、学食以外は機能性を重視したゼリーやサプリメントが多い。もしくは食べない日もある。
……これも全て、薫から聞いた話だが。
「……航聖、なんなら、たまにはうちに来て食べなよ。ヒメもその方が安心すると思うんだ」
「ありがたい話だけど……遠慮するよ。移動の時間が無駄だ」
「遠慮しなくていいんだよ。龍輝もいるし、日頃じーちゃんの門下生がウロウロしてるし、代わる代わる勝手に、ご飯食べていくし。一人増えようが同じだよ?」
「……凄い家だな、セキュリティも何もあったもんじゃない」
「樹道場に泥棒に入る猛者っているのかなぁ……漫画みたいに銃火器持って来るかな……」
「……そうだな」
希の言葉に航聖は『けんもほろろ』だ。振り向きもせず一心にキーボードを叩いている……希は最終手段に出た。
「……航聖くーん……たまーに、ここで寝泊まりしてるよね?防犯カメラもセキュリティシステムも操作できるの知ってるけどさ、この事、先生たちにバラしてもいい?」
航聖のキーボードを叩く手が止まった。
「『先生!玉木先輩が、学校に住みついていますよー』ってさ……」
「……ただでさえ、出席日数で揉めたんだ。これ以上のことで煩わせる気か!」
「……じゃ、決まりね。朝ごはんだけでも、顔を出してよね」
「……」
希は、いつもの太陽のような笑みで、勝利を確信した。航聖もそれ以上は、彼女に対して反論しなかった、言えなかったのだ。
それ以来、航聖は不本意そうな顔をしつつも、たまに樹家の食卓に現れるようになった。
それからの樹家の食卓は、一層賑やかになったのであった。




