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公主は後宮の闇を暴く  作者: 佐倉海斗
第一話 第四公子が死んだ
3/4

03-1.第一公主は疑惑を抱く

(ヤオ) 小鈴(シャオリン)!」


 雪花は掃除をしていた女官、楊小鈴に声をかける。その声に肩を大きく揺らした小鈴はまたかと言いたげな表情をしていた。


 めんどうごとに巻き込まれる確率が高かった。


 今回もそうなのだろうと悟った表情に変わる。


「雲嵐の死の謎を解くわよ!」


「雲嵐公子は自殺と発表されたではなかったのですか?」


「五歳の子どもが自殺なんてするはずがないわ! 絶対に犯人が後宮内にいるはずよ!」


 雪花の言葉には誰も反論しない。


 誰だってわかっているのだ。


 しかし、鑑識役である宦官が自殺と判断したのならば、それに従うしかなかった。なにより、徳妃宮でその謎を解こうとする者はいなかった。雪花だけが強い正義感に従い、鑑識の宦官の判断を覆そうとしている。


「婉容宮の噂を知らない? 些細なことでもいいの」


 雪花は小鈴に問いかけた。


(徳妃宮の中の情報通は小鈴だもの)


 噂を仕入れるのが小鈴の役割の一つだった。


 すべては徳妃宮を守るためだ。些細な噂でも仕入れるようにしている。それを知っているからこそ、雪花は小鈴に声をかけたのだ。


「……そうですね。あそこは女官が変わるのが早いと聞いたことがあります」


 小鈴は嘘偽りなく話をする。


「入れ替えが激しく、常に人手不足に陥っているとか。徳妃宮にも婉容宮出身の下女がいますよ」


 小鈴の言葉を聞き、雪花は目を輝かせた。


 解決までの道のりは遠い。しかし、大きなヒントを得られそうな気がしたのだろう。


「会ってみたいわ」


「かしこまりました。ご案内します」


「ねえ、小鈴。その下女はどうしてお母様に拾われたのかしら」


 雪花は案内をしてくれる小鈴に問いかける。


 それに対し、小鈴は困ったような顔をした。


「正しいことは知りません」


 小鈴が専門に取り扱っているのは後宮の噂だ。真実ではないものも紛れ込んでいる。だからこそ、前置きが必要だった。


「宦官に紹介をされたという噂があります」


「宦官? 変な話ね。お母様は宦官が嫌いよ」


「ええ。ですから、正しいことは知りませんと申し上げました。所詮は噂にございます」


 小鈴の言葉に雪花は納得できなかった。


(お母様は宦官を嫌っているわ)


 下賤の者だと宦官を嫌っている。


 なにがあったのか知らないものの、雪花は可馨が宦官の話に耳を傾けるとは思えなかった。ましてや宦官の紹介を受け入れるとは考えにくい。


(お父様絡みね)


 父親である皇帝の部下である宦官だったのだろう。


 それならば宦官が嫌いだからと無下にはできないはずだ。


「……お父様も罪な方だわ」


 雪花は呆れたように呟いた。


 父親である皇帝は恋が多い人だ。寵愛を受け続ける妃賓はおらず、すぐに他に目移りをする。そのおかげで母親が違う弟妹が多い。雲嵐もその一人だった。


 雪花はすべての弟妹を把握しているわけではない。


 妃賓の位が低い弟妹は顔を見たことのない者も少なくはない。


 徳妃の娘である雪花は第一公主であり、皇帝の第一子でもあった。そのため、皇帝から寵愛を受け続けており、好き放題に我儘を言える環境で育った。


「小鈴」


 雪花は小鈴を呼ぶ。


 それに対し、小鈴はわかっていると言わんばかりの顔をした。


「洗濯をしている彼女が例の下女になります」


 小鈴は説明を口にする。


 雪花は洗濯物を洗っている下女に視線を向ける。汗をかきながら必死に洗濯物を洗っている下女は一人だけだ。徳妃宮の洗濯物は多いが、担当する下女は彼女だけなのだろう。


 徳妃宮には下女が少ない。


 そのため、景観を保つ掃除役に多くの下女がいる。洗濯物を担当するのは最下位の下女だけだ。


「ねえ、あなた、名前はなんというのかしら」


 雪花は戸惑うことなく、声をかけた。


 それに対し、顔をあげた下女は酷く驚いた顔をした。そして、慌てて最敬礼をする。


(リン) 明明(メイメイ)と申します」


 下女、林明明は名を告げた。


 なぜ、声をかけられたのか、わかっていなかった。


 しかし、第一公主に声をかけられたという事実だけは理解をしている。体が恐怖で震えていた。罰を与えられると思ったのだろう。


(名を聞いただけなのに)


 婉容宮では粗雑な扱いを受けていたのだろう。


 徳妃宮でも下女に対する扱いは粗雑なものだ。最低限の衣食住しか保証せず、長時間、働かせている。下女は奴隷と同じ扱いを受けることが多かった。


「明明。あなたは誰の紹介で徳妃宮に来たのかしら」


「はい。宦官であられる仔空様です」


「仔空? 仔空があなたを紹介したの?」


 雪花は驚いた。


 知っている宦官の名を耳にしたのだ。宦官の中でも唯一交流のある人だ。


「なぜ、仔空は徳妃宮を紹介したのかしら」


「わかりません」


「そうよね。あなたは婉容宮にいたのでしょう? なぜ、追い出されてしまったの?」


 雪花の問いに対し、明明は目を泳がせた。


(なにかを隠そうとしているわね)


 雪花は明明を逃がすつもりはない。


 謎を解き明かすためには情報が必要だ。その情報を明明が持っていると確信を得ていた。


「わかりません」


 明明は誤魔化した。


 解雇された理由もわからないまま、下女として働いているのだと訴える。


 それに納得をする雪花ではなかった。


「嘘を吐けば杖刑に処すわよ」


 雪花の言葉は冗談ではない。


 脅してでも情報を手に入れたかった。


 杖刑と聞き、明明の顔色はさらに青ざめた。それは痛みを知っている人の顔だ。


「……見てしまったのです」


 明明は口を開いた。


 よほど杖刑が恐ろしかったのだろう。


 ここで黙っておくのは自分のためにならないと判断をしたようだ。


(口が軽いのね)


 それも追い出された理由の一つだろう。


 婉容宮は閉鎖的な環境だ。主である婉容妃、黄 妃紗麻はほとんど宮の中に引きこもっている。外に出るときは園遊会等といった行事の時だけだ。


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