花嫁とヘンタイの逢魔が時
▲▲▲ 前回までのあらすじ ▲▲▲
現役女子高生「ミーシャ・メリーベル」は老舗の酒蔵のお転婆娘。
彼女に課せられた密命は、名門「聖アレゴリー女学園」地下深くに根差す
巨大な図書館に秘蔵されている「と或る本」を探し出す事だった。
彼女は商売敵であり遠い親戚でもある二年生「マイユネーツェ」のたっての願いを受け、
女装の使用人「ジェズ」に誘拐劇を演じてもらう事で生活環境の改善を取り付けた。
一方、クラス委員長「カトリ」は不思議な力の優位をひた隠すジェズが鼻もちならず、
尾行のうえ決闘を挑むも敗北してしまうが、ジェズの秘密のヒントは得られ満足の様子。
ジェズに付き纏う怪しい少女「タタリ」はイケない遊びを覚えてしまい、
学園には化け物「歩く屍」の脅威が差し迫っていると言うのに。
本探しにばかり明け暮れていていいの?ミーシャ?
※ 作中に造語が幾つか出て来ます。
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『シルキッシュ』作品に登場する大半の人が該当。
『ヴィリジアン』弱肉強食の自然に生きる人々でシルキッシュの差別対象。
『サルファラス』シルキッシュの差別対象だが独自の文明を持つ人々。
『脆灰』シルキッシュの蔑称。
『蛮緑』ヴィリジアンの蔑称。
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月曜の何だか生温い晴れた昼下がり。道すがら首都テーブルターニングの街中で捕まえたつまらないスリを署へ連行し、手隙の班へ後処理を引き継いだ早々に彼は警務課の職員から呼び出しを受けた。こげ茶カリフラワーな髪に包まれた手提げ箱のような顔、細い眉に黒い瞳の厳つい目、鼻筋は細くへの字に結んだ口角に年季の入った皺が堆く。フー・セクション所属の警部、バッカス・ワドーである。
どうやら彼宛てに局から電話が来ているらしい。電話は未だ一般に普及しておらず余程特別な事情でも無い限り使われる事など無い。出先から偶々戻って来たこのタイミングによくもまあ、ボサボサな頭をボリボリ掻きながら一体誰が何の用でと訝しみつつ狭い電話ボックスに入る。室内に照明は備えられておらず、ドアを閉めると明かりはドアの覗き窓から差し込む僅かな光しかない。懺悔室のような箱の中、携えたコーヒーカップを卓上に置いて送話器と一体化したコの字形の受話器を取った。
「待たせた、ワドーだ。」
「♪こんにちはワ」
「★卍卍!?→……─────」
耳に中てたラッパのような器具から聞きたくない声が聞こえ、警部は反射的に掌で送話器の口を押さえて頭から遠ざける。しかめっ面で双眸を閉じ腹の底から溜め息を吐く内、離したラッパから件の声が聞こえて来た。
「もしもし?───ワドー警部~?もしもーし??」
「~何だって俺に電話なんか寄越して来たんだ奴さんわっ×…」
「もしもし?ワドー警部、@そこに居るのでしょう?もしもーし??」
「××───←…『おかけになったでんわばんごうわげんざいつかわれておりません。』」
「やあねえ、交換手が繋いだのだから番号の掛け間違えも何も無いでしょうに☆。そんな定型文、一体何処で聞けますの?ご冗談がお好きだ事、うふふふふ♪。」
「×はっはっは。えーと、どちら様で、」
「歌って踊れる皆の声楽家さまです☆。」
訊かなくたって分かってらあな。電話の相手は教会の協力者である占い師「ウイドナ」だ。
言葉通り歌って踊れるならアイドルは間違いなかろうが、警部は彼女を『疫病神』と曰くる。
「~……火急の用件があるならまだしー…っいや×あっても本官などにではなくてですな、教会から上を経由してもらわんとこっちが困るんですよっ×。」
「取り急ぎの用があったのでつい、」
「断っておきますが、ここでの会話の内容は全て録音されとります。そこはご留意いただきたいっ。」
彼女が名乗らなかったのは留意のある事の示唆、ふざけている訳ではないがふざけている。
「分かっていますともええ。でも火急の用件があるのは私でなく別の方なんです。」
「はあ。──?それで、何故貴女が本官宛てにここへ電話を掛けられたんでしょう?」
「そこに貴方が居ないとすれ違いになってしまいそうでしたので、止む無く。」
「───話が見えませんな、貴女が用をお持ちでないなら本官は失礼させてもらいます。」
「あぁ、電話はそのままでお願いします。お手元のコーヒーでも飲みながら…」
「っ?───
───────────……←…★★!?!→→」
悪寒がして恐る恐る傍らへ目を遣ると、この部屋唯一の光源を遮るように窓ガラス一枚を隔た直ぐ向こうからウイドナ本人がにんまり警部を覗き込んでいるではないか。ド胆を抜かれた警部は椅子から飛び上がり後ろの天井の隅に頭をしこたまぶつけ、跳ね返った勢いで椅子の上へと騒々しく顔面を打ち付けた。コーヒーカップが一瞬ビックリ、握ったままの受話器から呑気な声がまた聞こえて来る。
「まあ酷い物音×。お怪我は無い?ワドー警部、」
「卍卍?×*◆@〒▲!×?!↓↓~~~
!!?←←?!→!??──────────────」
バタンとドアをぶち開け頭を左右するが近くには誰も居らず、見渡せど周囲の職員が不思議そうな視線を向けるくらいでウイドナの姿は何処にも見当たらない。手元からまだ聞こえて来るもしもし、警部はゆっくりドアを閉め受話器を暫し睨み付けてから躊躇しつつ顔へ近付けた。
「……っもしもし…」
「☆はいもしもし、」
「~~←何処から電話しとるんですかあっ貴女はっっ×?」
「私?私は今───
貴 方 ノ 後 ロ ニ 居 ル ノ。」
「★卍↑↑!?」
「うふふ♪。おイタが過ぎましたわ、御免なさい。用件を単刀直入に言いますね────
───────
───
─────────…もしもし?もしもし!?~オイっ、聞いてるのか警部?!」
「……★★!?───もしもし?…」
「暇そうだなオイ@。~こちとら大目玉食らってるんだぜー?」
受話器から聞こえて来る声は憶えのあるぶっきらぼうな男のものに変わっていた。いや、変わった気がするだけで最初からこの声の主と会話していた、かも知れない?何が起こったのか解からない、しかし今抱いている「ウイドナが絡むとロクな事がない」と言う感覚だけは何があろうと揺るぎ無い。何をしてくれたかサッパリ解からねど毎度毎度あの疫病神は、
「~↑聞いてるのか警部!!」
「~あーすまん、俺も今ムダに巨大な目玉を無理やり口へ詰め込まれた所だ×。」
「望み薄だったがイチかバチか電話を署に掛けて直ぐアンタを捉まえられたのはツイてるぜ。
単刀直入に頼む、←アンタん所のヒヨッコ共を貸してくれ!人頭が足りんっ、」
「───ぁああ?」
■■■ 花嫁とヘンタイの逢魔が時 ■■■
ワドー警部の所のヒヨッコ。フー・セクション見習いである学園プラチナプラタナス大学生、ウィル・アム・バーモントとアンカーサシャ・アーチボルド通称アンの二人しか居ない。両名は大学三年生であり見習い歴が二年近く。警部としてはとっとと大学を中退してもらって、正式にフー・セクションでフル回転してほしいのが本音だったりした。
それはさて置き、いきなり貸してくれとは聞き捨てならない。
「~何だぁ藪から棒にぃ。お前さんっ……ん?一体、何処から電話してるんだ?」
「フォーチュンストックの電信局だ。~県庁舎は門前払」
「!ちょっと待て。→」
送話器をまた塞いで覗き窓からそれとなく外を見遣る、同じ建屋に何処ぞの息の掛かった輩が潜んでいるとも限らない。聞き耳を立てている者は居ないようだが、今度は録音されているのが宜しくない。
「───←お前さん、それ……喋って良いヤツなのかっ?」
「緊急事態だっ。地元警察はこっち以上に手薄で話にならんし、役人共は駄目だ騒ぐなの一点張りでとにかく使えねえ!…で?←いつ来られる?車を飛ばせば明日の昼には着くな?」
「!待て待て何勝手言ってやがる、人手不足はこっちも同じだ×。それを猫の仔じゃあるまいに、ハイそうですかと渡せるかいっ。」
「←三日でいい、三日でいいんだ!三日でカタを付けるっ。」
「……本当に三日で済むのか?」
「俺が受けた時は三日って話だった。」
「×駄目じゃねーか↓。──@この話はこれでオシマイだな。」
「待ちな!───
───────────この事件、『ブラック・ドゥーが絡んでる』と言ってもか?」
「★←おまっっ!?」
こりゃ卓の上に思わず身を乗り上げたな、会話の男は受話器から伝わる気配に警部の食い付き振りを耳聡く把握した。もみあげまで荒海のように波打つレディッシュブラウンの髪、縁のあるグラサンからは太い眉が覗き、高い鼻筋には一筋の傷を横たえ口許は凛々しくセクシー。黒い革ジャン黒いレザーズボンで決めているナイスガイ。電話ボックスの外へ受話器を引っ張り出し入り口に肩肘で寄り掛かっている、この男のガタイで中に収まるのは些か厳しい。
(さぁて、この名を聞いて知らんぷりでいられるかい?警部さんよぉ…)
「さんざ気を遣ってた専らの案件で急に暇を言い渡されて…気味が悪いとは思ってるんだろ?」
「~……まー、職業柄な。俺としちゃそいつに因んで厄介事が起きないか不安と言うだけだ。こちとら他にやる事がゴマンとあるんだ、面倒見る相手が少ないに越した事ぁ無い。」
「これまであんたの不安が杞憂だった試しはあったかよ?」
「★卍?!!」
試しはあったはずだが警部はその場でその試しを思い出せずにいた、ぐぬぬ。
「いっ×……今~あいつらは大学の試験期間中で、一夜漬け所か毎晩熟成状態だ。車で昼にたって……確かあのド田舎だろ??夜通し車をカッ飛ばせってか?そっちへ着く前にあの世へ逝っちまうよっ。」
「~何だァ?二人とも俺が夏の間みっちり面倒見てやっただろーがっ。あんたの注文通り1シーズンの内にあそこまで鍛え上げたんだぞ?その俺が!どうにも困って×、警部にな・ら・と、こうして!折り入って頼み込んでんじゃあねーか!貸しだの借りだの口に出して言いたかねぇが、その貸しを返すならいつだ?!『今しか無え』だろが!違うか??」
壁へ付いた右肘の先の掌を上げ五指で空をワキワキ、傍目は芝居掛かっているがグラサンは真剣だった。電話の向こうで警部は呆れる。
「×言いたくなけりゃ言いなさんなよ↓。──あのなぁ、大学の試験対策で仕事を休ませるってのぁ俺の指示じゃなく、あくまで上の意向だ。その意向に反してだな、」
「←@オーケーオーケー、休みなんだフリーなんだ。お題目はともかくあいつらはあいつらの意思で行動出来るワケで?そこにフー・セクションは一切関与しない干渉しないワケだーぁ…──なぁあ?」
「~→何だよ、そーだよ×、」
「あいつらの人生さ。…折角のキャンパスライフ、フイにするのは気の毒ってなあモンだ…」
「切るぞじゃあな。」
「!↑がああああもーしーもーだああぁ、あいつらが望んでその道を選ぶのも、まったっ!……あいつらの自由意思であり人生だと言えわあああしないか?!」
「→~何処の役者だお前は、」
「←まぁ聞けよ◎。あいつらが自分達の意思で試験をブッチしたとするじゃん?」
「じゃんってお前…」
「単位を落として留年するかも知れんよなあ?」
「ぁあ?──…あぁ、」
「フー・セクションとしちゃそう何年も見習いを続けてほしくない訳だ。じゃあ落ちコボレだから切り捨てるかと言えば、折角育てた人材をそう易々手放す訳は無いよな?──←どうすると思うね?」
「───…縁故…採用?」
「◎それも今まで貢献してくれた信頼と実績を見込んでの事さぁ…。フー・セクションがあいつらに恩を売る形だ、バリバリ働いてくれる事を期待していいよな?仕事をジャンジャン任せてもいいよな?!仕事が出来てあいつらはハッピーッ☆、やってもらって俺達もハッピー☆。なぁあ?」
「◎…──×いや……しかし、…それは……」
グラサンはしたり顔で口角を上げる。
「決まりだな。
──場所は二番街に在るシケた看板の小汚え木賃宿だ、見れば直ぐ分かる。昼にとまでは言わねえ、明後日の朝一には間に合わせてくれよ?こっちはそれまで何とかするっ。」
「ぁや、あの」
「ウィルの拳銃捌きとアンの偵察術には俺も一目置いてるんだ。あいつらはもっと伸びる、俺の眼に狂いは無え。この機会に俺に預けて、序でにスキルが伸びちゃったりしてほしくは無えかい?……期待してるぜ警部。→」
「あっ、おい!」
ガチャッ。グラサンの声に代わって粉薬を紙の上へ落とすようなサーと言う細かいノイズが聞こえ、警部はゆるゆると受話器をフックへ戻した。片手で目元を押さえて背もたれに崩れる。
(…あんの野郎好き勝手言いやがって。───しっかしブラック・ドゥーだぁあ?近ごろ嫌に静かだと思っていればフォーチュンストックに居たのか…。しかもあの男が宛がわれたって事はつまり、そこに「派手なドンパチ」があるって話だよな×。そいつが困り果てるって……?何でだよ↓。そんな危険な場所へあいつらだけを遣る訳にゃ行かない…~が、ブラック・ドゥー絡みでこっちに上から何も音沙汰無いのが何より気持ち悪いっ×。何が起きてやがる?情報が欲しい所だが……)
「~~…──────────────」
さっき見たはずのウイドナのにんまりした目許を思い出した。あの疫病神が教会に何やら入れ知恵をしたとしてもおかしくは無い、むしろ有り寄りの大有りだ。それにしても自分が見たアレは一体何だったのか、夢か幻か。生温くなった安物のコーヒーを不味そうに飲み干すと警部はドアを開け電話ボックスを後にした。グラサンの甘言を鵜呑みにするつもりは無いが、全く興味が無い訳でもなかったりしている。
首都より遠く離れたフォーチュンストックから警部に電話を掛けて来たグラサンの一見ナイスガイは、フー・セクション所属の元刑事だった。連続猟奇殺人事件の折、昔馴染みの警部から要請を受けウィルとアンのリハビリとスキルアップを手掛けたのがこのグラサンである。
ウィルに二丁拳銃を仕込んだサングラスの男は裏社会での知名度も高い『問答無用』と渾名される銃の手練れ、その名を【ヴァレンタイン・マードック】と言った。
☆☆☆
問題が発覚したのは火曜の夕刻にもなってから。聖アレゴリー女学園の敷地内に在るデコマヨことマイユネーツェ・メディスンの住まう別邸へ、見ず知らずで素性どころか名前も分からぬ謎の結婚相手が訪問する前夜である。メディスン・ビバレッジの幹部らによる強制マッチングを阻止すべく、交換留学生ミーシャ・メリーベルのメイドに扮するジェズがマイユネーツェの誘拐を自演しなくてはならない。成功すればデコマヨとの取引成立、ド田舎のハイソなお嬢様学校でサバイバルと言う意味不明な生活からミーシャ達は抜け出せるかも知れないのだ。
彼女らは放課後の暗くなった人気の無い教室の隅に陣取り明日の段取りを確認中である。デコマヨ邸の部屋の間取りや侵入・脱出経路は誘拐役に通達済み、ややこしい事が苦手なジェズにも把握は容易かった。発覚した問題自体は至って地味で今更感が半端ない、その事象に関しデコマヨは考え至るまでも無くミーシャ達を宛にしていた。
「着る物が無い??」
「よくよく考えたら男物が無い。手持ちの服はどれも女性用。一応『男が女装して学園に入り込んでました』って説明は付くけど、ウチの使用人ってバレないよう顔は隠さなきゃならないから『女装した覆面の変態が誘拐に来た』って格好になっちゃう。そこは了承して。」
本当の事を言えば有るには有る。しかしそれはブラック・ドゥーの僕としてのコスチュームであって人目に晒せない。例え見られる事があっても、それは酒蔵メリーベルの秘密の裏サービス「黒ワイン」の現場でなくてはならないのだ。その服に何かしらアレンジを利かせ別物へ仕立てられれば良いが、デコマヨは自身がガチで攫われた夜霧の工場町でのバトルの際にコスチュームの実物を目撃している。目聡く鼻も利く彼女に黒ワインがいよいよバレかねない。
変態に攫われればそう言う意味でショックもデカかろう、マイユネーツェはその光景をイメージしてみた。覆面のひらひらスカートが野太い声で高らかに誘拐を宣言しながら私をお姫様抱っこ、雄叫びが木霊する「お前の嫁は俺の嫁♪」。
彼女は掌で自分のデコをぴしゃぴしゃ連打し妄想を打ち消した。ゲジゲジ眉毛が痙攣する。
「★最早サバトよ!駄目駄目駄目!!←私が精神的ダメージを負ってどうするのっ卍!変態は嫌!!~野性味のある恰好いい男性が颯爽と悲劇の花嫁を攫うからこそ、男として花婿に精神的ダメージを与えるのでしょうが!」
「@無い物ねだりは無~理。ワイルドだのハンサムだの元々どっちの要素も無いんだから、変態でも同じでしょ?」
「───」
「何よジェズ。…子っ。言いたい事があればハッキリ言いなさい、少しだけなら聞いてあげる。」
「↓いえ。別に…」
(~生き物として生きる力でなら、この国の誰よりも僕僕の方が強いと思うんだけどなぁ。──野性味…無い?僕って、そんな頼り無く見えるのかな×。)
流石に自分を恰好いいなどと自惚れてはいないが、弱肉強食の暗礁密林を生き抜いて来た自負はある。野性味について「この国の誰よりも」とは、あくまでシルキッシュの男性を対象に思った事だ。単純な生命力・生存能力で言えば兄である燈王ブンドド・ヰ・ナパンティの方が遥かに上との認識は不本意ながら持っている。
また、ああ発言したもののミーシャも本心ではなかったりした。
(こうでも言っておかないと面倒臭い注文を増やされるじゃない×、何しょげてんのジェズ。もう…男のクセに、~もっと自信を持ちなさいよっ。)
「はい、じゃあそう言う事で明日ヨロシク。→」
「×←勝手に〆ないでっ。」
「しょーがないでしょーが×、」
「~~~なら……───!そうよ、毛皮にしましょうっ。」
「毛皮?」
「いっそ暗礁密林に寄せて行きましょうっ、毛皮で腰だけ隠すの!森の勇者的な何かよ!!」
と或る事故のため暗礁密林に取り残されたシルキッシュの赤ん坊が、ゴリラに育てられ弱肉強食を己が力で生き抜き、快傑へと成長して蛮族から悲劇のヒロインを救出すると言う一昔前の創作物がある。その主人公たる英雄的青年をマイユネーツェは想像しているらしい。コスプレのハードルは下がるしこれなら確かにワイルドだぜぇ。だが待って欲しい、
「この寒いのに?そして結局そいつは覆面なんだってば×。パンツ一丁のド変態に攫われたいの?」
「★顔を見せられない呪縛うううっ××!」
「同じ変態なんだから、それならジェズ子の身体を労わって女装で我慢して。」
「!←待って、そうよ絵画風!絵画風なら或るいは!!」
「今度は何??」
「古代文明の神々の有り様を描いた絵画の事よ!美術館で観た事無い?!大きな布一枚を身体に巻き付けてサンダルを履いただけ!みたいなあの恰好☆!」
「……ぁああーぁ、アレね。」
夏の前にキーニング国立美術館で見掛けた時の事が思い出される。彼女らの文明において神とは古代の遺産でしかなく、考古学的・美術的価値こそ理解はされど人々にとって「その時代のご当地キャラ」的な感覚のものでしかなかった。ミーシャもご多分に漏れず、何となくデカい絵の半裸の人々と言う残念な印象しか残っていない。
「でもアレってあの雰囲気の中の絶世の美女とか筋肉ムキムキのヒゲ男でこそ成り立つのであって、現実世界でジェズ…子が真似てもボリューム不足、裸の寝起きみたいになるのがオチよ。で、とどのつまりが覆面だからっ×。」
「↑もう!顔っ、何とかならないの?!」
「ムチャクチャ言うな。誘拐犯がジェズ子で…!→!←──────
──…男ってバレたら終わるのっ。顔は晒せない、これだけは譲れない。あくまで駄目と言い張るなら誘拐の話はナシねっ。」
「★服装の不備は貴女の責任でしょうっ!」
「×その非を認めた上で断りを入れたでしょうが!」
喧々諤々の二人から挟まれるように隣合うジェズ子は本探しの疲れもあり考える事を放棄してボケーっとしていたが、両側のギャンギャン騒ぎで我に返り慌てて仲裁に割り込んだ。
「×ぉおお二人とも、落ち着いて、」
「「←落ち着かいでか!」」
(かいでか?こんな所だけは息ピッタリ↓。)
「あのですね、男らしいと言うか…どっちかって言うと女っぽくはない衣装ならそれらしいのを持ってたのを思い出しました。」
「☆!」「★ちょっ、あんた×……『』!~『』!!」
ミーシャがデコマヨから見えない方で目配せする。『黒ワインの僕の服は駄目だ』と言いたいらしい事はジェズも察しが付いた。
「安心してください、僕の地元の物なんですが儀式で使う用のちゃんとした物です。」
「?お前の言うそれは……祭礼用のフォーマルな衣装って事なの?」
「ふぉー…?──ぇえと×、身体に布一枚を適当に巻いたとかそんなんじゃなく、ちゃんとした物です。それで、顔は隠しません。化粧をするのでパッと見は誰だか分からないと思います。」
「「……………」」
マイユネーツェは幼い頃に旅行で連れて行かれた有名な寺院の司祭の姿をイメージした。喪服のような黒づくめの恰好で子供心に思う所は無かったが、何やら厳かな雰囲気を漂わせていた事だけは覚えている。片やミーシャは迷彩塗装を顔に施した兵士の姿を思い出していた。「男の化粧」と言う代物に関する彼女の記憶の引出しには、幼い頃の自分に祖父が見せてくれた戦時中の写真しか無かったのだ。まあまあ誰だか分からないし、男臭いような気もする。
とりあえず問題解決した所でマイユネーツェは一息ついた。
「これで『歩く屍』でも現れてくれたら成功率が上るのだけど…」
「?何それ、」
「×先週土曜一斉に告知されて大騒ぎになったじゃない、特別警戒体制と称して『歩く屍に気を付けましょう』って。」
「あーいや、それは覚えてるんだけど……あたしソレよく解かってないんだよね、本当に居るの?そんな変なの、」
存在するらしい事はジェズから聞いている。しかし彼の話ぶりでは要領を得ず、結局ミーシャは解からず終いだった。
デコマヨは少し嫌そうな顔をして組んだ腕の片方の人差し指を立てる。
「貴女のクラスの委員長が見付けたって話でしょう?あの小煩いお説教女が言うのだもの、信憑性はあるのではなくて?」
「まぁ、嘘言ったって何の得も無いし。」
「歩く屍の実態は私もよく知らないのだけど、夏に騒ぎがあったのは事実だし、学園関係者に少なからず被害があった事も間違いないわ。」
学園は1-Aのクラス委員長カトリ・ラトキエ・レーベンブロイより「歩く屍を見付けた」との通報を受け、その翌朝には特別警戒態勢を全学部へ通達していた。発布がこれ程迅速だったのは夏の騒ぎでの教訓と、自分達への騒ぎの報せを遅らせた県庁に対する強い反骨精神があるためである。
特別警戒と声高に謳ってはいるが、やる事と言えば多人数での行動を努める程度。襲われ傷付けられた者は歩く屍と化し筋力が強くなるものの、あくまで人間サイズで動きも緩慢な上、顔に水を掛け続けたり息を止めさせられれば治る事は分かっている。
今月初め突如として学園を覆い尽くした「霧」の圧倒的絶望感に比べれば大した脅威ではない。
「学園の外から男が立ち入るだけでも異例なのに、それがこんな状況ですらまかり通るとはね。」
「どうやら運営内部で揉めたようよ。でも学園には生徒らの親元との体面があるから、一度許可したものを簡単に取り下げる事はしないわ、残念ながら。」
「特別警戒態勢って言う立派な理由が出来たのに?」
「…歩く屍の事を大っぴらに出来ないから余計によ。」
「何でひた隠す??」
「周辺国にもその名を知られる指折りの由緒正しき名門校が、誉れ高い家柄の大切な娘達を得体の知れない化け物の脅威に晒しているなんて公言出来る訳がないでしょう×。市街の騒ぎが大々的に報道されなかったのもそう、化け物に穢されたとは世の人々に知られたくないの。学園は本よりお役人様も。」
「事無かれ主義の極みね@、後で痛い目を見るわ。…どの道ビバレッジの結婚推進派が来る事に変わり無し、と。」
「いよいよね。二人とも……明日はお願い、」
「まぁ、あたしは当日やる事何も無いんだけど。事の成り行きは保証出来ないからね。」
「☆やってみせましょう。」
☆☆☆
そして翌日水曜の夕刻、マイユネーツェの邸宅は物々しい雰囲気に包まれた。男子禁制の女の園へ男が立ち入るとあって学園側は黒スーツの監視役を大量に動員したのだ。勿論全員女性、手隙の教員や寮母のほか一般生徒までもがとばっちりを受けている。陽も暮れ暗く寒い中で立ちん棒をやらされる彼女らは不満タラタラ、行儀の悪い者は物陰でウンコ座りして煙草を吹かせる始末。
誘拐役のジェズはマイユネーツェの入念な下準備のお陰で監視の眼を難無く逃れ、首尾良く邸宅に潜入する事が出来た。今は天井裏の暗闇の中で変装中である。こっそり壁に隙間を開けて広大な応接室の中を覗き見てみれば室内は電燈製のシャンデリアの煌びやかな明かりに照らされて視界も良好。来客は結構な人数で、やたら大きな四角いテーブルの前にリラックスした雰囲気で着席している。
変装しつつ中の様子を窺いながらジェズは地味に困っていた。白いドレスを纏う花嫁の真正面に座っている人物がどう見ても「女性」にしか見えない、ショックをお見舞いしてやる花婿が誰なのか判らないのだ。マイユネーツェの話しぶりからしても相手は普通に男のはず。しかしここはお耽美百合上等の聖アレゴリー女学園、相手がまさかの女性と言う可能性は否定し切れない。現場の人数が多いため見当違いの者に啖呵を切ればギャグで終わるリスクも考えられる。こりゃ参ったぞ。
(一人だけ付き人連れが居るな。あいつがお嬢様の相手かな?ちゃんと男だし、なんかこの場で一番偉そうだ。付き人二人はボディーガードか。でも…どっちもヤル気無さそう、お面で顔は分からないけど。変なの。)
誘拐られ役の花嫁は単身で奮闘していた。
「↑業績不振が私一人のせいだと仰られるのですか?『ペンライト専務代理』!」
「そうは言ってない。我が社の危機と申し上げている意味が貴女はお解かりにならないようだ。」
「→…貴方が余計な事を吹き込んだのではなくて?『ゲッセワー宣伝部長』っ、」
「@ほほほ、滅相も無い。言い掛かりは止してくださいお嬢様…」
「↓マイユ、私も本意ではないのだよ。本意ではないのだが、しかし…どうだろう?これも一つの機会と捉」
「←『お父様』は黙ってて!」
「×ここでは社長と呼びなさい、」
「私は成果を上げたし、次の手も講じています!市場に対するスピード感を問われれば私にも非はあるでしょう。しかしっ、私一人にビバレッジの経営が任されている訳ではありません!なのに何故ここで私が不振の責任を問われなければならないのですか!?」
「まあまあお嬢様◎。我々は何もぉ責任を取れと、申し上げているのではぁないのですよ。ここは社長の仰る通り一つの好機と考えるのもまた、社会勉強のですな」
「↑お勉強なら然るべき時間、然るべき場所で存分に勤しみます!少しは先有る若者の胸の内を慮っていただきたいですわっ『ハイマン常務』!!」
「~お嬢様お静かにっ。…お相手の男性が居らっしゃっているのですよっ?」
「←同じ女性の立場として思う所は無いのですか?!『スチュアート事務局長』!」
「マイユ、さっきからどうした?私達を誰かに紹介でもしているのかね?」
「★★そっ卍!……~~
@↑そんなあ事わああぁあぁあありあり×ありませんわっお父お様っ×!オホホホホッ卍!!」
「「?」」
バッチリ紹介していた。事を起こす緊張と自分の気持ちを無視した言葉の数々から感情的になったマイユネーツェは冷静さを欠き、焦るあまり屋根裏の誘拐役へ花婿が誰なのか伝えようとテンパっていたのだ。
人の名をいちいち役職付きで呼び上げてしまう自らの奇行に一人で泡を食っていると、本来紹介すべき相手が初めて声を放った。
「胸の内を慮って欲しいのは僕も同じなのだがな、お嬢さん。」
「卍☆←これは申し訳ありませんっっ、弊社の役員が大変ご迷惑をお掛けして!私如きの↑お・あ・い・て・や・く!などのため、こんな辺境にまで遥々ご足労いただき恐縮の極みですわ!『カーマイン花婿様』!!」
「役職付きみたいに呼ぶのは止め給え。」
(☆ナイスですお嬢様!やっぱりあの偉そうな男が結婚相手か!)
押し掛け花婿が誰なのか、漸くジェズに伝わった。一同は上座中央に据え置いた花婿を中心に着席していた。お見合いではなく会議の場と捉えれば席の並びも腑に落ちる。
黒シャツと朱色のネクタイにアイビーグリーンのスーツをドカッと決めている花婿の概観は細めの長身で、年齢は30代後半くらいか。巻き癖の強い白髪混じりのブロンドに半閉じの鋭い眼、細い鼻筋に小さ目な口と顔立ちは少し神経質そうな印象を受ける。しかしその総身からは苛烈な競争社会を己の力一つで潜り抜けて来たと言わんばかりの強い自信が感じられた。左右後方に仮面を被った黒服を侍らせる不審点はさておいて。
社長令嬢の喧嘩腰な返答に役員共の口から飛沫が上がった。
「←×失礼ですぞお嬢様!」「←非礼を詫びなさいマイユ!」「←そうですとも×!カーマイン氏は彼のトリスダイヤ財閥に所縁のあるお方なのですよ!」「←港湾運営機構の国際戦略情報部で特務部長にあられるばかりか、エンパイアモーター系列の数社においてコンサルタントも兼務される慧敏でいらっしゃるのです!」
「ハッハッハ、皆さん落ち着いて。彼女はまだ若い。
─散々な初顔合わせになってしまったな。改めて、ダイレス・ゴド・カーマインだ。」
「……マイユネーツェ・メディスンですわ。先程は取り乱して失礼しました。」
「そう構えないでくれ給え。僕もいい歳をした大人だが、流石に傷付いてしまう。」
「決して貴方を誹謗中傷したい訳ではありませんの。申し訳ありません。」
「心境は察する。会社から押し付けられた格好に見えても可笑しくない、抵抗はあるだろう。」
「仰る通りですわ。」
「難しく考える必要は無い、問題のように見えるのは出逢い方だけだ。お父君が言っておられる通りこの場を一つの機会と考えればいい。」
「………」
(顔も悪くないし、物腰も堂々としてる。例えるなら「幼少より良家の厳しい教育を受けて育った堅物」…と言った感じの男性ね。肩書を聞くに社会的地位は相当高いのでしょう。メリーベル妹みたいで嫌だけど、所謂「優良物件」に当たる人なのかも知れない。──でも、それらの事柄は私が伴侶に求める最低限の条件を満たしていると言うだけに過ぎないわっ。
人間は「中身」よ!!)
中身の薄っぺらい事を考えている。今はただただ結婚したくないばかりで思考が幼稚になっていた。だから相手の眼が正視出来ず視線を少し避けてしまう。何とか自分を落ち着けようと胸元のドレスの縁を指でなぞって整えたり、左右の腿を擦り合わせたり。せめて誘拐役が登場するまで縁談が進まないよう時間を稼がねば。
「…それにしても、──何故このような事に?どう言った経緯で貴方が来られたのですか?」
「御社の政治的判断とこれまで築き上げた人脈の賜物と言えるだろう。僕が何時口にしたかは忘れたが、結婚相手を探している事を憶えられていてね、僥倖だ。」
「私は結婚相手を探していなかったのですけれど。」
「そう遠くない将来に結婚はするのだろう?それとも生涯未婚を貫くつもりかね?」
「結婚はします、でも今ではありません。」
「僕では君の相手に相応しくないと言いたいのかね?」
「そうではありません。一緒に過ごした時間、共有する経験・気持ちが皆無なので、結婚まで考えが至らないのです。」
「それらを持ち合わせる相手が他に居ると?」
「多少なりともそれは……でも結婚するかと訊かれれば『今は違う』と答えます。」
「若さ故と悟らぬよう機を見誤るな。」
表情一つ変えず淀み無く遠慮も無い即答にマイユネーツェの目許は些か引き攣った。
(「あの時若かったから人生の選択を誤ったと後悔しないよう今ここで自分と結婚しろ」…そう言っているの。~~これほど端的に纏められた脅し文句は記憶に無いわね、新鮮だわっ卍。)
「…ご助言ありがとうございます。私などのために何故それ程お気を遣ってくださるのですか?」
「それが最良の道だからだ。」
「最良とは、」
「全てだ。君は僕の意志に感謝する。」
「まぁ☆、そうですか。」
マイユネーツェは初めて笑みを見せる。自らを全知全能と僭称する怪しい宗教の教祖様から説教を受けているような感じがして滑稽に思えたからだ。教祖を挟む仮面を被った付き人らが退屈そうにしているのも何だか可笑しい。
「そんな貴方がどうして独身でいらっしゃるのか解りませんわ。」
「今まで学業や仕事一筋だったのでね。」
「世の女性達が貴方を独りのままさせるはずは無いでしょうに、」
「異性との縁に恵まれなかったのは私の唯一の不幸だ。」
(聞きたい事が解からないのかしら。それとも分かっていてはぐらかしているのかしら?~~)
「お付き合いをされた経験は無いのですか?」
「物心付いた頃から才能磨きに没頭していた。恋愛は門外漢だ。」
「なのに結婚を?門は潜られていないのでしょう?」
「血筋を絶やさぬためだ。血統は受け継がれなければならない。血の宿命だ。」
「世間体を気にして愛情を抱いてもいない相手と一生を添い遂げられるのですか?」
「大義がある。」
「──」
愚問だったとマイユネーツェは眩暈を覚える。花嫁がマイユネーツェ・メディスンである必然性ならこの場が既に嫌と言う程物語っているではないか。大人達のWinWinの材料としてメディスン・ビバレッジ社長の令嬢が選ばれた、只それだけの事である。自分も大人になれば彼と結ばれる事が正しい判断だったと思えるようになる可能性はあるかも知れない、しかし当の結婚相手を目の前にしてそんな未来像は少しも思い描けない。そんな心の余裕は何処にも無い。
「大義の前に……身を差し出せと、」
「旧国帝政の頃より慣例だ。この学園は良家同士の関係構築の場としての社会的使命を現代まで果たし続けている。それは血族のみならず富国にも繋がる。」
「…驚きましたわ。私は伝統ある名門校の譽高き生徒の一人でいるつもりでしたが、実際は養鶏場の雌鶏に過ぎなかったのですね。」
「金の卵を産むか。機知に富んでいるな。」
バ ン ッ !!
馬鹿にしてと堪らず両手を机上へ叩き付け立ち上がったが、その音は出入り口の扉が勢いよく開いた音に掻き消された。大人達同様マイユネーツェも一瞬驚くものの扉が開け放たれるのは彼女の筋書通り、満を持していよいよ誘拐役の登場である。
「☆#!─────────────────…??」
からの出オチ、扉を開けて部屋の中へ入り込んで来たのは外に居るはずの黒服達だった。彼女らは訝しむ客人達を無視して文句タラタラ、ゾロゾロと壁沿いに部屋の奥へ侵入して来る。そんな黒ずくめの姦しい連中を掻き分けメイド服の年配が部屋の中へ跳び込み声を張り上げた。
「↑↑大事なお客様が来ているのですよっ!この部屋からは即刻出て行っていただきたい!!」
「~緊急事態でしょう!?」「誰のせいで私達が集められたと思ってるのよ?!」「★ちょっと、押さないでよ!」「後ろから押されてるのよっ×!」
次に社長が声を上げる。端正な口髭を蓄えたロマンスグレー、賓客の手前あくまで冷静に。
「←何事だ家政婦長っ。」
「そ、外にっ×……~霧が!!」
「「★卍!?!」」
愛娘のヒートアップのせいで外の様子など全く気が付かなかった。机上のランプを携え慌てて窓辺に寄ってみれば、一面が圧倒的質量の無機質な暗い白に覆われ何も見えない。つい先程まで星空が見えていたはずなのに邸宅は濃霧にすっぽり呑み込まれてしまったようだ、役員達も悲鳴を上げ恐怖に怯え狼狽える。
土地柄や借り出された黒服達の事情をさて置いても、10cm先も見えないこの濃霧では普通にパニックを起こし明かりのある建物の中へ逃げ込みたくもなるだろう、しかしこの大人数である。数十名が会する事の出来る広い部屋の中はまるで収穫祭のようなごった返し、こんな騒ぎでは社運を掛けた大事な席が台無しだ。社長は握り拳を震わせる。
(こんな時に霧だと!?~~ええええい、鬱陶しい!そもそも何故監視役なぞ付けられなければならないっ、男を異物扱いするにしても対応が過剰だ!~平民出に対する当て付けかっ?!寄付だって旧貴族並みにしているのだぞ!社会的使命はどうしたっ!?)
「←皆さん静粛に!霧に囲まれたこの状況を緊急事態と捉え、当家は皆さんをこの建物で保護しようっ。但し、今ここでは私達の将来を懸けた大切な話し合いをしている。せめて静かに!邪魔をしないでいただきたい!」
「←~邪魔とは何よ!他所の家の結婚話で借り出されたこっちの身にもなってよっ!」「貴方達が女学園の外で話し合えば見張り役なんて要らなかったわ×!」「い~の?貴方達の対応次第ではこの家に対する世間の評判も変わるわねえ@、」
「!!くっ×、~~~~~~~~」
「本当にただの縁談なのかね?」
「?!」
「「───────────────────」」
男の声がすると室内は静まり返った。黒服の中に変な奴が一人混じっている。姿勢正しいスタイリッシュなシルエット、パイナップルの葉を伸ばしたような刺々しいスレートグリーンの構造体は帽子なのか髪の毛か。その影の下には白と黒の不思議な幾何学模様、その場の全員が何を見ているのか分からなかった。恐らく人間なのだろうが普通の人間でない事だけは間違い無い。一同が唖然とする中、その人物は直立不動で両目を見開いた。模様に埋もれて眼の在る事が判らなかった、血のような暗い赤色の瞳。
この奇妙奇天烈に唯一マイユネーツェだけは心当たりがあった。
(あれが、───ジェズの変装…なの??
来客以外に男性は居ないし、彼はお化粧すると言っていた。確かにあれならジェズ子とバレないだろうけど……★ひっっっどいメイク×!~何処が祭礼用よ!まるで化け物じゃないっ×、恰好悪いし老けて見えるし×!
私はこれから…あんなヘンタイと誘拐劇を演じるの?★イヤ過ぎるのだけれど!?!)
「××↓…何の用です?貴方は何者ですか?」
「ああ、私の事はどうでも良いのだ。特別な事情を持つ重要人物が外部から来ると知ったのでもしやと思い確かめに来たのだが……君達がそうかね?」
「?些か時代錯誤なお話ではありますが特別と言う程の用件でもありません。遠方からの客人はここに座る人達ですわ。」
「ふうむ…こちらは無駄足だったな。期待していただけに惜しまれる。」
「…それで貴方は、その……この結婚話の…←邪魔をするつもりですか?」
「邪魔をした。」
「────────へぃ?」
「話を進めると良い。君達が来てくれた事には感謝する、私は失礼するとしよう。→」
「??ちょ…──っ★←ちょちょちょぉおぉお待ちなさい!?」
「何かね?」
「え?あの?……あれっ??──えっと、ほら☆。だからっ×……」
踵を返しこの場を去ろうとする変態を呼び止めマイユネーツェはしどろもどろ。誘拐はどうした私を残して帰るのかと、自分の胸に手を当てたり雄鶏へ掌を翳したり変態を指差したりマイムがどんどん加速する。
「──ああ、外の霧かね?原理を知らんのでは仕方ないな。何、心配無用だ。」
「×いや★だからっ!私をこのまま放っておくつもりなの?!?」
「↑↑ちょおおおおおおおっと待ったあああああああああああっ☆!!」
ババアアアアアアアアン!!!
そう言った音がした訳ではないが、皆が皆そんな音を聞いた気がした。威勢のいい台詞と共にマイユネーツェの直ぐ隣へ舞い降りた何者かはその場で伸び上がりポーズを決める。目から上は真っ黒だが頬は虹色の扇に彩られ、黒地の半裸がとにもかくにも七色錦。見目麗しい南国の鳥の羽のようなケバケバが背中の腰から生えてユラユラ、見ていて何かこう目がチカチカする。目出度いような不吉なようなこれは一体何だ、また変態か。
全員が呆気に取られる中、変態と変態は互いを見て同じ事を思った。
((なんだこのヘンタイは?))
「×じゃなくて…ぇと、ゴホン、…
↑↑@ハアアアアアッハッハッハーーーーッ!この娘は『我が花嫁』だああああああ!何処の馬の骨とも知れない男になど渡せるものかああああああっ!!」
「☆#ジェz★×!!~~~……えっ?卍↑↑ええええええええええっ!?!?」
花嫁の肩へ腕を回し花婿相手に人差し指を向けバッチリ決まり。この背格好、この声質、変態2号の方がジェズだったりした。彼は人混みのせいで扉から入る事が出来ず、仕方無く天井裏に引き返したため登場が遅れたのだ。
奇抜なこの恰好は、かつて発熱で気を失ったミーシャに悪魔祓いと称して怪し気な儀式を施し「金色に煌めく白き鋼」ことゴージャス・リュアラに成敗された虹色マッドマン「レインボー・ウンババ」のコスチュームである。初見のマイユネーツェはドン引きでM字閉口。ジェズはジェズで計画通り事を運ぼうと気負っているが、黒服ギャラリーに囲まれる事は想定外で内心かなりドキドキしていた。
そんなウンババの挑発に花婿は全く動じない。どっしり座ったまま不敵に声を放つ。
「喚 く な 下 等 生 物 !
一体何処から生えて来た。お前の如き下賤の輩が絹色人種を嫁に娶ろうなど口にするのも烏滸がましい!反吐が出るっ!その醜い姿を知覚させるな存在するな!!~←消え失せろっ。」
「見事な遠吠えだ@。花嫁が奪われようとしているのだぞ?↑↑男ならその身を以って花嫁を護ってみせろ!!偉そうに構えるだけでお前は何も出来ない抗えない、ブザマな男だなっ。お前はせいぜいそこで指を咥えて見ているがいい!この花嫁は我が貰って行くぞおおおおおうっ!!←」
「☆#ぅひっ?!」
「↑↑ハーッハッハッハッ★げへゴホッげほゲホ×!!…──~★↑↓へっっっくし!×!」
ウンババはマイユネーツェを軽々お姫様抱っこすると豪快に咳き込んだ上でくしゃみした。慣れない高笑い、そして室内と言えどこの季節に半裸では普通に寒い。それはそうと後は花嫁を見せ付けるようにして外へ逃走するだけ、しかしここでまたまた想定外、逃走経路上にウジャウジャたむろする黒服達が邪魔である。なんでこの人達ここに居るの、ジェズは外に霧が出ている事をまだ把握していない。
散々虚仮にされた花婿殿は余裕のクソデカ溜め息をついた。
「↑↑ハアアアアアァ↓↓…何だこの茶番は。罰が必要だな。──やってしまえ、」
「「───っ!←←」」
指パッチンで花婿の後ろに控えていた仮面のボディーガード二人が左右へ展開、机上へ跳び上がりドカドカ突進しながら声を上げた。男の声と女の声。
「←逃がしゃしねえぜえええ!」「←そこの黒服!邪魔だ退け!!」
「★来るかっ!」
先程までのやる気の無さから打って変わって只者ではない身のこなし。予想もしなかった殺気を感じジェズは花嫁を抱き抱えつつ臨戦態勢を取るが、ボディーガードが跳び付いたのはこの場から立ち去ろうとしている変態1号の方だった。仮面の黒服が幾何学模様の化粧の男を挟んで立ちはだかる、ジェズと花婿は肩透かし。
「あれ?」
「★?何をしているっ!相手は彼女を抱えるそいつの方だ!!」
「悪ぃな旦那、俺様達ゃ取り急ぎコイツに用があってよ☆。」「このチャンスは逃せない!→」
「~~貴様らっ×、雇い主は僕だぞ!」
賓客の連れて来た怪しい付き人が机の上を暴れ散らかし当の賓客と内輪揉め、傍若無人ぶりに理解が追い着かない社長は花婿を問い糺した。
「!~カーマインさん、彼らは一体?!」
「不躾で申し訳無い、仕事上の知り合いでして。僕のフォーチュンストック行きを聞き付け、物騒な土地だからと身辺警護を申し出て来たのですが…~~」
「×それはいいのですが、取り押さえるべきは娘を抱える奴の方でしょうっ卍!」
「~←そんな事は分かっている!大体この家の所有者は貴方だメディスン社長っ!貴方がその手で事態を収拾し給え!!」
「★~仮にも義理の父となる私に向かってその物言いは何だ!」
「↑社会的責任を果たせと至極当然の事を言っているまでだ!!」
大人達がギャーギャーし始めた、いい歳こいて見苦しい事この上ない。部屋の中は当家の結婚騒動で徴用された監視役の女性達で溢れ返り、化粧の変態二人とお面の二人が乱入してヤりたい放題の筆舌し難い混沌な状況。もうこれどうすんの?
社長令嬢を俺の嫁と喧伝した虹色ケバケバが抱っこするお姫様の耳元にひそひそ話し掛ける。
「…お嬢様。打合せ通り逃げたいんですが、女の人達が邪魔で外へ出られません。」
「×しっ。─…お父様達が言い争っている、もう少しこのまま引っ張ってもいいわ。」
「★へっきしょ×!」
「@……そんな恰好で来るからよっ。予め分かっていたら止めさせていたわ×、馬鹿ね。」
「お嬢様を抱えてれば暖かいです。」
「!#───お前ねぇ…」
酔狂な出で立ちは心底呆れるが、比較的小柄ながらもかなり筋肉質で確りした異性の身体に楽々抱えられるのは思いの外悪い気がしない。マイユネーツェはほんのり頬を赤らめ満更でもなかったりした。
一方、仮面のボディーガード二人と幾何学模様は話がシリアスに進行している。
「「────」」
「──────────何時ぞやの遣い走りか。」
「ケケケ、まさか着いて早々こんな場所にそっちからノコノコ現れるたぁ驚きコオロギだせ@。捜し出すクソ面倒が省けたってもんだ。」
「…前々から聖アレゴリー女学園に立入りたかったのだが、巧妙に張り巡らされた『倦怠の呪い』のせいで傀儡も私も近付く事自体が困難だった。ここには卓越した術師が居ると見える。」
「──あ?」
「日々敷地の内外を行き交う者共に紛れ込んですら倦怠による認識阻害を免れなかったが、特別な来客時ならぱ隙も生じようと踏んでいたのだ。その読み通り阻害の綻びを掻い潜る事が出来たよ、よく来てくれたな。」
「ワケ分らんが、俺様達に便乗したから敷地に入れたって事だな。」
仮面の一人は「繰り鉤」の二つ名を持つ洞の荒事師ギギシ・カカシ、
幾何学模様の化粧をした変態は「屍男爵」こと自称錬金術師パーリ・ゴ・レーだったのだ。
「しかしこちらの読みは外れた。来客は偽装した教会の上位階層の者と見込んでいたのだが、まさか本当にただの一般人だったとは……学園側の物々しさに騙されたな、とんだ無駄足だった。」
「教会関係者ならどうしたよ?」
「それを聞いてどうする。」
「答え合わせだ。手前ぇが欲しがってる品物は分かってる。なるべく手間を掛けず手に入れるにゃ情報が欲しいだろ?またぞろ『脳ミソから直接』だのホザくと思ってなぁ@。」
「そこまで分かって尚手間を取らせるか…」
「←おっと、下手に動くんじゃねぇぞ白粉ジジイ。屍を引き連れて来なかったのが運の尽きだな。こっちは二人掛かりだ、シコシコ屍をこさえる隙なんざやらねえぞ。」
レーはその赤い眼で仮面の二人をそれぞれ一瞥する。特に関心があるようでもなかった。
「私に何の用だ?」
「洞の意向としちゃ手前ぇにこの田舎であんまり騒ぎを起こしてほしくはねぇんだわ。…ま、それはそれとしてだ。俺様達の要求はとりあえず──『フォーチュンストックから退け』。何も金輪際近付くなと言ってる訳じゃねえ、この冬の間だけでいいんだ。」
春を迎えれば学園プラチナプラタナスと聖アレゴリー女学園の交換留学は期間満了、ミーシャ・メリーベルとその使用人が自分達の地元へ戻って来る事となる。繰り鉤としては闇巫女ブラック・ドゥーと見込む使用人ジェズが地元に戻り、特命である学園での監視役に返り咲ければそれで良かったのだ。
「春からなら好きにしてもらって構わねぇよ。」
「私に何の得がある?」
「今死なずに済むぜ?」
「この密集した中でお前の武器を振るうか、」
「安心しろ。近接戦は相方が好みでな◎、しかもご機嫌斜めと来てる。」
「~~~グルルルルルルルルル…」
静かに怒りを沸々と煮え滾らせ、仮面に開いた目の隙間からは黄色い光の反射が漏れ出る。紹介された相方は近接戦大好きと言うか専らの攻撃手段と言うか、洞の荒事師「食人」だった。ウィッグまで被り厳重に変装をしているが、体型は完全に女性のままで性別は隠す気が無いらしい。滾る怒りは訳がある、繰り鉤はプークス。
「まぁ、完全に逆恨みだがな@。☆ケケケケケケ。」
「~×お黙りっっ。
──←男爵、あんたがこの田舎で勝手をしている事自体に私は関心が無いし何も思わない。けど、あんたの勝手を快く思わない連中があんたに刺客を差し向けた×…~私はそれが気に食わないっ。」
すぐ周りでは黒服の女性達がひそひそガヤガヤ管を巻いている。騒めきの中レーは暫く固まっていたが、顎に宛てていた片手を食人に向けて開いた。
「後半だ、何を言っているのか解かりかねる。」
「@ケケケ、だよな。意味解かんねえだろ?だが今まさにその連中の目論見通りになっちまった、しかもそれに自分が一枚噛んじまったんだよ。そりゃムカつくわな☆。」
監視対象であるメリーベルの娘と使用人が自分の手の届く所から少しの間居なくなってしまう、それは繰り鉤と同じく食人も気に食わない事なのだが、繰り鉤とは違い体面や興味の対象だからと言う気分だけの問題に収まらなかった。
食人が歯軋りしながら唸っているのは、誰にも口外していない『私情』に端を発している。
遂げたくても中々遂げられずにいるその想いの邪魔をされたばかりか、元凶である教会が「黒ワインのブラック・ドゥーを屍男爵に嗾ける」と言う目的の一つをまんまと叶えた。嫉妬に近しいものの彼女は腹の底から教会が憎々しくて仕方ない、自分の願いは未だ叶えられていないと言うのに。
また、普段の生活圏より来訪の難しいここフォーチュンストックには、繰り鉤の悪知恵に一口乗り洞の関係者でもあるカーマインの婚活に乗じる形で正当な後ろ盾を得て遠征を果たしている。その遠征がまさか屍男爵をおびき寄せ、奇しくも黒ワインのブラック・ドゥーと邂逅させてしまった。こんなアホな事があろうか、自分が状況形成に加担したような錯覚に嫌悪感が拭えない。
加えてやっと逢えた黒ワインのブラック・ドゥーは半裸の変態衣装を身に纏い悲劇のヒロインをお姫様抱っこ、剰え姫を俺の嫁などと世迷言を吐く為体にもう血管がブチ切れそう。食人も学園プラチナプラタナスの生徒であり、ゴージャス・リュアラVSレインボー・ウンババ戦を目撃しているので彼の非常識な姿にも幾ばくか理解は持っている。だがしかし、
(~ぬああぁ~に~がぁあ「我が花嫁」だっ卍!あんんんのアンポンタンわ、~イチャ付きくさってええええっ…人の気持ちも知らないでっ*!!~──本当なら女をあの子から引っぺがしたい所けど、屍男爵がここから居なくなりさえすれば、こんなド田舎にあの子が滞在する必要は無くなるっ。──↓落ち着け、目的を見失うな私っ××!)
「~~グルルルルルルル…」
仮に屍男爵をどうにか出来た所で学園同士の交換留学が無くなる訳ではないのだが。
レーは軽く溜め息をつくと俯き加減に姿勢を正した。
「先程相方が答え合わせと言っていたな、お喋り序でにレクチャーしよう。
一つ。怪力が自慢のようだが、君のそれは単なる『生命の大食い』だ。そんな物に頼っていては早死にするぞ。破局は何の前触れも無く突如訪れよう、文字通り破壊的にな。」
「何?」
「一つ。霧には種類がある。この霧は『精霊の干渉』によって引き起こされた物だ。恐らく私の行動に興が乗ったのだろう。且つての都の賑わいを懐古したのやも知れん。」
「何を言っている??」
「一つ。ここに居る女達が霧から逃れて来たのは、平素を『模倣』しているだけに過ぎない───」
指パッチン、その場に居た監視役の女性達はスイッチが切れたかの如く一斉に頭をもたげ立ったまま静止した。辺りは突然気味の悪い静寂に包まれ、五月蠅かったビバレッジの来客達も息を呑む。
「「!?!」」
「そして。私が単身で現れたなどと言う認識は誤りだ。
民草が歩く屍と呼び表すこの傀儡は、『逢魔が時』と言う秘法により人間の無意識に潜む『魔性』を顕現させた物だ。これにも種類があり、手法は暗示・薬物投与・外科手術に大別され、用途によって使い分けられる。因みに、この女達は暗示で変性させた言わば即席の物だ。私にとって造作も無い事だが…、精霊達は興が乗ったのだろうな。」
「~だから何を」
「跳べっ!!→→」
「★をっ?!→→」
繰り鉤が食人の襟首を掴まえ机上へ再び跳び上がり今度は雇い主に向かって駆け出すが、思わぬ障害物が立ち塞がり急ブレーキを余儀なくされた。ちゃっかり大胆に机上へ避難していた虹色ケバケバが相変わらず花嫁を抱えている、繰り鉤は流石にキレた。
「~←アホか手前えわ×!とっとと逃げるぞ!!」
「??───★…貴様は!」
「~↑いつまで女を抱いてるんだいこの唐変木!!」
「!貴様もかっ。一体」
「←うるさいバカ!!」
「★×バカあ?!」
「×ぉ…おい、貴様ら…何とかしろっ、僕をっ警護するんだろ?!警護しろっ!!」
虹色ケバケバの後ろの方で花婿カーマイン氏が黒服達に囲まれ震え上がっている。外へ緊急脱出するつもりでいた繰り鉤は面倒臭いお荷物の存在と外の状況を思い出し片手で頭を抱えた。
「~旦那が居たな××。大体外は霧でしかも夜の森の中~っ、屍も居るはずか…──
←おいっ。嬢ちゃん抱えて天井裏まで跳べるな?手前ぇは!」
「…跳べる。」「え?何★?」
「だと思ったよ×。
←食人!俺様が天井裏から繰り縄を下ろして引き上げる。旦那を抱えられるな?!」
「~~っ、仕方無いねっ×。」
「私の邪魔をしようと言うのであればお前達にも手駒になってもらおう…」
幾何学模様に嗜虐的な薄ら笑いを浮かべたパイナップル頭が再び指を鳴らすと、黒服全員がゾンビよろしく呻き声を上げて机に這い登り始める。広い机だが乗ってしまえば繰り鉤達にすぐ手の届く距離、ジェズが開けて来た天井穴へ縄を懸けた所でモタモタ登っていられるような暇は無い。繰り鉤は着衣に忍ばせた鉤爪を取り出し身構える。食人も雇い主の手を取り机上へ引き上げたが、状況は傷付けられれば一発アウトの多勢に無勢な危機一髪。
「~クッッソがああああああああっ卍!」「~グルルルルルルルルルッ!!」
メキメキバキッ ド カ ア ア ア ア ア ア ンッッ!!バラバラガタガタ…
一瞬で亀裂が走り机は盛大に崩壊した。造りは確りした物だったがこの大人数で乗り上げれば然もありなん、自席で縮こまっていたビバレッジの役員も含めその場に居た全員がズッコケた。
刹那ジェズの体表に緑色の唐草模様が映える。
(↑↑蜻蛉王のヤドリ「厳空」っ!!)
天井からキシャンと言う小気味良いガラス音が鳴り響き、部屋の明かりは手元のランプだけになった。シャンデリアの電燈が一斉に弾け飛んだのだ。ジェズ達を中心に風の奔流が巻き起こりゾンビ達は軒並み後ろへ煽られた。
「←早く上がれ!長くは持たないっ卍!」「★☆!?!」
「★?←←おうよっ!!」
屋内に逆巻く吹くはずのない突風、レーは片腕で顔を覆いつつその中心を凝視し驚愕していた。
(電磁誘導か。部屋上方の空気分子を磁化させ、導体とした自らの体液を意識的に循環させる事で風を成している……とんだ化け物が居たものだな。一瞬で磁化させるとは一体どれ程の電力を発しているのだ?この狭い閉鎖空間でこれ程の強風、ドーナッツ状の空気の流れを維持するには極を交互に切り替え続けねばならないはず。液流に要する凄まじい運動、生じる圧力と摩擦に生体の循環器が耐えられる訳がない。……!まさか、それらの負荷そのものを電力に転換しているのか?!あの体躯でこれ程の電力だ、強ち見当違いでもあるまいっ…そしてそんな膨大な力の作用を周囲の者は全く受けていない!磁束の方向まで支配していると言うのか?~そんな馬鹿な事があるか!何から何まで出鱈目だっ×!)
「↑↑~~この【理を歪める者】めええええええええっっ!!!」
「×××~もっ、…もう持たないぃ××~~~~~」
「←旦那は引き上げた!手前ぇも来いっっ!!」
「×ふ ん っ!↑↑↑」「★ひっ××?」
トイレを我慢しているような顔でお姫様抱っこしたまま先程降りて来た天井穴へひとっ跳び。高さはビルの三階相当、常人なら50cmだって跳べやしない。
天井裏の暗がりに下ろされたマイユネーツェは階下の悲鳴を聞いて四つん這いで穴を覗いた。
「←お父様あああああっ*!!」
「★←馬っ鹿×、上階に上るぞモタモタすんな!」
「お父様が×!!」
「×いいから籠城するんだよっ!とっとと部屋まで案内しろ!」
「*でもお父様がっ!!」
「屍になっても治せるから今は放っとけ×!早くしろ!!」
死んでも治せるみたいに言う。その隣ではジェズも四つん這いになって肩で息をしていた。身体中から湯気がもうもうと立つ、全て汗の蒸発である。頓狂な恰好だが苦しそうな表情を見て食人はジェズに言い寄った。
「……ちょっと、大丈夫かい?あんた、」
「卍卍大丈夫じゃないっ×。はあ、はぁ、~~…身体が、ひっ×……冷えるまで……何も出来ない×。っはあ、はあ、はぁ、」
「肩を持つ。掴まれ←、★熱っ!?→」
「×いい。自分で動く……~はあっ、はぁ、」
「………」
(さっきの風、やっばりこの子が──。飛んだり跳ねたり、自分の血で形を作ったり×…不思議な子だね、まるで魔法使いじゃないか。この子が何で…~あんな家で下働きなんかしてるのさ×。)
一行は屈めば歩ける程度の高さのある暗い天井裏を進み、マイユネーツェの自室に床下から這い上がった。部屋の主は膝を崩しそのまま床に足を横たえ両手を着いて項垂れる。
(歩く屍でも現れてくれたら──なんて、愚かな事を少しでも考えた天罰なのかしら…*。)
食人がテーブルの上のランプに火を灯した。外から見えないよう周りを雑貨で覆い遮光している。暗闇だろうと周囲が見える食人にとってこのくらいの周到は朝飯前。明かりを確保した事に一行は多少の落ち着きを取り戻したが、部屋のドアノブが途端にガチャガチャと音を立てたのでビビり上がった。焦らず慎重に息を潜める。ガチャガチャガチャガチャ、板一枚隔てた向こうから声が聞こえて来た。
「駄目だわ、やっぱり鍵が掛かってる。」「~ちょっと、押さないでよ。こっちも人で埋まってるんだからね!」「×そんな事言ったって、こっちもギュウギュウ詰めよっ。」
「────監視役の女共が二階の廊下まで詰まってやがるのか。一見普通に振る舞っちゃいるが…もう白粉ジジイの術中に嵌ってるんだよな↓。奴が号令するか他の屍に絡まれねえ内はお誂え向きの肉壁って所だが、それも時間の問題だぜ×。カーテンは閉まってるなっ?」
「全部閉まってる。──立て籠もるったって、これからどうするんだい?」
「…霧が晴れるまでここを死守する。逃げるにしても、何処に歩く屍が隠れてるか分かったもんじゃねぇからな。」
「霧でも私は見えるぞ、」
「~←お前ぇが見えても他は見えねーんだよこのスカタンっ×。俺様達の今回の仕事はあくまで旦那の護衛、ヤりたい事はその後だ。忘れるなっ、」
「そうだ忘れるな。此度の件は委細漏らさず上層部へ通報する。これ以上不始末があれば一切手心を加えず厳重に抗議するぞ、そのつもりでいろ。」
雇い主様が腕を組み居丈高に脅して来た。繰り鉤は仮面の裏で舌打ちしてギザギザの歯を剥く。屍男爵との戦闘は仕事上がりのクエスト時を想定していたが、よもや出張名目である客の付き添い中に事が起きようなどとは思いもよらなかった。巻き込んだのは悪手、洞の上得意でなければ即見捨てられたのだが。その客は自らの置かれた状況も弁えず自分のやりたい放題、悲しみに暮れる花嫁の傍へ膝を着き彼女の肩を取った。
「落ち込む事はない、君の安全は僕が保証しよう。」
「───触らないでいただけるかしら…」
「僕が護衛を連れて来たからこそ助かったのだぞ、」
「~違うっ。貴方の付き人があの変態と衝突したからこそこんな状況になった。今私が無事でいられるのは、──→彼のお陰よ。」
「~君はあんなふざけた男を庇い立てする気か?卑しい蛮緑の分際で君を自分の嫁だなどと身の程知らずな妄言を吐いたのだぞ?」
「出で立ちや言動はさておき、襲い来る歩く屍の群から掠り傷一つ無く私を救い出してくれたのは紛れも無く彼っ。あの場に居た者の中で唯一それを成し得る事の出来た人です、如何なる侮辱も私は許しませんっ!」
「↑~それが夫に対する態度か!それこそ僕に対する侮辱と言うものだ!!」
「男の声聞こえなかった?」「誰か居る?ちょっとここ開けてくれない??こっち大変なのよ、」
コンコン、ドンドン、ガチャガチャガチャ、
(★騒ぎ立てるなクソがっ卍!ここに隠れてるのがバレちまう×!)(~何て足手纏いだい×、この上級国民風情が!)
「~~立て!↑」
「★痛っ卍卍!」
激昂した花婿は怒りの形相で花嫁の手首を掴み乱暴に身体を引き上げる。もう片手で彼女の顎下を鷲掴むと、頬を潰さんぱかりの力で彼女の顔を自分の真正面へ向けさせた。
「~調教が必要のようだな。大人に対する礼儀と言うものを、←その身体に至れり尽せりたっぷりと擦り込んでやるっ。」
「~~~~~~っ、」
「◎ククク…★★?ぐおあっ×!→あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ卍」
カーマインの悪辣な顔は苦悶の表情に変わり、上半身が身震いと共に後ろへ反って行く。マイユネーツェの顎を掴んでいた手はゆっくり遠ざかって行った。その手を引き剥がしたのは勿論、虹色ケバケバの左手である。その腕は黒で着色され七色の装飾が施されているが、僅かに覗く褐色の素肌には鋸刃のようなギザギザの黄色い紋様が巡っていた。狼藉者を見下ろす深緑色の瞳に怒りの炎が燃え盛る。
(~~【眠蝦蛄ノヤドリ「地動」】…)
「…手慣れているな貴様。これまで少なからず女を食い物にしては棄てて来たのであろう…」
「★なっ…→何を馬鹿なっ×。~言い掛かりは止めろっ、!×この手を離せっ卍卍。」
「手を離すのは貴様の方だ──────我が花嫁から、
~~~穢 レ タ 手 ヲ 去 ネ、」
「★卍!?!く゛お゛あ゛あ゛あ゛あ゛か゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ卍卍」
ジェズは狼藉者の背中側から両腕を拘束しマイユネーツェより引き離した。その挙動はまるで跳開橋を引き上げる頑健なウィンチの如くゆっくりに見えるが、1mm1mm着実に両腕を背の後ろへと傾けて行く。相手が幾ら暴れてもジェズは全く微動だにせず、無慈悲な異形の拷問装置のように腕だけが動作していた。まだ傾けて行く、まだ、まだ、
「卍卍あ゛あ゛あ゛あ゛っ~~~ぎっ、ぎざまら!早ぐっっ~~~何どが×!じろっ**卍!」
「~ちっ、」
繰り鉤が考えあぐねる横で食人はジェズに違和感を抱く。
「…?」
(この感覚…この力って、)
「←二人とも動くなっ。この男がどうなってもいいのか?───」
「☆──な、なんてこったあ。これぢゃあてもあしもでねえぞう×…比較的マジで。」「ひ、ひきょうものう。ひとぢちをとるなんてえ、なんてひどいやつう×…比較的マジで。」
「★卍卍き゛さ゛ま゛ら゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ×卍!!」
「!←もう止めてあげて、お願いジェ★×~───…ぁ‥‥あな‥た#、」
マイユネーツェが堪りかねジェズに赦しを乞う。このままでは賓客の胸が板チョコを割るかの如く左右へ真っ二つにスプラッターされてしまうと本気で恐怖したからだ。ジェズの体表から黄色い紋様は既に失せている、彼は彼女のその言葉を待っていた。そして小刻みに身震いするカーマインの耳元へ口を近付けて囁く、拷問装置の音声で。
「我が花嫁の願いに応え貴様を屠らずとしよう。←但し心せよ、貴様を命拾いさせたのは我が花嫁たる『メディスン家の娘』の寛大な慈悲の心だ。仇なそうなどと夢にも思うな、さすれば自ら死を懇願する程の残虐が貴様の肉を、骨を、腸を、髄の髄まで苛もう・・・忘 ル ル ナ。」
「@そのドグサレもう聞いちゃいねぇぞー。」「白目剥いて泡吹いてるじゃないか。もうお止めよ、」
「ふん→。
──お嬢様。この男、恐らく裏で相当非道い事してますよ、~僕の嫌いな匂いがします。それにこの男の心の在り方と言うか本性みたいなのは、さっきの騒ぎで大人達も判ったんじゃないでしょうか。これならこの結婚話もおしまいですね。」
「え?‥えぇ#。」
「良かった☆。きっとミーシャお嬢様も喜んでくれると思いますよ。」
「えっ?‥──
──────────↓──えぇ…」
「大人達はみっともなかったけど、こんなゴーマンな男とこれから先ずっと付き合って行きたいとは思わないでしょう。…今頃歩く屍になってて忘れちゃうかもですが×。」
「★そうだった、←どうしよう!*」
「慌てるな嬢ちゃん。顔に水ぶっ掛けでもして息を止めさせりゃ治るんだよ、聞いた事あるだろ?」
「よくは知らないけど…。──!そもそも貴方達があの変態と喧嘩を起こさなければ」
「←うるせえ。こっちにゃこっちの都合があンだよっ。ゴチャゴチャ言ってると」
「!おい廊下っ、いつの間にか誰も居ない。」
「あ?──気配を消してるだけだろ。騙されんな、」
「いや、一人も居なくなってる。気付かなかった…でも何故?」
ジェズはそう言いながら壁のあちこちを眺め回す。装飾や化粧で隠れていない彼の素肌には流血のような赤い紋様が浮かんでいた。傍で見ていた食人は確信し驚愕する、彼女は今正に壁の向こう側を視覚していた。
(この感覚やっぱり!この子は──『私と同じ力』を持っているんだ!!一体どうして……★いやいや今はそんな事より!)
「×んっん、────…間違いない。人が掃けてる。」
「じゃあ丁度いい。お前ぇ偵察に出ろ、」
「~は?指図するんじゃないよ、」
「お前ぇは霧だろうが闇だろうが物陰の向こうまでよく見えるんだろ?なら丁度いいじゃねえか、~うってつけだろーが。下階見て来いよ、」
「↑~~~憶えておいでっ、→」
「ケッ、誰のお陰で堂々こんなド田舎まで来れたと思ってやがる…
──×あとお前ぇはそのマジキチな恰好をとっとと直せ、視界に入ると気が散るっ。」
「~これはれっきとした悪魔祓いの衣装だ。貴様こそお面なんか被ってヘンな恰好じゃないか、何のモノマネだ?」
「×↑コっスっプっレっじゃっねーよっっ、顔バレNG縛りなんだよ!」
繰り鉤に冷やかされたりしながらジェズは化粧を落として着替える。メイク落としは香油を染み込ませた布であっさり拭き拭き、これも暗礁密林から持ち込んだ自前の物。端に佇むマイユネーツェがそんな彼をちらちら見たり見なかったり。メイド服に着替え終わった頃合いで食人が戻って来た。
「──────────」
「×仕方ないだろ、男子禁制なんだからっ#。」
「↓…一階も隈なく見て来た。私達の他は人っ子一人居ないよ、庭の周りもだ。」
「とりあえず助かったみてぇだな↓。さて、ちょいと不味っだぜ…」
「ちょっとお待ちなさい、ぉ…お父様は…どうしたの?──家政婦長は?他の皆は??」
「だから、あの白粉ジジイに連れてかれたんだろ。歩く屍にされて。」
「卍そんな……そんな、嫌っ×!一体…←一体どうしたら!?*」
「~いーから騒ぐなっ落ち着け、奴の行き先なら決まってる。」
「**ぇ?」
「『本』だ。──学校なら図書室か資料室と言った所か。」
繰り鉤は必死で考える。当初は仕事の合間に屍男爵を捜し出し、フォーチュンストックから追放、あわよくば始末とだけ考えていたが、事態は思わぬ方向へ展開し始めた。何せ洞の上客で出張名目の雇い主カーマインを巻き込み、ハッピーニューイヤーも差し迫ったこの時期に「年末・歩く屍祭」開催の引き金を自分達が引いてしまったのだ。仮面の裏で難しい顔をしてあからさまにソワソワする。
(~結構ヤベぇぞ↓。旦那はさっきの無様をチラつかせれば多少黙らせる事が出来る……が、俺様達とのセットで裏社会での「洞と屍男爵との関係性」を強くしちまう事になる××。洞の屍男爵が大陸屈指の超有名校で関係者大勢を歩く屍に仕立て上げ、『あの「ブラック・ドゥー」因縁の本を巡って大騒ぎ☆』なんて事にでもなりゃ、魔法警察どころか教会も黙っちゃいねえっ×。洞が表舞台へ引き摺り出されて全面戦争待った無しだぜ!?俺様達マジで身内に粛正されるぞっ卍卍!!どおおおぉぉぉすんだコレよおぉ×××……)
悶々の渦巻く静寂の中マイユネーツェがジェズの胸に縋った。端に立つ食人は眉をひそめる。
「…お嬢様?」
「↑お願いジェズ、お父様達を助けてあげて!それが出来るのは貴男しか居ないっ*!」
「×ぇ~え?…そんな事を言われましても@、どうすれば……」
(マイユネーツェお嬢様には悪いけど、…もう関わりたくないなぁ↓。花嫁誘拐のお芝居だけじゃなく飛び入りの変な連中の相手までする羽目に遭って、もうヘトヘトだよ×。お腹だって空いたし、明日の食材も調達しなきゃだし~…)
「私はこの目で見たわ!身体で感じたわ!貴男が突風を呼び、私を抱えたままあんなに高く跳ぶなんてっ、←その力で|ノン・ノ・フランクリン《としょしつ》を助けた噂は真実だと私は信じられる!!*お願いよっ!!」
(×力は見せびらかさないと決めたのに、迂闊だった↓。でもさっきは本当に危なかったし~、───ん?図書室?……あぁ、ノンさんの事か、図書室。──…図書室??)
「図書…館。本??」
「*えっ?」
「×…あ~?知らねえのか?あの白粉パイナップルは本を探してんだよ、何でも『ブラック・ドゥーが読んだ』と噂のな。その目的を優先したもんで俺様達は助かったって訳だ。どーせ人海戦術で本を探させようって腹積もりだろ、@屍にそんな脳ミソが働くか知らんけど。」
「ブラック・ドゥー……本探し★!?↑↑いやいやいやそれは不味いでしょ!」
「そーだ、ヒジョーに不味いんだぜ××、」
困り所とスケール感で両者は会話が噛み合っていない。どの道ジェズは屍男爵の行動を阻止せねばならなくなった。それは酒蔵メリーベルの裏サービス「黒ワイン」で請け負った彼本来の使命なのだから。
「!!!────分かりましたマイユネーツェお嬢様。僕が何とかしてみせましょうっ。」
「──‥‥*☆あなたっ#!!」
「★~そこっ。↑いつまでイチャ付いてんだいっこのスケコマシ!」
「~すけこましって、…何だ?」
「×↓…───
←ほら。あんたも来るんだよ繰り鉤っ、」
「××あー?何処行くってえ?」
「予定通りさ。…狩るんだろ?屍男爵、」
「──────────────────────」
ここに即席の共闘体制が出来上がった。夜霧の工場街での大乱戦以来の事である。
七色の異能を秘め「夜魔の爪」で万物を圧倒する、黒ワインのブラック・ドゥー。
縄付きの鉤爪を縦横無尽に繰る洞の荒事師と、超視覚と剛腕を振るう洞の荒事師。
敵は屍男爵ただ一人。邪魔する相手は人質にも等しい歩く屍、その数百か二百か。
長い夜の始まり始まり。
甘い物が苦手です。歳のせいかな。
こないだ食べたポテチが甘くて悶えました。考えた人誰?何やってんの?
同じノリで、恋だの愛だのも苦手です。だから投稿が遅れました。
恋愛をメインコンテンツとしている作品が自分は面白いと感じられないので、
縁談とか出て来ても困るしかなくて(何故書いたのだろう)。
だからつい状況の破壊者を呼んでしまう訳ですよ。
2024年春は芝居もやってたし、充実してたとここに記録しておこう。




