3月27日
かなり早朝に目が覚めた、真っ暗。
下へ降りるともうマティアスは起きていた、パジャマのままで執筆中。
《おはよう、早いね》
「昼寝長かったからね、おはよう」
《サウナでも入る?》
「だね」
丸薬はまだ湿っていたが、ソラちゃんに乾かして貰い、再度粉をまぶす。
そして測定、中域。
体調良好、筋肉痛はあるが動ける程度。
エリクサーを飲んでストレッチ、柔らかくなっている筈、柔らかくなっているのです。
シャワーを浴びてサウナへ入ると、マティアスがアイスを持って入って来た。
それを無視して上の段に横になる。
《ストレッチした?》
「おう、かなり柔らかくなってる筈」
《どれどれ》
「元が硬いのを考慮してくれよ、元はこの位、今はコレ」
《また冗談を》
「寝たきりは硬直し易いでしょ、マジ」
《手伝ってあげようか》
「いたいのきらい」
《痛く無い様にする》
「嘘ついたらソラちゃん出すからな」
《はい、気を付けます》
猫背には特に後ろや横へのストレッチが効く、人の介入ありのストレッチは気持ちい良い。
良く伸びる感じ。
「ふぇー、たまらん」
《本当に猫背なんだもの、水泳で良くなると良いんだけど》
「フィンで、泳いでも、良くなる、かしら」
《平泳ぎとかクロールなら》
「水かき苦手、回転しちゃう」
《体勢が悪いんだよ、お腹周りを真っ直ぐにする気で無いと》
「してるんだけど、水かきに、負けてるのかな」
《あー、最初はゆっくりしないと》
「早く、泳ぎ、たいじゃん」
《硬いなぁ》
「あがー」
《体癖って言って、東洋で性格が体の癖に出るって》
「また、分析、するーーぅ」
《はいはい、息してね。体癖が共通し過ぎてると、同一人物だって見抜かれちゃうかもって話し、だから姿勢を少し意識して》
「ういー、がんばりま、すーぅ」
《よし、休憩》
「あづいー」
テラスへ出てエリクサーを飲む。
美味いな、しかも何かスッキリした感じ。
マッサージとかもだけど、人の手は良いな。
《エリクサーなら良いけど、普通のはがぶ飲みしないでね》
「もちよ、昔に逆流性食道炎したから気を付けてる」
《うん。内部循環ってどんな感じ?直ぐお腹が空くとか?》
「今は直ぐにはお腹空かないな、後は特に変化は無いけど、元から内部循環だったのかな」
《機能を止めてるからかな》
「お腹が直ぐに空くのは前の方、前は食べても食べても満たされない感じ、ずっと」
《それって辛く無い?》
「空腹感は消えるよ、満腹感が無いだけ。皮が突っ張って止めるだけ」
《何か、嫌かも》
「好きな物が好きなだけ食べれるから楽しいよ、食べるの好きだし」
《そっか、作るの面倒で嫌になっちゃいそうだなって》
「それはね、誰かが作ってくれたり、買ったりで何とかなったから。向こうは安かった」
《ココ、税金高いからね》
「それなー、でもそこからお世話になるんだから、ある意味還元よね、循環」
《ラウラのお給料どうなるんだろうね、私はもう確認出来無いから》
「あ、人生初の正社員給料か、いつだ」
《明日》
「はー、確認してぇ」
《向こうで確認しないとダメだろうね、しかも直ぐに出ないだろうし》
「あー、ラウラちゃん可哀想に」
《だね。冷えない?》
「おう、もう1回」
もう1回サウナへ入りエリクサーを飲む、この身体で高値になっても、同じ作用が出るのだろうか。
試すにしても今日じゃ無いな、周りに影響したら困るし。
マティアスが出るタイミングに合わせると、どうにものぼせそうになる。
自分のペースで外気浴を繰り返し、時たまストレッチさせられてはエリクサーを飲む。
かなり飲んだ。
シャワーを浴び再測定、早々に吸収され無いのは知ってるが。
こうも動かないか。
偽装を解除してなお、両者中域。
自己修復に使いまくってるのか、どんだけ。
《ボーっとして、のぼせた?》
「凄い自己修復に回ってんのかも、どんだけよ」
《だから筋肉痛が軽いんじゃない?》
「逆に考えればムキムキも遠く無いと」
《えー、何かやだ、ラウラもムキムキはちょっと》
「アマゾネスだ」
《え、胸無いってそういう事なの?》
「実は先祖がアマゾネスでして」
《アマゾネスが、運動音痴?》
「そうなんすよー、お腹減ったなぁ」
《あんなに飲んでるのに、本当に不思議》
「それな、水分補給出来てるのに尿意には影響しないんだもの」
《怖い恐い、ソッチにエリクサー中毒とか無いの?》
「聞いてないけど、あるの?」
《ある、昔は危ない薬入ってる違法なのとかあったし》
「あー」
《定期的に違法薬物が使われてないか検査されてるけど、たまにグレーゾーンもあるよね》
「大丈夫だと思うんだけどなぁ、試薬とかある?」
《ある、前のは大丈夫だったよ》
「もうやってんじゃん」
《でも、まだ数種類あるじゃない?》
「やって」
《そう?じゃあ全部出して、あ、朝ご飯も、食べれそう?》
「あいよ」
キッチンにエリクサー全種類をコップへ出し、朝ご飯は盛り合わせを半分こしながら検査を見つめる。
全部、大丈夫らしい。
朝食はエリクサーを飲む為につまむ感じ、後でパンケーキも食べたいし。
そうこうしていると、ドアがノックされた。
窓から覗くと軍の車、マーリンが手を振っている。
暫く開けないで放置していると、再びのノック。
《どうしたの?》
「べつに」
《開けないの?》
「開けるか」
『何で開けてくれなかったの?』
「なんか、なんとなく」
《シオン、この方って》
「マーリン」
《は、なんて事を、すみません》
『どうもマーリンです、おはようございます。シオンがお世話になってます』
「保護者VS保護者」
《なんで対決?》
『そうだよ、仲良くしないと怒るでしょ』
「そうですね、じゃあ行きましょうか」
『じゃあ、失礼しますね』
《はい、後程、宜しくお願い致します》
何でかマティアスが戸締りをして後から来るらしい、なんで。
まぁ、良いか。
「あ、凄い量を預かってるとなると、疑われるのでは」
『そこは私も同行するから大丈夫』
「トールは?」
『まだなんじゃ無いかな』
暫く車が走ると、基地へ着いた。
基地に来ない筈だったのに、こうなってしまった。
取り敢えず車を降りて、基地へ入る。
マーリンの後ろに付いて歩く。
背筋は良く。
辿り着いたのは入った事も無い応接室、上等な感じ。
そして出て来たのは、偉い人。
バッチいっぱい。
《この度は何度もご足労頂き、誠に申し訳御座いません》
『いえいえ、本題からいきましょう』
《はい。ではエリクサーですが…》
ラウラのエリクサーは、結局はマーリン印として納入予定に決まり。
丸薬はシオンの名前で、同じくマーリン印として、そして非常勤見習い治療師となった。
そしてラウラを治療師として今後も受け入れ、日雇いにはなるが外す事は無いと確約された。
要望によっては、トール来訪の際に護衛も付けるとも。
『人は私が選んでも?』
《はい、お任せいたします》
『じゃあ後は、シオンは何かある?』
「無い、早く帰りたい」
『すいませんね、じゃあ今度からレーヴィ兵長を軸に護衛をお願いします。では、エリクサーの納入を始めましょう』
《はい、ご案内致します》
席を立ち廊下に出ると、トールに出会った。
前よりは少し朗らか、嘘でも老け込んでるよりは良い。
『おう、久し振りだな、どうだ?』
「平穏に過ごしています」
『そうかそうか、お前もエリクサー納入か?』
「ラウラの代理です」
『そうか、作れんか』
『丸薬が精々で、2人でラウラの代わりに納入に来ただけ』
『ほう、味見させて貰いたいものだな。どれ、俺も立ち会おう』
偉い人は嫌そうな顔を精一杯隠しているが、マーリンもトールもお見通しなのだろう。
そのまま倉庫へと向かう事になった。
綺麗に殺菌消毒済みの封がなされたプラスチック容器、数はかなりある。
そして大勢の軍人が椅子に座り待機していた、なんで。
『じゃあ、先ずは味見をしてみますか?』
『おう』
書類チェックの為の長机に、トールがコップを数個並べた。
マーリンに促され、1つ1つに入れていく。
鍋エリクサー、蒸留エリクサー、炭酸エリクサー、そして樽エリクサー。
そして丸薬。
「後は試作品だけです」
『主だったのはコレか、では、頂こう』
丸薬を噛み潰し、凄い顔をした後にショットグラスをグイグイ飲んでる。
そして最後の樽エリクサーへ。
一際濃い色で甘い匂い、良く香りを嗅いでじっくり味わっている。
『うむ、コレはトール印で納入させて貰いたいな。いくら無能とは言え運んでくれたのだ、彼にも少しは何か有るべきでだろう』
『ラウラの事でしたらお気遣い不要ですよ、彼の事も。丸薬は作れますから』
『クソ不味い弱いのだろう、コレとセットでトール印として出して貰う、納入額は下げる。ただその分は俺の財産から補填する、どうだ?その浮いた分で豆スープをもう少し旨くするか、良い付け合せにでも出したらどうだ?』
《それは、私財で補填なんてとんでも》
『何で断るんすかー!』
『じゃあ付け合せはどうなるんですかー!』
《不味い豆スープ反対ー!》
『私財を擲たれるのは結構ですけど、続きます?』
『あぁ、島を売り払ったんだ。そうだな、シオン、俺の子にならんか?正式に低額での納入を確約出来るし、無能のお前でも運び屋としては少しは自立も出来るだろう』
「殴りますか?」
『殴らんさ、俺より弱い者と思う者は殴らん』
『シオン、本当にラウラは弱って倒れただけですよ、後はアナタに任せます』
「あの、偉い方はどう思います?」
《え、は、私はその、どちらでも良いのではと》
《安い方が良いだろうがよ!》
『そうだそうだ!』
《不味い豆スープ反対ー!》
「安くされた方が得では?」
《色々と事情がありまして》
「あの、大事な事だと思うので聞きたいんですけど、話せる事情としては、どんな事情なんですか?」
《それは、軍の機密事項でして》
「じゃあ、マーリンとトールになら話せます?」
『是非聞きたいですね。事情によってはコチラも値下げしますし』
『俺もだ、エリクサー納入も俺の主導なんだしな』
「じゃあ、また戻ってお話しですかね」
『そうですね』
『あぁ、だがお前は取り敢えず検品にでも立ち会っておけ』
「はい」
偉い人とマーリン、トール。
そしてその後ろをハンナに良く似た軍人と、眼鏡兄さんが連れ立って行った。
そして野次を飛ばしてた方向を良く見ると、レーヴィ隊のメンバーだった。
カール爺さんめっちゃニヤニヤしてるし、皆知ってるのかコレ。
『失礼します、先ずは検査をさせて頂きますね』
検査官は2人、話し始めたのは男の方。
男女の検査員、若い男と綺麗な女性。
先ずは大きな容器から黄金色の蜂蜜酒を、小さなプラスチック容器に入れる。
そこからガラスのスポイトを使い、試薬紙に垂らす。
反応は赤、良いのかしらコレ。
「すみませんが、赤って」
『申し訳御座いませんが、違法薬物が混入している様でして、偽陽性も考えられますが。一応、他の物も見させて頂いても?』
「はい、どうぞ」
他の3種類も含め、4つ全てが赤く反応している。
家では大丈夫だったのに、流石に検査官も驚いている。
『すみません、何かの手違いかも知れませんので。道具を全て入れ替えますね』
エリクサー輸送にと待機していた軍人達が僅かに騒ぎ出す、どうやらレアケースらしい。
入れ替えた新品の検査器でも同様に、赤判定。
「あら、じゃあ納入諦めますか」
『そうですね、誤判定が出る成分が入ったのかも知れませんし、1度正規の鑑定をオススメします』
「何処がオススメですか?」
『ファイファー製薬かジョン&ジョアンナですね』
《お疲れ様ー、もう終わった?》
「どうも、看護師長さん」
『申し訳御座いません、誤判定なのか全て赤でして』
《そっか、コレも預かってたんだ、お願い》
『はい』
判定は赤、しかも渡した覚えの無い液体と入れ物。
《あれ、じゃあコレは?》
また赤。
『申し訳御座いません』
《え、ただの水で?ヤバいかも、基地の水》
『え、あ、普通の水には反応しない筈なんで、1度検査を』
《昨日、全館点検したけど異常無しだったよ?》
『おい!コッチは暇じゃねぇんだよ!』
《適当な試薬持ってくんじゃねぇよ!》
《すみませんね、血の気が多いのばかりで、責任者の方をお願い出来ますか?》
その言葉に反応したのは後方に居た恰幅の良い男性、真っ青じゃねぇかよ。
『申し訳御座いません、どうやら不良品かも知れないので、1度持ち帰って検査を』
《持ち帰っての調査は困ります。何かしらを隠蔽されて、コチラの責任にされても困りますし、この場を封鎖して。外部に調査させますね》
『いやそれは、そこまではちょっと。どうせ教会産では無いんですし、効能だってたがが知れてるでしょうに、ね?ココは1つ穏便に』
《そうですね、では少し相談しに行きましょうか》
マティアスが恰幅の良い男性と出て行った。
その後ろにはルーカス似の兵士と、軍服がやけに似合うおじ様。
どうしようか。
取り敢えずは、呆気に取られる検査官に話し掛けるか。
「いつも、こうなんですか?」
『いえ、僕は初めてです。ただ、無印って何かしらの過程で異物混入があるとかで。教会の様に、万全な管理の元で製作が行われて無いのが多いから、不良品が多いって』
「他の無印って雑なんですね」
『でも、今回ってマーリン印かトール印が付く予定なんですよね?ならお2人が認めている以上は、問題無さそうなんですけど。透明度も高いですし』
「この会社がヤバいとか、転職しては?」
『お給料良いんですよ』
「無印で引っ掛かって抗議する人、多いんじゃ無いですか?」
《ごめんなさいね、実は私も少し怪しいと思ってて、転職しようと思ってるの》
『え、マジっすか?』
《だって、無印で引っ掛かって抗議が多いのは本当だもの。逆に教会のどの工場で検査しても全く引っ掛からないなんて、少しやり過ぎよ》
『やり過ぎって、何かしてるみたいな言い方ですけど』
《私ね、内緒で他の会社の試薬使って引っ掛かった人のを試した事があるの》
『それって』
《白だったの、匿名ですぐ他の検査受けてって伝えたわ、そしたら通過したのよ》
「それで、そんなにお給料が良いんですね」
『先輩は、何処に行かれるつもりなんですか?』
《ごめんなさい、それは秘密。お兄さん、アナタのって濁りも無いし、泡も揮発性も無いからきっと良い製品だと思うの》
「僕はシオン、作ったのはラウラ」
《あ、ごめんなさい。伝えてあげて、良い製品だから大丈夫、きっと何かの間違いだって》
「ありがとうございます、所で恋人居ます?」
《うん、結婚と転職同時にしようかなって》
『マジっすか。もう、僕もどうしようかな』
「悪評出てからの転職は厳しくなるのでは?」
《そうね、さっき言ってた会社とか良いんじゃ無いかしら、頑張った方が良いわよ、若いんだから》
『はい…』
会社より彼女に失恋してて可哀想。
好みが似てるから飲み友達にはなれそうだけど、利害関係が有るから無理か。
「どんまい、がんばろう」
『はい、ありがとうございます』
「一応言うけど、家で試した時は平気だったんだ」
『あ、あぁ…もう今日辞めちゃおうかな』
《悪評出てからの転職って難しいのは確かよね。それに良く考えてよ、離職率》
『それはだって、給料良いから早期退職とか、自営業に転向とかで』
《そう言わされてるみたい、転職の邪魔しない代わりに黙ってろって》
「良く働いてましたね」
《やっぱりお給料がね、でも、絶対に自信があったのに引っ掛かって、凄い落ち込んでるの見ちゃうとね》
『それは、コッチを騙せなくてガッカリしてるだけだって』
《そういう人も居るけど、そうじゃ無い人も居たじゃない。ちゃんと調べたって、自分で検査もしたって》
『騙そうとする人だってそうじゃないですか』
《私も自分をずっと誤魔化して見ないフリしてたけど、他の会社の通過率を見比べてもよ。ウチの教会産は、出来過ぎよ》
「洗脳されてるから酸素の無駄なのでは」
『洗脳って』
《そうよね、洗脳って自覚無いって聞くし、ありがとう。お手洗いに行きたいんだけど》
「案内しますよ。カール爺さーん、どちらかにいらっしゃいますかー」
『おーう、なんだ』
「シオンです、ラウラがお世話になりました。ご婦人を少し案内したいんですけど」
『おう』
3人で倉庫を出る、彼女は大きな溜め息。
爺さんはルンルン、トイレの前まで行き爺さんが何やら声を掛けていた、彼女は頷くとトイレへ。
ついでに自分も個室へ。
そうして外へ出ると、カール爺さんが来た道とは反対へ歩いて行く。
中庭の建物の影、灰皿がある。
なるほど。
「なるほど、流石レーヴィ兵長が何かあったら頼れって言ってただけはありますね」
『おうおう、兵長に盛って言っといてくれよ』
《ありがとうございます、良く気付きましたね、匂いました?》
『いや、俺は禁煙成功組だからな、仕草を見れば分かる』
《そうなんですね、試薬の事で悩んでから止められなくなっちゃって》
「早く辞めたら良かったのに」
《さっきの子、弟みたいで何とかしたかったの》
「その兄妹への親愛をどうしたら誤解するんだろ、凄い失恋した顔してたし」
『そらおめぇ、見たくないから見ないし、見えない様にしてんだ。自分の目と感覚に魔法掛けてる様なもんだろ』
「あぁ、へー、天才?」
『お前の何倍生きてると思ってんだ』
「マーリンの3分の1」
『馬鹿やろう、あんな、綺麗な神様と一緒にすんな』
《ふふ、まるで親子みたいですね》
『若いって褒めてくれるか、良い女だな』
「パパ、ママ以外に余所見したらダメだと思う」
『お前、ラウラと全然違うじゃねぇか』
《ご兄弟なんですか?》
「らしい」
『苗字も違うんだよな、廊下に張ってあったぞ、治療師見習いさんよ』
「はい、出来の悪い兄らしいです」
『だな、あんなクソ不味い丸薬作りやがって、アレじゃあマジでお仕置き用だ。ラウラの方が美味いの作るってのに』
《まぁまぁ、兄妹だからって同じ素質とは限りませんから》
『にしてもだ、凄い不味いんだぞコイツの丸薬』
《ストレージを持ってらっしゃいますし、運送屋の方が向いてるのかも知れませんね》
『だな、落ち込むなよ木偶の坊』
「兵長に盛ってやんない」
『じゃあ俺が先に話す。よし、もう良いのか?』
《はい、ありがとうございました》
消臭の魔法でも掛けたらしく、先ほどまで臭かった臭いが消えていた。
便利、良いな。
倉庫へ戻ると、お兄さんが兵士達に詰め寄られて居た。
『散れ散れ、コイツビビらせても意味なさそうだぞ』
その一言で兵士達は大人しく元の席へ。
ココのコントローラーなのね、だから真っ先にマティアスが御したのか、なるほど。
そうして暫くしていると。
トールが見慣れぬ人達と共に戻って来た。
『では、調査をお願いする』
『はい、では失礼致します』
「あの、この方々達は」
『検査の検査官達だ、それぞれの製薬会社から出向いた検査官。ついでにエリクサーの検査もしてくれる』
「最初から頼めば良いのに」
『問題が無くては動かんのだ、いくら神でも人のルールは曲げられん』
「へー、面倒」
5人の検査官には、其々の番号がふられている。
そして試薬紙、スポイトやら容器を複数の検査官が拭い、チェックしていく。
最初はプラスチック容器の試験管が怪しいと思ったが、そもそも試薬紙がおかしかったそうだ。
検査官が倉庫備え付けの無線で何かを話すと、製薬会社前で待機していたらしい検査官や国連の職員、警察が突入したらしい。
騒々しい音や怒声が無線機から流れる。
お兄さん真っ青、お姉さんは意外と冷静。
《良かったぁ、辞表出しといて》
『え、じゃあさっきの話しは』
《うん、転職先はもう決めてあるんだ、アナタも頑張って》
「女性の勘でしょか」
『あぁ、だろうな』
「所で、まだでしょうかね」
『なんだ、トイレか?』
「いや、早く帰りたいだけ」
『あぁ、お待たせして申し訳御座いません、コチラ、雷神トール認定の黄金の蜂蜜酒の証明書になります』
『おう、他は?』
『はい、もう暫くお待ち下さい、順次発行しております』
「名前長っ」
『俺の登録はコレと丸薬だけなんだ、トール印のエリクサーで通じるさ』
「あれ、マーリンとか基地との話は?」
『向こうで少し揉めててな、先ずは認定からだ』
それからマーリン認定エリクサー、マーリン認定炭酸エリクサー、マーリン認定ハーフエリクサーの認定書が発行された。
マーリンがゲシュタルト崩壊しそう。
そして最後にトール認定の丸薬、製作者にはシオンの名前。
「おー」
『内容成分は変えるなよ、製法もだ。一々変更手続きするのは面倒だ』
「了解、でもコレどう使うのさ」
『それは私が。共同販売にラウラ、シオン両名の名があるのでお2人のみが行えます。責任者は製作者、認定者両名に発生します。売上割合は今回ですと全額が製作者へ入ります。製品の濃度を鑑み、丸薬のみ子供への使用が許可されました。そして蜂蜜酒はアルコール成分含有の為、成人以降のみとします。尚、偽物が出た場合の成分鑑定の為にのみ、定期的に液体を保存する事をご了承下さい』
「はい」
『では承認のサインをお願いします』
紙に書かれた字を見様見真似で書く、クソ下手。
「汚くてすいません」
『大丈夫ですよ、皆さんこんなモノですから。後はラウラさんのサインなんですが』
『マーリンが迎えに行くらしいが、向こうが手間取っててな、俺が迎えに行こうか』
「えー、本当に大丈夫ですかね、怯えちゃうかも」
『じゃあ、お前も来い。少し待っててくれるか』
『はい』
『よし、お前ら良く堪えてくれた、後は試飲大会だ!運転者は蜂蜜酒は禁止だぞ!』
《《『おー!』》》
『アンタ達もだ、良かったら試してやってくれ』
いやいやと遠慮していたが、何人かは喜んでいる。
「じゃあ、失礼しますね」
もうすっかり声は掻き消され、宴会の様相。
トールと2人廊下を歩く。
途中にハンナやルーカスに似た兵士達の前を通り過ぎ、基地の外で転移した。
そのままアヴァロンへ行く分には良いらしい、ただイギリス領土に踏み入る際には入国審査が必要との事。
入れ替わるには楽だが、髪をどうしよう。
とにかく先ずは性別を戻す。
もったりと重い、怠い。
『少し補給してから行くか』
「すまんな、それと髪は?」
《どうも、お疲れ様で》
「お、爺やか」
《はい、円形脱毛症のお話をお聞きで?》
『まぁ、ざっと言うと伸ばせるんだとさ』
「ほー、爺や、頼む」
《承知しました》
髪色を戻し、肩まで伸ばして貰う。
そしてティターニアに切り揃えてもらうと、あら簡単。
「頭痒い」
《そうよね、じゃあ流してあげましょうね》
折角なので炭酸泉で身体を流す、水浴び用のネグリジェにティターニアが着替え、縁に腰掛け頭からお湯を掛けてくれている。
コレだけでかなりスッキリ。
《懐かしいわ、マーリンと再会する切っ掛けを作ってくれた人もね、この炭酸泉が好きだって、良く水浴びしてたの》
「マーリンので見ました、良い人そうでしたね」
《でしょう、ちゃんと覚えててくれてるのね、彼の事》
「うん、ありがとうございました」
《あらあら、髪を乾かさないと、風邪を引くわ》
前より少し伸びた髪を乾かして貰い、服を着替える。
そして準備を終えると、爺がシオンに変化した。
なるほど。
そうしてトールとシオン爺と共に基地まで飛び、トールはウツヨキへ。
久し振りに会う門番のおじさんは、いつも通り笑顔で通してくれた、廊下にはもうハンナ達に似た兵士達は居なかったが。
ただただ、どうか無事に終わりますように。
「あの、どうも、ラウラですけど、ココで合ってます?」
『あ、はい、お待ちしておりました』
先程見た書類にサインをしていく、コチラは少し練習したので少しは上手い。
シオンよりは上手い。
『よぉ!元気だったか』
「カール爺さん酒くっさ」
『正にミードだ、お前は本当に美味いのを作るなぁ、兄ちゃんとは正反対だ』
「でしょう」
「すみません、不器用なんで」
『本当に、しっかりしろよ?』
「ね、で、あの、他には?てかマーリンは?」
『おぉ、色々有ってな、そっちは、トール様はどうした』
「ココに送ってくれた後、ウツヨキって言ってたけど、どうだか」
《あの、試飲をさせて頂いたんですけど、美味しいですね》
「どうも、飲み過ぎないで下さいね、魔素中毒になったら大変ですし」
『兄に似ろ、不愛想め』
「愛想笑いしましょうか」
『うっ、眠い』
「あーあ」
「地獄が始まるのかも」
それから先、半数が中毒祭りに。
医療室へ連絡すると、マティアスが駆け付け、別室へとグループ分けが始まると、シオンが消えた。
そしてマーリンが加わり、個別に治療を開始。
いつの間にか変身を解除し戻って来た爺やのグループは、レーヴィ隊丸ごと。
マーリンのグループにはハンナ似と、自分とマティアス。
そして軽症や待機組には、ルーカス似が付いて行っていた。
マティアス、知ってたなコレ。
《終わった人は向こうの廊下に戻して、宜しくね》
「おう」
トイレは阿鼻叫喚地獄。
検査官が綺麗にグループ毎に分けられている、この人もお酒臭い。
症状は腹痛、盲腸は既に除外されている。
検査官1番さんの額に手を当てて吸い上げる、本気で痛そうなので早目に。
《すみません、つい》
「美味しかったなら良かったです、お互いに今日の事は忘れましょう」
《はい、美味しかったですよ、ありがとうございました》
嘘は無い、恥ずかしそうだけど嬉しい音。
中々珍しくて面白い。
次は2番検査官、いかつい感じなのにお酒にも弱いらしい。
バケツを抱え、吐瀉物は出ないのに嗚咽を漏らし続けてる。
「普通の水分、補給して下さいね」
『申し訳ない、1口でコレとは』
「気を付けて販売しますね」
『あぁ、でも美味かったよ、ありがとう』
恥と喜びの音。
時計もシャツもお洒落だから、良い物を見付けるのが好きなのかも。
《ラウラ、ちょっとこっち》
「あい」
待機組の尋問官、3番さん。
眩暈だそうだ、目を瞑りただ堪えてる。
『すまなかったね、上等な品だったよ』
「すいませんね、飲まされちゃったんですよね」
『本当に飲みたく無かったら飲まないさ、ありがとう』
照れて申し訳ないとは、中々にいじらしいシルバーグレー。
その隣で耳を塞いでいる女性尋問官4番さん、頭痛。
中毒は無いが、周期で増強されてしまったそうだ。
「どうでしょう」
《ありがとう、片頭痛が出ちゃって、ごめんなさいね》
「すみませんね、怒っておきます」
《良いのよ、こういうのがあるって聞いてたから。でも薬飲んだのに》
「緊張ですかね、神様2人も居ますから」
《そうね、そうかも、今日はゆっくり湯船に浸かるわ。ありがとう》
痛みが引くと、苛立ちは収まり、呆れと期待が鳴っていた。
マティアスがタイプらしい。
《またごめん、急変したからコッチ》
「あいよ」
再びマティアスのグループへ。
トイレ前の指定された兵士へ、苛立ってる。
コレは、ラウラへの怒りだろうか。
『すみません』
「すみません、こうなるとは知らなくて」
『仕方無いですよ、慣例ですから。すみませんけど、うがいしてきて良いですか』
「はい、お大事に」
嘔吐はそもそも嘘、飲んでない。
そんなに嫌だったか。
それからは違和感を感じる事無く、兵士達の治療をこなす。
《お疲れ様》
「おう、つかれた」
『じゃあ私達は向こうで少し休憩しようか、部屋を使わせてくれるかな?』
《あ、はい、どうぞ》
《助かります》
マーリン、マティアス、シオン爺、その警護にとハンナ、ルーカス兵が入室。
少し狭いが仕方無い。
「爺や、お座りよ」
《いやいや、まだ身体は丈夫な方ですから、ええ、大丈夫》
『じゃあ私の言う事は聞いてくれるかな、座っておくれ、立たせて居ては周りの気が散ってしまうから』
《そうですか、では、お言葉に甘えさせて頂きまして、っどっこいしょ、ふぅ》
「ほら疲れてるじゃん爺や、爺らしくしておくれね」
《あい、それもそうですな、見栄を張っても若さには叶いませんで、はい、承知しました》
『じゃあ、少し魔法を』
マーリンが何かを唱えると、秘匿魔法が発動した。
目の細かいハニカム柄のシャボン玉が二重になって、ピッタリと窓や壁に張り付きフワフワと揺れる。
「はー、綺麗」
『後でね、本題に入るよ』
「あい」
『君からだよラウラ、誰に違和感があった?』
「トバイアス・ランタ。ザカライアス・ヌルミ。オバダイア・レートー。他は必ず味の感想とお礼が来る、どんな人でも。でもその人達は怒りを持ったままだったし、嘘を言った。些細な事だけど」
『うん、じゃあ次はハンナ』
《私も同じです、エリクサーを嫌悪してるみたいでした、飲みたく無いと、飲んだフリだと》
『マティアスは?』
《残念だけど、その3人》
「爺やは?」
《兵長の隊は良い人達でした》
『ふふふ、そうだね。じゃあルーカス』
『その3人から、教会関連の映像が見えました。それと、思い違いかも知れませんが、5番の方も』
《あぁ、その方は飲まなかったらしいですな、既に具合が少し悪いと。それなのにです、爺の治療を拒否されてしまいました》
「善意の爺やなのに」
《私の治療もなんだよね、診察も拒否で、今どき医療科学否定の人みたい》
《居たく無い、帰りたいってずっと五月蠅かったのよね》
「どうしますかね」
『まだ居るし、アホの子演じてつついて』
「おかのした」
《返事が早いってば、もう》
「基地内だし、大丈夫だべ」
『一応、万全の態勢で宜しく』
廊下の最も端っこのベンチの、更に端に座っている検査官5番、イライラが伝わる様な貧乏ゆすり。
30代半ばだろうか、結婚指輪は一応している。
「すみませんね、知らなくて、こうなるなんて。知ってらっしゃいました?」
『あ、いや、どうも、認定おめでとうございます』
「ありがとうございます。さっき慣例だと聞いて、申し訳なく思ってまして」
『いいえ、慣例だとは知っていましたが、初めて体験しました』
「あの、出来たら何処かで2人きりで、お話を聞いて頂けませんでしょうか」
『この指輪が見えてませんかね』
「見えてますが」
『結婚してるんです、特定の相手が居るので他の女性と出掛ける事は不可能ですし。利害関係が既に発生していますので、もう関わる事も』
「違うんです、あの」
『触らないで貰えますか』
「あ、すみません。もし、教会の方にお知り合いが居るなら、助けて頂けませんか。もう怖くて」
『なら、あの噂は』
「それは、向こうで、是非教会の方と接触したくて、教会に行きたくても制限が。お願いです、貴方が違うなら、せめて誰に助けを求めれば良いのかだけでも」
『この基地のオバダイア・レートーを探して下さい、私はラザラス・カントラ。私の名を彼に告げれば分かる筈です』
「ありがとうございます」
『では、怪しまれては困ります、もう行って下さい、主のお恵みのあらんことを』
「そちらも、主のお恵みのあらんことを」
看護師長室へ戻ると、部屋の奥でマーリン、ハンナ、ルーカスの3人が姿を表した。
マーリンだけかと思ったのに。
『面白かった、良くやるねぇ』
「そう言う事を言うな、マティアスが気にする」
《ふふふ、楽しかったぁ》
《なに、何したの》
《さぁ?当ててみる?》
『姉さん』
「やめてくれ、結構ドキドキしてるんだから」
《うふ、そんなに好みだった?》
「いやぁ、外見だけな。でも服装もヘアスタイルもキッチリピッタリで、爪も綺麗で体系コントロールに余念が無い感じだし。ナルシスでストイックで自分にも他人にも厳しそう、強いてきそう、むり」
『それなのに、意外と変態だったりするんだよねぇ』
「分かる、その匂いはする」
《ラウラって変態好きなの?》
「あー、誰でも良いって人よりは良いと思う」
《ふーん》
「うん、それと特にルーカスみたいな馬鹿は大嫌いだ」
《そうよね、本当にごめん》
「詳細は聞いた?」
《うん、コレが終わったら乱取り地獄を味合わせる予定》
「お、ちょっとスッとした」
《ダメダメ、せめて乱取りが終わるまでイライラしてて、私もイライラしてるから》
「ありがとう」
《知った瞬間に殴らなかった私を褒めて》
「えらい」
《ラウラも、治してくれてありがとう》
『じゃ、話を戻そうか。アレで全部かな』
「看護師は大丈夫なの?」
『それは大丈夫、ルーカスとハンナと3人で挨拶周りしたから』
《良い人達だし、十字架の気配も無かったみたい》
『うん』
「そう、お腹減った」
『もう少し、少し考えが有るから、爺やとルーカスと行こう。3人はトールが迎えに来るから、少し待ってて』
じゃあまたね、ラウラ》
「うん、またねハンナ」
マーリン、ルーカス、爺やと共にアヴァロンへ。
『はい、じゃあラウラは変身して立ったままで。爺や、もっと髪を伸ばしてあげて』
「ジュワッチ」
《承知》
『よし、ミア、結って』
「お、お疲れ様です」
『お疲れ様です、もう少しですよ』
「うい」
腰まで伸ばされた髪を小さな束にしているらしい、そしてザクザク切ってはまた伸ばす。
ラウラの時より長い髪の束がどっさり、カツラにでもするんかしら。
『はい、終わりましたよ。じゃあ楽しみにしてて下さいね』
「お疲れ、じゃあね」
『爺や、お願い』
《承知》
また金髪へ。
忙しいな、頭痒い。
『よし、じゃあ帰ってて、送ってくるから』
「おう、じゃあね」
頭が痒いままに、先ずはお風呂へ向かう。
シャワーで頭を良く洗い流し、シャンプー。
超気持ち良い。
髪、またロウヒに頼まないと、取り敢えず濡れたままの頭でロウヒの部屋と繋ぐ。
『おう、ランチはもう食べたか?』
「お疲れ、まだ昼とか頭おかしいねん」
『ようまぁ遠慮も無しにザクザクと』
「切って貰おうかと思ったんだけど、空腹が限界」
『少し食べい、それから切ろう』
「うん」
サンドイッチを口いっぱいに詰め込み、タオルで揉みくちゃにされる。
そして少し乾いた頃、風呂場へ案内された。
『暫く食べていろ、皿は上げておくんだぞ』
「うい」
椅子に片膝を立てて皿を載せながら食べる、たまに髪が飛んでくるが、少し払ってまた食べる。
そしてエリクサーをがぶ飲み。
吸い上げた感じは少なかったし、ほぼ飲まず食わずは辛かった。
『これこれ、もう少し噛まんか』
「んい」
髪の毛に慣れたのか、かなり早い。
そして何だか、落ちてる髪の毛の量が多い気が。
『どうした?詰まったか?』
「鋤いてる?」
『おう、マーリンにモっさいと言われた』
「ワロス」
『前回と長さは変わらずに軽くしようと思ってな』
「あざーす」
『そろそろ前を切るぞ』
「はーい」
皿をしまいロウヒの正面に向き直る、度々切らせて申し訳ない。
切り終わると、バサバサとタオルをはたき。
今度は浴槽に向けて頭を突っ込まされ、洗い流して貰った。
そして乾燥させて貰い、鏡を見る。
『少しスッキリしただろうか?』
「うん、ありがとう、何度もすまんね」
『何を言う、ワシらの企みに乗っかって貰っているのだ、謝るのはワシらの方よ』
「良いよ、大丈夫、嫌になったらちゃんと言う」
『よし、ではデザートだ、良いのを仕入れたのだよ』
それはカラメルソースたっぷりのカボチャプリン。
ほろ苦、甘、香ばしい。
味わうと消えてしまう。
良く味わう、飲み込むのが勿体無い。
「マティアスに作って貰う」
『あ、ワシのも』
「言っておく」
『お、お眠か。歯磨きはちゃんとするんだぞ』
眠気が来たので、ロウヒと一旦さよならする。
歯磨きを頑張り、なんとかベッドへ辿り着いた。
《おそよう、夕ご飯の時間だよ》
「またか、ごめんな、体力無くて」
《大丈夫、私の料理で良いなら何か作ろうか?》
「えー、また何かの盛り合わせで良い?」
《うん、勿論》
下へ降り、盛り合わせを取り出す。
今夜はパスタの入った盛り合わせ。
そしてニンニクスープ、お鍋半分まで減って鳥が出て来た。
「飽きない?」
《うん、美味しいし、お昼の食堂が憂鬱》
「じゃあ少し不味いのを」
《あるの?》
「うそ、無い。カボチャプリンロウヒの所で食べた、作って、カボチャなら有る」
《ホイル包みだ、仕込んどいてくれたの?》
「スープ作ろうとしてココで止まった」
《途中の過程は一緒だしね、皮はどうする?》
「そのまま食う」
《え、磨り潰した中に入れるかどうか聞いたんだけど》
「そのまま食べます」
夕飯の片付けを終え、マティアスがカボチャを種と身と皮を分けている横で。
皮を黙々と食べる。
《お砂糖まぶしたりとかは良いの?》
「いい」
《そんなに好き?》
「好き、姉兄で取り合いした数少ない共通好物」
《カボチャの皮を?》
「少し甘めに煮たのを、皮から奪い合う、敗者は身のみ」
《ふふ、それはお砂糖だけで煮るの?》
「お醤油少しとお砂糖どっさり、小豆も入れて煮たりもする」
《シオン》
「ダメー、カラメルに醤油垂らせば分かる、作らん」
《にしても、本当に皮だけ食べるね》
「カボチャの一番美味しいとこ、身はプリンにしてこそ1番よ。普通はどう食べるの?」
《皮?スープにもプリンにも混ぜちゃう》
「あー、カラメルまだ?」
《付けて食べたくなった?》
「醬油少し垂らして付けて見ようかと」
《待ってて直ぐ作る》
完全に並行作業になりかけていたので、カボチャを受け取り、牛乳で伸ばしながらマッシャーで潰す。
牛乳を入れては潰すを繰り返す、だけ。
隣ではマティアスが大量にカラメルソースを作っている。
「そんなに」
《作り置きだよ、シロップ入れがあるし》
「あぁ、そっか」
マティアスがカラメルを仕上げると同時に、カボチャの身の処理が終わった。
そのカラメルソースを作っていた鍋に砂糖と牛乳を入れて温め、砂糖が解けたらそのままカボチャへ投入。
良く潰し混ぜながら、冷ます。
そしてそこに卵をこれでもかと割り入れる。
それを最初は荒めのザルで濾し、もう1度細かい目で濾す。
滓はそのまま皮と食べた。
そして大きな丸い型に流し込み、天板に載せ、お湯を敷きオーブンへ。
《よし、お疲れ様》
「マティアスも、お疲れ」
ひと段落着いたので、小皿にカラメルを入れ醤油を垂らす。
試食。
《あー》
「この割合を調節して、みたらしソースとか照り焼きソースになるのです」
《美味しい、シオンの家の味なんだよね》
「まぁね」
それから中庭へ氷をセットしていると、カボチャプリンが出来上がった。
大きなスプーンで掬い、マティアスが入浴している隙に、樽エリクサーからエリクサーを回収し材料を入れ、暫し勉強。
眠い、あんなに寝たのに。
今日はもう寝よう。
《マティアス》『マーリン』『トール』『カール爺さん』《爺や》《ティターニア》
《ハンナ》『ルーカス』『ロウヒ』




