howling 2-4
《システムメッセージ》
リミッター01解除しました。
02の解除に移ります……
長い呪文を唱えながら、アストラは心の中でほくそ笑んでいた。
かの御方から授かった最強とも言える手駒をあの作戦で失い、それからもことごとく失敗をして来たアストラにとって、それは祝福にも等しい物だった。
アストラはサンダーの事を化け物だと思っている。
何度作戦を練り直し、邪魔を排除して遂行しても、絶対に殺す事の出来ない『悪魔』。
類稀な才能と卓越した能力を持ち、それ故に全ての者から羨望と畏怖の眼差しで見られる『邪神の使者』。
そんな存在など消すのは不可能だと諦めかけていた矢先、あの情報が手に入った。
聞くのに夢中で、油断して殺意を向けられてしまったが、今こうして、目の前の悪魔を葬り去る為の呪文を唱えられている事に比べれば些細なものだった。
(さあ、これで終わりです……!)
そして遂に詠唱が終わり、アストラは右手のワンドを振り上げ、先をサンダーに向けた。
「……マインドペイン!」
「ぐあっ!?」
「きゃあっ!」
突然、ファイアとスティリアが頭を抑えてうずくまった。
「おい、ファイア!どうした!?」
「スティリアさん、大丈夫ですか!?」
傍にいた2人が気付いて、慌ててファイアとスティリアに声を掛ける。
「くそっ……頭が……割れそうだぜ……」
ファイアが毒づく。どうやら結構酷い物らしく、汗が浮かんでいる。
「共有化が……解除出来ないわ……」
スティリアもどうする事も出来ず、非常に苦しそうに両方のこめかみを押さえていた。
スティリアの言う『共有化』とは、サンダーの精神状態を碇達と共有し、観察する魔法の事。
それの影響で、サンダーが精神にダメージを感じると、2人にも少なからず影響が出る事がある。_____今のように。
そしてそれに対処出来るのは、無属性魔法の使い手だけだった。
『『月光結界』っす!』
その様子を見ていたのか、突然ミカゲがファイアの影から出て来て、全員が入るように結界を張った。
『月光結界』は、精神への攻撃を遮断する結界の一種。中に居れば、完全では無いが精神干渉を弱める事が出来る。
痛みが弱まったのに気付いた2人は、すぐに共有化を解除した。
「ミカゲ、ありがとうな」
『急ごしらえだったけど、何とかなったみたいで良かったっす』
ほっとした雰囲気になったミカゲ達に、スティリアが注意した。
「一息付いてる場合じゃ無いわ、あなた達!
サンダーが攻撃する前にあそこの生徒を退避させないといけないのよ!」
そう言ったスティリアが指を指す方向は、サンダーの真正面、アストラの後方。
「……なるほどな。あいつが元凶か」
ファイアも気付いたらしく、顔を引き締める。
_____と、急にガラスのような破砕音が響いた。同時に、同じ方向から生徒の悲鳴が上がる。
「障壁が消えた!?」
「早く離れろ!巻き込まれるぞ!」
驚いて固まる生徒に、ファイアが叫ぶ。
同時にその生徒の近くに瞬間移動し、周りを見渡した。
(怪我してる奴は居なさそうだな)
状況を確認したファイアは、まだ半分程度残っている生徒に向けて警告した。
「早く別の席に移れ!でないとお前等全員死ぬぞ!」
彼等も先程の攻撃を脅威だと感じたのか、すぐに立って移動し始めた。
(頼む……間に合ってくれ)
その様子を見ながら、心の中でファイアはそう祈った。
目の前が赤い。
恐ろしいまでの痛みが頭を貫き、思考回路を歪ませる。
それでも、俺は、俺を通して仲間を苦しめる敵を殺さなければいけない。
……敵?敵はどこだ。
早く殺さないと。
早くしないと、皆の苦しみが長引く。
_____ふと、正面の教師に目が行った。
ああ。
ああ、やっと見つけた。
そう思うと、途端に憎悪と殺意が心を埋め尽くした。
(こいつが……)
上手く言葉が出ず、漏れるのは唸り声のみ。
それでも、目の前のそいつには十分な脅威と認識されたようだ。
さっさと殺そうと剣気を飛ばしたが、引きつった顔のアストラは上に弾いてしまった。
すぐにワンドをこちらに向けると、頭の中の痛みが更に酷くなった。
足に力が入らなくなり、息が出来なくなって膝を付く。
くるしい。
はやく、ころさないと。
ころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころす
次の瞬間、俺は剣を大剣に変え、咆哮を上げながら力任せに振り下ろしていた。
(不味い!)
ファイアの見ている前で、1人の女子生徒が足をもつれさせて転倒した。
急いで救出しに行くが、そこに瞬間移動した時には、サンダーが大剣を振り下ろしていた。
爆発的に赤い竜気が活性化し、巨大過ぎる剣風となってこちらに迫る。
瞬間移動では発動から移動するのにコンマ秒の遅延がある。
かと言って跳躍だけでは距離を稼げない。
そんな絶望を感じたのか、腕の中の女子生徒が悲鳴を上げる。
だが_____ファイアには1つ秘策があった。
「ルミナス!」
その名前を呼んだ瞬間、世界が止まった。
精神的にでは無く、物理的に世界が停止しているのだ。
「危なかったわ~。今度からはもうちょっと早く言って頂戴ね」
そう言ってルミナスは、ほわほわと笑った。
至近距離に致死の剣風があると言うのに、驚くべき余裕である。
だが、その剣風は、今どんなに時が経っても、1セミル(=1ミリメートル)たりとも動く事は無い。
ルミナス自身の能力で、時間自体が停止しているからだ。
聖属性は光と時間を司る。
聖水晶竜人族の血族である彼女には、この程度なら造作も無かった。
「早く移動しちゃいなさい。私も忙しいんだから」
そう言うと、ルミナスは自分の教室に戻って行った。
そしてファイアが別の避難していた生徒達の方に瞬間移動すると同時に、時間停止が解除された。
灰色がかっていた世界に色が戻り、全ての事象が動き出す。
直前までファイアが居た場所は、赤い閃光と轟音が過ぎ去った後に跡形も無く、大きく抉れていた。
当然のようにアストラの姿も消え、その惨状を造り出したサンダーは、剣を落として蹲った。
※追加説明※
◎竜人族について・補足
前回説明したのに加え、種族間にも違いが存在する。
通常の竜人種の他、全体的に能力の高い水晶竜人族、水中、水上での戦闘に特化した鮫竜人族などの亜種がいる。
またどの能力に特化するかで、
ベヒモス(体力、力が高く、地上戦闘に特化する)
リヴァイアサン(スピード、魔力が高く、不利な属性でも水中の戦闘に若干の適性がある)
ワイバーン(翼が大きく、空中戦闘に長ける。また腕を翼に変える事も出来る)
バハムート(全てに於いてトップクラスの能力値を誇るが、場所での補正が無い)
と分類される。




