ヰ129 最終決戦
ズパァァァァァァァン!!
衝撃波と共に、4本の腕をエックス字に構えた魔王が、豊子キッズ達が避難していた教室内に現れ、
反射的に葉南と鶴子は、左右に飛び退いた。
「なんだ??!!」とジャガーが声を上げ、咄嗟に退魔ブレスレットをした腕をクロスしながら掲げ、「ネルネ!!こいつが魔王か?!え。ア、アコウシグレちゃん?!」と叫ぶ。
目の前に立つ青い肌をした三つ目の異形のものが、1本の腕をブン!と振ると、
ジャガーの腕の上で、魔石で編んだ腕輪が粉々に砕けて飛び散り、同時に金髪滅種の男子の体が、ぶわん!ときりもみしながらふっ飛ばされて、
黒板に叩き付けられた。
「痛ッて~」とジャガーが倒れた教卓に腕をかけながら立ち上がろうとする。
葉南と鶴子がお互いの目も合わせずに、示しあわせたように同時にジャンプした。
「……やめなさい!!」とネルネが鋭く叫ぶと、「ミゼルシルヴェーヌ!!」と白蛇の杖をグルンと回して怒鳴った。
眩しい光の矢が、青い皮膚の化け物めがけて、回転しながら物凄いスピードで放たれ、
魔王は一瞬ギョッとした顔をしながら、手にした湾曲剣でそれを弾き返した。
光の弾道は、そのまま2つに割れ、忍者少女と暗殺少女の身体を掠める。体制を崩した2人は教室の床に転がり、ズザッ!と膝をついて滑るとすぐに横っ飛びをして、葉南は白い形代を、…鶴子はかんざしを、魔王に向けて放った。
ガキーン!
それらは分厚い魔王の剣でガードされて、同時に紫色の唇がぶつぶつと何かを呟く。それを見てとると、
ネルネもすかさず「ハイゼルヴェルク!!」と唱え、杖からシールドを作り出し、3人の生徒達の周囲に、正十二面体から二十面体に変化し続けるレイヤーを作り出した。ギザギザの蝿の脚のような黒い魔法の刺が、防護壁に当たって跳ね返される。
「ネルネ??お、お前、魔法が使えるようになったのか?!」と腕に大きな痣が出来たジャガーが叫んだ。
「多分魔王が復活したせいね。一気に魔力が戻ったわ。」…と、よそ見をしたネルネの隙を見逃さず、破壊神カーリーヘアの化身は、髑髏を持った腕を振り上げ、瞬時に天井に溜まった朱色の渦を爆発させると、
四散した机と椅子の破片が、ネルネの側頭部を直撃した。
倒れたネルネの右脚で白いギプスが砕け、そのままこの大魔法使いの生まれ変わりは意識を失って、床に突っ伏した。
「ネルネ様!!」とおつうが絶叫し、
その叫びに連動して、葉南が「血!惨!知!衝!……脳!、燐!、睡!、散!、召!」と印を結んだ。
パリーーーン!!と結界が割れ、ガラスのように鋭い破片が、慌てて踞るジャガーの上に降り注ぐ。
「お、お前ら大丈夫なのか??さっきネルネが手を出すなとか言ってなかったか??!」
おつうと葉南は、彼の言葉を無視して、シュタッ!と左右に分かれて横っ飛びした。
……まずくないか??と、ジャガーは急いでネルネの側に駆けつけようと立ち上がり、床に散らばった退魔石に足を滑らせて盛大に転んでしまう。
魔王の剣がブン!と風を切って唸り、それが鶴子の首を切断する間際に、彼女は手を胸にあて、足をドリル状に纏めることで回転しながら急降下し、
既のところで鋭い刃が、彼女の長い髪を途中から真っ二つに切り裂く。入れ代わりに忍者少女がブチブチブチ!と自分の服のボタンを引きちぎり、
禅羅になった瞬間に姿をかき消した。
「葉南!気を付けて!!こいつは雌よ!尻子玉はないわ!」
「わかってる……」と葉南は、空中できりもみ回転をして、倒れたジャガーの後ろに着地すると、「五十嵐流忍法!尻子玉抜き!」と彼のズボンを下ろし、シュポン!とシリコンボールを抜き取った。
「ぬは……」とジャガーがうつ伏せのまま倒れる。
髪の短くなったおつうは、倒れたネルネの側に駆け寄り、自分の太ももからピンクのリボルバーを抜き取ると、THE剤の弾丸で援護射撃しながら、
目に見えない葉南を探す魔王に「こっちよ!」と叫んだ。
………なるほど。金髪男の尻子玉を、魔王のケツに先に差し込んで、男性化させたところで、再度尻子玉を抜くつもりね。……考えたわね。これなら奴の動きを止められるかもしれない。
ブン!と赤く長い舌が鶴子の眼球の前を掠り、唾液が目に入った彼女は、
……しまった!!と、咄嗟にネルネの動かない身体を庇って覆い被さった。
「喝波忍法!尻子玉刺し!」魔王の背後から手をカンチョーの型にした葉南が飛び込んでくる。
彼女が一瞬実体化した刹那、魔王のグーパンチが幼女のポッコリお腹にクリーンヒットした。
乳白色のシリコンボールが床を転がっていき、葉南の白い身体がぽてん、と倒れる。
「葉南!!」と鶴子が叫んで「ネルネ様!しっかり!」と彼女の主を抱きかかえた。
床に大の字になって、意識を失っている葉南の身体の下に、弧を描いた水がぴゅうぅぅぅ……と噴射されているのが見える。
……なんで、あの子、越智くんちをつけてるのよ……。
4本の腕のうち、2本の腕で握った剣を下に向け、
魔王が葉南の上でそれを振り下ろそうとした。
鶴子はキュキュッ!と靴の裏を激しく鳴らすと、摩擦で火花を吹き上げながら突進し、ぎりぎりのところで葉南を回収し、
魔王の剣が、教室の床に突き刺さる。
……ん、て言うか、何故魔王は肉弾戦ばかり仕掛けてくるのかしら……。もしや………。
鶴子は戦闘の状況を素早く分析し、
……そうか!ネルネ様が気絶しているから、魔王も魔法が使えないんだ!と結論した。きっと2人は連動している。……ネルネ様も、さっき魔王が復活したせいで魔力が戻ったっておっしゃっていたし……。ネルネ様…疑って申し訳御座いませんでした!貴女は本当に魔法使いだったのですね!!この戦いを生き残れたら、私を好きなだけ御罰し下さい……。
ブン!!キュルキュルキュルキュル……!!
しまった!?禅羅の葉南とネルネを抱きかかえた鶴子が顔を上げると、
物凄い勢いで回転しながら飛んでくる剣が、ブーメランのように弧を描きながら、彼女の首をめがけて迫ってきていた。
ギャキーン!!
思わず目を閉じた鶴子が、恐る恐る目蓋を開けると、
身体中に蒙古斑を発現させた葉南が、牙のついた口で紫色の剣を受け止めているのが見えた。
ウググググググ……
涎を垂らし、赤い瞳で魔王を睨む葉南は、巨大な剣を口に咥えたまま四つん這いになり、シュタッ!と天井まで跳躍すると、同時に鶴子も飛び上がり、
2人は空中でクロスした。
着地すると、入れ代わりに鶴子の手に魔王の剣が握られている。
戦利品を奪われた葉南が「ウガッ!!」と怒りの声を上げた。
呆れた顔をした難波鶴子が、ブンブン!と鼓笛隊の指揮棒のように半月刀を振り回し、
「理性を保ちなさい、葉南!」と叱責する。
と、その時だった。
魔王が突進してきて、激しく回る刀の扇風機に手を伸ばしてきた。逆に驚いた鶴子の目の前で、3本ばかりの指の破片が宙を飛び、
血飛沫が彼女の顔にびちゃびちゃっとかかる。
「え?!」
と鶴子が絶句して回転を緩めた時だった。
魔王が血まみれの手で、豊子キッズナンバーツーの手首を掴み、湾曲した刀を力ずくで奪い返した。
そして勢いもそのまま、ブン!と腕を水平に振り切ると、鶴子の首を刎ね飛ばした。
ガクンッと膝をついた身体が、前に向かって倒れる。
それを見た葉南が恐怖に顔を歪めて急旋回し、背中を向けて逃げ出そうとする。
カーリーヘアの魔王は殆ど軽やかにピョン!とジャンプすると、青痣を身体中に発現させた肌色の生き物の背中を追いかけ、
刀をブルン!と天井へ切り上げると、
丸いオシリスが2つに割れて、……糸の切れた五十嵐葉南が床にズザ………と転がった。
下半身の感覚がなくなったジャガーが血まみれの床を、腕の力だけで這いながら「……ネ、ネルネ……起きろ……起きてくれ!ぜ、全滅だぞ……」と、横たわる白ロリ少女の方へ近付いていく。
……………。
………。
*ハア*
「………もう…なんなのよアナタ達……。
仮死状態でチャンスを狙ってたのに………計画が台無しじゃない!今、魔力使っちゃったら、勝てるもんも勝てなくなるわよ!
……ウラ、アスラ、マスラ、ミナ、フレイア、カタストラーゼ!!!!!!もー知らないからね!?」
ぎゅういいいいいん、と空間が捻じ曲がり、ネルネがかざしたフレミング左手の法則がエネルギーを発し、同時に腕のギプスが粉々に割れ、リングになった水色の光が交錯していった。
ネルネは完全体の左手で白蛇の杖を握り直すと、背中に1メートルを越える黒き翼をバサッと開いた。
「ダンキューム、セト、アルヴィッツ、カイザイン!!時よ、大魔法使いネルネの名の元に、その法則を融通せよ!!」
ビュウィィィィィィィィィィン!!
気が付くと、荒れ果てた教室は元通りになっており、ネルネの前には、……鶴子と葉南とジャガーがいて、心配そうな顔をしてこちらを覗き込んでいた。
「もう!アナタ達?今みたいに時をやり直せるのは一回きりなんだからね!今ので相当魔力を消費しちゃったから、もう私、破滅光線クラスのやつは使えないわよ!?どーすんのよ、これ!ほら、来るわよ!あっちは魔力満タンよ??」
ネルネはそう叫ぶと、眼帯を外して、黄金に輝く瞳をニルヴァーナした。
「ネルネ様??お怪我が……」「ああ、これね?徐々に解放するのがカッコいいって思ったけど……もう面倒だからいいわ……一気にイクわよ?」
ネルネはそう言うと、噴怒!!とこめかみに血管を浮き立たせ、
ボワン!と背中に黒き翼を出し、手足のギプスを気合いで破壊した。むち打ち首輪が弾け飛び、マスクの下から現れた艶やかな唇をキラン!と輝かせニッと笑うと、鮫のようなギザギザの歯を覗かせる。「まともな相殺魔法も、もう間に合わない。ホンット……アナタ達?やってくれたわね……もうこの方法しか残っていないじゃない。これだけはやりたくなかった……あ~でも色々と楽しかったわ!正直、豊子塾のことが心残りだけど……後はアナタ達でうまくやって!では…ゴキげんよ~!」
ズパァァァァァァァン!!
衝撃波と共に4本の腕を交差した魔王が教室に現れる。
間髪入れずネルネは「……サイン・ゼリアァァァァァァドォォ!!」と杖の先端を敵に向け、
キュピィィィィィィン!と高音を発生させながら真っ白になって、驚愕する魔王と共に光の中へ消滅した。
病室で目が覚める。
「やあ、起きた?」
と無頼孔雀が、ベッドを覗き込んできた。 「ネルネくん、すっかり薬が抜けたようだね。」
薬?
「君は麻酔の影響が残りやすい体質だったからね。覚えてる?君が初めてここに来た時。三年前、オーバードーズか何かで鈍器法廷の3階の窓から飛び下りて頭を打ってここに運ばれてきた時、君は麻酔が効きすぎてずっと眠り続けていた。」
「……私、どれくらい眠っていたの?」
……全ては幻想?
……なんだか体が軽いわ。解き放たれたよう……今までのことは全部夢?
……私は普通の女の子……?どこまでが私の幻想?…前世?…豊子キッズ?…おジャガー?おつう?…救世主?
………みんな本当は存在していなかったの?
「ネルネ!」「ネルネ様!」「……」ドタドタと子供達が病室に駆け込んでくる。
あ、おジャガ、おつう…葉南……。
「もう無茶しないで下さいませ。……そして魔法を疑って誠に申し訳御座いませんでした!」鶴子が病室の床に土下座する。
「……ん?私、いつから寝てた?三年くらい?」「なに言ってんだ!昨日からだろ!大丈夫か?心配したんだぞ。魔力切れか?」
………ああ、そうか。
……思い出してきた。
「ん?赤穂時雨は?」
「隣の病室でまだ寝てるよ。あいつも気絶してまだ目が覚めない。」とジャガーが言う。
葉南が「今、向井蓮が来て、彼女の病室の外で待っています。」と言った。「今は赤穂時雨にはご両親がずっと側についていますね。」
「私の魔法は成功したようね……」とネルネが呟いた。「魔王の記憶を封印することを引き換えに……私は……、中学で学んだ全ての知識を失った。…これだけはやりたくなかった……
……数学?それなに?もう、私は算数までしか覚えていない……負の数、xy、方程式、関数などの抽象的な概念は全て忘れてしまったわ……。」と表情に絶望を滲ませながらネルネが、悲しそうに言った。
「………て、言うか、お前元々小6だろ。結構普通じゃないか……それ。」
とジャガーが言う。
「勉強なら手伝おうか?」
「あら、アナタは……」
ジャガーの後ろから、神妙な顔をした設楽居海人が進み出てくる。
「メサイア?何でアナタがここにいるの?」
「メサ……?いや、あの向井くんて子が、クラスメイトの時雨ちゃんがこっちに来ているはずだ。って言うものだからさ……心配で一緒に追いかけてきたんだ。いったい何がどうなっているんだ……」
五十嵐葉南は、スマホを出し、一番弟子の飛鳥めいずの無事を確認していた。
『スポーツジム・エッサイムの大規模停電事件』『停電中の個人情報の流出』……
「お詫びということで、ラウンジの食事券と1ヶ月の無料サウナ券をいただきました。」とめいずが言う。「まあ、どちらも富裕層には不要なものですね。」
ネルネは、ヨッコイショ♡とベッドの上で半身を起こす。
近くの壁には、折れた白蛇の杖がたてかけてあった。「やっぱり耐えられなかったみたいね…でもなかなか良い杖だったわ。おつう?次はすぐに折れないように、フェルナン・ブコ材を使って。」とネルネが言った。
「ハハッ!可能な限り善処させて戴きます!」と鶴子が傅く。
「……設楽居海人。」「ん?」
「アナタを家庭教師として雇いたいわ。」
「え?」
「中二の夏までに中学の全教科を完了させたいの。」
「……いや、ちょっとそれは……いや、面白そうだけどさ……」「Z○○mで構わないわ。」
「……考えとくよ……」
「なら、俺にも教えてくれよ。」とジャガーが口を挟む。「女の子にモテるのってどうしたらいいんだ?」
アッハッハッハ……
と無頼孔雀が笑い、無表情の女性陣以外、和やかに診療所の午後が過ぎていくのであった。
『The final battle』




