77:繋がる縁
遥は一途とともに高知瑠衣の部屋へとあがる。
3人のぎこちない会話は徐々に溶けていく?
オレは以前に猫を助けようとした女性を助けてそのお礼として、助けた女性である高知瑠衣さんという方の家にお邪魔してはいるのだが......。オレが一途も巻き込んだせいもあってかまあまあ気まずい。
「あ、そうだ。......自分、霜野さんに食べてほしいものがあるんです」
「食べてほしい? まあ、いいですけど」
「よかった。お口に合うといいんですけど......。あ、いっぱいあるんでよかったら小田倉さんも」
そう行ってリビングから少し離れたキッチンにある冷蔵庫の方へ向かっていった。
やっぱりなんとなく居心地が悪い。これに関しては大分オレが戦犯でいいと思ってる。
それは一途も思っていたことで......。
「ハル、やっぱ俺帰ろうか?」
気を使った一途は耳打ちしてくるが、オレは首を横に振った。
「さっき部屋通してもらったばかりなのに消えるなんておかしいだろ!」
「そうかもしれんが」
そう言ってると、高知さんが帰ってきて皿に乗った大量のマカロンが置いてあった。
お皿がテーブルに置かれると、高知さんはちょこんと座椅子に座って視線を合わせずに話し始めた。
「手作りマカロンです......。どうぞ」
「すごい器用っすね! いただきます!」
口の中に入れた途端、シュワッという音と共に甘さが解けていく。ほんわりとした優しい甘さが口を覆っていく。一途は一つで飽き足らないのか、二つ目を口にしていく。
「マカロン初めて食ったわ。これ、おいしいな」
「ありがとうございます......。霜野さんはどうですか?」
「うん? オレもそんなに食べないからわからないけど甘くておいしいよ」
ホッと肩をなでおろす瑠衣さんも見てこちらもホッとした。口の中のマカロンのようにオレ達に流れていた空気も少し解け始める。
「そういや高知さん、みやげちゃんのポスターそこに張ってるけど、Vtuber好きなの?」
一途が瑠衣さんの部屋に飾ってあるA3くらいの大きさのポスターを指さした。あれは、たしかメン限グッズの奴じゃなかったっけ......。
「ふふ、そう。最近メンバーになって買ったんだ。小田倉くんも好きなの?」
「うん! 俺は神野エルちゃんが推しで」
「......そうなんだ。霜野さんは?」
少し暗めの表情をした後、オレにニコッと笑いかけて話題を変えるさまは少し恐ろしさを感じた。多分、一途という人間に興味がないんだろうな。
「オレは、やっぱりジンさんかな。見てて面白いし、ゲームうまいから」
いろんなことがあったけど、尊敬する先輩であることには変わりない。そう言うと、一途が壁にかかった時計を見て急に立ち上がった。
「あ、そうだ。俺、用事があるんだ」
「もう行くのか? バイトか?」
「......違えよ。俺のことはいいから後は二人で頑張れよ。高知さん、マカロンごちそうさま!」
「お、おいちょっとま......。行っちまった」
「う、うん。じゃあね」
瑠衣さんが手を振るころにはすでにガチャリと扉の閉まる音が聞こえた。気を使ってくれたのだろうか、いやあの慌てようだ。本当に急いでそうだ。でも、あいつにそんな急ぐ用事でもあったか? もしや、あの新人Vと関係が? まさかな......。
「はああ、友達呼ぶなら先に言ってくださいよ。緊張した」
「すいません。わがままなことして」
「いえ、それでも来てくれて本当に嬉しいです。本当に......」
二人また、微妙な空気が流れていくと、隣の人なのか壁越しに声が聞こえてきた。笑い声のようだ。
マンションって防音とかしてそうなのに、それをも超えてくるなんてどんな声量してんだ......。
「となりすごいですね」
「はあ......。ちょっと行ってきます」
「え? お隣さんに文句言いに行くってこと? いやいや、そんな」
「隣、うちの姉なんで......。こういうのはもう慣れっこなんです」
そうやってあきれ笑いを浮かべた後、彼女はメガネをスッとつけて玄関を飛び出した。そして、肌感数分も経たずに戻ってきた。仕事が早すぎる。相手もしゅんとしたのか、物音が静かになった。
「お姉さんがいるんですね。オレと同じだ」
「姉と言っても双子ですけどね。自由奔放で、忘れっぽくて......。遥さんと遭遇したときも姉の忘れ物を届けにいっていたのですけど」
「そうだったんですね。お姉さんの方も大学生ですか?」
「いや、高校を出てすぐ仕事......をしておりまして」
「仕事......ですか。というか、瑠衣さんて同い年じゃないですよね? 同学年に、こんな人見たことないですし」
「私は大学3年ですよ? 霜野さんは何年生?」
「2年生です」
ほぉと驚きの顔をした瑠衣さんは今まで以上にリアクションが大きかった。以外な一面を見てオレが呆けていると、瑠衣さんは顔を整えてせき込む。
「年下かなと思っていたけど、1つしたでしたか。驚いたな......。にしてもこの可愛さと肌の透明感......男の人にしてはもったいない」
「よく間違われます......。でも、別にどうでもよくて。誰にどう見られようがオレはオレですし」
「はえー大人ですな」
ふへへと苦笑いをすると、瑠衣さんはくすくすと笑って見せた。この人とはいい関係が築けそうだ。
これからも仲良くしていきたい。でも、オレもこれ以上長居はできない。
「もうこんな時間か。オレもそろそろお暇します」
「そうですか。今日は来てくれてありがとうございます」
「もう敬語も『霜野さん』もやめてくださいよ」
「それは、また会ってくれるなら考えます」
瑠衣さんもオレと仲良くしていきたいと思ってくれたのか、少し小悪魔な笑みを浮かべた。
オレは二つ返事で了承した。
「はい、もちろんです。瑠衣さん」
「今度、会うときは姉も紹介します。また会いましょう遥くん」
「じゃあ、また」
オレは瑠衣さんの家を後にして自分の家へと戻ろうとした。だが、オレにはまだ確認したいことがある。一途の行動だ。一途は最近、妙に絡んでこずにあっさりしている。神野エル(オレ)を推していると言っているのにもかかわらず配信に来てくれない。今回もそうだ。気を使ったのかもしれないが、あの慌てぶりはなんなんだ? 少し、いやかなり気になってきたぞ。一途の家に遊びに行ってみるか。
遥は瑠衣との友情を感じ、再会を誓った。一方で、一途の動向を知るため彼の部屋へと行くことにした。渦中の一途は鯨鮫おるかとして配信を始めるのだが?




