「それは2人居る」隠れていた乙女
3~4話分をムリヤリ1話に収めて時間を食ってしまいました。
今回、ずっと登場させたかった或る『重要な人物』が漸く姿を現します。
今まで出掛けたシーンはあったんですけどね、
読んで下さる方が果たして憶えていらっしゃるか…(^^;
■■■ 「それは2人居る」隠れていた乙女 ■■■
濃い霧に包まれる夜の街、テーブル・ターニングの高級ホテルで催されている酒造関係者の懇親会は招待客らの酒薫漂う興奮も冷めやらぬままそろそろお開きの時刻。人々の輪から少し離れて窓辺に立ち寄ったリュアラは、厚手のカーテンで覆われた大窓へ向かい窓の外の遠くの様子に思いを馳せていた。片手でカーテンを握る。
(あの子達、上手くやっているかしら………)
使用人ジェズと二人三脚で内密に営業していた酒蔵メリーベルの裏サービス「黒ワイン」、今それは彼女の妹ミーシャによって進められている。昨今メリーベル周辺で相次いだ「アクシデントを装ったテロ」の首謀者に対し武力を以って懲らしめているはずだが、如何なる状況か心配でならない。ジェズの異能とガノエミー一家の助力があるから大丈夫、彼らを信じようと努めて自分に言い聞かせる。パーティー会場にあって黒いビジネススーツで臨んだのは、自分に為り代わり喪服の麗人を務める妹に気持ちだけでも寄り添いたいがため。
(いずれはミーシャにも話しておかなきゃならなかった事だけど、私のミスで秘密を明かしてしまうなんてね…↓。──でも、お陰で今日成すべき事は出来た、酒蔵メリーベルの話題をトレンドにする事は出来たわ☆。これでまた一歩前進よっ♪、見ていなさいマイユネーツェ……↑私だって)
「!──?────←、──────→…──」
宿命のライバル、デコマヨことメディスン・ビバレッジの社長令嬢マイユネーツェ・メディスンの姿が見当たらない。幼少の頃よりこのパーティーに連れて来られた際は必ず見掛けていた顔馴染み、あの負けず嫌いが姿を見せぬはずがない、曲げた人差し指を顎に宛て瞳を閉ざし訝しむ。暫くして結論に至ると頭を上げた。
(☆↑怖じ気付いたわねっ、マイユネーツェ!!♪)
嬉しい気分が先立って残念思考に陥っている、それ程今日の運びはとんとん拍子だったのだ。これで後はミーシャ達さえ無事でいてくれれば完璧、屋敷の不在がばれない内に事を済ませないと。
テロリスト討伐隊を一人案じていると後ろから声が掛けられた。
「今晩は、」
「──!まぁ、ウィル先輩。こんばんは、お久し振りです。…今日もお仕事ですか?」
「×えっ、…まあ…そうだね。」
「←何か事件があったのですか?」
「そんな大した事じゃないさ。それに、仕事の内容を口外するのは───ね?」
「───そうでしたね。失礼しました。」
彼女がウィルの存在を不思議がったのは、懇親会の招待客に彼が含まれているなら名簿を確認した際に彼女自身が気付いていたはずだからだ。ここ最近のブラック・ドゥーの活躍で自分が疑われているのかと警戒心を抱くが、以前アン先輩の服を見繕った時に自分が窘めた言葉を上手く返され、一本獲られましたとリュアラは笑顔を見せる。不審に思われてはいけない、ここは開催側の人間として客をもてなしますか。
「如何ですか、お酒に興味はお有りですか?」
「いやぁ、これと言って特には。飲んだ事ないし、飲んでる人を見て旨そうだなと思うくらいがせいぜいかな。」
「ふふ♪、そうですね…酒蔵の娘が言うのも可笑しな話なのですが、私にはお酒の何が美味しいのかよく解からないのです。」
「ハハハハハ☆、確かに蔵元がそんな事を言うのはね、」
「うふふふ☆、」
「ハハハ、」
「───────」
でもそれってつまり、
「えっ??」
「★×ああ!ええとですねっ、おおぉおおぉおー酒の原料にはっ……すっ×…そのまま食べると!美味しくない物もっ?あるのでえ!!それで………×」
「ぁ──ぁああ@、それで。そ、そーそお……だよね☆?あはははは、」
「うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふっ★☆!」
(××も~~~~っ!私ったら近頃うっかりボロを出し過ぎでしょう×!危うくお酒を飲んだ事があるのをばらしてしまう所だったわっ↓。~気を引き締めないと×。)
デコマヨに遅れを取りたくないあまり家人に内緒で酒を飲んだ時の話である。結局は口から虹のドタバタ騒ぎになってしまったが、あれ以来彼女は飲酒に苦手意識を持っていた。
本邦での飲酒は労働者の娯楽として位置付けられており、それが故に学生の飲酒は法律で禁じられている。職に就き稼ぎを得られていれば二十歳を迎えなくとも飲酒はOK、学生の身分では働いていようが二十歳を越えていようが飲酒はNGだったりした。
そんな酒の話題などどうでも良いウィルは肝心の事が訊きたくてリュアラに詰め寄る。
「←リュアラさん!」
「★はいっ?!」
「貴女はそのっ、───……国外に…行く予定とかって、↓あるのかな?↓↓」
「はあ、国外……」
「──────────────────────────────」
質問の内容とそぐわないウィルののっぴきならない様子にリュアラは困惑する。魔法警察が問い掛けるイコール「ブラック・ドゥーとの関りを疑われている」と言う固定観念がある、勘繰って当然だ。
(予定は無いけれどこの場合は…どう答えたらいいのかしら↓。否定しても肯定してもブラック・ドゥーには触らないように思えるし……~もうっ、これ以上ボロは出したくないのに×。)
「そうですね。具体的な予定は無いのですが、多分に興味をそそられます。」
(…これなら白も黒も付けられないでしょう。我ながらグッッダーな回答だわっ!)
「★★っ~~予定は、────────……しない方がいい。」
「し」
(───ない方が…いい。しない方がいいと言う「アドバイス」?!───??)
「どう言う事でしょう、───」
「────~──~…────」
(→白と言うでも黒と言うでもなく……一体どう言うつもりかしら、落ち着いて考えましょう↓。私が国内に留まり続ける事を促した、即ちそれは…~──────
──やっぱり分からないっ×。また何処かでボロを出してしまったかしら??…ここは少し探りを入れてみましょう、)
「××→────私は、今宵のパーティーにご来場いただいた皆様より異国での興味深いお話を沢山伺う事が出来ました☆。」
「★×←それはいけない事だ!」
「×↓↓……@それは、どうして??」
「それはっ…───!」
「…」
心の中でウィルは自分の目元を覆っていた。表に出せない手振り身振りを繰り広げる。
(~~言えない↓。「留学しないでくれ!」だなんて口に出したらヤブヘビにならないかっ×?変な興味を持たれないためにも話題から遠ざけておかないと。───国外へ一年も二年も出られたら、その間僕はリュアラさんに逢えなくなるっ×。こんな素敵な女性に変な虫が寄り付かない訳がないっ、僕が傍に居られないんじゃ悪い虫を追い払えないんだ×!それは駄目なんだ!!)
追い払うまで行かずとも虫除けくらいになら彼は今まで機能していた、これでも立派に。本命のリュアラに対する恋愛行動は少し気持ち悪いものがあれど、彼はまごう事無きイケメンで、学園において大勢の生徒たちから慕われる人気者である。リュアラとの睦まじい仲は実しやかに広く噂されており、彼のようなインフルエンサー相手では彼女に気のある男共もおいそれと手出しが出来ない。だから姿を周囲に晒さず済むラブレターなど媒体を介した恋心表明が横行したりもしている。
因みにリュアラはラブレターを必ず一読するものの、差出人に対し返事を出したり面会したりは小学校を上がって以来一度もしていない。お断りがいつもの事なので懲り懲りしていたからだ、異性からモテるのも考え物。
リュアラの心境はともかく素直に本音を言ってしまった方が幾分マシのような。ウィルは二進も三進も行かなくなったらしく、あくまで詭弁で貫こうと件の妖しげな占い師の言葉を引用する愚挙に出た。
「←←これはあくまで仕事の話なんだがっ、~~おとぎばなし…!そうっ、お伽噺と思って聞いてほしいんだ。」
「★→っあくまで仕事がお伽噺とは??」
「ブラック・ドゥーはね!」
「!!」
(ほら来た!)
「…悩みをっ!抱えているっ……らしいん…だ。」
「ははあ。」
(───────────────────────────抱えていませんけど?)
神妙な面持ちで何を言い出すのかと焦ったが、ほら来たブラック・ドゥーからアレレのレ。悩みなら今のこの状況がそうだけど、リュアラはツッコミを口中に留め笑顔を保つ。
「──@あの、ウィル先輩?お仕事の」
「←いや!お伽噺だからっ!」
「ぇええ×…」
「それに僕達の将来を踏まえて#──大丈夫な事だと…思う、っ思う時!!」
「何が?@@」
いきなりウィルに真正面から両肩を取られびっくりするのも束の間、目の前の景色がその場で水平に三周したかと思えば背中から左肩へ回された彼の腕に身体を預けていた。抱き抱え覗き込まれる格好にリュアラは肩を窄めて硬直する。なに何なのこのかつて無い芝居掛かったアピール、思わず顔が赤くなった。
「☆なっ#!★なな☆な#◆な?◎▽〒▲?!??!」
「←今彼女の胸の内では激しい葛っっ藤ぅぅぅが渦巻いているんだっ。この世を魔力で混乱に陥れようとする邪悪な欲望と、争いを回避したい善良な願望がせめぎ合っている…そうっ、それはまるで『二重人格』のように!」
「☆★はいっ#?!はい☆!?」
「その想いはやがて離反し、世に放たれっ、各々が別々に振る舞う事となるであろう………×↓。
──そっ~@だからそれが!この国のそー!とー!でー!?起きて、起きるらしい!…んだっ←。」
「#ぁああ?…そ、?そーなん…ですか×#、」
「僕達はそれを、その……↑未曾有の危機と睨んでいるっ××。だからーそんな…↓恐ろしい場所へ、貴女を行かせたくは……ないんだー#↓。」
支離滅裂。大袈裟にグイグイ迫って雰囲気で押し通したくとも所詮元ネタが信憑性の疑わしい妖しい占い、抽象的で話の辻褄もあったものではない。肉付け理由付け何もかもが息苦しく、ウィルもとうとう言葉に詰まりしょっぱい顔を赤くさせてしまう。しかし、彼の思う以上にグイグイの効果はあったらしい。
「#あの、その……───分かりました。」
「…リュアラさん、」
「ご助言ありがとうございます。その、内容はともかく×、お心遣い…お気持ちは充分伝わりましたわ#。先程も触れた通り国の外へ遠出など用事は何も予定しておりません、ご安心を。」
「!↑↑────そうか…、良かった。」
「うふふ#──────ぇえと、ウィル先輩?」
「何だい?」
「そろそろ…その、#放していただいてもー……」
「☆?ああ、」
そうだねと言い掛けて彼は思い留まった。彼は一人で勝手に天啓を受ける。気付いたのだ、またと無い絶好のチャンスに。成り行き上なってしまった今のこの体勢ならば或いはと急に生々しい欲が出始める。思えばこの瞬間をずっと待ち続けていたかも知れない、グイグイが怪我の功名だ。
「←リュアラさんんんんっ♂、」
「!#はい?」
「実はね、ここと別の場所に──ホテルの部屋を取ってあるんだっ。…今夜はもう遅い、良ければ今後の事を二人きりで語り合いたいと思うんだけど、#どうかな?」
「★今後の×?二人で#?!」
ウィルは更に抱き寄せた。墜とす気全開のイケメンの顔の近さにリュアラはしどろもどろ。
「ウィ☆↑★ウィル先輩#?!あの×ええとぁあああのですねっ#!」
「今日この良き日に…──これはきっと、運命の精霊が僕らを祝福しているからに違いない。」
「#良き日に?!@運命の??───」
「今夜は君を」
「貴女案外流され易いのねぇ、」
「「☆★×?ちょおおおおおおおっ★☆★↑↑!?!」」
運命もへったくれも無い予期せぬ事象、例外発生。メリーベル妹のインターセプトを超越し家政婦長の謎転移すらも凌駕する驚異の割り込み能力、また出た謎の占い師ウイドナが男と女の間に突如出現した。
透き通る君は溜め息をつき片手を頬に宛て困った子ねえと言わんばかり。ウィルは狼狽しながらも決して意中の相手を手離さない。
「★?またーーーーっあ×!?」
「女の子を口説くのに占いは便利なのかも知れないけど、先程のお話は言い触らしていいものではないのだけれど?」
「××貴女は一体何なんですか!?何処から出て来たんです?!何故僕らに付き纏うんですか?!!」
「私の言葉を断りも無く部外者へ吹聴されては見過ごす訳にまいりません。」
「↑こちらの女性は近い将来に部外者じゃなくなります!」
どゆ事?リュアラはウィルの腕の中でぎょっとする。彼の主張は止まらない。
「←これは僕と彼女二人だけの問題ですっ、邪魔しないでください!」
「お仕事でこの場に来ているのでしょう?一市民として諫言すれば国家公務員が感心しませんね、それともこれも公務なのかしら?独断専行で罰せられた事をもうお忘れ??それなのに…
──
───────────闇巫女を放ったらかしで『真逆の存在』にご執心だなんて。」
「★★えっ×?!」
空気も読まず湧いて出た眉目秀麗な同性が自分のお相手と喧々諤々を始めリュアラは正気付く。
邪魔をするなと言う気は皆無だが余計な茶々を入れられた印象は否めない。
何より闇巫女と言う言葉から激しく興醒めに近しい感情を覚える。
先程までの得も言われぬ高揚感は何処へやら、リュアラは自らウィルよりそっと離れた。
「→、───」
「あっ×…」
「──失礼ですが、どちら様でしょうか?」
「今日の所はただのお客様♪。それにしても───そう、貴女だったのね☆、」
「?──何がでしょう、」
「古の名士、かのバーモント卿のお孫さんの追い求めている物が、酒蔵メリーベルのお嬢さんのお尻だったとは思いもしませんでした☆。ふふふふふ、」
「おし…」
「←待ってください!今貴女はっ、~その……放ったらかしと言ったのか?彼女が──真逆の存在…と?」
「そうね。白は黒と真逆でしょう?こちらのお嬢さんは白だもの、『ブラック・ドゥーではない。』」
「★×っな!?!────────────」
笑顔で人を刺すようなウイドナの言い種にウィルは愕然とする。
(『悩める闇巫女の意志は二つ現れ、一つは静かな彼方へ遠退き、残る一つは戦の準備を始める。』
…この女性はさっきそう言っていた!リュアラさんが留学すると言うなら、残る使用人は何か邪悪な企てを実行するに違いない!僕は確かにそう踏んだっ。~でもそんな事はどうでもいいんだ!リュアラさんが使用人から離れるのは大いに結構、でも僕とも長い間遠く離れては…彼女の抱く僕への愛情はきっと儚いものになってしまう×!!)
そんな発想に即至ったものだから胡散臭い占い師の言葉だと言うのに鵜呑みにしてしまったのだ、この残念なイケメンは。そうでなくともミステリアスな女性に惹かれまくると言う性癖を持ち合わせている訳だが。
(~だいたい教会の指令でブラック・ドゥーを見張ってたんだ、それを今さら人が違うと言われても↓↓。★もしかして、フー・セクションの中で僕らはハズれを引かされたのか?何かの囮だったのか??
~~いや、そもそもリュアラさんを正真正銘の伝説の闇巫女ブラック・ドゥーだなんて思った事は一度も無いっ。ボロ布を纏った大爪の男の事だって、あの使用人じゃないならいっそ気が楽さ!でも彼女がブラック・ドゥーでないと断言されては……公務の名目で堂々と彼女に近付く事が出来なくなってしまうっっ×!彼女を想えばこそ辛いシゴキにも今まで耐えて来れたんだ!この占い師はそれすらも否定するのか!?
~~~ぁああああぁあぁあぁあぁあぁあっ↑××、僕は一体どうすればっ!?×!)
想い人をあわ良くばこのまま押し倒してしまおうと言う勢いでいたウィルだが、すっかりセルフで膠着状態に陥ってしまった。彼の奥底にはそれでもリュアラに本物のブラック・ドゥーであって欲しかったと言う無自覚の願望があるのだ。占い師の言葉など真に受けねば悩む事も無かろうに、その場にしゃがみ頭を両脇から押さえ込むと悲壮な面持ちで床へ脂汗を滴らせブツブツブツブツ。
もう何だったのかしらとリュアラは急に気疲れを感じる。それより自分をブラック・ドゥーでないと評するのは一体如何なるつもりか、オモチャのような声を発する非凡な見た目の婦人へ目を遣ると相手はこちらを見詰めていた。
「☆★ひっ×、」
「面白い事があるものね☆、貴女とこうして見えるなんて。」
「初対面のはずですが、」
「面識はありません☆。」
(何この人↓……)
「初めまして、私」
「『リュアラ・メリーベル』。…お噂は予々。」
「お見知りおき、恐縮です───。」
(かねがねの噂は何かしら↓。去年の懇親会は私のお披露目だったし、その時に見知られただけ?)
「一応初めまして、私の名は『ウイドナ』───今宵貴女と会うつもりは無かったのだけれど、これも因果と言うものかしら、何と愉しい巡り合わせでしょう♪。近頃は面白い事がいっぱいだわ、世の中棄てたものではないわね☆。」
「はぁ…。あの、つかぬ事をお伺」
「←ああ☆、いいのよ皆まで言わずとも。近々私もお願いしようと思っていた所だから、」
やあねえうふふふ。それこそお伽噺に出て来そうな常軌を逸する美しさでありながら人の話を聞かない良家の軽い御婦人のようなこの感じ、目眩がする。リュアラは愛想笑いをするが眉毛だけは本音のままだった、こう言う手合い居る居る。
(と言っても、こんなに綺麗な人はそうそう居ないけど。───ん?)
「←──…今何と?」
「お願いしようと思っていた所なの、『訪問販売』とやらを…」
「!───ご用命ありがとうございます───
どのような品をお探しでしょう?お申し付けいただければ、数ある品揃えの中からお好みに合いそうな物を幾つか見繕ってお住まいやお勤め先までお持ち致しますわ。」
杓子定規に礼をして半身を起こせばもう営業スマイル。素性は分からねど魔法警察を相手に闇巫女だブラック・ドゥーだとのたまう輩などまともなはずがない、笑顔の裏でリュアラは一応警戒していた。仮に「黒ワイン」を知っていたとしても警察の前でそんな事を口走りはしないだろうが。
「☆あらそう#。ええと、ううんそうねぇ♪。いつもなら『メリーベル・メリーベル』みたいな麦藁ワインを嗜むのだけれど…」
「甘味豊かな物ですね、」
「ここ最近は白ワインの気分かしら#。湧き水のように、と言うより……!まるで自分の身体の一部みたいにスイスイ飲めてしまう物がいいわ☆。」
「口当たり優しく、」
(自分の身体の物を飲むのこの人。)
「それでいて少し辛めで、」
「ピリ辛で、」
「だけど後味は爽やかな、」
「スッキリ後味、」
「そんな白ワインがいいわ♪。」
「畏まりました。」
(そんな品物あったかしら…)
「貴女がどんなコーディネートをして下さるのか心待ちにしていますわ☆。
───
────────透き通るように『黒を濯ぐ』白ワインを……─────────」
リュアラが賑やかに孤軍奮闘している最中、テロリスト討伐戦は人知れぬまま首謀者の敗北宣言を以って幕を閉じていた。霧の上で起きている最新情報は霧真っ只中の地上世界へまだ伝わっていない。1階を張るガノエミーの数名が霧にビクビクしつつも外で伸びているヴィリジアンらを建家へ収容するなど後始末に勤しんでいた。シャッターを破壊したので薄気味悪い霧が不遠慮に入り込み、不意に起こる雷鳴が彼らを余計に脅かす。
「!→っ、────……くそうっ、まだ鳴ってやがる。」
「×本当何なんだよコレっ。霧の日に雷なんてよぉ……変じゃねえか?ヤバくねえか×?」
「ビビってんじゃねえっ。この辺にヴィリジアンを転がしといて奥に立て籠りゃ霧魔だって入っちゃ来るめーよっ、」
「──!身代わりって訳か☆。お前ぇ天才かよっ、」
「発破だってまだある。イザとなったらあれでドカーンよ。」
「流石に騒ぎがデカくなるぜ、」
「こんだけ雷が鳴ってんだ、区別なんざ付くはずが無ぇ。」
「★うひいいいっっ×!!───~~畜生っガラゴロと、霧魔め出るなら出やがれえっ××、」
「──────クッ、クックック…」
後ろから不気味な含み笑いが上がり、掛け合いをしていた二人は大いに取り乱してライフルを構える。そこに居たのは壁を背にヘタリ込む労働者風の若いヴィリジアンだった。身体の右側から酷い目にあったらしく、腕をだらりと垂らし浮腫んだ頬と額の隙間からこちらを不敵に睨め上げている。
「~何だ手前えっ、」「×驚かすんじゃねえよ!」
「クック、…お前達シルキッシュは霧をとても怖がる。それが可笑★★卍」
腫れていない方の顔を銃底で殴り飛ばされ青年は横へ折れた。穏健派とは言え相手はヤクザ。
「兄ちゃんよぉ、ナマ言ってると次は鉛玉を食らわすぜ。」
「×卍卍×~~───…クッ、クックックックック@。霧の一体何が怖い?……もっと恐れ多いモノが…ここに在ると言うのに…」
「何言ってんだお前?」
「××…せいぜいっ×あの音に怯えているがいい。~~あの鳴り響く雷鳴こそっ、お前たち脆灰が今わの際に聞く絶望の音だっ~~~」
また雷鳴が轟いた。
戦争は終結した形になっているが掟絡みの意味不明な骨肉の争いはまだ残っている。
間一髪で落雷を避けた黒ジェズは距離を取り金属製の鞭を放り捨てた、これは使えない。
(あの女、よくこんな物が使えたな×。燈王の側近を務めるだけはある流石のヤリ手って訳か。残るは…あの男の使ってた「への字」しか無い←。)
身に纏うボロの切れ端を巻き付けた掌で、昏倒しているヒュギィの手からブーメラン二丁を奪い取り前面で交差させてみる。互いで弾き垂直水平に構えるが直ぐその腕を下ろした、しっくり来ない。
(…重いし握りにくい↓。やっぱり素手で持つのが正解か?でもミーシャお嬢様の言う通り手に布を巻いたお陰で雷を食らわなかった、これはもうこれで行くしか無いんだっ。あの眼鏡さっき確かこれを畳んで使ってたよな……ええと、~ぇええと…×どこをいじれば形を変えられるんだ?この道具は×?)
「~~~××~~×、」
「──愚鈍がっ。貴様如きの無い知恵を絞った所でその仕込み刀は扱えまいよ、この俺に直接触れなければ厳霊の力から逃れられるとでも思ったか?馬鹿め!!←」
「!己っ→→、」
禍々しい笑みを浮かべながら突進する燈王の拳を紙一重で躱し間合いを取る、ブーメランを構えてみせるがやはりジェズには使い方が分からない。今のままでは投げ付けた所で燈王に決定打は与えられないだろう。
攻撃するでもなくただ避け続ける一方のジェズに黒ミーシャは気を揉む。
「~んもうっ、何であいつ攻めないのよ!」
「したくても出来ないんだ、お嬢。」
傍に寄っていたザクレアが補足する。
「←何でよっ、」
「雷を落とすだけがセカンドの攻撃じゃない。あの男、自分の身体の中にも雷を起こす事が出来るんだ。」
「…そんな事して本人は感電しないの?よく分かんないけど。感電対策ならさっき教えてあげたでしょっ、」
「乾いた布を巻き付けた身体の部分でなら雷に触っても大丈夫…それが分かったのはいいけれど、違うんだ。今あの男は全身の筋肉に雷を貯め込んでる。相手から触れられたその瞬間に貯めていた雷が爆発して、触れられたと頭で自覚する前に相手へ攻撃を繰り出せる状態なんだよ。」
「触れた瞬間に反撃??───身体が自動でカウンターパンチを出してくれるって事?」
「小説みたいに行かないからね、お嬢。」
ユーディーも寄って来た。酷いヤレヤレ顔をしている。
「お嬢の言ってるのは相手と自分のパンチが互いの顔にボカーンってなってウゲーってなるアレでしょ?熱血モノの。そんな悠長なレベルじゃないんだよ。」
「あんたそんなモノいつ読んだのよ…」
「殿下が手持ちのくの字でセカンドへ斬り付けたとするでしょ?くの字の先っちょが勢いに乗ってセカンドの身体にめり込んで、それを引っ掻くから、斬れる訳じゃん?」
「?うん。」
「そのめり込む前だよ、めり込む『め』の時点でセカンドの身体のあちこちで雷が起きるんだ。ええとアレ、何だっけー~……!あーあれアレ、あの『ドミノ』みたく次々にドワワーって雷がさ。それでもう殿下の顔面にセカンドのパンチがめり込み終わっちゃう。」
「…は?」
「殴る蹴るのドミノが身体に仕込み済みの状態って事。そのお陰で『め』の時点で殿下がくの字と一緒に吹っ飛んじゃうから、くの字のめり込まないセカンドはノーダメ。殴り合いじゃ勝負にならない。」
さしずめ電気仕掛けの反撃確定マシーンと言った所か。
「@何それ??小説どころか少年漫画じゃないそれじゃ×。何から何まで意味解かんないわねっ、あの筋肉~↓。──そっか、そんなトンデモ能力を持ってても離れた場所から鉄砲を撃たれたら流石に反撃出来ないもんね、だからジェズも筋肉男も銃撃の事を気にしてたのか。」
だからは違う。銃で撃たれたくないし手間暇かけて人を撃ちたくもないのは普通の人も同じだ。
「この状況でどうやって勝つつもりよっ?」
「銃を撃ってくれないんじゃ────卍私達が割って入るしか…」
「~~ヤグサ屋めぇ、ジェズは大切なビジネス相手じゃなかったの?!」
敗けを認めた相手への武力行使を良しとしないのは体面上、本当は雷を操る意味不明な筋肉男による皆殺しが恐いガノエミー一家の助っ人らは、ライフルを肩に掛け当事者としての責任を放棄してしまっている。ヤグサ相手に銃を引ったくってしまおうかともミーシャは企てるが、自分を筆頭にザクレアもユーディーも使い方など分からない。命懸けで戦い挑むジェズに何もしてやれない自分がもどかしい。そしてふと思った。
(こんな時……お姉様なら、どうしたろう───
──────────────────────────────★↑っ~!)
途端にミーシャは激しい屈辱を覚えた。自分みたいな代理ではなく、本物のブラック・ドゥーならきっともっと上手くジェズを導いていたかも知れない。姉に劣る、姉に負けた、勝手な思い込みだがそう考えると腹の底から悔しさが止め処なく込み上げて来る。口惜しさのあまり拳を握り締め、黒いベールの内側で歯を食い縛った。
燈王はマントを悠然と靡かせ、額に苛立ちの青筋を浮かべると横柄に不満をぶち捲けた。
「~何時まで戯事を続けるつもりだ!死ぬ気が無いのか貴様っっ!?」
「卍↑あるかっ!~死んでろ死んでろうるさいぞっ!死王の生きてる事がそんなに怖いか!!」
「↑↑俺は一筋に虹族と『暗礁密林の平穏』を案じておるのだっ!!」
ドオオオォォォーーーーーン。迫力たっぷりだが説得力まるで無し。
「緑の第四王子が死んでいないと知れ渡れば、再び虹族が暗礁密林の全てを争乱の渦へと巻き込む事となるっ!~そうなってからでは遅いのだ!闇巫女は許さない、闇の粛正を受け今度こそ滅びかねんのだぞ!!」
「一部族の王子の生き死になど闇巫女がいちいち関心するもんかっ、←闇巫女は粛正なんかしない!」
「↑↑それが過ちだと言っている!~貴様は理解しておらぬのだっ、歴史の重みを!闇巫女の力を!!怖ろしさをっ!!」
「僕は生きる事を許されてる!これは暗礁密林の平穏を乱さない!!」
「死王が生きてる!其れが既に許されざる乱れなのだアアアアッ!!」
「★×ふざけるなあああっ!←←」
しねしね一点張りで聞く耳を持たない相手の背面へ回り込むよう猛突進、錐揉みに跳ねるとジェズはとうとう得物を振るった。その瞬間にそこから彼の姿は消える。直後立て続けに形容し難い鈍い衝撃音があちらとこちらの双方から沸き起こり、彼が行き止まりまで吹き飛ばされたのだと把握出来た。目にも止まらぬ燈王の拳と屋上端の柵への激突、ジェズは自分の身体を両手のブーメランで辛うじて守れたらしい。外側へ歪む柵を押し退けるように何とか起き上がろうとするが、がくりと膝を折り床へ右手を付く。総身から湯気を立て首の上下で息をする、もう左腕が自身の何処に繋がっているかも分からない。
拳を撃ち出した格好で留まっていた燈王の腕からも湯気が上がる。肘を立て拳を握り直した。
「首無竜の『爆雷』を耐えるか。妙な手応えだ……貴様、何か仕込んだな?」
「卍卍×~~~───────…」
「フンっ。まあ良い、小細工ごと粉砕してくれるわ。その悪足掻きはむしろ貴様を苦しめる事になろう。俺に情けなど期待せぬ事だ、←」
(~勘のいい奴、黄のヤドリで予め護っていたのが分かったのか。さっきは何とかしのげたけど……やっぱり駄目か、折角の鉄壁の防御も僕じゃ本家の首無竜にとても敵わない、セカンドの技量を測る所じゃない××。左腕が★×~~っもう、)
「……★!!」
ガラアアアアアアゴロオオオオッッ!!バシイイイイッ!!バチバチッ!!
立会人らはすぐ目の前で発現される雷撃に木の葉の如く翻弄される。熾烈な閃光と爆発、間近で上がる脳天が割れんばかりの轟音に恐怖を感じぬ者など居ない。ジェズは怖じ気付く事無くすんでの所で落雷を躱すが、まるで肉食獣から必死に逃れようとする怪我をした小鹿のよう。追う方は距離を離されても取り急ぎ足を速めたりなどしない、細かい電光を迸らせながら間合いに獲物を捉えるべく着実に歩を詰めて行く。
そして捕らえた。雷撃を避けて黒ジェズが再び屋上端へ駆け寄った際、彼の手にするブーメランへ雷が落ちたのだ。傍らの鉄柵に接触していたらしい。
「★!」
「「★←殿下ああああっ×!」」「!ジェズっ!!」
凄まじい火花が散って得物は弾け飛び、火の粉に襲い掛かられた彼の身体は見る間に燃え出した。慌てて倒れ込み地面を転がるが火を消すまでに至らない。
「×!~ぐううっ×、★ゴホッ!ゴホッッゴホッ×卍!!」
咳き込みながら燃え上がるボロを横へ千切り捨てて内側の延焼箇所を叩き落とす。主の危機的状況にザクレアとユーディーは顔を強張らせた。
「おい不味いぞっ、」「ヤバいよ殿下!」
「大丈夫!あれ以上は燃えないっ。」
「~そうじゃない、あれじゃ殿下の呪紋が丸見えだっ、」「ヤドリ使ったらバレバレだよっ×。」
「…あの筋肉にバレたら駄目なの?」
「「ヤドリで隙が突けない!」」
「↑ヤドリで勝てるんじゃなかったの×?どーすんのよ!?!」
「×どうするったって、」「…~~~…」
猫背でしゃがみ込んでいたジェズはおもむろに立ち上がる。煤けた顔でセカンドを凝視し、冷徹な眼光で射止め仁王立ちになった。剥き出しになった右腕が僅かに震えると爪から指から血が滴り始める。開いた地獄の釜から涌き出したようなおどろおどろしい蒸気が立ち籠め彼の右手は影も形も見えない。ミーシャはオカルト雑誌で見た霊媒師の吐き出す白い異形を想起し、周辺の空間に満ちる何かが騒めく異様な感覚に怯えた。これは気のせいなんかじゃない。
ジェズは異能を顕現させようとしている。
「★血が、………あれって……」
「お嬢も見た事あるはずだろ、殿下は最後の奥の手を使うつもりだ。」「ガチで殺り合うよ、御身の血を代償に。」
「それって……そんな事して、あいつ…大丈夫なの??」
「ユーディー、覚悟を決めなっ。~」「分かってるっ。ザクレアこそ、~」
「←二人とも待ちなさいっ。」
「~その奥の手は一度セカンドに負けてるんだっ卍。」「~私達が乱入しないと×!」
「←待てって言ってるでしょ!間違っても乱入なんかさせるかっ!
──────あんた達のその覚悟はあたしが預かる。………解ったね?」
ミーシャの言葉にザクレアとユーディーが戸惑う向こうで突如ジェズが雄叫びを上げた。
「↑↑ウ ウ ウ ウ ウ ル ラ ア ア ア ア ア ア ア ア ア ッ!!」
「★←【鬨の声】!!」「王が勝負に出る!!」
「★×?!───~~~~~~…っ!!→→」
「即席の『夜魔の爪』────下らぬ隠し芸よ。そんな代物でこの燈王と死合おうとは何処までも舐めてくれたものだ……命を賭して雌雄を決する戦いに↑死王が臨もうなど笑止千万!鬨を揚げる資格が貴様如きにあると思い上がるな身の程知らずめ!!~血の巡りの悪い貴様の脳味噌、その右手の苔脅し諸共俺の拳で擦り潰してやるっ!肉団ンンン子のようになああああああぁぁぁ~~~
↑↑ゴ ル ル ル ル ル ル ア ア ア ア ア ア ア ア ッ ッ!!!」
死王からの決闘の申し込みに燈王も同じく雄叫びで応じる、悪辣な笑みに白い歯を剥き両腕でマントを払って拳を握り締めた。血管の筋張るはち切れんばかりの筋肉と言う筋肉の軋む音が聞こえて来そう。
対する死王は怨敵への視線の間に自らの血の成した黒い大爪を差し出した。赤く鈍い光を内に秘める闇の力の結晶が厳つい五指の姿を以って万象を震わせる。
二人の雄が対峙する戦いの場に「力圏」が形作られる。近代科学では説明の付けられない不可思議が確実に生じている、先人達の言う魔法の力とはこの事か。夜霧に支配された地上から5階相当、彼らを取り囲む高所周辺一帯は現世より隔絶された異世界と化していた。ドロドロと渦巻いているようで張り詰めているようで、ザクレアとユーディーは息を荒げ寒空の下で緊張に汗しながら固唾を呑む。
死王が右手を後ろへ引き左肩で身構えた。一瞬で踏み込みそして跳ぶ。
「カトゥウウウウウウウウウッ←←← シ ャ ウ ッ ッ !!」
迎え撃つ燈王は僅かに屈み両拳を目線の高さへ握り締めその場で軽く浮いていた。胸から上は死王の放つ鋭利な爪の軌道上に確り位置していたのだが、その巨躯は羽毛が風に舞うかの如く容易く斬撃を免れる。まるで薄い金属の板が激しく震えたかのような耳慣れない音が響き渡り、遠く離れた向こう側の建物の壁が派手に爆発し粉塵を上げた。刹那の出来事、死王は戦慄する。
(★夜魔の爪の「裁断」込みで直に斬り掛かっても首無竜の「斥雲」が突破出来ない!胸から上を輪切りに出来たはずなのに×、呪珠はこんなにもヤドリの力を増大させるのかっ!~←まとわせた呪詛が弾かれるなら触れた瞬間に絞り込む!斥雲を解いて爆雷を展開される前に!!)
もう遅い。既に棍棒のような燈王の二の腕がジェズを顎下から宙へと釣り上げていた。剛腕が振り抜かれると急襲の勢いそのまま吹き飛んだジェズの身体はプロペラのように回転しながらあちこちを屋上の床へ出鱈目に打ち付け、轟音を伴い鉄柵へ衝突してその場に崩れ落ち動きを止める。燈王との直線上に印された血の跡が生々しく月光を照り返していた。
ジェズは直ぐ様右手を突いて起き上がろうとするが、上半身を支える腕はガクガクと震え、激しく咳き込んで再び倒れ込む。血塗れで尚も立て直そうと果敢に挑めど腰から上を地面から離す事がどうしても出来ない。
「×××!~~~~★×卍卍、……~~~卍、!!×~…~~~~★×卍卍卍~~」
戦闘力に覆し難い彼我の差、勝敗は瞬く間に付いてしまった。
大型の陸上動物さえ余裕で仕留められそうな必殺ラリアットを決めた太い腕を下ろす。燈王は地面を踏み締め前へと歩み出すが、幾らも進まない内に立ち止まり声を張り上げた。
「見極めろっ!ザクレア・ナスカ!ユーディー・ナスカ!」
堪らず跳び出した二人の気配を即座に察知しての牽制。死角を的確に突いた彼女らの隠密術が通用しない、王の決闘の場と言う特別な領域であるが故か。自らが仕える死王からは喚起されない圧倒的な畏怖の念に恐れをなしナスカ二人は急停止するも前のめりで身構える。燈王は片腕でマントを払い死王との道筋を開けるように振り返り二人を畳み掛けた。
「『第四王子は死なねばならぬ。』──それは第四王子が負って生まれた宿命、虹族の掟なのだっ。闇巫女ブラック・ドゥーと光皇女ホワイト・レディーによって暗礁密林に齎され、長きに渡り培われた言わば暗礁密林の秩序!虹族はこれを貫徹せねばならぬっっ、第四王子の存命は暗礁密林への不義なのだ!!それがどれ程の事かを解からぬお前達ではあるまいっ!」
「………」「………」
「存命の事実が他所へ知れていないのは当に不幸中の幸いっ。
この重大な過ちは速やかに処せばまだ正せる!巧遅では遅いのだ!拙速でもそれは速いのだ!!
今それを成せるのはこの世で 俺 し か 居 ら ぬ の だ っ!!」
奪い尽くし蹂躙する、燈王が悦に浸り凶相の分厚い皮を震わせた。
「っだ……第四王子殿下は、最早…戦闘不能です…」
「既に、既にし……─~死に体っ×。←死んでいるのも同然、っ決着なら」
「↑見極めろと言っている!あの為体を前にしてまだ解からぬかっ!~~いちいち死にそうになりながら漸く長らえている凡才が自らの非力を省みず宿命に抗おうなどと蒙昧な幻想を抱き辿り着いた結果があの様だっ!先ず王の器ではない!お前達が付き従う必要は無いのだ!!」
「───」「───」
「←フォース、死王は死して王を為せ。」
主君を糞味噌にけなされ項垂れる二人を尻目に背を向けたセカンドはズタボロで蹲る悲劇の第四王子へと近付いて行く。いよいよその頸を片手で掴まえると不潔なモノでも扱うかのように持ち上げた。第二王子のこの行為に、仕打ちを受けた家来であるヒュギィとビアリスの意趣返しと言う意味は別段無いが、彼らと同じくジェズも苦悶し身動き出来ず呻き声すら出ない。
詰んだ。当に王手。
(夜魔の爪も……もうもたない…、いしきが……もって行かれる………)
《お前が弱いから、》
(──~な…に…)
《お前が弱いからこんな事になった。
お前が強ければこんな事にならなかった。弱いくせに宿命にたてついて。身の程知らず。》
(~うる…さいっ……身のほどを…知ってるから、僕は…たてつくんだっ~~)
《それでお前が死んだら意味ない。恰好良くなんか…ない。》
「肉ごと喉笛の潰れる感触を覚えて逝け。こ れ は 罰 !…貴様への精々もの手向けよ。
骨まで砕けて行く音を頸の中に聞きながら己が末期を悟り罪を贖え、
貴様は生きていなかった。─それで良いのだ。」
「────────」
処刑がなされようとする間際、無慈悲な執行者の身の周りから再び異音が響き、背面離れの左右斜めへナスカが倒れ込んだ。二人同時に命を投げ出して燈王を不意討ちしたものの、首無竜の不可視の障壁「斥雲」によって触れる事も出来ず跳ね飛ばされたらしい。即座に体勢を立て直す二人を燈王は諫める。
「王の戦いの場と言ったのもまだ解からぬか!臣下は控えているが良いっ、」
「───フ、フフフフフ@、」「フフフ……もうさあぁ、~何かもう…@今更なんですわ。」
「……、」
「緑の第四王子が生きている。緑の復権のため力を蓄えている、その時点でっ~~」「後戻りなんて出来ないんですよナスカわあっ*!」
下唇を噛み締め恨めしそうに燈王を見上げる、腹違いの双子は打ち震え瞳に悔し涙を滲ませていた。自分達の力だけでは到底太刀打ち出来ない事など百も承知、でも、
「殿下御一人だけの意志じゃないっ、亡き王妃様に縁ある限られた家臣達の想いがあって私達は今ここに生きてる!」
「この生命を繋ぐため生命を賭した者達に、私達は報いなければならない!」
「それが私達の背負った宿命!」
「それが私達の進む道!」
「「~~敵わぬまでも、せめて一矢!!←←←」」
かつて直面した時と同じく二人背中を合わせて横に燈王を見据え、握った互いの拳を標的へ向けて一気に間合いを詰めた。一丸で激突する勢いだったがその気配は直前で大きく爆ぜる。すると夢か幻か、燈王を取り囲むように無数のナスカが姿を現し、全方位から一斉に燈王へ殺到した。
くぐもった振動と静止する三つの人影、燈王は二人の捨て身の攻撃を一身に受け止めた。猛禽類の脚爪のようなナスカの掌底は燈王の肋の右下と背面腰上の左右を確実に捉えていたが、ダメージに顔を歪めたのは攻撃した彼女達。燈王はビクともしない、硬直する二人を片腕一本でまとめて地面へ払い倒した。
「「★××あっぐ!卍!!~~~、」」
「『天墜』か。自らの気配を肉体より分離し相手を惑わす煌闇精の骨頂、確かにあれでは天も地も分からぬな。寸分違わぬ二人同時攻撃ならば相手の虚を突き充分効果も見込めよう、見事だ。↑だが忘れるなっ、俺は『燈王』!そんなまやかしなど 通 用 せ ぬ わ あ あ あ あ あ あ っ!!
…俺は元来、肉を喰うのは食事の始めと食事の後と決めているのだが───」
「──?」「──…、」
「しかし貴様達が此れ程まで死王に執着し、報いるだの何だのと駄々を捏ねるのであれば致し方あるまい。先ずは、貴様達を解らせてやるとしよう←……」
「「★卍★卍卍?!!」」
横たえる全身の激痛を堪え何とか両腕で半身を支える彼女らの額から血の気が引く、悲鳴も上げられず恐怖に目を見開いた。足が震えて後退る事も出来ない。このような事になると覚悟が無かった訳ではない、お嬢達ガノエミー一家の支援があれば戦いに勝てる、仇敵を退けられると信じていたそれが叶わない絶望に喰われてしまったのだ。
燈王は死王の首を捕らえたまま暗夜の捕食者の如く目玉から十字の光を放ち彼女らへ迫り来る、剥いた歯の隙間から興奮に白熱した息が立ち昇った。ムッハアアアアアアアアッ、
「───我侭を言うのは」
どの口だ───
その台詞を口にせんとする燈王はいつの間にか視界を何かに遮られていた。あまりにも唐突に。
口に違和感、いや、口内に異物感。これは生命の危機、
「!×★★卍!?×★卍〒◆?卍!!!」
何が起こっているのか理解出来た者は誰一人としてその場に居なかった。燈王の顔のあった部分がそっくり怪しげな黒い塊に差し替わっている。如何なる者の攻撃にも動じない傲岸不遜なあの男が、みっともなく狼狽え全身で筋肉を振るわせて頭部に蟠る異常事態を命辛々かなぐり捨てた。
捨てられた黒い何かは地面に叩き付けられるかと思いきや小気味よい音を立てて着地する。上に伸び上がると前へグンニャリ折れ曲がり、舌を出して嗄れた高い声で悪態を吐いた。
「★ぐええ!××ぐええええっ!不味×~不っ味!!辛い辛い!ぐえええええっ××!」
「「★☆?タタリっ?!?」」
突拍子もない現れ方をしたのはメリーベルの屋敷で留守番をしているはずの口だけオバケ2号、タタリ・アマガミだった。黒い塊のように見えていたのは普段身に着けているメイド服のせい、黒髪を振り乱しながら後ろへ転げて顎の下を掻き毟り、両手で首許を押さえマズいカラいと右へ左へのたうち回る。
そんなタタリを見て隠密プロのザクレアとユーディーは呆気に取られた。持ち前のステルス性能を発揮して自分たち黒ワインの一行に付いて来ていたものか、助太刀のつもりか。燈王があれだけ取り乱すとは一体何をした?不味いも辛いもまるで分からない。
何をしたのかを知る唯一の男は口から血をしとどに滴らせながら大いに戦慄していた。
(★卍★卍★卍!!~~一瞬でも遅れれば『舌の根を噛み千切られていた』っ!この俺が全く気取れなかっただと?!これは暗殺術か!?こんな気味の悪い術は前代未聞っ×、暗礁密林のモノでも大陸のモノでもない!身の毛がよだつわ卍卍、~バケモノがっっ。
───!…この俺が…恐怖するだとっ??この俺が……?まさか→、あの面妖も…フォースの手下だと言うのかっ?!~~~~↑↑)
「小癪な妖怪めえええ!よくもこの俺ををををををををををっ!!!←←」
「××辛い!がらいっっ×!ぐえええっ×←ぐええええ→*!!」
「↑↑あんた達ーっ!今すぐそこから離れて!!」
「「★☆!?→→→」」
けたたましい女主人の命令。切羽詰まったミーシャの声に突き動かされ、ザクレアとユーディーは反射的に跳び上がり疾走する。屋上の出入り口では男の襟首をフン掴えた喪服姿がもの凄い剣幕で相手を放り出していた。
「一家の顔に泥塗るつもり?!↑↑とっととヤんなさいヤクザ屋あああああっ!!!」
「★★!うひいいいいっ×!?どうなっても知らねえからなっ!?!←←」
鬼気迫る黒ミーシャに恫喝されているのは濃霧の1階入り口で待機していた見張りの片割れである。屋上での事情を知らないヤクザ者を燈王へけしかけようと、ミーシャはわざわざこの男を下から問答無用で引き摺って来たのだ。最早あの変態筋肉に対してはライフルが撃ち出す弾丸の威力ですら心許ない、ミーシャが必要としている物は決定打たり得るもっともっと強力な武器。ガノエミーの見張り役がひいひい喚きながら燈王へ向けて放った物、それは、
「あたし『戦争』って言ったでしょ、」
ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォーーーーーンンッ、
もうメチャクチャ。驚愕する燈王の姿を真っ赤な爆炎が覆い、衝撃と共に屋上は吹き飛んだ。階下で見張っているもう一人の片割れは雷がまた落ちたと慌てふためいている事だろう、爆発したのはこのビルに突破口を穿つのにも使われた爆発物である。ひとっ跳びでタタリを回収しミーシャの許へ舞い戻ったザクレアとユーディーは、崩壊した屋上部分が生々しく煙を上げる様を目前にして口をあんぐり開けた。そんな彼女らの立つ場所も続けて崩落し、ガノエミー一家ともども全員が下の階へ落っこちるハメに遭う。
生粋のお転婆娘であるミーシャは一人だけひらりと鮮やかに着地するが、ザクレアとユーディーはタタリを道連れに漫画よろしく頭から真っ逆さま。痛恨の顔面ダメージにめげず立ち上がり左右から喪服姿へ詰め寄った、何だかんだタフな姉妹だ。
「←@ちょっとおおお嬢何してくれてんのー!?」「←~爆発で吹き飛ばすとか正気ーっ?!」
「~↑ああでもしなきゃ打開出来ないでしょーがっ!それよりあんた達っ、あれだけ言ったのにあたしが居ない間あの筋肉男に突っ込んで行ったでしょ!タタリまで連れて来るとかどう言う事!?何させたの×!二人とも後で覚えてなさいっ!
×→──←──★ジェズっ、ジェズ何処よ!?捜して!早く!!」
彼女らの降り立った場所は当ビル4階にある社長のプライベートの大浴場、崩れ落ちた天井の残骸がいい塩梅に天然の露天風呂を演出している。ジェズは浴槽の離れでぬるま湯に半身を浸かり、湯槽の縁へ頭をもたげていた。身に付けていた衣装は服の原形を留めておらず、今の彼はほぼ褐色全裸で全身煤けて黒ずくめ。燈王の咄嗟に展開した障壁と爆発のコラボが泣きっ面へダブルパンチである。
一方ジェズから瓦礫を挟んだ対面では燈王がマントを振り払い、しかめっ面で口元を拭いつつ浴槽から上がろうとしていた。
(~~~人間相手に爆発物を投げて寄越すとは×。武器の力で物を言わせるか、~流石は脆灰よ。気味の悪い暗殺者と言い、間近のあの爆発をよくも凌げたと俺自身が感心するわっ卍卍。)
感心は尤もだが、チート武器で自分だけブーストしている輩が何を言わんや。
(…呪珠があるとは言え、水に浸ってでは首無竜の力が散ってしまう×。よもやそれを識っていて屋上の爆破に及んだのではあるまいなっ。これ以上余計な横槍を入れられる前にフォースを止めねば。~己い!次から次へ手を変え品を変え小賢しいっ~~~)
「ぇえぇええい!←死王っ!→死王は何処だあああああああっ!!」
「★←殿下ああああっ×!!ちょっ…→さっきの人!あれっ?~~ヤクザ屋は、」「ヤクザ屋~~…☆!居たヤクザ屋さんっ、←もう1回!さっきのもう1回、ドカーンってやってよ!!」
「@★×馬鹿言うな姉ちゃん達!手持ちの発破なんざもう無えっ!勘弁してくれよ×!」
「「×?×そんなあああああああああっ卍!!」」
「↑ 僕 よ、立 ち 上 が れ !!」
「「★☆っ?!←」」
高らかに上がった女主人の声の方へナスカが慌てて振り返る。満天の星空中央に輝く満月の光の下、切り立つ瓦礫の上で喪服姿が帽子のつばを片手で押さえながら静かに佇んでいた。お嬢どうしたいきなり恰好付けて、まだ秘策があるのか、殿下はあんな状態でとても動けそうないのに。
「そこでお前は何をしている?
仇敵の手に掛けられるのをただ待つか、そのまま潰えてしまうつもりか?!
忘るるな!! 今 ま で お 前 は 何 を し て 来 た っ !!
お前の身体は何で出来てる?お前の生命は何で出来てる?!
お前の宿命は既に……お前一人だけの物ではないのだぞっっ。」
「──────────────……っ、」
「殿下……」「お嬢…」
「★←←あんた誰よーっ!?!」
「「────??え、→」」
お嬢の素っ頓狂な声が別の方から聞こえてぎょっとしたナスカが振り向く。そのすぐ傍でえずいていたタタリも横へ顔を向ける。彼女らの視線の先、少し離れた自分達と同じ床面に喪服姿が肩を怒らせガニ股ポーズで立っているではないか。お立ち台の上から檄を飛ばして速攻で降壇したのか、当然そんな訳がない。
────────この場に喪服姿が「2人居る」──────────
あんた呼ばわりした方は勿論黒ミーシャ、なら呼ばれた瓦礫の上の喪服は一体何者か。ミーシャは見た、知っていた、それは自身の胸の奥底に深く刻み込まれていた。僅かに開くベールの昏い隙間から垣間見えたのは艶を帯びた薔薇のような真紅の瞳。まさかそんな事が、あり得ない。激しく動揺するもミーシャは確信した。そう、あの喪服姿は、
「★★!その恰好、お姉様なんかじゃないっ×!
あんた、…正真正銘~~~↑↑っ『本物』の『ブラック・ドゥー』ねっ!?!!」
驚天動地、その一声で世界が豹変する。
王の決闘の場と言う魔法陣が崩落した穴の底、瓦礫の埋もれる水辺に圧倒的な存在感を以って暗礁密林そのものが降臨した。まるで丈の高い原生林が鬱蒼と生い茂るド真ん中へ叩き落とされ、分厚い暗緑の巨影に呑み込まれてしまったかのよう。時空の歪みを彼女らは体感する、巻き込まれたガノエミーの野郎共は本物の伝説を前に恐怖する。常軌を逸したこの状況を支配しているのは正真正銘「闇の巫女」、虚勢を張った偽者から指を差されると紅い瞳がベールの裏で嗤った。
「…覗き見のお嬢さんか。」
「★#×?!」
「久しいな、黒一色に粧し込み斯様な場所で何をする?」
「……っ~こ、←こっちにはこっちの都合があるのよ!ぉおぉ同じ恰好のクセに何言ってんのっ?
~~ぁ…あんたこそ、こんな所に何の用よ?!」
「『私はずっと見ていた』。何時でも、何処からでも。──その意味がお前には解かるな?」
酒蔵の果樹園に訪れた彼女とジェズの会話を陰から覗き見していたミーシャは、自分達も喪服の女主人から継続して監視されていたのかと言う疑念と不安を抱く。方法は分からねど不思議な力でそれがなされていても不思議ではない、喪服の恰好から本来の闇巫女の姿へ肌色と紋様まで華麗に変化する不思議をミーシャはその目で見たのだから。
本物のブラック・ドゥーはぞんざいな口調で話を続けた。
「大陸がどれ程醜い争いで穢れようと我にとって取るに足らぬ出来事。しかし、それが暗礁密林所縁となれば話は別、事の貴賤・大小を問わず到底看過の出来ぬ由々しき事態……我は其れが故直ちに遠方より馳せ参じた次第だ。
時に、例の『ホワイト・レディー』は居らぬのか?」
「★!」
(~お姉様かっ、)
「───居ない。!いや←あたしよっ、今のあたしがあいつのホワイト・レディーよ!」
「成程、→相解った。
しかし、@一体如何なる星の巡り合わせだろうな。我ら『ズクメノミコに連なる者』が此の時此の場所へ一同揃うとは。世の中不思議なものよ。」
「……?」
「さて、それはそれとしてだ…─────」
突如大気が騒めく、周囲に満ちる精霊達が小刻みに振るえている。この暗礁密林に囚われた誰もがそれを把握させられた。静寂なるも苛烈で激しい怒りが冷たい霧の如く無情に吹き下りて来る。
「征するため生まれる『燈王』よ。虹族ナパンティ第二王子、ブンドド・ヰ・ナパンティ!
『 お 前 は こ こ で 何 を し て い る ? 』」
「!★卍→っ!?」
いきなり白羽の矢を立てられた第二王子はあまりの恐ろしさに目を見開き肝を潰した。自慢の鋼のメンタルに実は衣が存在し、あっさり剥がされ出て来た中身が思いの外柔らかかった事に衝撃を受ける。もう一人現れた喪服姿から名指しで詰問される事が嫌で嫌で仕方ない、逃げられない抗えない。
(卍卍~…真名を以って呪縛が掛けられたか?何故あの女は俺の素性を知っているっ、~この燈王がこんな感情を呼び起こされるとは↓。脆灰の小娘がほざいた世迷い言は真実とでも言うのか?どう見てもシルキッシュではないかっ。それが「本物のブラック・ドゥー」だと?!……まさか、~そんな馬鹿な事がっ卍……
×もし真実ならば相当に不味いっ×、死王が生きているなどと闇巫女に知られたら卍卍!)
「~~──この場のこれは……言うなれば我らの『催事』に過ぎぬっ。何処の誰かは知らぬが興を削ぐような真似は」
「虚言を吐くとは豪胆だ。刮目せよ燈王、口 ヲ 利 ク ノ ハ 誰 ゾ ッ ! ?」
「★★★待たれい闇巫女っ卍!!~~~
ぃ…委細は申し上げられぬが、虹族に或る……『過ち』があった。×←我はその過ちを正そうとしている、それは確実に正せる!確実にだ!!──我が部族に不穏な事象は存在せぬっ、だからどうか!この場は不問に伏してはくれまいか……」
「ほぉう。──過ちを正すとは…『私の愛弟子を嬲り殺す』と言う事かっ?!」
「★?弟っ子イイイっ!?」
弟子と言う概念、喪服を本物の闇巫女と認めたブンドドはへの字口で歯を食い縛る。概念の新鮮さはナスカも同じ、隣りの姉妹を傍目に見合った。彼らにとって闇巫女など暗礁密林の三大精霊ズクメノミコは所謂「精霊憑き」のような存在であり、生まれ変わりで代替わりする者と考えられている。但し、実例が確認された事は無く今後されるはずもない。
「真、現世とは御し難く精霊以上に計り知れぬものよ。導かれて訪れたは良いものの、可愛い義弟が虐められている場を目の当たりにするとは。幸か不幸か……」
「←死王は死なねばならぬっっ、其れが掟!暗礁密林への虹族が確約!!我は」
「もう良い。掟に忠実たろうとした、お前は正しい事をしようとした。私はそう判じよう、」
「…ぉおおっ#、」
「然りとて────────『ブラック・ドゥー』が、どう思うだろうなぁ・・・」
「──何?」
言葉の意味する事が燈王に分からなかった、闇巫女ブラック・ドゥーはお前だろう。
ガノエミー一家の連中にも分からなかった、伝説のブラック・ドゥーはお前だろう。
ザクレア・ナスカもユーディー・ナスカも、ホワイト・レディー代理も分からない。
タタリも分からないが本人にとってはどうでもいい事、ただ何かが腑に落ちている。
この場に自分達の居合わせる、そもそもブラック・ドゥーがここへ訪れたその訳は、
「↑↑ 僕 よ ! 唱 え よ !!
光 あ れ ば 闇 あ り。
現 世 の 理 象 る 境 界、死 を 以 っ て 生 を 成 す。
闇 よ り 出 で て 闇 よ り 昏 き、闇 を 祀 る 闇 の 巫 女。
其 は 我 な り 其 は 我 な り。─────」
ヤドリの使い手であれば唄の意味は解かる。しかし謡われる意味は分からない。
その唄をジェズの唇が密かに呪いの言葉へと換えて行く。唱えよとの主の命だ。
「Hiirka airmi aayr aeb...
Uitaskuus oh yikyuorn oodkaott aokwiar, suh si awnoo mwo it etse...
Yiak mair yuokr iiri odye itmeay, yoak mi imwoonm iamt as yuur...
Si or haan wear ra ew naah rois. ─────」
───… ド ッ ク ン ッ …─────────
半身を浴するジェズを中心に無数の不自然な波紋が水面を滑る、拍動が宙を伝播する。ジェズは俯いたまま覚束ない挙動で立ち上がった、尋常ならざる暴力に打ちのめされたその身を引き摺って。現れた裸体は淡い月の光の中で微かに霞む、幻想的な陰影。
異変は止まらない、暗い影の落ちる褐色の肌がみるみる白へと変じて行くではないか。それを追うように黒光りする鋼の如き黒い紋様が体表を這う。ミーシャの不安は加速した、あの意匠あのコントラスト、ブラック・ドゥーの当にそれ。胸から響く自分の心臓の鼓動が喧しい、おかしいおかしい、
(×おかしいな……肌、白くなってない?…ぁあれ?ジェズって、あんなに肩幅…狭かったっけ?光の加減かなぁ、何か…腕、細く見える。気のせい、──ジェズ…痩せた?@急に何かウエスト周りが、キュッとしちゃってさ。ぁあれ…あれ??あたし、眼が疲れたのかな@、お尻周り……大きくなったような?え×、ちょっと待ってよ!)
そして決定的な事象に自ずと眼が行ってしまう。彼に有るべき物が在るべき所に─────
「#★↑ジェズじゃないっ×?!!あんた」
誰と叫び掛けたが彼女は声を喉に詰まらせた。彼が面を上げると深緑色のはずの双眸が怪しげな紅い光を放っていたのだ。爛々と輝く瞳ばかりがとても大きく、太いはずの眉や鼻筋が細く見える。小さな唇も顎の輪郭も彼のようで彼ではない。ショッキングな情報で取っ散らかったミーシャの脳裏に聞き覚えのある声が響いた。
《死なせはしない─────────》
「★★!??!」
「↑L a a a a a a a a a a a a a
a a a a a a a a a a a a a a a h h.」
「☆この声っ★×、───やっぱり←あの病院の時のっっ!?!」
何処か切なげで幼い声。仄かに吹き始めた風に乗り、邪気の無い澄み切った美しい声が世界に木霊する。声の主は今までずっと彼と一緒に居たのだ。彼が感じる世界を何時も一緒に感じて、唯々彼の事を一途に想い見守り続けて。
その「彼女」が、とうとう現世に姿を現した。
「★×★×?ふオッ…~~フォースがっ、ぉおお『女に化けた』だとおおおっ??!」
「←鬨を揚げられたぞ。応じぬのか?虹族第二王子、」
「×××や……闇巫女よ、くっ×…これはっっ@!これはどう言う事だ?!一体何が起きていると言うのだっ★??!」
「一皮剥けたのさ@。その機運が間近に迫った事を悟った私は、顛末を見届けるため『用事を放り出して』こんな処にまで足を運んだと言う訳だ。社会で学びたいと言う義弟を暫くの間自由にさせていたが、死王の動向如何によっては虹族の存続を判じねばならぬ処でもあった─────」
「卍卍~~~~~↓。」
「それにしても、第四王子の成長を促した契機が同じ虹族である燈王の手に依ってとは……如何して如何して、愉快な話ではないか。」
「化けの皮が剥がれたと言うのかっ?!彼奴はっっ…~~四人目の王子ではなかったと??!」
「ジェズワユト・ウ・ナパンティが虹族緑の第四王子である事実に変わりは無い。が、今あそこに居る者の本性はそうではないな。
あの娘は私が手塩に掛けて育てた最愛の弟子、───ブラック・ドゥーの継承者よ!」
「★×!闇族の他に闇巫女のおおおおおおっ?!?!?」
「!ユーディー、」「…うん。そうだね、」
「どうしたのあんた達?」
「私達は聞いた事があるんだよ、殿下の生まれた時の事。」「殿下も知らない事、私達だけ。」
「それで…どうしたの?」
「話を思い出したんだ。生まれた時の殿下は肌が真っ白だったらしい。」「瞳が大きく真っ黒で産声も上げない、だからとても生きているように見えなかったんだって。」
ミーシャは表札の無い病院で直に見た事がある、自分達シルキッシュよりも飛び抜けて白い肌と黒い瞳をしたジェズを。きっとあの姿が彼の生来の姿、すると今の姿は、
「つまりジェズって、……~@×%▼女だったって事ーっ???」
「×そんなはずない。四番目に生まれたのが女の子なら、第四王子だ死王だの面倒臭い事とそもそも関係ないじゃないか、」
「@@───第五王子の陰謀…とか?自分の前に生まれた子が男になれば」
「まだ生まれてないじゃん×。まぁ、……その辺の話はまた…」
「@×じゃあアレは何よ★?完全にオンナじゃないの!」
「って私らに訊かれても!」「★ちょっ、二人とも見て見て!殿下の夜魔の爪が!!」
鉄琴にも似た透き通る音が立て続き、巨大な大爪は巧緻なガラス細工の如く砕け散った。きめ細やかな無数の結晶が周辺に舞い拡がり、白くて細いその身体を煌めきで彩る。しかし爪は無くならなかった。粉々となった凝血塊の中から現れたのは更に巨大な五本の爪、ジェズが自らの血で成した物よりも大きい黒い爪が右の手首から生えていた。そこだけが墨を塗りたくったかのように真っ黒で形を立体的に捉えられない、存在感が無い。その存在の無さに周りの存在が遍く掻き消されてしまいそうな得体の知れない不気味さを感じる。彼女がブラック・ドゥーの継承者なら、あの不気味は正真正銘の「夜魔の爪」。
その彼女が声を発した。
「第二王子。橙の燈王よ─────」
「★卍★ぐうっ?!」
「お前は第四王子の物である呪珠を隠し持っているな、それを返してもらおう。」
「~~~第四王子は死王、死んでいなくてはならぬ。死王が呪珠を手にする事など有り得ぬっ。」
「それらの台詞は聞き飽きた。─返さないと言うならこの手で取り戻そう…」
表情を曇らせ寂しげに左手で右腕を抱き寄せる。胸元も完全に女性のそれ。
「どの道、お前はこの男を亡き者としようとした。私はそれが── 赦 せ な い 。」
「★★#卍卍?!!」
「私は、お前を裁く!
↑L a a a a a a a a a a a a a
a a a a a a a a a a a a a a a h h.」
「★☆ぐっっ×、ぐごごごご@↑↑ゴ ル ル ル ア ア ア ア ア ア ッ ッ!?!」
「カトゥウウウウウウウウウッ←←← シ ャ ウ ッ ッ !!」
「★卍★卍★卍→→→!!──────────────」
水銀で出来たシルクのような黒光りする髪を靡かせて黒い紋様の走る華奢な白い身体が宙を舞う。体勢ままならない燈王に一瞬で肉薄すると、前髪の隙間から深紅の眼光を覗かせその身に不似合いな巨大で黒い不気味を上から振り下ろした。息もつかせぬ急襲を燈王は本能で火事場の糞力的に回避する。水を嫌って足場を洗い場へ陣取るが、浴槽より狭く障害物もあって足回りは良くない。どんどん不利になって行く。
(××~~何とか躱せたが…あれは不味いっ、絶対に当たる訳には行かぬ×!水場に立っていた事もあるが、俺の斥雲が…切り裂かれた───~いや、斬撃部分のみ「解かれた」か×?この第二王子が厳霊の肋で首無竜の力を増しているのだぞ!?──あれが闇巫女ブラック・ドゥーの真の夜魔の爪と言う事かっっ。)
「↑グハハハハーーーッ!!人の皮を被った化け物がこの燈王に触れる事能わずウウウウウッ!水に足を浸かっている事が貴様の運の尽きよ!我が厳霊の肋の雷撃、思う存っ分っ↑食ーらーうーがー良いわああああああああ←←!!」
↑↑ガラアアアアアアアアアアアッ!!ゴロオオオオオオオオッ!!ガラガラガラガラアアアッ!ゴロオオオッ!!バシバシバシイイイイッ!!バチバチバチイイッ!!!ビシイッ、バシイッ、ぱちっ、
「★★!×?!!」
少女の姿をした化け物へ翳す燈王の腕が眩く輝き凄まじい電撃の嵐を放つが、熱と輝きの奔流は燈王へ翳された黒い大爪の掌の中央に悉く呑み込まれてしまった。自然現象における雷の落ちる大体の仕組みは本邦でも一般的に知られている、発信元も大概だが、大気を劈く程の強大な電気エネルギーは一体何処へ行ったのか。ナスカの二人に護られつつ眩しさを堪えていた黒ミーシャは不安を更に募らせる。黒くて巨大な不気味を振り回す魔性に無性に恐怖を掻き立てられる。
それは燈王も同じだった。身体中からもうもうと湯気を立てて危うく膝を崩しそうになる。大口を開けて息を出し入れする内全身に気持ち悪い脂汗を滲ませた、こんな事はあり得ない。
「………ばっっ×~~~★卍★卍↑↑馬ああ鹿あああなああああああっっ卍卍!!?!」
「夜魔の爪がこの世の全てを断ずる。─私の裁きを受けよ、燈王。←←」
「×卍卍はぁあああ!はぐっ→←はぐああ→←◆%◎〒×?!?!」
「カトゥウウウウウウウウウッ←←←」
愛弟子の仕上がりに満足したのか、義弟の成長振りに安心したのか。喪服の麗人はベールの裏で少しだけ微笑み、片手で帽子のつばを抑えると踵を返してその場を後にする。その気配を唯一察したのは口内をぺっぺとさせていたタタリだけだった。
「シ ャ ウ ッ ッ !!」
「★★★↑↑ぐぅうううおうぅううぼれわあああああああああぁあぁあぁあっっ卍!卍!!」
野太い断末魔の叫びと共に仰々しいマントは散り散りとなり、俄かに浮き上がった燈王の大きな背面が露わとなる。上半身に鎧う橙の数珠「厳霊の肋」は発光を止め、シャンパンガーネットの原石で出来た彫刻のように鎮まっていた。引き延ばされた時間の中で燈王の巨体は仰向けに倒れ、落雷の如き衝撃を周囲へ轟かせる。その陰から全裸の少女が黒き大爪を天へ掲げている光景が見えた。爪が周りの風景に溶け込みこの世から消え失せると右腕は静かに下ろされる。
この場を現実世界から隔絶していた暗礁密林も今はもう無い、彼らの戦争は終わったのだ。
「────────────────────────────────」
大の字の燈王の前で佇む少女を見詰めながらミーシャは想った。
大変な事になった。後戻りは出来ない気がする。この先どうすれば良いのだろう。
自分は、酒蔵メリーベルは、そして彼は。
肌寒い晩秋の夜の空。星はさして瞬かず、天頂の満月も今は何処かひっそりとしていた。
やっと、よ~やく登場させられましたorz。
…この物語の主人公は「女の子になる男の子」だったんです。
最近は特に珍しい特性でもないですけれど。
話の中に早く出したかったんですが、それまでの過程が無駄に長くてですね×…
登場人物が行動する切っ掛け・成り行きを書き出さない事に話は進まないんですが、
なーんかテンポ悪くてダラダラしちゃうんですよねー。
かと言って端折った所で時系列に出来事が並ぶだけで歴史の教科書みたくツマんなくなるし↓。
散らばってる観たい事柄を搔き集めてムリヤリ話を纏めてみました。これで漸く先に進める!
学園物の定番「文化祭」のシーンをすっ飛ばしてしまったのが痛い所×、
何とかネジ込んで行きたいなぁ。
次回からは学園プラチナプラタナス以外の学校が出て来ます…




