第27話 継承
炎の錬成陣、新義手の完成!┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
(黒聖国 サラマンデル高地)
術式の発動から3日。
筋肉や髪の長さ、肌の色が元に戻ったシヴァ。
大賢者イフリートとシヴァは岩山の上に向かい合って座っていた。
シヴァは大賢者イフリートに尋ねる。
「イフリート、どうして炎の精霊魔法で義手を錬金すると、僕の体は真っ白で痩せ細った体になるんだい?」
大賢者イフリートは顎髭を触りながら答える。
「さあな、分からん。君の腕を初めて錬成した時は驚いた。炎の精霊魔法使いであるこの俺の腕が焼け焦げた。そしてシヴァはまるで"白の樹化異"の姿になって炎の錬成陣から出てきた。左腕の義手は漆黒に染まってな」
シヴァは新しく錬成された左腕の義手を見つめる。
大賢者イフリートもシヴァの左腕を見てから尋ねる。
「そう言えば聞いてなかったな、義手になった理由を」
シヴァは左腕を右手でぎゅっと握りしめる。
「親友に斬り落とされたのさ、樹化異になった親友を止めようとしてさ...。左腕を失ったことに後悔はしてない」
大賢者イフリートは温かい簡易的なコーヒーを入れてシヴァに手渡す。
「そうか。でも後悔してないなら何も言わない。それよりお前に話しておかないといけないことがある」
シヴァは大賢者イフリートの話に目を見て聞く。
大賢者イフリートはコーヒー1口飲んでから話し始める。
「今後、シヴァが炎の精霊魔法使いに正式に選ばれた時、炎の精霊魔法使いの歴史について知っておく必要がある」
シヴァは首を傾げる。
「炎の精霊魔法使いの歴史?」
大賢者イフリートは話を続ける。
「炎の精霊魔法使いは代々"竜人"と呼ばれる種族が継承してきた。見た目は人間と変わらないが、皮膚が人よりも異常に硬く、怪我の治りが異常に早い"獣人"の一種だ。ちなみに俺も元は竜人だった」
シヴァは大賢者イフリートを見つめる。
「君は人間じゃないのかい?」
大賢者イフリートはシヴァのことを見つめる。
「そうだ、人間じゃなく竜人だ。竜人はかつて多く存在したが、千年前の戦争で竜人の多くは滅びた。1人の魔法使いによってな」
シヴァは大賢者イフリートの話にさらに興味を向ける。
大賢者イフリートは続けた。
「話が逸れてきたな。炎の精霊魔法は、竜人が使う"古代錬金術"のことだ。科学的に不可能を可能にし、魔法の力であらゆる現象を可能にする魔法こそ"炎の精霊魔法"だ。炎の精霊魔法は竜人にしか宿らない、しかし君は違う...」
大賢者イフリートはシヴァに近寄っていく。
「今、地上で生き残っている竜人はおそらく俺だけだ。これからは人間が炎の精霊魔法を継いで行くんだろう。だから竜人の歴史を忘れないで欲しいってことを言いたかった。俺には子供がいないからな...」
シヴァは首を傾げて大賢者イフリートに尋ねた。
「どうしてなんだい?」
大賢者イフリートは少し暗い顔を浮かべて呟いた。
「焼死したんだ。子を身ごもった妻がよ...。俺は先代の竜人たちの話に耳を傾けず、人間の女を愛してしまった。幸せだった家庭は一瞬にして壊れた。妊娠したその瞬間、妻は炎に飲み込まれて消えた...」
シヴァは大賢者イフリートにかける言葉が見つからなかった。どんな言葉も稚拙に感じられた。
大賢者イフリートはシヴァに話を続けた。
「91年事件、黒聖国で立て続けに竜人の村が襲われた。俺は誰一人救うことができなかった。むしろ、立て続けに樹化異ごと皆を燃やした。竜人の存在を知らない人間からは大賢者と呼ばれるようになった。俺はただの"殺人鬼"なのにだ」
大賢者イフリートは頭を抱える。
「若い頃の俺は本当に馬鹿だった。その後よ、何人もの人間の娼婦や、獣人の女との間に子供を身ごもったんだ。俺の知っている限りでは皆死んだよ。何であんなことしたんだ、本当に信じられない...」
シヴァは大賢者イフリートの肩に手を添える。
「イフリート、僕は君にかける言葉を何度も探したけど見つからなかった。でも、君の意志は僕が継ぐ、これから先も竜人たちの意志や錬金術は僕が後世に必ず残していくさ。命は何を持っても償えない、だからこそ君の奪った魂の数だけの人の命は救わないといけない」
大賢者イフリートはシヴァのことが妻のように見えた。
「シヴァ...」
「イフリート、君の話を聞いて僕はさらに気持ちが固まった。救える命は救わないといけない!だから詩音のこと、絶対に助けてみせるよ!」
シヴァは立ち上がってイフリートに向かって笑いかける。
イフリートは心の中で思った。
「(聞こえるか、我が妻シバよ。君と同じ名の少年が俺の意志を継ぐんだ。これは君が呼んでくれたのか?来世こそ幸せになろう、シバ)」
2人の元に温かい風が吹き抜ける。
木の葉を乗せて、風は高く舞い上がる。
希望を紡ぎ、運命を変える日は遠くないのかもしれない。
━━━━━━━━━━━━━━━
(黒聖国 芸術街 プラチナサニー)
シヴァと大賢者イフリートは、サラマンデル高地から最も近い麓の街へ下りてきた。
この街は"プラチナサニー"と呼ばれる芸術が盛んな街。
街には多くの劇団や、映画館、美術展などが存在していた。
シヴァは芸術街の華やかな雰囲気より、近くにあるスラム街の方が気になった。
「ちょっと着いてこい」
大賢者イフリートはシヴァをある場所へ案内する。
シヴァは大賢者イフリートの後ろを何も話さず着いて行くことにした。
大賢者イフリートはスラム街に入り、スラム街の中でもさらに奥の廃れた街へやってきた。
隙間もなく立ち並ぶ建造物の間に入ったところで、大賢者イフリートは足を止める。
シヴァは大賢者イフリートが足を止めた場所の先に視線を向ける。
そこには焼け焦げた古いアパートの一室がそのまま放置されていた。
大賢者イフリートはアパートを見ながら話し始める。
「娼婦の家だ。俺のことを気遣ってくれた優しい娘だった...。ここが唯一残っている焼跡の場所だ...」
シヴァは焼跡のアパートを見て妙に胸を締めつけるような感覚が残った。
「僕は...、この場所を知っている気がする...?」
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
シヴァと大賢者イフリートはその後、芸術街を少し散歩することにした。
シヴァは焼跡の場所から路地裏を抜けた場所にある古いダンススタジオに目を向ける。
「バレエダンスをしているさ...」
シヴァは美しく舞うバレエダンサーの練習生に目を奪われた。
ダンススタジオから坂を登ったところに大きな劇場が在った。
"元ロット劇団"と書かれた劇場は、当時の形を保ったまま今は映画館として使用されていた。
シヴァは映画館の中に入ると、映画館の入口付近に当時の劇団のポスターが記念に飾られていた。
「"リトル・クラウン、現る!?"、当時の人気者かな?」
シヴァは顔を白く塗った小さな少年のポスターが妙に印象に残る。
シヴァは当時から変わらない入口の光景を見て、何故か口から言葉が漏れる。
「ただいま...。あれ?何言ってるのさ?」
シヴァの目から涙が止まらない。
理由も分からず、シヴァはただ泣いた。
誰かの記憶、涙は道化のように┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈




