第六十九回 ミニマムーン(2)
ミニマムーンがようやく椅子に座れたところで、早速悩みを聞くことに。
「では早速。ミニマムーンさんのお悩みは何でしょうか」
椅子に座ったミニマムーンは、慣れない場所というのもあってか、かなり気が散っているようだ。先ほどからずっとキョロキョロしている。
「……あ。ごめん。何か言った?」
僕が質問してからかなりの時間が経過してから、ミニマムーンは返事をした。
「はい。あの、お悩みを」
「そうだったね……返事が遅れてごめん」
「いえいえ」
「うん、じゃあ……」
そこまで言って、ミニマムーンは少し口を閉じる。それからしばらく、何か考え事でもしているかのような顔つきをしていた。
言いかけたのに黙るとは。
悩みを発することに、躊躇いでもあるのだろうか。
なぜ黙るのか、事情は分からない。
が、急かすというのも問題だろう。
だから僕は、ミニマムーンが自ら口を開くのをじっと待った。
それから二分ほど経過して。
「……ぼく、背がひくいのを気にしてるんだ」
悩みとは分からないものだ。
改めて、そう感じた。
ミニマムーンの武器とも言える可愛らしさ。それは、背の低さも含んでのもの。つまり、背が低いということも、ミニマムーンの魅力を高めている要素の一つなのである。背が極めて低いことによって、デフォルメキャラやマスコットのような可愛らしさが醸し出されているのだから、背が低い、なんて、気にすることとは思えない。
「そうなんですか?」
「……うん」
こくりと頷くミニマムーンは、本当に可愛らしい。
「今のままでも十分魅力的だと思いますけど」
「ううん……もっと大きくなりたいよ」
僕としては、今のままであってほしい。
せっかく可愛らしいミニマムーンなのに、これで背が百七十センチ以上になったりしたら、それこそ奇妙なことになってしまう。
「どうしてですか?」
「それはもちろん……立派な男になりたいからだよ!」
急に元気な声になるミニマムーン。
「立派な男になって! 世界平和のためにヒーローと戦って! 勝って! 救世主と呼ばれて! そして、可愛い女の子と結婚するんだ」
なんと。既に立派な人生設計が。
何も考えず今日この時を生きている僕とは大違いだ。
だが、ところどころ突っ込みたいところがある人生設計である。
そもそも、立派な男になるには、背が伸びればそれだけでいいわけではない。背が高ければ偉いというわけではないからだ。実際のところ、身長なんてそれほど関係していない。それよりも、中身を磨くことの方が大事。
それに、世界平和のために戦う相手が、どうしてヒーローなのか。
ヒーローと戦う——それは、悪の怪人が行うことである。
そして特に気になるのは「ヒーローに勝つ」という部分。易々と成し遂げられることではない。ほぼ不可能と言えよう。
いや、もちろん、ヒーローを追い詰めることならできるだろう。
卑怯な手を使いでもすれば、戦いを有利に進めることはできるはずだ。
けれど、「勝つ」となると、話が変わってくる。
……ちなみに、最後の「可愛い女の子と結婚」は好きにすればいいこと。
僕が口出しするとこではないだろう。
「ミニマムーンさんはそんな夢をお持ちなのですね」
「うん……叶うかな……」
多分無理だろう。
そう思わずにはいられない。




