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第五十四回 過去(2)

 親しかった怪人——彼の話をしている由紀は、その瞳に、複雑な色を湛えている。


 とても切なげで。

 けれど、どこか希望が光るような。


 既存の言葉では上手く言い表せない不思議な色が、由紀の整った面に滲んでいるのだ。


「それで……再会してから親しくなったんですか?」

「うん! それ以来、たまに会って話すようになったの!」


 たまにであるとはとはいえ、会って話すようになるなんて。正直驚いた。怪人と人間の狭間には壁があるものと思っていたから。


「どんなところで会ってらっしゃったんですか?」


 他人の過去を詮索しているようで嫌らしいと思われるかもしれない。けれど、悪い心などは欠片もないのだ。ただ、純粋に気になっているだけである。


「うーん……あまり人のいない店が多かったかなー。っていうのも、人がたくさんいるところへ行ったら、騒ぎになっちゃうからね」


 それはそうだろう。たとえ人間の女性が同伴していたとしても、急に怪人が入ってきたら、店内はパニックになるはずだ。


「あと、彼は騒がしいところが嫌いだったの。だから、静かなところを狙って行っていたわ」

「なるほど……」


 直後、由紀が突然、伸ばした人差し指で僕の鼻の天辺を突いてきた。

 由紀の行動の意図が掴めず、戸惑いを隠せない。


「岩山手くん、あたしのことには妙に興味を示すね!」

「えっ……」

「何か意味があるのー?」

「……い、いやいや! 何もないです!」


 由紀はふざけて言っているのだろう。笑みを浮かべた彼女の唇を見れば、すぐに察することができた。


「本当にー?」

「いやいや! 本当! 本当ですってー!」

「慌ててて怪しいー」

「え、ちょ、違いますって! 本当に、何もないですって!」


 僕はつい取り乱してしまう。

 そんな僕を見ながら、由紀は「冗談だよっ」と言った。


「遊ぶようなこと言ってごめんね、岩山手くん。冗談だから」

「そ、そうなんですか……」


 本当に何か怪しまれているのかと思いかけていたが、どうやら、やはり冗談だったようだ。


「で、話を戻すけどね」


 由紀は何事もなかったかのように続きを話し始める。


「話をしているうちに、彼が段々、悩みとかを打ち明けてくれるようになったの。よく相談に乗ったわ」


 僕も由紀に相談に乗ってもらえるような人になりたい。内心そんなことを思ったりした。もっとも、そんなのは無理なことなのだが。


「おぉ……そうなんですね」

「でも、ある日、別れが来ちゃったのよ」

「え! 急過ぎません!?」


 うっかり大きな声を出してしまった。

 周囲に由紀以外誰もいなかったことが、唯一の救いか。


「そう。急過ぎて、あたしも凄くショックだったわ」

「い、いや! 何があったんですか!」

「……え?」


 きょとんとした顔をされてしまった。


「え? じゃないです! 何があって別れが来たのか、そこが気になるところです!」

「そ、そう……?」


 何があって別れることになってしまったのか。

 それは一番重要なところ。


 そこをぼかしたまま話を進められるというのは、さすがに納得がいかない。

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