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公主は後宮の闇を暴く  作者: 佐倉海斗
第一話 第四公子が死んだ
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02.第四公子の謎の死を知る

* * *



 第四公子、李雲嵐が死んだ。


 それは瞬く間に後宮中に広まった。


 葬儀を済ませた第一公主、李 雪花(シュエホア)は葬儀用の衣装から普段の服に着替え、ため息を零した。着替えを手伝っている女官はなにも言わない。雪花はわがままで有名であり、気に入らないことがあれば、母親に言い付ける癖がある。


 十八歳になったというのにもかかわらず、子どものようなわがままを口にすることがあった。整えられた黒髪が揺れる。豪華絢爛な髪飾りを乗せた頭は重そうだった。


(雲嵐が自殺なんてありえない)


 第四公子である雲嵐は五歳だ。


 五歳の子どもが自らの意思で命を絶つなど、誰が考えてもおかしい話だった。しかし、鑑識をした宦官たちの出した結論は自殺だった。


(誰かが殺したはずよ)


 雪花は霊が見える。


 後宮には怨霊が彷徨っていることがあり、その都度、雪花が対処をしてきた。今回も雲嵐の霊の居場所さえ突き止めることができれば、解決をするだろう。


 雪花はそう考えていた。



「――なぜですか!? お母様!」



 雪花は母親である徳妃、朱(ヂュウ) 可馨(クェ゛アシン)に提案をしたところ、却下された。


「あなたも二年後には宋国に嫁ぐのよ。そのような身でありながら、終わったことを蒸し返すような真似はさせられません」


「終わってなどいません! どう考えても無理があります!」


「そのようなこと、陛下が誰よりもわかっております」


 可馨は断言した。


(お父様も気づいているわよね)


 当然だ。


 死因を聞いただけの雪花ですらもおかしいと違和感を抱いた。五歳の子どもが首を吊るなど考えられない話だ。


(犯人は宦官の中にいるのかもしれない)


 鑑識をしたのは宦官だ。


 死因の特定をして、犯人はいないと判断したのも宦官だ。


 明らかにおかしいことに気づいていないはずがない。


 それならば、宦官を疑うのが当然だ。


「婉容宮には宦官がいたのかしら」


 雪花は考える。


 徳妃宮には宦官が働いていない。大きな荷物を運び入れる時だけ宦官を使うものの、潔癖なところがある可馨は、宦官になるというほどの罪を犯した人間を受け入れることはできなかった。


 そのため、雪花は宦官が普段なにをしているのか、知らない。


「雪花」


 可馨は呆れたように名を呼んだ。


「あなたが巻き込まれることが一番恐ろしいのです」


「お母様」


「あなたは私のかわいい娘ですもの。あなたの身になにかあれば私も陛下も冷静ではいられませんわ」


 可馨の言葉には嘘はない。


(かわいい娘ね)


 血の繋がった娘をかわいがっているのは事実だ。


(宋国に嫁ぐからでしょう)


 隣国である宋国に嫁ぐことが決まっている。


 それも、宋国の王族ではなく、宋国の将軍に下賜されるのだ。


 李帝国の権威が弱まっている証拠だった。


「お母様」


 雪花は可馨の言葉の通りに生きるつもりはなかった。我儘が許される第一公主として両親から溺愛されてきた影響だろうか。それとも、生まれ持った正義感によるものか。明らかに他殺であろう異母弟の死を見過ごしたくはなかった。


「罪は裁かれなければなりません。王族である異母弟の死を宦官によって真実が歪められてしまえば、李帝国の威厳は地に落ちたのも同然のこと」


 雪花の言葉に対し、可馨は黙ってしまった。


 可馨は朱家の言いなりで生きてきた。若くして皇帝に嫁ぎ、皇帝の寵愛を受けて子を産んだ。しかし、皇帝の寵愛が他に移るのも早く、可馨は皇位継承権のない第一公主しか子どもがいない。


 第一公主である雪花だけが心の支えだ。


 しかし、それも雪花が二十歳になれば終わってしまう。


 まっすぐに意見を述べる姿は数年と目にしていない皇帝のようであった。


「……お前の正義感は父親譲りね」


 可馨は諦めたようだ。


 雪花を止められないと悟ったのだろう。


 その言葉を聞き、雪花は苦笑した。父親に似ていると言われても嬉しくはなかった。


「危険な真似だけはしないでちょうだい」


「はい、お母様」


「あなたの目は真実を見抜くわ。でも、怨霊はね、真実を見抜かれるのを嫌うものよ」


 可馨にも霊感がある。


 朱家の子として内功を扱う術を習ってきた。道士にはなれなかったものの、それなりの才能はある。


 だからこそ、動かない。


 怨霊が恐ろしいものだと知っているからだ。


(真実を見抜かれるのを嫌う?)


 雪花にはわからなかった。


 雪花が遭遇した怨霊は真実を訴えるものばかりだった。後宮の闇に葬られた怨霊は、その身に秘めた恨みから成仏ができない。それを手伝ってあげるのが雪花の役目だった。


「お母様」


 雪花はわからないことはすぐに問いかける。


 そうすれば、なんでも知っている母は応えてくれる。


「なにかあったのですか?」


「……昔の話よ。雪花は知らなくてもいいわ」


 可馨はため息を零した。


(朱家に関する話ね)


 雪花は見抜いた。


 可馨が言いたくなさそうにするのは朱家の話が多い。四大世家の一角であり、四夫人の地位を保ち続けてきた朱家と雪花は関りがない。外戚だというのにもかかわらず、祖父母にも一度も会ったことはなかった。


(朱家の謎も調べたいけど)


 本当はなにが隠されているのか知りたい。


 しかし、それを母が望まないことを知っている。


「一人での行動はやめてちょうだい。必ず、女官を連れて行くこと。いいわね」


「はい。お母様」


「お前は返事だけはいいわね。それくらいに素直な性格だと嬉しいのだけども」


 可馨はため息を零す。


 それに対し、雪花は苦笑して部屋を後にした。


(誰を連れて行こうかしら)


 暇そうな女官はいないだろうか。


 できれば、頭が良い女官が良い。


 雪花は働いている女官を観察する。

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