3月28日
緊張が祟ったのか、今日は凄い涎を垂らして寝てしまったらしい。
枕元がティッシュまみれ。
外は晴れ。
《おはよう》
「おはよう、このまま晴れかな、シーツを洗濯したい」
《今だけみたい、曇りの予報。乾燥機使ったら?》
「それもそうか」
《あ、一応後で使い方教えるね》
顔を洗ってカバーを外し、洗濯開始。
ネットのハーブを確認する、乾いてるのでストレージへしまい、再びハーブ滓を広げる。
今日はシーフードのペペロンチーノ。
お湯を沸かして貰っている間に、氷をセット。
マティアスの茹で加減は上手。
麺は一旦しまい、解凍してあったシーフードミックスに火が通ったらペペロンチーノ瓶をフライパンで一気に混ぜ合わせて完成。
付け合わせは野菜のトマトスープ。
「あ、仕事は?」
《お休み貰った、でも何かあったら行くけど、ニンニク位大丈夫でしょ》
「すまんな、食べたいの作っちゃった」
《美味しいから問題無し》
そして今日は食事も程々に、勉強とエリクサー製造へ。
暖炉には鍋を置き、お勉強。
洗濯が終わったので、マティアスの指導で乾燥機をセット。
勉強の合間に鍋や火を気にしつつ、ストレッチ。
たまにマティアスがストレッチを手伝ってくれる、そしてマティアスは普通に柔らかかった、悔しい。
「痛がってくれない」
《君が硬すぎなの、肩も少し凝ってるし》
「頑張って背筋良くしてて、変に力んでたんかもな、涎も凄い垂らしてたし」
《何が1番緊張した?》
「ラウラになって行ったのと、誑かした時だな、多分」
《口説いて泣き落としたって本当?》
「嘘は言ってない」
《シオンもラウラも犯罪させたら凄そう》
「無理、良心の呵責と天性のビビりで秒で捕まるか、具合悪くなる」
《だよねぇ、ストレスで涎の海を作ろうとするんだもの》
「あのティッシュはお前か」
《だって、最近良く起きてた時間に起きて来なかったから、心配だったんだもの》
「だから今日はエリクサー飲みまくる、そして補充も。周りに影響あるかもだから、急に消えるかもだけど心配しないで、アヴァロンかロウヒかドイツだろうから」
《うん、でも、マメに計ってよ?》
マメには計る、ただ前も計測しながらエリクサーして島を分離させたのだから、今回も期待は出来ないんだよな。
エリクサーを飲んでは炭と氷の様子を見て、エリクサーを飲んでは鍋を見る、そしてストレッチしてエリクサー。
もし明日何も無いなら、タラや野菜をオウルで仕入れて鍋にしようか。
ニンニク醤油とレモンポン酢を作って食べるとか。
エリクサーを飲みまくる時は、どうしても和食を食べたくなる、和食と言うか、醤油。
今はハムやチーズをエリクサーのアテに食べているが、やっぱり醤油が好き。
大きなグラスのエリクサーを飲み干し、計測。
中域。
「はー、上がらん。マティアス、気分はどう?感情のぶれ幅大きくなって無い?」
《大丈夫だと思うけど、計測器壊れて無い?眼鏡は?》
「掛けてみる」
鏡を見ても特に代わり映えは無い、偽装を解除してみる。
変わらない。
マティアスに眼鏡を貸し、偽装前と偽装後を見比べて貰う。
《本当に解除した?》
「した、暫くこのまま飲んでみる」
《うん、無理しないでね》
マティアスは相も変わらず執筆、一方コチラは鍋チェック。
続いて中庭の氷と炭のチェック。
蒸留は氷さえ有ればほぼ放置出来るのが良い。
中へ戻ってストレッチ、からのエリクサー。
付け合せのハムは飽きたので生ハム、旨い。
合う。
鍋を見る、もう少し。
そして色と匂いが最高潮の時にハーブを濾し器に取り出す、葉から1滴1滴と最後の時が滴り落ちる。
1番キラキラして綺麗な瞬間。
「マティアス、見える?」
《わぁ、いつもコレを眺めてたんだ、綺麗》
「ずっと見てたい」
《そうだね、ずっと見てられる》
「暫く貸そうか?」
《うん》
マティアスは本当にキッチンカウンターに突っ伏し、ずっーと見ている。
コチラは蒸留完了、氷の容量は把握したかも。
もう1回蒸留開始、氷はパンパンに。
コレで全て溶けきる頃に出来上がる筈、中庭の氷も回収して再セット。
マティアスの様子を見に行くと完全に眠っていた、ブランケットを掛け放置。
一旦全てをストレージにしまい、暖炉にゆっくりと再セット。
乾燥機が鳴る前にランドリールームへ。
残り10分、一時停止し乾きを確認、ふわふわ。
そのまま停止させ、2階へ静かに上がる。
シーツを掛け、枕元にはカバー。
思わず眠りたくなったが今は我慢。
下へ静かにゆっくり降りる、まだマティアスは眠っている。
そのまま鍋へ。
ゆっくりと掻き回す、お玉も鍋も金属なので当たらない様に慎重に。
材料が沈んだら、床に座ってエリクサーがぶ飲みタイム。
生ハムと合う、妖精達にはカボチャの皮。
彼らもかなり気に入ったらしい、まさかのライバル出現。
再びコップのエリクサーを飲み干したので、測定。
変化無し。
まさかと思い、元に戻って計測。
高値、コッチに流れてるのか。
この男のまま貯める方がエコなので、また変身して今度は遠慮無しにがぶ飲み。
生ハム1枚でエリクサー2杯はイケる事が分かった。
調子に乗ってもいけないので、男のまま計測。
中域。
2杯に1回、3杯に1回、一杯づつ足しながら計測するも変化は無い。
正直、このまま溢れさせてはみたいが、させるならロウヒ家でだろうか。
ともかくマティアスが起きるまでは静かにしておこう。
鍋へと戻り、優しくかき混ぜる。
マティアスが眠ってから45分。
今日はお昼寝が長いな。
少し心配になったのでカウンターキッチンへ行き、向かい合わせになる。
「起きてるじゃない」
《今さっき、起きた、何か夢を見た気がするんだ》
「どんな」
《妖精になってるの》
「ソファーで寝直したら?続きが見れるかもよ」
《うん》
ブランケットを持ち、そのままソファーへ横になると本当に眠ってしまった。
今日はもしかして寝てないのか、カウンターで寝かせたのは悪手だったかも。
目を瞑り、マティアスの身体に異常が無いか確認。
全く健康そのもの。
問題は無さそうなので鍋と生ハムエリクサーを往復するが、流石に味に飽きて来た。
今度は蒸留エリクサーへ移行。
味は薄いハーブティーに近いので、暫くはコレで過ごす。
ハーフエリクサーと名付けられてはいるが、キラキラは他のエリクサーと変わらない。
味や色が半分以下だからハーフエリクサーなのだろうか、外用目的で作ったのだが味無しも悪くない。
匂いを除けば西洋麦茶か。
蒸留に鍋にストレッチにと忙しくしている間、妖精達は蒸留の氷が溶ける様を見つめたり、マティアスの髪で遊んだり、踊ったりしている。
(もし、異変を感じたり異常に楽しくなったら教えてね)
《はい》
《うむ》
計測は変わらぬまま。
何度も女に戻るのは消費が勿体ないし、しかもアッチが溢れていたら被害が出るし、かと言って確認はしたいし。
うん、ロウヒだな。
鍋と蒸留を確認した後、キッチンへ行きロウヒへ繋ぐ。
(マティアスが寝てるから小声で)
(うむ、珍しいな)
(寝てなかったのかも)
(昨日は大変だったろうからな、眠れぬのも無理は無い)
(で、それとは別なんだけど、エリクサー飲みまくってたんだけど、容量に変化が無くて確認したら、女体の方に流れてたんだけど、どゆこと)
(それは、多分だが、男の容量との差異から、女体の追加枠として身体が変化したのかも知れん。1つの箇所を搾られた風船の様に分離しつつも、経路は遮断されては居ない。女体時の環境とも違うのだから、もしかすればそう変質したのやも知れんな)
(変質は良くあるの?)
(長い時間変身していれば、その身体も当然代謝するだろう?変身前とは違う環境で有れば有る程、独自の影響を受けるだろう。まして柔らかい膜なのだ、変化には当然順応するだろうな)
(周りの魔素は少ないし、偽装で膜に形も付いちゃったから、こうなったのかも知れんのね)
(仮定だ。そもそも、変身とは一時的なのだから、そう長く居るのは想定外だ)
(楽なんだよなぁ)
(余り長いと子種が出来て、元に戻った際に機能を取り戻してしまうかも知れんぞ。お互いに、常に影響し合うのだから)
(それは面倒。でもさ、この状態で満タンにしてみたいんだよね、同じ事になるのか、違う何かが起こるのか気になる)
(そうさな、容量も違うのだから、変化している可能性はある)
(ロウヒは魔素に影響されるか分からんよね)
(どうだろうな、少し楽しみではあるが、怒り等の感情が出ては困るしな。前はどう切り抜けた)
(アヴァロンを、浮島を分けて貰った。人間はレジストで大丈夫で、神の媒体には効かなかった)
(ほう、なら益々ワシがどうなるか分からんな)
(あ、シーリー家はどうだろ)
(そも亜人への影響が不明だろう)
(あー、なら僻地でレーヴィと試すか)
(そうだな、なら溢れた際には魔石を使えば良い。放出し切った魔石に吸わせるのだ、額に当ててな)
(おぉ、なるほど。でも使い切ったの無いぞ)
(魔石から吸い出し溢れさせれば良い)
(初めて使う、ドキドキだ。あ、ちょっと鍋見てくる)
(うむ)
蒸留の方は氷半分、鍋も良い感じで鮮やかになってきている。
にしても魔石とは、緊張するな。
(お待たせ、大丈夫だった。魔石の使用上の注意ってある?)
(いや、寧ろ通常はリミッターが効くのだ、膜に硬さがある場合だな。その場合は異変が起こる前に流入が止まる)
(そうじゃ無い場合は暴走か何かすると)
(まぁ、もし止まったならエリクサーでも飲めば良いさ)
(制御具付けた方が良いかな)
(そうだな、何かしらの魔法の暴走なら、エリクサーそのものを受け付けず吐き出すだろうし。仮にその経路が塞がれ、腹痛等になるならば安心ではあるしな)
(未発達なのか、この身体は)
(あぁ、元は魔法の無い世界だったのだろう?なら、そうなのかも知れん)
(うーん、そうなるとマティアスの医学知識も欲しいな、何か事例が有るかもだし)
(そうだな、ワシも未経験の事。人の身体であるからして、助言を聞こう)
(お昼には起こすか起こすまいか)
(ワシは寝かす派)
(だよなぁ、寝かすか。ありがとね)
(うむ、またの)
それからマティアスの様子を見ても、寝返りは打つが起きる気配は無い。
エリクサーを飲むのは一旦中止。
ストレッチと勉強、鍋の番を繰り返す。
もうお昼、中庭の氷を回収。
蒸留は成功、モリモリの氷と中火の火力。
鍋も良し、暖炉の安定した火力が良いらしい。
まだマティアスは眠ったまま。
上に行き自分もお昼寝。
『ほら、来たよ』
「マーリン、何でマティアスが居るの」
『夢をほぼ見ないって言うから、見せて上げようかなって』
「泣いてるじゃんよ」
『僕の人生を知りたいって言うから、見せた』
「失礼な事を言うけど、もう少し楽しいのにしてあげてよ」
《ズズッ、大丈夫、私が選んだんだし》
「バカだなぁ、大丈夫か?影響するぞ?」
『そこは大丈夫だと思う、君みたいに家族の問題は無いから』
「うるせぇなぁ、見たの?」
『少し、遠目から。ホラーだね』
「だろう」
《見たい》
「学習しろ、コレは影響する可能性が有る」
『そうだね、トイレ行けなくなっちゃうよ』
「そっち?」
『うん』
《ホラーなら平気》
『本当に?』
「唆すな、和ホラーはまた別格なんだから」
《嫌なら見ない》
「嫌では無い、解決したから」
《じゃあ、ハッピーエンドではあるんだ》
「まぁ」
『じゃあ、私も行こうかな』
「チビっても知らんからな」
そう言い終わった瞬間、2人が黒い椅子に座らされると、ジェットコースターのハンドルとベルトに絞めら。
そのまま体験型アトラクション宜しく、禿げ山コーナーへと射出された。
迫り来る山姥、逃げた先には真っ赤な女。
追い掛けられ追い立てられ、走り逃げ惑う2人。
そしてマンションの部屋では、迫り来る怪物3体。
2人は金縛り宜しく椅子へガチガチに拘束され、大画面から目が反らせない。
と、ソコにモザイクが登場、多分マーリン同士が影響し合わない為に制御されているらしいが。
どうにもシュール過ぎる。
モザイクが怪物を1体吹き飛ばし。
もう1体がマーリンとマティアスの腕を掴んでいたのだが、それも切り落とした。
そして終焉へ、再び禿げ山へ戻されるが、ソコには戦車とモザイク人間が登場し、真っ赤な山姥へと砲弾と銃弾の雨を降らせていた。
なんかパロディ映画みたいな事になってる、最初の恐怖はどうしたよ。
《モザイクが出るまでは、スッゴい怖かったんだけど》
『モザイクは狡いね』
「しょうがないだろ、安全装置が働いたっぽいんだから」
《だからってモザイクって》
『山姥に戦車も狡い』
「だって、退治を任せたらそうなったんだもの。戦闘訓練に近接で行くと思ったのにさ」
『まぁ、接近戦は最終手段だろうからね。安全を考慮するならば遠距離攻撃は正解でしょう』
《面白かったんだけど、面白かったって言って良いの?ある意味トラウマなんでしょ?》
「自覚したのと解決したのが短期だったし、大丈夫。楽しんで貰えて何よりですよ」
『よし、じゃあ君は先に帰ってて』
《はい、ありがとうございました》
マティアスが映画館の扉を開け、出て行った。
視線を戻すと、旅館の離れの広縁に座っている。
「はぁ、寝てないのかと心配したらコレか」
『ふふ、君の居ぬ間に少しね』
「まぁ、マーリンが良いなら良いけど」
『うん、知って貰うのも悪く無いかなって』
「そう。そうそう、容量を溢れさせようと思ってるんだけど、レーヴィを少し返してくれない?」
『なるほどね、それならトールに会いに行ってみて、彼が居場所を知ってる筈だから』
「了解」
『うん、じゃあね』
目を覚ますと、まだ15分しか経って居なかった。
マティアスはまだ眠っているが、昼食の支度開始。
マカロニを茹でつつ、別鍋にグラタンミックスにキノコやシーフードを入れ煮立たせる。
マカロニが茹で上がったらそれも良く混ぜて容器へ流し込む、チーズをタップリ載せているとマティアスが起きて来た。
《おはよう、良い匂い》
「グラタンでござ」
トースターで10分少し焼き目を付けて、カウンターへ出す。
付け合わせは無し、デザートは果物。
《美味しい》
「インスタント万歳」
《でも美味しい》
「君でも出来る」
《じゃあ今度頑張ってみるけど、具は?》
「同じで良いんじゃない?冷凍ほうれん草とハムでも良いし」
《じゃあ、それにする》
「がんばれ、ポイントはいきなり牛乳入れない事だ」
《うん》
「おう。食べ終わったらちょっと出掛ける、制御具貸して、安全の為に」
《危ない事?》
「容量確認に使いたい、暴走しない為に」
《うん、でも、私は立ち会えないって事だよね》
「向こうには居なかった亜人に、どう作用するか分からないから」
《そっか、そうだよね》
「でも、助言は欲しい。どうなると思う?それと変わった事例が聞きたい、それ次第では試す方法を変えるかもだし」
《んー、普通は、嘔吐とか腹痛、頭痛なんだけど。レーヴィの気分を良くさせたなら、やっぱり気分をどうにかさせるのかな》
「だよね、ロウヒとも相談したから、だから心配しないで」
《分かった。じゃあ、はい、コレ》
洗い物を任せ、ラウラへ変身、コートを羽織り隠匿の魔法を唱える。
中庭に出て伝書紙へ伝書し、今回は飛行機に折る。
宛先はトール。
すると伝書紙は一気に高く舞い上がり、北へと飛んだ。
行き先はウツヨキなのか、試しに空間を開くと伝書紙は方向を変え空間を通り過ぎた。
そしてシーリーの家も通り過ぎ、嘗て魔禍が有ったとされる方向へ。
そこにはレーヴィ隊とトール、しかもトールが妖精と話している。
幸いにも隊の全員にも見えているらしいが、レーヴィが居ないし、コレはどうしたものか。
悩む間もなく伝書紙がトールへ届くと、少し離れた場所で開封してくれた。
内容は、会いに来ました、シオンが。とだけ吹き込んだ。
「レーヴィを、少し返しておくれ」
『おぉ、ソコか。良いが、何か有ったのか?』
「いや、実験に少し同行して欲しくて」
『ほう、詳しくは言えんか』
「神も妖精も影響される可能性がある、今の適格者は人間のみ」
『そうか、なら俺が伝書紙を出そう、見失うなよ』
「おうよ」
トールが伝書紙を飛ばすと同時に、オウル、ヘルシンキと空間を開く。
吸い込まれた先はオウル、ソコへそのまま付いて行くと大学へ急降下。
大学敷地内は特に魔法が制限されていないので、更に追従する。
人の出入りに合わせ中へと入り、職員室らしき場所で止まった。
そしてドアの隙間へ入ってく。
暫くするとレーヴィが出て来て、辺りを見回し奥の廊下へ進んで行く。
空き教室なのか、そこで手紙を開封し黙読している。
『シオン?』
「おう、忙しそうだね」
『大丈夫ですよ、トールから急な呼び出しが入ったと、この伝書紙で言い訳出来るので』
「すまんね」
『いいえ、じゃあ行きましょうか』
先ほどまで居た部屋へと戻り、伝書紙を渡したのか直ぐに出て来た。
そして大学の廊下を歩きつつ独り言を言っている、この先の裏口でベールを被った運送屋が待っているんでしたよね、と。
急いで辻褄合わせに裏口へ行き、空間を開くと同時に隠匿の魔法を解いた。
そして何事も無い様にレーヴィですと名乗られ、再度開いた空間を通り過ぎた。
場所はロウヒの家の裏手、荒涼とした何も無い場所がココしか思い当たらなかったのだ。
「早速だけど、レジストして。それで何かあったら、あの家に行って」
『はい』
「じゃあ、始める。何か有れば言って」
『はい』
ラウラのまま、義体ソラちゃんと制御具を出し装着、魔石を額に当てた。
一瞬で全てを吸い上げた瞬間、噎せかえる様な甘い匂い、そしてアルコール臭が漂った。
そして辺り一面には魔素が広がっている。
急いで制御具を外し、魔除けの鈴で散らすが、レーヴィの顔が見る見るうちに赤くなって行く。
空の魔石を額へ押し付けると、赤味は何とか収まった。
「大丈夫?」
『ありがとうございます、一気に酔って一気に覚めた感じで。甘い匂いがしました』
「揺り戻しや、ぶり返しそうな気配は?」
『得にはありません』
「すまんがもう少しだけ」
『はい』
今度は魔除けの鈴をレーヴィへ渡し、シオンで実行。
制御具無しでエリクサーを1口づつ飲む、1口2口。
15口目で再び魔素と共に甘い匂いが漂った。
レーヴィは無事そう。
ラウラが満杯になって始めてシオンへ逆流し、魔素の拡散になるらしい。
影響が怒りとかでは無かったから良いが、またややこしい体質に。
「匂いってしてる?」
『先程はしてたんですが、間近でなら僅かに匂いの元が分かる程度には香っていますね。それよりキラキラとした魔素が見えましたよ、凄いですね』
目がトロンとして、効能違うのかコレ。
「よし、ちょっと付いて来て」
そのままロウヒの家まで跳躍、魔素は振り切れたが、まだ目がトロトロ。
魔石を額に付けると、目が覚めたらしい。
そこから空間を開き、ロウヒの部屋の扉をノックする。
『おう、家の前か。そのまま入れば良いものを』
「容量の実験しててさ、ロウヒに効くか試したくて」
『お、良いぞ、だが一応、魔除けの鈴と魔石を貸しておくれ』
「おう、レーヴィは少し離れて待機」
『はい、了解です』
シオンのまま、空間を開いたままでの実験。
魔除けの鈴と魔石を持ったロウヒの前で、7口分のエリクサーを一気飲み。
それと同時に魔素と匂いが広がった、だが直ぐにはロウヒに現れなかったが、顔がほんのり蒸気して来た。
「魔石、鈴」
『仕方無い』
鈴で散らし魔石を宛行う、直ぐに頬の赤味も引き、匂いも魔素も空へ舞い上がった。
ラウラでも同じ、匂いと魔素の視認有り、神様で人間だからか。
「ちょっと効きが悪いと言う事は」
『あぁ、この体は人間だが。神の肉体には効かん可能性も有る』
「一応試す、ありがとう」
『おう、行ってくると良い』
レーヴィの元へ飛び、今度はトールが居た場所へ向かう。
まだ居た、レーヴィに呼んで来て貰う。
『お、もう良いのか?』
「もう少し、ちょっとコッチ来て。レーヴィはそこで待ってて」
今度はトールに鈴と魔石を持たせ、シオンのまま目の前でエリクサーを飲む、今度は3口分。
だが魔素も匂いも出ない、今度は4口分を一気に飲むと魔素と匂いが広がった。
『魔素か』
「匂いは?」
『いや、特に何も無いが。こう、眠気がきたな』
どっちでも影響しちゃうんかい、じゃあ亜人はどうなる。
「ロウヒは後発だった。人間は女の方だと甘い匂いと影響があるんだけど、だとすると亜人はどうなると思う?」
『んー、そうなると効かないかも知れんし、効くかも知れんな』
「だよなぁ、レーヴィはもう大丈夫だと思うけど、どうする?」
『少し俺が預かる、お前は帰って試すと良い』
「うん、ありがとう」
レーヴィに手を振り、家へと戻った。
《お帰り、大丈夫だった?》
「まぁ、後は君だけだ」
マティアスをロウヒの家の裏手へ連れ出し、実験開始。
制御具に鈴と魔石を持たせ、ラウラになり、目の前でエリクサー4口分を飲み干す。
途端に匂いと魔素が広がると、魔素を視認出来ない筈のマティアスがキラキラを目で追い始めた。
《キラキラだ!凄い!見える位に濃い魔素が出てるのかな》
「匂いは」
《んー、ココまでくれば。甘い、お酒の匂い?ラウラから?初めて聞くかも》
言葉を話すたびに頬が赤くなる、急いで魔鈴を鳴らし魔石をあてがうと直ぐに収まった。
「覚めた?」
《うん、ビックリしたぁ、急に酔ったみたいになったよ》
次のシオンでは匂い強いが魔素の視認が出来無い、が、影響は少し有り。
「あぶねぇ、家に送るから大人しくしてて」
《うん、そうしとく》
次にシオンのままドイツに行き、ミアをアヴァロンへ連れ出す。
ティターニアとマーリンに実験、マーリンはティターニアとは違う反応になった。
そして次に妖精とミアの目の前で試すが、エルフは神様と同じ反応、妖精はどうしたって影響しまくりだった。
結果は分かったのでシオンのまま家へと帰り。
ロウヒも加えて結果発表。
その横ではマティアスが表を制作。
縦の欄は人、亜人、神、マーリン(精霊)、妖精。
横は変化を記す、匂い、魔素の視認、影響。
空欄には斜線、女、男と入れ、評価査定。
人か亜人か区別は出来るが、影響が有るので何とも。
「ラウラに戻っても溢れないのは安心だが」
《フィードバックし合ってるみたいだね》
『そうだな、余り聞かんのは膜が柔らかい者の変身が少ないからだろう』
《ましてそれを言い触らすなんて事はしないだろうし》
『だな、にしても綺麗に分かれたな』
《匂いと魔素の視認で分かるものね》
「そんなリトマス紙的に使う場面なんぞ有るかね」
『対ロキ用だな。例え変化していても影響はあるだろう、炙り出すには最適だ』
「居るかも分からないし、でも何か、だからって感じだなぁ」
『まぁ、副産物だからな、体調不良にならないだけ良かったでは無いか』
「それな、酷い吐き気とかビビってたんだけどね」
『なー、本当に。ワシなんて頭痛と眩暈だ、もうゲーゲー吐くの』
「辛いなぁ、今は?」
『大丈夫だ。だがそうだな、空の魔石は欲しい』
「少し溜まってるけど、どうするん」
『それは、こうすれば良い』
ロウヒの家にある鍋に魔石を入れると、光りが拡がり魔石が完全に退色した。
その反対に鍋は光り輝いている。
「なんなんよ」
『道具にも時には褒美が必要だろう、お前の鍋にも与えてやると良い』
「お、おう」
洗濯済みのタオルで内部を軽く拭き、親指の爪サイズのキラキラした魔石を置く。
魔石が一気に半分まで退色し、鍋が輝き出した。
蒸留器にも試してみる、新品の魔石7割りまで吸われた。
綺麗に色が別れて、コレもまた良い感じ。
地の魔石は透明になり、宇宙の魔石は黒くなる。
《良いなぁ》
『魔石と思わなくとも充分に楽しめるからな』
「ぶっちゃけさ、市場崩壊するレベルで流出させたらどうなるんかなとは思うよね」
『そう言った事はマーリンの領分であろうが、相当上手くやらない限り、何れは戦争が起こるのだろう。販売元として判明した暁には、暗殺、脅迫、そう言った事から始まるやも知れんな』
「そこかぁ、地上で生きられないのはなぁ。ココにだってあるんだろうから、過剰供給にもなるだろうし」
『もし、どうにかするのであれば、発見又は販売は神である方が良いだろうな』
「それな、にしても宛に出来る神様が存在してるかだ、居ないなら魔石の入手が難しくなるし」
『何処でなんだ?』
「地母神系」
『ほー、どう接点が出来たんだ?』
「ネットで神様調べて会いに行った」
《ネットかぁ、そこもどうにかなってくれると良いんだけどね》
「そこはな、微妙、ネットって害悪もあるし。どう協力すれば良いかも分からんし」
『ふふ、そうだな。そういえば、カボチャプリンはどうなった?』
「もうオヤツの時間か、あるよ」
《手伝ってくれたんだよね》
「ちょっとだけ」
好きな分だけ掬い取り、好きな分だけカラメルを掛ける。
そこに紅茶、珈琲、それぞれに好きな飲み物を合わせて食べる。
ずっと美味しい、美味しいけれど味変にと生クリームが出て来たので乗せて食べる。
やっぱり美味しい。
『はー、ずっと食べてられるな』
「無限に食える」
《カボチャマフィンは?》
「嫌いじゃ無いと思うけど、タルトかプリンが良いなぁ」
『マフィンの中に生クリームをたっぷりと入れ、カラメルかメープルを掛けてだな』
「それ良いな、つくて」
《また丸ごとオーブンにかけないとね》
『スープもだ。それに皮はミキサーにかけてクッキーに混ぜたのも頼むぞ、塩少しに種とメープルの粒ジャムも混ぜてくれ。そうだ、キャラメルでも良い』
「天才か、でも少しはそのままの皮を残して」
《うん、買い出しに行ってくるね》
そしてそのままマティアスが買い物へ出掛けて行き、コチラは継続して話を進める。
「で、どうしたら良いかね、この体質」
『特にどうでもあるまいよ?』
「いやいや、酔われても困るんだけど」
『長期暴露も試しておらんのだ、慣れが出るかも知れんし、意外と早く覚めるのかも知れん』
「悪酔いされたりキレられたりが嫌なんよ、周りが酒癖悪いのしか居なかったから、余り試したく無い」
『マティアスがそうなるとも思えんがなぁ、寧ろ泣きそうだろう』
「それも面倒じゃんかよ」
『それでもだ、試してみん事にはだ』
「向こうでなって数日影響したんだよ。まぁ、滲み出て長期暴露だからってのもあるだろうけどさ」
『心配性め、ビビり過ぎだ』
「分かったよ、でも、試すなら日が暮れたら」
『よし、約束だぞ』
カボチャプリンをロウヒと半分こ、お返しにトナカイシチューを頂いた。
夕飯ゲット。
「ロウヒママンの料理も好き」
『ふふふ、伝えておくよ』
「うん。今日マティアスが夢に来た、マーリンも、何でそんな、そんな心配する程変?」
『いや、純粋に心配しているのだろう。曲がりなりにもお前は既に大きな流れに巻き込まれている、プレッシャーやストレスを気にするのは普通の事だろう?』
「だが、ワシ何もして無いし」
『それでもだ、ストレスを隠しているだとか無理をしていないか、看護師で大人なのだから気を回す事もあろう。片や向こうは神と接する事にも慣れていないのだ、労わらせ心配させてやれ』
「杞憂だと理解させるしか無いか」
『それか、心配性の世話好きに、好きにさせるかだ』
「面倒だなぁ、そっち行っちゃおうかな」
『悲しむぞ、毎夜ワシに伝書紙が届く様になるのが目に見えておる』
「うぜぇなそれ」
『だろう、逃げ出すのは止めておけ、互いに遺恨が残るだけだ』
「そういうのは止めるのな」
『勿論だ、明らかに間違いを犯そうとしている事は止める。判別のつかない事はお前に任す、トールもマーリンも、そう思って行動している』
「ありがとう」
そして暫く勉強しているとマティアスが帰って来た。
それからはお互いの家のオーブンも使い、12個のカボチャが蒸し焼き。
全員でカボチャの種と皮と身を分ける。
ロウヒが皮をミキサーにかけ、マティアスと身を潰したり、牛乳で伸ばしていく。
スープにマフィン、プリンに茶巾絞りが出来上がった。
何か日本食をとリクエストで作ったカボチャの茶巾絞りだが、スイートポテトと大差ないのに日本食フィルターで完全に目が雲っている。
ただキドニービーンズが一応アンコらしくなってくれたのは良かった、色だけで選んだ割りには中々の出来。
『豆がスイーツになるとは、本当にどうかしている』
「無理しないでよ、食べ慣れて無いんだから」
《なんだろう、香ばしい感じ?みたいな?》
『それだな、コレの他のレパートリーは?』
「餅って、伝わる?分かる?特殊な米を蒸かして作るヤツ」
《存在は知ってるけど》
『チーズの様に伸びるのは知っている』
「そっか、それに乗せたり包んだりアンコスープに入れて食べます」
『どれかしらたべたい』
「偽物で良いなら今度な、手間が凄いんだ」
『では、代用は、他には無いのか?』
とろみが付く粉と言う事で、コーンスターチで白玉や餅を作る事となってしまったが。
試験が終わってから、時間が有る時にだが。
「手伝ってくれたまえよ」
《勿論》
それからは一緒に夕飯を食べ、出来上がったデザートを試食し、お開きとなった。
餅の事をこんなに考えるとは思わなかった、元々の海外住みの人達はどうしてたんだろう。
少し休憩してから、勉強に手を出し、サウナへ入ってからベッドへ入った。
《マティアス》《スズランの妖精》《ユスラウメの妖精》『ロウヒ』『マーリン』『トール』『レーヴィ』