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78:広がる輪にも綻びひとつ

一途は配信のため、遥と高知瑠衣を置いて飛び出した。

鯨鮫おるかとしての今回の配信はマシュメロ返し。

まったりと雑談をするつもりだったがまたも悲劇をおこしてしまう。

 用事はいしんもあるし、俺が出る幕でもなさそうだったから逃げるように帰ったのはいいものの、瑠衣さんとはほぼ初対面だったのに馴れ馴れしく話しすぎたかな。

 円滑にしようとしすぎて逆に滑ってなかったかな。

 あれはこうすれば、ここはそうじゃなかった......。


アスファルトを見つめながら歩いていると、反省の言葉が次々と浮かんでくる。


「配信でもないのに、考えすぎかな......。でももう終わってしまったことは仕方ない。どうせ、あの人にはもう会うことはないだろうし、切り替えて今は配信のことだけ考えよう」


連休ということもあり、俺と押崎さんは毎日投稿というノルマを自分たちに課した。押崎さん曰く、初週は毎日投稿で覚えてもらうことが鉄則らしい。


「やるしかねえな。遥とのコラボのためだ! 二日目も頑張るぞい!」


パソコンの前で一人意気込み、今日ネタにするために昨日はじめて開設したマシュメロに目を通してみる。片手で数えられるものかと思っていたけど、意外にも数十通ほど来ていた。俺はそれを画面に準備して配信を始めた。


「やあプランクトンたち! バーチャル深界アイドル 鯨鮫おるかです! マリアナ海溝であたしと握手!」


マイクを通して変声されていく俺の声は機械的でありながらも、鯨鮫おるかの人格を成していく。昨日も通していたマイクと変声機能なのにいまだに違和感がある。


【個人勢応援隊】:「深すぎて無理で草」

【紅蓮らいがー】:「その握手会場、深い!」

【ジンジャー・エール飲みたい】:「初見です! 楽しみです!」


「今回はねえ、以前に募集したマシュメロを読んでいこうかなと思いますよ~。初見さんももしよかったらコメントで質問してねえ!!」


意外というべきか、計画通りというべきか初見さんも見に来てくれているようで俺は少し高揚しながらパソコンからマシュメロを開いていく。


「『初配信からぶっ飛ばしてて応援したくなりました! これからも頑張ってください! お母さんにもよろしくとお伝えください!』 ありがとうございます! できれば母の珍事は忘れてほしいけど......。まあよくわかんない人は、アーカイブ一応残してるので見てね......うん」


【ゆっけ】「伝説の初回だな」

【エビのプランクトン】「あれは配信ならではの事故だけどアーカイブ見ても通じる笑い」

【ころころ】「見てみるかぁ」



「というわけでドンドン行こう! 『ビジュアル見て好きだなと思って見たら親子参観に始まり中の人の性別バレという怒涛で情報整理できてないです! それでも推しです!』 確かに、初回の情報量じゃないよね......。初見の方で夢を壊して悪いけど、あたし男なんだよね」


【ジンジャー・エール飲みたい】「お主もかーい! じゃあこれは変声機能ってこと?」

【ころころ】「むしろこうh......ゲフンゲフン」


コメントも大盛り上がりで自分をすんなりと受け入れてくれる。だが、中々伝わらないこともある。次のマシュメロを見た途端俺は思考を停止した。


「『なぜ、わざわざ女性の姿になるのかわからない。男性Vも珍しくないはず。男ってバラすなら男性Vとして売るべき』いや、大きなお世話だわ!好きでやっとるんじゃい!! ごめんなさいね! 私が浮かれて剪定し忘れたあたしも悪いとは思うけど!……」


【ああ】「そうだそうだ! 俺らも楽しんで見てんだからwin-winだべ(!?)」

【個人応援隊】「みんなそれわかってて応援してるんだよ」

¥1000【ジンジャー・エール飲みたい】「中身がどんな男だろうと、俺たちが女の子として扱ったら女の子になるんだよ! だからおるかちゃんは女の子だぞ(憤慨)」



パソコンの配信画面を見るとジンジャーさんのスパチャを筆頭に黄色や赤のスパチャが投げられる。これがいつも俺がやっていたことかと感心していると、突如ドアをノックする音が響いた。もしかして俺うるさかったかなぁ……


「ちょっとごめんねぇ。 お隣さんがきちゃったかも」


玄関を開くと、少し眉をひそめて立つ遥の姿があった。


「おう、ハル。ど、どうしたんだ?」


手早くヘッドセットを外すももう遅い。遥は俺に近づき、ヘッドセットに触れる。


「これ、オレも使ってる配信用ヘッドセットだろ。 お前こないだお前の母親と配信してたろ」


いつかはバラすとはいえ、早すぎるだろ! こいつ、どこで気がついたんだよ。とはいえ、これは逃げられないか?


「話すから、ちょっと待ってくれ。今終わらせるから」


【ジンジャー・エール飲みたい】「帰ってきたっぽい」

【ああ】「おかえりー」


「ごめんね! ちょっとお友達がきちゃったし、1時間ちょいしかしてないけどここまでにするね! スパチャありがとうございました! またアーカイブ見直してSNSで呟くねー! おるかれー」


【紅蓮ライガー】「了解! おるかれ様です!」

【ジンジャー・エール飲みたい】「おつです!」


画面を見ずにマウスをポンと叩いて配信を切って遥を家に上がらせた。


「Vtuberなるなら先言えよ」


「いやぁ、サプライズで教えようと思いましてね?」


【ああ】「あれ?切れてなくね?」

【個人勢応援隊】「切れてないね。友達の声も聞こえてるね」


「もっと、気をつけろよ。母親の声で特定されるかもだろ。ちゃんと配信切ったか?」


「切ったよ。おかんかよ」


「オレはお前のことが心配なんだよ」


【紅蓮ライガー】「友達の心配当たってるんだよなぁ」

【ああ】「パソコンの画面見てないの?」


「パソコンは、デスクトップだからまあいいか」


【ゆっけ】「友達、お母さんムーブのくせしてガバガバすぎん?」


「てかいつまでいる気だよ。俺は白状しただろ! 帰れよ」


「せっかく来たのにお茶も出さねえのかよ。あーそっか、ファンに浮気したもんなお前」


「浮気じゃねえよ。てかこれ浮気に入んのか?」


【紅蓮ライガー】「は?」

【ゆっけ】「は?」

【ああ】「声の主男だよね? てことは......あ(察し)」

【ふろしき】「ひらめいた」


「晩御飯作ってくれるなら考えてあげる♥」


「自分で作れよ」


「やだ! お前のご飯が食べたい! またおいしいの作ってよ!」


【ゆっけ】「彼女ムーブしてて草」

¥500【ふろしき】「ふーん、そういう関係ね」

【紅蓮ライガー】「情報過多ェ......」


「なんでそんな意固地なんだよ」


「構ってくれないのが悪いもん。お前がオレを変えたんだぞ責任とれよ! 責任とってお前のチャンネル見せろ!」


¥500【ふろしき】「責任とれよ/// 中々いいですな」

【紅蓮ライガー】「新しい扉開きそうだが、この流れまずいな」

¥810【ころころ】「これ開いたら二人どうなっちゃうんだ?」



「おい、おまえ配信切れてねえぞ」


¥1000【ふろしき】「お、気づいたね」


「へ?」


おるかの活動を遥に打ち明けた一途だったが、遥は中々怒りを収めてくれないのであった。

仕方がないので、一途たちはとりあえず仲直りの晩御飯タイムにすることにした。

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