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招かれる者共、それを知らぬ者

2020/03/20 漢字表記を微修正しててその

--------

夏の時点でおちゃらけ回を書いてました。

何かコレジャナイ感が拭えなくて先に進んだら時間食った次第。

ここまで来たら区切りまで行くしかない。

…私小説って気楽でいいですね。プロの人達は大変なんだろうなあ。

■■■ 招かれる者共、それを知らぬ者 ■■■


 日曜のよく晴れた昼下がり。時折そよ風が吹くものの日差しは強く、日向に居ると身体のあちこちが少し汗ばむ。いよいよ夏到来の何処か高揚感が漂う、首都テーブルターニングのショッピングモールは買い物客で今日も賑わう。


 人々の行き交う中、店先の日陰では私服姿のウィルが腕を組みながらガス灯に背中を預けていた。真新しい青のスニーカーにカーキのハーフパンツ、水色シャツの両袖を捲り胸元までボタンを外した、彼にしては珍しくラフな恰好。これであどけなさを残す金髪碧眼のイケメンと来てるから自然と道行く女性達の注目が集まる訳である。当人もその自覚はあるのだが、慣れっこなので全く気にしていない。そして無自覚に人目を誘うような仕草をしてしまう、その人目は勿論女性のものだ。


「───んー…」


 組んだ腕を解き時計の針を気にすると、その目を横のショーウィンドウに移してまた腕を組む。彼はさっきから只管このルーチンを繰り返している。ドアの開く気配を察知して身を起こしては、落胆してまた柱にもたれ掛かった。今の彼は時間が勿体なくて仕方がない、待ち人来ず。


「お待たせ、」

「!──────アン?」

「何で疑問符?まぁ、変装について問題は無いって事ね。」


 待ち人現る。店から出て来たのは彼と同じフー・セクションの実習生アンである。

 こちらも珍しくカジュアルに着飾っている。伊達眼鏡まで掛けて一体如何なる心変わりか。


「だから変装用だし、」

「え?うん、そうだね。」

「本当はこう言う恰好あまり好きじゃないのよね、『こんなのは私じゃない』っ。」

「力説する事かい。充分似合ってると僕は思うよ、普段の恰好なんかよりずっといい。」

「ありがとう。─と言っておくけど、軽~くディスってるよね今のっ。ウィルは私の事ちっとも解かってないと言わざるを得ない。」

「×何だい藪から棒に。ちゃんと褒めてるじゃないか、」

「別にいいか→、ウィルに見て貰うための物じゃないし。」

「─その言い方は無いんじゃないか、」


 何だ痴話喧嘩か。人々は彼らのやり取りに好奇の視線を向けるが、それは続いて店から出て来た人物が一瞬で独り占めしてしまう。


「お似合いですよ、アン先輩♪。」

「ありがとう。あはは…」


「☆リュアラさん←、やっぱり頼んで正解だったよ!彼女体型はともかくセンスに恵まれなくてね、そのくせ僕が服を選ぶのはイヤの一転張りでホトホト困ってたんだ。本当にありがとうっ♪。」

「良かった。モデルみたいなスタイルなんですもの、色々と服の選び甲斐があって楽しかったです。」


 彼らの一つ下の後輩、リュアラ・メリーベルである。白いつば広帽子と袖なしワンピースにワインレッドのポーチとパンプス、首許には鈴蘭の花を模したシルバーのネックレスを輝かせている。透き通るような白い肌、風に靡くレモン色のロングヘアー、コバルトブルーの瞳、端整な顔立ち。身の上こそ片田舎の豪農留まりではあるが、気品あるその佇まいは古の由緒正しき貴族にも決して劣らない。

 彼女は久々に顔を合わせたウィルの急な願いから、アンの服選びを手伝うため彼らに同行している。周囲の視線に気付いた一行は、紙袋をガサつかせそそくさとその場を後にした。


 ウィルとリュアラ、先輩と後輩としての間柄で会うのは確かに久し振りである。

 しかし、異なる身分としてなら話は別。即ち「魔法警察と黒ワインの淑女」として。

 銃弾の雨霰(あめあられ)に幕を閉じた夜霧の工場町での大乱戦からほぼ一週間。


 当事者達にとっては大変な事件だったが、朝刊に軽く報じられた程度で巷間の話題とはなっていない。警官が絡んでいる以上、情報操作のあった事は明白である。


「うん、こうなると小物類もあった方がいい。」

「ねぇウィル、」

「何だい?」

「今日の買い物…これちゃんと経費で下りるよね?」

「何回訊いたら気が済むかな↓。下りるよ、但しそれも成果次第だ。」

「自慢じゃないけど私けっこう貧乏だから。」

「僕だって同じ貧乏さ、自慢にもならない。」


「─────────」


 リュアラがウィルの嘆願を聞き入れたのは、自分達の正体が彼らにバレていないかを確認するため。そしてバレないよう印象付けをするためである。今日のファッションは彼の好みを考慮し、滅多に付ける事の無い香水まで用いるほど気合いを入れていた。今のところ怪しまれているような気配は見受けられないが、彼はボロの怪人をジェズだと疑ったままのはずである。


「どうだろう?リュアラさん、」

「★違いますっ。」

「え?」

「!──ああ×、いえそのっ…ええ、小物類。そうですね、頭には何か被られた方がよろしいかと。」

「だよね。アンみたいな髪は目立つし。」


 彼女の髪の色はマリンブルー、この世界に少なからず存在する色だが珍しいと言う程ではない。しかし元々が美人さんであり、マリーゴールドの瞳の組合せも相まって普通に人目を惹き易い。フー・セクションの制服を着ている時ならコスプレ風に馴染みもするが、普段の台無しファッションを決めようものなら、その()()の不調和に通りすがりの全ての人が自らの意思と関わらず彼女の姿を否が応でも記憶させられる事だろう。

 今の彼女は紺と臙脂(えんび)のチェック柄のシャツに、青系の淡いアースカラーのノースリーブジャケットとキュロットスカートを合わせ、サフラン色の紐付きブーツ、細いフレームの眼鏡で防備を固めている。彩りをいい具合にガチャつかせられたものの、平準化にはもう一押し欲しい。


「~ぁぁぁあああっ、着替えたい!落ち着かないっ×。何処か着替えられそうな場所ないかしら、」

「何を今更、アンも往生際が悪いな。本当なら今すぐにでもその恰好を活用してほしいくらいなんだ、慣れておくれよ。」

「はーぁ↓。…ジャージの真の素晴らしさについて、ウィルは知っておくべき事がまだまだ沢山あるようね。」

「あはは面白い事を言うじゃないか。文化祭なら秋半(あきなか)だよ?夏はまだまだこれからだってのに気合いが入ってるね、ウィットに溺れてしまいそうなそのトークでどれだけ観衆の笑いを取れるか今から楽しみだ。」

「~ほーぉん↑……」


(ウィル先輩、相当不満をお抱えね…言葉の端々から煙が立っているわ↓。アン先輩のあの恰好を見たら気持ちは分からないでもないけれど───高等学部の頃からあんなに……あそこまで?ポンコツなジャージだったのかしら、)


 実習生二人にはとても貴重な無沙汰の休日、しかし今日の服選びはあくまで変装が目的。当然ながら魔法警察の捜査のための物と考えよう。仕事熱心大いに結構、しかしリュアラはその話題に触れる事を敢えて避けている。もの分かりの良い娘を装っている訳だが、彼女はウィルから余程の信用を勝ち得ているのか、頼みもしないのに向こうからベラベラと内情を聞かされてしまう。相手は見習いとは言え魔法警察、ここは知恵が必要だ。


(探りを入れられているのかも知れない。油断は禁物…)


「やっぱりな。」

「★はいっ?」

「え?──あぁ、以前ここに帽子屋があったんだけど、あんまり人気が無くってね。いずれ店を畳んじゃうんだろうなあとは思ってたんだ。他を当たろう。」

「あぁ、はい…」

「そう言えば、」

「★はいっ!?」

「お腹空かないかい?そろそろいい時間だよ。」

「!───ぁああ…そうですね、もうこんな時刻。」

(××緊張してお腹なんて全然……空かない↓。)


 ウィルとは工場町で直接会話していただけにどうも話を切り出しにくい。服選びの最中はアンから何かしら情報を得ようとしていたのだが、結局アンのペースに巻き込まれ何も出来ず終いだった。


「ねえウィル、」

「何だい?」

「私はパイが食べたい。」

「パイ~い?」

「スターゲイジーパイ。」

「ごめんそれはもうおわっちゃったんだ。それじゃパスタを食べに行こう→。」

「←ちょっと待ちなさい。何それどう言う流れよっ、」

「←君のそのチョイスを聞いた100人中120人が間違いなく僕と同じ行動をするね確実に。何だってそんな物食べたがるんだ、」


「──────、」


 話題を振りにくいのは理由がもう一つ、ウィルとアンが思っていたより親密な事である。ストーカー騒ぎの時は密着するウィルの警護にウンザリしたものだが、今日は適度に距離が保たれている。と言うより、アンとの仲が睦まじく疎外感すら覚えてしまう程。ぶっちゃけ彼らのデートを見せ付けられているような気がしなくもない。それならそれで別に構わないとも考えるが、いざチヤホヤされなくなると少なからず思う所は有ったり無かったり。

 何だか普通に愉しくない、眉をひそませてはその真ん中が力まぬよう涼しい顔に努める。


「あの……私、お店に心当たりがー…」


「小説で読んだのよ。届け物としてそれを渡された女の子が好きじゃないって言うんだけど、何で好きじゃないのかまでは言わないから理由が分からなくて、それで」

「大概分かりそうなものだが。」

「美味しいのに?」

「いやぁ×、パイから生えたあの頭とか見た目。あの魚、トボけた顔してパイからスポポーンとか飛び出て来そうで怖いじゃないか。」

「焼いた魚は飛ばない魚、」

「×分かってるよ。でも今の季節だと魚はトビウオを使うだろう?何かもうそれだけでさ、」


 両手で横鰭(よこびれ)を模し互いに詰め寄る、ぱたぱた。おいてけぼりのリュアラ。


「ぇえと☆、あのー…」


「ウィルは物事を見た目で判断するのっ?」

「見た目だけじゃ勿論ないよ、でも見た目は大事なんだ。アンにはそう言う感覚が欠けている。」

「中身で評価すべきよ、見た目だけじゃ分からない。」

「それは間違ってない。でも見た目って内側から表れるものなのさ、逆に見た目が内側に影響を及ぼす事だってある。外面と内面、双方を切り離しては考えられない。だからこそ見た目も恥ずかしくないようにしておく必要があるんだよ──ってあれ?何処かで聞いたような言い草だな。」

「?───私はパイの話をしてるんだけど、ウィルは何の話をしてるの??」

「え?いや、パイもそうだけどもっと根本的な所で、アンの普段の恰好について」

「↑ちょっと、さっきっから私をイジり過ぎじゃないっ?何?何なの?!私を絶賛ネガキャン中なの?!?」

「!そもそもアンのそう言う所がっ」


「~とりあえず←、」

「「★☆?!」」


 間にリュアラが割り込み、取っ組み合う勢いだった二人を引き離した。ウィルとアンは腰が引けてそれぞれ後ろへよろける。身体がぶつかったとかそう言う訳でもなく、明らかに気圧されて。微笑をたたえリュアラは二人へ語り掛けた。


「パイの事はさておくとして、今日のお昼はお魚をいただきましょうか。

───お二人共、それで宜しいですね?」

「「─────────、」」


 お二人とも暫し呆けたようにしていたが、我に返ったウィルが申し訳なさそうに顔を赤らめてリュアラをちらちらと見る。睫毛(まつげ)の光沢が何か怖い、見られる方は意味不明でぎょっとした。


「★っ?」

「#すまないリュアラさん、僕とした事がつい話に興奮しちゃって君を独りぼっちにしてしまった×。その…さっきのやりとりはこれから職務を遂行する上でも重要な事に関わって……☆あくまで仕事!仕事に掛かって来る話なんだ!!」

「ぇ………え?えぇ。」

「こんなに君を寂しがらせてたなんて気付かなかったっ×……僕がもっと確りしてなきゃならないのに…本当にすまない!」

「×えっっ?いえ、私は別に───」

(───ちょっと待って、何かしらこれ?ひょっとして…私がウィル先輩にヤキモチを焼いて、アン先輩から引き離した事になってるの?!どうしてそうなるの!?#別に私そんな)


 たじろぐリュアラの顔をアンが覗き込んだ。


「気を悪くしたらごめんなさい、放ったらかしだったね。でもそんなに心配しないで、私はウィルと何でもないから☆。」

「★べ#、べべべ別に!私そんなあの」

「貴女も大変ねぇ×、ウィルみたいな節操無いのにいちいちヤキモチ焼いてたら身が持たないよ?」


(↑やっぱりヤキモチになってるうううううっ×!!)

「ちょっと待って下さい!誤解です誤解!私はそう言うんじゃなくて#、問題の収拾をですね!?」

「あはは×、隠さなくっていいって。顔真っ赤にしちゃってさ☆、」

「×違います!#これはそんなんじゃないんですってばあ!」


「そうかぁ…そうか、☆嬉しいなぁ、うん#。それじゃリュアラさんのご希望通り魚料理にしようか←、」

「★↑私の話を聞いて下さいっっ×!×!」

(~~…あああぁぁもう×。何とか収拾はついたけど、でも……あの場に割って入ろうと思ったのって、ひょっとして…やっぱり私がウィル先輩にヤキモチを焼いていたから、なのかしら↓。知らず知らずの内に…無意識で?私は──ウィル先輩の事を──────)


 移動する間、リュアラは自分の気持ちに不安を感じていた。以前までは否定的に考えていたウィルとの仲について疑問を抱いてしまったのだ。かつてカクテル・キャンペーンに打ちのめされて早朝の池の畔へ訪れた際、伴侶と言う単語から真っ先に想い付いた異性の姿はウィルだった。実は意識せず慕っていたそれが彼と暫く振りに逢った事で初めて露見したものか、リュアラは自身の恋愛感情に自信が持てなくなる。


 そうこうモヤモヤする所にド直球が来て彼女は肝を潰した。


「★×!っ~───…霧魔(むま)っ??」

「ああ。──あれだよ?件の連続猟奇殺人の方さ。僕はね、どうしてもキーニングを聞いた気がしてならないんだ。錯覚なんかじゃない…、これは職業柄の勘みたいなものだね。彼女も全く同意見だよ。」


 ランチの混雑から少し離れたカフェテラス奥の角席、ウィルの対面でアジのサンドを食むアンは隣のリュアラを横目で捉えると目を閉じ無言で頷く、口許をずっとモグモグ。先輩方をとっかえひっかえ見入ったリュアラは手許のティーカップをソーサーに戻した。ウィルの自信溢れる挑戦的な視線、彼が何故そんな話を切り出したのかリュアラは真意を計りかねる。完全に虚を突かれた、少し落ち着きましょう。


「──今週、課外授業で見学に行く国立美術館にそんな逸話が…」

「何も『バンシーが大量殺人を哀しんでいるんだ』なんて非現実的な話をしたい訳じゃない。現場の空気…って言うか、療養している上司の教えを解かった気がしてね、是非モノにしようと思ってる。鉄は熱い内に打てさ!見学者がドッと増えるこの機会にもう1・2回潜入してみるつもりなんだ。」

「はぁ。美術館の地下に…霧魔の手掛かり……──────?

───そう言えば…高等部の見学に紛れ込むなら、学生服を着れば良いのでは?」

「「★☆!?!」」


 空気が張りつめる。言ってはいけない事だったかしらとリュアラは口許へ指を揃えて視線を脇に避けた。ウィルが互い違いに組み合わせた両指の親指同士で険しい目頭を押さえる。


「××そっかーぁ↓。アンのいつもの恰好がくたびれた高校時代のジャージだったから、そこから脱却しようと意識し過ぎていたよ。大学生の感覚のままだったー…」

「ねぇウィル………今日買った服、けっ経費っ…ぉおぉおぉおぉお落ちるよね??とっ、当座の生活費↓↓……にににに2着も買っちゃったんですけどっそれわ?!」

「いやー×。今回その服使わなかったら…また次の機会に申請すればーさ、或いはー…」

「──@わり…かん……」

「え?」

「わりかん…そうっ、割り勘!それいい☆!素敵な概念♪↑割り勘にしよう!割り勘っ@わりかん!!」

「★君が買った君の服だよ?!何でそうなるんだい×?」

「変装しろって言い出したのはウィルでしょう!」

「×いやっ、だって君目立つじゃないか。こないだだって思いっきり警備員に絡んでたし、もしも美術館の職員が黒だったらリピートは怪しまれる。」

「私ばっかり見張りや偵察してるのよ!可哀想とは思わないの?!」

「だって君の方が夜目が利くじゃないか。適材適所さ、宿命なのさ、」

「↑ウィルの血は何色だーーーっ!」

「真っ赤に流れる僕の血潮さ、売った事だって無い!」


 研究機関への売血行為を生活苦から繰り返す者の血液は、成分が変性し黄色く見えるのだそうな。服なら返品すれば良さそうだが、そこに気付かないくらい二人は感情的になっている。


「ぉ…お二人とも落ち着いて×、お静かに。」

「「!~~~~~~っ。」」

「ウィル先輩、一般の方々が居らっしゃる場所でお仕事の内容を口にするのは良くない事だと思います。」

「×……そうだねリュアラさん。僕が軽率だったよ、油断していた。でも酷いと思わないかい?彼女、」


 指摘に対し「でもだけど」などと返して来る場合、その人物には反省するつもりがそもそも無い。彼の意見もごもっともだがこの状況は非常にやれやれ、しかし今のヒートアップは活用出来る、素知らぬ顔でリュアラはそう思った。気持ち(すぼ)めた上唇をちょっびり突き出す、ふと思い付いた妙案を試したい時にする彼女の癖である。


「上役の方は酷い目に遭われたようで大変お気の毒です。でもウィル先輩は大丈夫だったんですよね?」

「えっ?うん。───だってそれは、まぁ…」


 両者は答えを知っている。連続猟奇殺人犯、模型屋の凶刃に倒れたワドー警部と、


「大丈夫だったのでしょう??」


 ボロの怪人こと黒ジェズの夜魔(やま)の爪の圧倒的な力で地面に捻じ伏せられたウィルのあの様を。


「……───

───────────────…っ事件に関わる事なんだ。口外するのはあまり…ね、」

「まあ。」

「ハハハ、言われて早々引っ掛かったりしないさ。」

「ふふふ。」

(──ジェズを疑っている事に変わりはないけど、接触には消極的ね。この先は分からないけど、とりあえず心配は要らないでしょう。)


 リュアラの冗談に答えた(てい)で言及したくない裏の気持ち、ウィルは内心認めたくない。探し求めていた宿敵とまともに戦わずして不様な敗北を味わわされた、その相手が少年ジェズだなどと。そして彼の年齢が自分と大して離れていない事も恥辱に輪を掛けている。血気盛んなお年頃の自意識の高い男子ならではの葛藤があろう。

 隙を突いてリュアラはそんな彼の心の内を容易く看破した。今の彼らは黒ワインに関心が無く、それが向くほど情報の構築も出来ていない。本日の収穫はもう充分、思いもよらぬ豊作と言える。


(ただの勘なんて宛には出来ない。根拠に乏しい情報ではあるけれど、万が一霧魔が……犯人が美術館の地下に潜んでいたとしたら、魔法警察に先を越されて黒ワインは契約不履行となってしまう危険も……

───どうやら、この機会に私達も出向くしかなさそうね。)


 黒ワインの淑女がそう決意する一方、出向くしかなさそうな要員は自室で横になっていた。と言うより、させられていた。


「うー、うー…」

「「──────」」


 コンコン、ノックの応答も待たずドアを開けて現れたのはトレーを携えたミーシャである。彼女は出入口間近のベッドへ目を遣った途端に渋面を見せた。毛布を被せられたジェズの上で、いつもの恰好のザクレアとユーディーが連なって馬乗りになっているのだ。二人はミーシャに目が合うと「を」などと気の抜ける返事をした。


「ぅを?じゃない×、ジェズ看ててって言ったのに何してんの?」

「大丈夫だぁとか言って起きようとする。」「鳩尾(みぞおち)にぶちかまして何とかベッドインさせたけど、」「大丈夫だぁとか言って起きようとする。」「だから重石をしてる。」

「───↓、」


「うー、うー…」

「そのうーうーゆーのやめなさい@、何だか気分がビミョーになって来るから。

─それと、あんた達もジェズの上から退()いて。見た目が色々…アレだし。」

「「?」」


 表札の無い病院で彼に襲い掛かられた時の事が思い出される。格好は全く異なるが、当時の有り様を客観視しているようで居たたまれない。ナスカの二人に主の吸血行為は内緒、自分とジェズの二人だけの秘密である。顔から火が出る程の恥ずかさを誤魔化すようにトレーから小皿を机上へ置き始めると、ザクレアとユーディーは伸び上がった。


「☆お嬢、」「☆何それ何それ?おいしそうっ!」

「これはサクランボって言う果物。あんた達の分あるからこっち降りなさい、」

「「←いただきまっ☆!」」


 狭い部屋の机の前で重石がキャッキャし始めると、ジェズはミイラ男のように両腕を前へ伸ばしてゆっくり上半身を起した。次の瞬間、ド頭(ドタマ)にトレーの縁をミーシャから頂戴し、わびさび的な快音を宿舎中に響かせ復活はアンドゥー。そのままゆっくり棺へ再び横たわる。


「×いーぃたーぁいーぃ……」

「このバカちんが。寝てなさいって言ったでしょ?あんた一昨日の晩から今朝まで死んだように寝てたんだからね!今日仕事はいいから休んでなさいっ。」


 ミーシャを抱えて月の夜空をかっ飛んだ後である。そこから訪問販売の専用車を運転し酒蔵(ワイナリー)まで辿り着いたはいいが、ガレージに車を着けた所で彼の意識は突然終了してしまった。工場町の激戦で満身創痍の複雑骨折、大量出血の意識不明に生死の境をさ迷い、強攻の経口輸血で復活するが、隠し弾の超回復と長距離跳躍を連発している。一週間と言う短い間に生命の細切(こまぎ)れ大安売りも甚だしい、()もありなん。

 その後ミーシャの手配で家政婦長と家臣らにより漸くジェズは自室へ戻れり。因みに着替えは家政婦長の立会いの下、家臣らの手で粛々と執り行われた。真面目な話、服が濡れたままでは普通に風邪を引く。


「お腹まだ空かない?」

「…んんん…──はい、そうですね↓。」

「少しでもいいから食べなさい。ほら可愛いでしょ?サクランボ。酒蔵で初めて収穫出来たんだって。あの娘たち見なよ、おいしそうでしょ?」

「んふー…」

「もう、食べないんだったらあんたのあたしが食べちゃうよ?」


 一房摘み自分の口許へ寄せあーんをして見せる。

 はっきりしないジェズの返事を待つ内、ミーシャは真っ赤にした顔面から蒸気を発した。

 彼のサクランボを女の子が食べちゃうとはHな発言以外の何物でもない。


「#~やっぱりあんたが食べなさいっっ←。」

「★?もが×!?」


 彼の顎の下を片手で取り、口をこじ開けミーシャは小皿の上を口内に押し込んだ。滅茶苦茶な扱いに彼は目を白黒するが、すぐに難しい顔で頬袋を左右させながら半身を起こした。程無くしてガリボリゴリガリ、


「種を食べるなっ←。」

「×ぶふっ、」


 後ろから脳天をシバかれジェズは噴き出すが、腹上の小皿に散らばったのはヘタだけだった。一掴みのサクランボを口へ詰め込まれたのに、全てのヘタを舌だけで綺麗に取り除くとは無駄に器用、そう感心するミーシャはまた顔を真っ赤にした。「サクランボのヘタを口の中で結べる人はキスが上手い」的な話を思い出していたのは当然だ。


「☆★#↑もう馬鹿馬鹿馬鹿!何であんた最近そんなにHなの!#信じられないっ!」

「?×ミーシャお嬢様……すみません、僕ちょっと疲れてるみたいです。やっぱり…横になってます……───」

「#×××↓、」


 締めた両腋で震わせる握り拳は徐々に弛緩し、やがて彼女は肩を落とした。自分が変に意識し過ぎる事も判っている。自分のやりたい事を徹底してやり遂げた感じはあるものの、意識のし過ぎが保留案件をお預けのままにさせてはいられない。

 常々思う「ジェズは隠し事が多過ぎる」。姐御様と呼び慕う暗礁密林の闇巫女(ブラック・ドゥー)、家臣が探す王子の宝玉・呪珠(じゅず)光皇女(ホワイト・レディー)と目する姉との重症を負う程の密行、命を付け狙う刺客の存在、不思議な紋様の力…


 過程はさておき身を斬って生血まで捧げたのだ、一つくらい教えてくれたってバチは当たるまい。


「─ねえ、」

「「を?」」

「その……あんた達が言える事だけでいいから、ちょっとだけ教えてくれない?ぇええと、どうしよ…」

「「☆甘い物が好き♪!」」

「サクランボおいしかったのね。いや×そーじゃなくって、」

「何だいお嬢、歯切れ悪いね、」「サクランボ歯に挟まった?」

「ぇえええと、…そうだ───人間関係については訊かない。あんた達の肌に浮き出る模様、アレ何?ジェズのも何回か見た事あるんだけど…っそれくらい教えてくれてもいいでしょ?」

「「………」」


 ナスカは二人見合わせる。深く尺の長い寝息を立てる殿下を見止めるとお嬢へ向き直った。

 開口したのはザクレアだった。


「『ヤドリ』の呪紋だよ。」

「ヤドリ?」

「私達の部族では生まれてすぐ『精霊の力を宿す刺青』を彫られる。」

「ぇ、」

「普段は見えないんだけど、精霊の力を肉体に降ろす『呪言(じゅごん)の唱』を唱えて精神統一する。それで肌に浮かび上がって見えるようになるんだ。」

「ぇえっ?精霊って??」

「この辺ではどうだか知らないが、私達に言わせれば精霊とは『自然の力の象徴』。暗礁密林だからってそんなお化けみたいなのが現実世界にウロウロしてる訳じゃない。」

「───精霊はともかく、精神…統一?して自然の凄い力を使えるって事?」

「うん、まあ…簡単に言えばそう。力を発揮出来るまで勉強したり身体を鍛えたりしなきゃいけないけど。」

「それって、イレズミ関係無くない?」


 精神統一お勉強に筋トレ、これで超常的な力が使えるようになるならこの世は能力者だらけの異世界ファンタジーになってしまう。現実そうなるはずもなく、やはり刺青は何か特別な仕掛けが備わっているのか。立ちんぼだったミーシャがジェズの枕元の傍に腰掛けると、ベッドの足下にはユーディーが腰掛け注釈を添えた。


「ちゃんと精神統一できないと浮かんで来ないんだよ。」

「───精神統一できてる事を確認するための目印、それがイレズミ…『呪紋』。」

「そゆ事。刺青の種類毎に彫り方や使う薬草、唱える呪言が変わる。」

「あ、ボソボソ言ってたのってそれか。」

「私達のヤドリは『煌闇精(キラヤミセイ)』。夜空の星に紛れて飛び回る小さな光の精霊で、人をからかって夜道を迷わせたりする悪戯者。そして殿下のヤドリは緑の唐草模様の『蜻蛉王(セイレイオウ)』、森・川・風を司る大きなトンボの姿をした精霊だよ。」

「へ…へぇ───細かいとこまで詳しいのね、」

「だって私達、彫り師の家系(かけい)だもん。」

「え?」

「『ナスカ』は七派あるヤドリの家門の一派、私達はその道のエキスパートって訳☆。」

「へー…何か☆凄いね、」

「へへへー♪。殿下なんてもっと凄いよ?一人で七つのヤドリが使えるんだからっ!て言うより」


「ユーディーっ、」

「!×──────ぉおっと、ごめん…」


 腕を組み机の前へ寄り掛かっていたザクレアが興に乗るユーディーを(たしな)める。ミーシャは少し情けない声を発した。


「あれ、あたし……聞いちゃいけないこと聞いちゃった?」

「──いや。既に見られてるし、今更だ。」

「それさ、そんなに凄いの?七つ使えるとかどうとかって、」

「?殿下と飛んで来たんだろうに。そんな事があと六つも出来るんだ、それだけでも凄いと思わないか?」

「まぁ……それはその…」

「普通ヤドリは一人に一つ。…と言うより二つ以上なんて土台無理だし。」

「無理?」

「刺青を彫られる者は赤ん坊だ、死んでしまう事も無くはない。」

「★っ!……~そうまでして何で」

「事情はさておいてくれ。部族には──…いや、暗礁密林には暗礁密林の理がある。」


 ザクレアは神妙な面持ちで押し通す。生まれたての赤子を刃で刻むなど蛮行にも程がある。しかも、衛生的とは言い難い暗礁密林で免疫も未熟な幼子に本来必要の無い手術をするのだ。仮に刺青を二つとしてもリスクは単純に二倍で済むまい、感染症の恐れを論ずるのも空々しい。そんな事の罷り通る理がミーシャは人として許せない、義憤とは違った本能的な怒りが沸々と涌き上がる。

 しかしそこは話の寄り道、怒れる彼女をユーディーが本筋へ導いた。


「殿下のヤドリの事は内緒にしといて。殿下だけじゃなくて、この酒蔵のためにも。」

「それって───病院に来てた、あいつらのせい?」

「ぅううん~×」

「ジェズから聞いた。前に生命を狙われたんでしょ?」

「↓うん。殿下が私達を酒蔵へ留めようとしたのも、私達をあの男から遠ざけるため。─あの筋肉男ホントにヤバいんだって×、お嬢も暫く都心には出掛けない方がいい。」

「分かった。二人とも教えてくれてありがと。

…と言っても、学園行事で今週どの道行くんだけどね×。」

「え?!」

「課外授業で劇場やら美術館やらを回んなきゃいけないんだ、」

「美術館───何処の?」

「え?何処だったかな……確か国立だったと思ったけど、」

「←キーニング美術館は駄目だぞ。セカンドっ…と言うか、あの筋肉男の取り巻きが纏わり付いている。お嬢なら顔バレしてないだろうし、バレてたとしても監視の眼を逃れられるかも知れない。でも殿下は目立つし確実にバレる、危険だっ。」

「!──────」


 厳しい視線を受け留めたミーシャはザクレアの強い意志に中てられ思考が止まってしまう。暫く考え込むようにするが頭には何も思い浮かばない。

 二人のやりとりをまじまじと見ていたユーディーは頓狂な声を上げた。


「!あー☆。」

「何?」

「お咎め無しに入れるじゃん!」

「チケットあるし普通に入れるでしょ、」

「チケット買ってもあそこはヴィリジアンを入れないんだ。↑払い戻しも応じないしサイテーだよあそこ!でも…今回殿下なら入れるっ。」

「?だから」


 今度はザクレアが声を上げた。


「!あー☆。」

「×何?今度は?」

「「………」」


 ナスカが顔を見合わせる。一呼吸の間があって、それから二人揃って横たわる殿下を覗き込んだ。行事を執り行う学園の生徒であるジェズなら正面玄関から正々堂々入れるのだ。ひょっとしたら呪珠の在処を突き止め、あわよくば奪還する事が出来るかも知れない。仇敵・燈王(ひおう)との戦闘力の彼我(ひが)の差を縮めるどころか一歩優位に立てる絶好の機会である、メリットはリスクに充分見合う。

 視線をそのままにザクレアがぽつりと呟いた。


「…殿下に決めてもらおう。」

「…そだね。」


「何を?」


「全部さ。」

「殿下自身の問題が先、私達はそう決めている───って、その割には出来てないか。失敗続きだし×。逃げるにしても、戦うにしても、私達は殿下の意志に従う。」


 余人の付け入る隙など無い。きっと今の自分はその余人に当てはまるのだろう、ミーシャは言葉を無くした。こうしてすぐ間近に居ると言うのに、彼女らが何だか酷く遠い存在に感じられる。懸案であるジェズの秘密について少し知る事は出来た訳だが、かつて彼が口にした「愉快な事の倍の量の不愉快」のテイストを体感し漸く理解に至ったような気がしていた。


 ジェズを帯同し国立美術館に行くのか行かないのか、ミーシャはまだ考えあぐねていた。




☆☆☆


 暗くて普通に静かな夜、風が無い、星も無い。その小さな街には人気も殆ど感じられない。数少ないガス灯の明かりに晒される建物の壁は何処もボロボロで、炎が揺らめくたび表情豊かに、そして荒涼と陰影を形作る。変化のない闇の部分は壁にぽっかり開いた穴、中にはやはり誰も居ない。

 しかしそこだけは違った。僅かな光が下から上を弱々しく照らし出している。地下に息を潜める酒場である。


 窮屈で急な階段を下り、散らばる瓦礫を避けつつ煤臭い木戸を開けると、生活感のある明かりに漸くお目に掛かれる。しかし光量は必要最低限、室内は壊れた調度品が(ひし)めき合い何処に何があるのか検討も付かない。疎らな人の気配は何れも死角の向こう側で、存在を気取(けと)られる事を忌み嫌っている。奇妙と言うより異様な店だ。


 分解した組み木パズルのような陰の檻の間隙を垣間見ると不気味なしゃれこうべが浮かび上がった。それがカタカタと笑う。


「成る程な。我々はそちらの内輪揉めに巻き込まれていた訳か、」

「事を荒立てたくないのはどちらも同じ、だが今回はどちらも引き下がれん。」


 髑髏と来れば勿論フー・セクションのアルゴル監察医である。彼の会話の相手は斜向(はすむ)かいの僅かな隙間に身を詰め込む頑健な男だった。黒いハーフマントに黒のスーツと全身黒づくめ、この暗い中で禿頭の上から黒い帽子を目深く被っている。黒革の手袋を着けた小手先でグラスを傾けると帽子のつばから黒い眼帯が覗いた。年老いた隻眼の厳つい美丈夫はグラスを置き、難儀して机上に片肘を突く。どうやっても席が狭い。


「公安だけでも構わん、あの場から退()かせろ。そうすればこちらは半日と掛からず片を付けられる。」

「他の連中なら片手間に処分してやると言うのか?非道い男だ、事を荒立てたくないなどと一体どの口が言う。大体私に彼らを動かす権限があるはずも無かろう。素直に教会へ協力を要請してはどうだ、それが筋と言うものではないかね?」


 咎めるように突っぱねる、しかし監察医は何処か楽しげ。

 顔をしかめた隻眼は眉間に深々と皺を刻み込む。


「出来る訳が無い。どれだけの見返りを要求されるか知れたものか。最悪は横取りもあり得る、それだけは避けねばならんっ。

~そもそも存在自体が公に知られてはならんのだ。」

「既に知られているさ、教会には恐らくな。但し中味にはそれほど興味が無いんだろう。」

「では何故こちらに目敏い?興味が無いなら放っておけば良いものを。」

「異国の者に自国を勝手にされていい訳がない。下らん事を訊くな。」


 呆れて小皿の木の実を口へ放る。ジャイアントコーンを粉砕機のようにバリバリ言わせている辺り、歳の割りに歯は丈夫そうだ。隻眼も皿の上を(むし)るようにして木の実を口へ収めた。先の言葉も本気で口にした訳ではない、彼は今やる瀬の無さを咀嚼している。監察医が手袋くらい取れと言い掛けて或る事に気付いた。


「…お前、煙草はどうした?」

「あぁ、止めた。」

「ほお。人間変わるものだな、」

「いつだったか、もう随分前だ。──肺を患った。」

「まぁ、何と言うか──普通だな。」

「貴様はまた萎びたな、」

「これが私にとって普通なのかも知れん、施術の影響とは言い切れんよ。」

「絵空事もいい所だ。それがこのご時世まで引き摺られていようとは…」


 呆れながらグラスを呷る。器こそ安物だが酒自体は多少良い物で、酒薫(しゅくん)を鼻から通せば気分の消沈も幾らか紛れた。

 空になった杯に監察医が瓶の口を差し向ける。


「全く同感だ、馬鹿げている。

───『人体新造』などと─────────」


 注がれる黄昏色の液体に暫し見入る。右肩を回してからフンと鼻を鳴らした。


「──俺達も、よく長生きしたものだな。」

「お前こそよく生き残れたものだよ、この国は戦争続きじゃないか。」

「北方戦争以来か、その前か?前に貴様と会ったのはいつだったか……まぁ、外からならゆっくり俯瞰(ふかん)する事が出来るだろう、国際社会におけるブラスバンドの立ち振舞いが。」

「あれから二十年は経っていないはずだが、物騒な所は本当に進歩が無い国だな。」


 国立大学に席を置き、フー・セクション所属と言う裏の肩書きも持ち合わせる監察医ベルノーゲン・アルゴル。今でこそトランプで要職を担う現場の顔だが、生まれ育ちは北の隣国ブラスバンドだったのだ。彼は今、故郷でかつての戦友と久々に酒を酌み交わしている。口に含んだ酒を飲み下すと珍しく吐き捨てるように悪態をついた。


「敵を作り過ぎなのだよこの国は。方策は一見論理的で賢明と捉えられなくもない。しかし、とにかく行動が性急過ぎる。熟する機を待つ先見の明を為政者達は何故持たない?何れの戦いも事前にもっと知恵を搾れたはずだ、避けられたはずなのだ。~歴史に何も学ばんのかっ、」

「強欲なだけだ、真摯に只管にな。資源に乏しいのは昔からどうしようもない、だから知恵を搾り出す、産業を興す。しかしその結果を待っている間にも腹は減る、持たせようとすれば借りが増える、精神的にはいつも余裕が無い───分かっているだろうに。」


 この議論も久し振りだった。結局は自分達に無い物を他者から力ずくで奪い取る、馬鹿ではないので小賢しい大義名分を公然と掲げて。業突くなインテリ、そんなお国柄を心底嫌い若き日のアルゴルは国を出た。当時から彼らは反芻するようにこんなやりとりを続けている。


 しかし、十数年振りとなる今夜は事情が違った。監察医が時折笑みを見せても、それは何処か憂いを帯びていた。


「──国力を高めるためなら何でも利用する貪欲な者達と、過去に犯した悪魔の所業を暴かれたくない傲慢な者達の対立…それがこの国の東西戦争の構図だったのか。」

「拗れたのは所業を今なお繰り返している悪魔を貴様らが野放しにしていたからだぞ、」

「他所のせいにするな。それに知っているだろう、霧の多いあの国の人々には霧魔と言う『呪い』が掛かっている。国の体制も大きく変わった、それらに覆われ今の今まで見えなかったのだ。」

「奴は生きていた───何とも複雑な…嬉しいような気もするが、今となっては」

「悪魔だよ。昔からな。

私もこの眼で見るまで考えもしなかった。生きていたのだ……あいつは。」


 机上の燭台の火がチリチリと音を立てる。それを囲う二人はしんみりと目を瞑った。

 一息おいて隻眼はシアンブルーの瞳を伏目がちに斜向かいへ向ける。


「───逝ったか…」

「~勝手に殺すな。」

「フフン。奴のおもちゃにされたんだぞ?いつ死んでもおかしくない。」

「この歳まで生きられた、今死ぬのならそれは老衰が原因だ。我々の肉体に施された試みは失敗だったのだよ。」

「貴様が完治しなかったのは左足くらいじゃないか。不発弾の爆発に巻き込まれながら今こうしていられる、生きている。それだけで俺達は成功だろう。」

「そのツケがこの老け込み具合なのかもな。それでも私は得体の知れない穢れた技術の恩恵など信じぬよ。──あの時は治療に心から感謝したものだが、種明かしをされた時は本当に頭の中が白くなった。いつどんな副作用に襲われるかと常に恐怖していた。自分の事ばかり…」

「まぁ、人間いつかは死ぬ。」

「そう悟り受け入れられるまで私には経験と熟慮の時が必要だった、気の弱いただの青年だったのだ。」

「奴は違っていたがな────────────」


 少し場の空気が変わった。監察医は口へ近付けるグラスの手をぴたりと止める。


「あいつが居たからこそ、立案者も知れぬ頭のおかしな計画は遂行された…出来てしまった。

頓挫した事は正に僥倖(ぎょうこう)と言えよう。すっかり忘れていたあの悪夢が、今さら蘇ろうとは……」


 隻眼は半身を起こし改めて後ろへもたれようとするが、すぐ側の飾り棚に肩がぶつかり姿勢を戻した。


「──国際社会における医療最先端の地位を他国に奪われて久しい今、我が国の景気はすっかり右肩下がりだ。他に目ぼしい資源も産業も未だ持たないこの国が困窮を手っ取り早く打開するためには、実績ある医療分野で返り咲くしかない。」

「理屈は分かる。──窮状にあってアレすら色好く見えてしまうのだろうか、(すが)ろうとしている頼みの綱はあまりにも罪深き負の遺産。後にも先にもあんな物が人の世にあってはならんのだ。

~~形造ったのはあいつだけではない。被験者である我々とて…同罪だっ───」


 監察医は悲愴な面持ちで机上の握り拳を震わせる。平素は常にマイペースで飄々とした風体の彼が総身から激情を滲ませている。そんな姿から隻眼は溜息混じりに視線を斜め下へ逸らした。


 諸国を未曾有の危機に陥れた世界大戦も末期、相次ぐ敗退でブラスバンドの兵員不足は致命的状況に陥り、軍司令部は圧倒的な数の不利を覆さんと血眼になっていた。苦渋の末に捻出された対案は「数で駄目なら質」、個の戦術的優位を確立すべく前線に赴く兵士の可用性・生存性を向上するため「人の肉体機能を外的因子で代替・増幅」させると言う絵空事に等しい奇策を打ち出したのだ。


 以降、計画は「人体新造」などと尤もらしい銘を得て野心の赴くまま極秘裏に進められて行く。

 しかしそれは絵空事よろしく、画期的かつ革新的な技術があって実践されるものではなかった。

 彼らが(あやか)ろうとした物は、呪いや錬金術と言った原理の解からない「古代の叡智」だったのだ。


 隻眼が目先へグラスを持ち上げ、黄昏色の中で嘆き悲しむ戦友に若かりし頃の自分達の姿を映し見る。


「夢幻に追い縋る。───厳然たる現実を受け入れ難い人間の持ち得る唯一の救いか。」


 経済に限らず国際競争の場で後れを取れば、事と次第で呆気なく国の滅亡を招きかねない。戦況を覆す事は一刻の猶予もならぬ喫緊の問題、焦燥と狂気が渦巻く中、奇書を元に生命の尊厳を完膚無きまで蹂躙する悪魔的な実験が繰り返された。

 真っ先に犠牲となった者は虜囚の異国民。軍人・民間人の分け隔てなく大人から幼子までもが男女の順に被検体として使い潰されて行った。これは国際法に定められる戦争のルールは元より、人の道に叛いた許されざる「戦争犯罪」だ。


 そうして生贄が尽きると暴虐はいよいよ自国民に及ぶ。負傷した兵の横たわる手術台では今まで蓄積された技術知識が還元された。当初の目的に沿う流れではあるが、ろくな成果の無いそれは最早ぶっつけの増築工事のようなもので、実験と何ら変わりがない。工事を終えるにしろ中止するにしろ、大概は右から左へ二階級を特進してしまう。機械や鋼材を生やしたオブジェのような亡骸が累々し、遍く焼却処分された。


 しかし、そんな地獄に落とされながら奇跡的に特進しなかった強運の兵士が若干名存在していたらしい。確実に判明しているその生き残りこそ、この場に居る二人の老人なのだ。入隊当時より彼らは気心の知れた間柄だったが、他の生存者らは互いについて全く把握していない。

 監察医はウイスキーを口に含むと、硝煙で燻された当時の感触を漱ぐように喉の奥へ流し込んだ。


「──。真っ当な治療を受けられたとしても、彼らの中に助かる者がどれだけ居たろうか…」

「あの時を超える量の戦没者リストを俺は未だ見た事がない。戦勝国にはなったが、よくも国体を保てたものだと呆れるよ。」


 ほんの一握りの生存者である被験者の彼らが計画を知ったのは終戦後間も無く。首謀者は杳として知れず、膨大な実験記録と技術知識は実践者もろとも綺麗さっぱり始末された後。計画は目的を達成する事なく存在の事実ごとこの世から消え去っていた。


「…ゴタゴタの内にあいつは居なくなったな。」

「他の関係者同様、口封じをされたと思いそれっきりだった。万一実験の事実が明るみになれば各国からの訴追は免れん。この国はあちこちで何かしら恨まれているからな、証拠隠滅は諜報部のお手の物───…騒ぎ立てれば俺達も危なかった…」

「こうして長らえていられるのは何の罪も無い多くの人々の生命と、それに間違いなく…あいつの才能のお陰だ。しかしっ、しかし…~私はっっ」

「言うな。俺達は今こうして生きている、その意味を全うすればいい。俺達が出来る事など所詮それ位しかない。」


 隻眼は改めて片肘を付き身を乗り出す。


「──国威発揚に沸く西側の連中の狙いは、大戦時で培われた『禁断医療の技術知識』。過去の闇へ葬られたと思われていたそれを生々しく記憶し未だ研鑽に励む人物が健在とあれば、連中が飛び付かん訳がない。執念の度合いが違うぞ、」

「~今更そんなものをどうしようと言うのかっ……

───とにかくあいつが居なければ、西側は退き下がるのだな?」

「それはまあ、そうならざるを得ん。何らかの資料が起されていれば話は別だろうが、あの天才肌がそんな事をする訳はないしな。」

「東側から助力を得られないものか、」

「馬鹿を言え、西側を押さえ込むので精一杯だ。あれでも連中はトランプに配慮している。」

「~同盟国の警官に成り済まし、職権を悪用する輩の何処が配慮だ。」


 ここ最近トランプでは警察官に化けたブラスバンド東西両陣営の工作員が跋扈(ばっこ)していたのだ。食人(グーラ)やビアリスらの抱いた違和感はこれである。ニセ警官らは洞などの起こす事件のドサクサに乗じ、情報収集や敵対勢力の牽制などの活動に今も勤しんでいる。

 勿論そんな活動がトランプ側に気付かれぬはずもなく、各所への根回しも迅速と教会の対処は抜かりが無い。以前得られた情報の通り、ワドー警部が重症を負った先の乱戦の幕を引いた銃撃戦の正体は「ニセ警官同士の撃ち合い」であり、トランプ側は一般の警官の中に公安と陸軍諜報部が身分を隠して紛れ込んでいた。警部が運ばれる際にウィルが抱いた既視感は勘違いでなかったのだ。


 ブラスバンド西勢は

『富国強兵の好材料に出来そうな人体新造の生情報を隣国から手に入れたい。』


 ブラスバンド東勢は

『戦争犯罪訴追の好材料になってしまう人体新造の残滓を消してしまいたい。』


 無関係のトランプは

『好材料だか何だか知らないけど見てない事にしてあげるから他所でどうぞ。』


 構図はこんな所である。

 配慮しているのは好材料の中味に興味の無いトランプ側のように見えるが、


「配慮が無ければ、───俺達が今こうして会い言葉を交わす事も叶わんのだぞ。」

「……成る程。それも東側だけの意志ではないようだな、」


 即ち彼らの死角に居る店内の僅かな客らは東西混在、店に至る道中もまた然り。十数年振りのプチ同窓会は、丁重に準備された「元同胞を介しての二国間会談」だった訳だ。


「トランプを敵に廻すつもりは全くない。だがお目当ての好材料に手を出されれば……まぁ、そう言う事になる。」

「やれやれ↓。東西双方の御意見番であるお前ならこの争いも止めさせる事が出来るのではないか?どうなんだ【准将】殿、」

「→とうの昔に隠居したんだ、その呼び方は止めろ。」

「退役したとてお前の言葉なら将校らは少なからず聞き入れるだろう、」

「よせ。俺にそんな人望は無い。今はしがない評論家だ、政治をするつもりは毛頭無いぞ。」


 目を瞑り帽子を脱いで前から後ろに頭を擦る。毛根も無いようだ。


「また髪の毛の話か、」

「私は何も言っておらんよ。」

「場所が特定済みで三つの陣営は膠着状態、少しでもバランスが崩れれば…事は一気に動く。貴様の所の魔法警察で──宜しく遣ってくれんか、」

「~急に酒が不味くなった。教会め、こうなる事も見越して私をこの事件に宛てたのか?全くもって忌々しい。」

「胡散臭い組織だな。連中は何処まで知ってるんだ?余ほど有能な諜報機関を抱えていると見える。」

「皆目分からん。どうやって知り得たのか不思議で仕方のない情報を持っているかと思えば、その情報を知り得ながら密接に関わる情報を持っていなかったりもする。収集能力を内外に悟られる事を嫌っての工作と考えられなくもないが、どうにもちぐはぐだ。現にこうして私が動いている、彼らは何故か中味まで知らんのだ。」

「…胡散臭い組織だな。」


 肺腑に溜まった(おり)のような息を吐き出して監察医は立ち上がる。懐から取り出した紙幣を枚数も確めず机上に押し付けた。


「少なくともこの件は本来フー・セクションの事案ではない。しかし、我々の手で収めねばなるまい。

────────────

───もう一度訊く、あそこの地下にあいつが居るのだな?」

「事に(ふけ)っているであろう場所がな。我が国の老舗メーカーに不審な得意先のある事を諜報部が嗅ぎ付けた。その顧客はトランプの仲介人で、仕入れた品はトランプ国内の非合法の医療関係者へ卸されていた。そして数ある卸先の中に、医療とは全く無縁の客が一箇所だけ存在している事が判明した。それが」

「『キーニング国立美術館』───」

「元々あそこは旧貴族の私邸で、地下洞を利用したと思われる天然の宝物庫の存在が古い文献から見付かっている。そして何より、あの施設は電気に困らない。…奴にとって格好のおもちゃ箱だとは思わんか?」

「お誂え向きだが…それなら街中の廃ビルで行為に及んでいた理由が分からん。」

「奴に訊け。大方スペースの問題ではないのか?地下は本番用に仕込み済み、外はリハーサルか…天才の考える事など凡人に解かるものかよ。」

「ゾッとせんな。地下の図面は?」

「無い。」

「調べに入ったのだろう?」

「野暮を言え、」


 潜入した諜報員は帰って来れなかった、言わせるなと言う事である。准将が憮然とする。

 敢えて野暮いた監察医は頭を掻く。どうにも腑に落ちない。


「~それだよ。あいつは確かに天才だが、身体の方は然程丈夫ではない。その道のプロを返り討ちに出来るとは到底思えんのだ。我々と同様、耄碌(もうろく)もしているはずだろう?」

「…奴が俺達に人体実験の事をバラした時、自らの身体で試したとも言っていたのを覚えているか?まさかとは思うが或いは…」

「…あいつは人体新造の目指す形を自らの肉体で実現したと言うのか?!」

「判らん。可能性の話だ、絵空事だがな。」

「──やれやれ、これは早々に悪知恵を働かせなくてはならんか。」


 どっこいしょ、傍らの杖を取りながら監察医は暗がりへ歩を進める。よく見えない杖の突き所に躊躇しているその背中へ准将は言葉を掛けた。


「貴様、近ごろ我が国の関係者の許へ度々足を運んでいたろう。──これっきりにしておけ。東西はどのみち次の頃合いに決着をつけるさ。これ以上の詮索は教会も見逃すまい、」

「ハハハ、分かっているとも。

──────────────────

───所でお前、あいつが何故…あんな事をすると思う?」

「ん?」


 一口飲み下してグラスの手を止める。

 監察医が振り向きもせず背骨の透けて見えそうな白衣の後ろから問い掛けて来た。


「犠牲者の臓器を摘出し生命活動は維持させる、ただそれだけ。…練度の向上と言うならともかく、あれは人体新造の発想ではない。術者のやりたい事が一体何なのか、今一分からん。


私はな、未だあいつが『模型屋』だとは思えんのだよ。」


「ふん、凡人が考えた所で───と言うのは思考停止か。そうだな……奴は戦時の惨憺(さんたん)たる中で『本質を見抜け、審美眼を磨け』と口癖のように言っていた。それの延長と言うのはどうだ?」

「本質を審美眼で捉えた結果がアレか??──────…××いかん、頭が痛くなって来た。」

「奴からそれを訊き出せたとしても俺は理解出来る気がせんよ。」

「同感だ。

───じゃあな、また会おう。」

「お互い生きていたらな。」


 乾いた笑いと共に監察医は店から出て行った。空のグラスを机上に置いて准将は声を上げる。


「お膳立てはしてやったぞ。どちらも次でこの争いは終いにしろ。俺はこれ以上肩入れしないし、双方どれだけ死のうと関知せん。」

「「──────────────────」」


 調度品の影が次々と闇に溶け、微かな衣擦れの音を伴い気配が木戸から外へ消え去る。陰に隠れていた東西両陣営もそれぞれ撤収のご様子だ。


 そもそも、今回のサシ飲みは監察医の隣国の事情聴取に端を発している。


 それもあくまで名目上。当人にその意欲はあまり無く、昔話に花を咲かせようなどと軽い気持ちで旧友と再会した訳だが、ひょんな事から話題がトランプ国内を騒がせる連続猟奇殺人事件に繋がってしまった。きっかけとなる共通項はただ一つ。


 ブラスバンドが執着して止まない謎の人物、

 准将が気さくに奴と呼ぶ者、監察医が親しげにあいつと呼ぶ者、

 天才と謳われるその人物こそが「連続猟奇殺人犯『模型屋』」だったのだ。


 この男は奇しくも半世紀近く前に監察医や准将らと交友関係のあった同期で、大戦後に行方を眩ませていたが、今は隣国トランプで国立美術館の館長を勤めている事をブラスバンドが突き止めていた。今夜その事実が識者を通じトランプ側に共有された格好である。これはブラスバンド東西の総意、予定されていた流れだ。


(あの髑髏も何だかんだで手が早い。任せておいてもいいが───俺も少し当たってみるか…)


 独りきりの余韻に暫く浸っていた准将だが、背をもたれ直そうとした処で肩がまたぶつかり、ぐうだの(うめ)いていい加減その場を立った。大して酔ってはいないが、一歩進む度いちいち身体が何処かにぶつかる。場所の分かりにくいカウンターへ辿り着くと、貧相な蝋燭の灯りの許でバーテン姿の小柄な中年男が布巾でコップを磨いていた。バーテンは視線が合わないよう准将を一瞥する。


「──この店は兵隊さん…お断りしてるんですがねぇ、」

「すまんな、訳アリだ。」

「不景気でもそこそこ活気のあったこの街が三日でこんな有り様になったんですよ、内ゲバでっ。

~この店は軍人から隠れて飲める所が売りでしてね、」

「そう言うな。そのイザコザももう終わる。」

「だといいですがね。それで街が元通りに戻る訳じゃないでしょう。」

「その通りだ。少なくともこれ以上荒れる事はなかろう。」

「ふん、」


 バーテンは怒りを隠さない。ブラスバンドは徴兵制を敷いており、上流階級や一部の学芸に秀でた者を除き国民は男女問わず兵役を経験している。軍隊のイヤな所を大なり小なり知っているのだ。重々承知の准将は仕方ないと言った風体で帽子を上げ禿頭を撫で擦る。


「ボトルがまだ残っている。キープしておいてくれんか、」

「ハァ↓、───お名前は?」

「ふむ、そうだな………よし、ここは腹いせに気分だけでも奴の奢りにしておくとしよう。


名前は【ルードヴィッヒ・シュペルハイム・ザンゲ】──────こいつで頼む。」




 それがあの男の名。模型屋と呼ばれる殺人鬼の真の名前だった。






次回は決戦。

夜魔の爪は断罪す。

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