C級ファイル
第32話を読みに来てくださって、本当にありがとうございます!
今回もザックたちの物語を楽しんでいただけたら嬉しいです。
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それでは、第32話をどうぞ!
公園の中。
三人は木々の木陰に座っていた。
ロジャーは二人の間に挟まれるように座り、困惑しきった様子で背中を丸め、うつむいたまま地面を見つめている。
一方、イサアクは芝生の上に寝転がり、辛いポテトチップスを美味しそうにバリバリと頬張っていた。
沈黙に耐えかねたジェフが、苛立ったように口を開く。
「ロジャー……いつまで黙ってるつもりだ? イサアクなんて、もう五袋目を食い終わって、今にも六袋目を開けようとしてるぞ……! いいから話せよ。このまま待たされるのはもう勘弁してくれ!」
その言葉を受け、ロジャーはようやく顔を上げた。
そして、か細い声で答える。
「……何を話せばいいんだよ? 僕は女の子と話すのがものすごく苦手なんだ。今まで話したことがある女性なんて、母さんと化学の先生くらいしかいないんだから! それにイサアク……その辛いチップスを食べるの、もうやめてくれよ。それを見ると、絶対に思い出したくない人を思い出すんだ……!」
するとイサアクは、スポーツバッグから新しい袋を取り出した。
「それなら、オニオン味も持ってきて正解だったな」
「……」
ジェフは深いため息をついた。
「そもそも、あの子のどこがそんなに気に入ったんだよ? あの子、全然喋らないじゃないか! 俺だって何度も近づいて話しかけようとしたのに、ずっと首を縦に振るだけだったぞ!」
ロジャーがすぐさま真剣な声で口を挟んだ。
「それは……彼女が話せないからだよ、ジェフ」
「…………」
イサアクは口に入れていたチップスを思わず吹き出した。
ジェフも目を大きく見開く。
「……は?」
ロジャーは少し寂しそうな声で続けた。
「そうだよ。彼女は言葉を話せないんだ。だから、君に返事をしなかった理由も、それで全部説明がつく」
ジェフは静かに芝生へ腰を下ろした。
先ほどまでの勢いもすっかり消え、申し訳なさそうに呟く。
「悪かった……知らなかったんだ。でも、それならなおさら、お前が何とかして彼女と話さないとな! お前のためでもあるんだぞ。彼氏だっていないだろうし、俺の完璧な指導に従えば、きっと彼女を恋人にできる!」
するとイサアクが身体を起こし、皮肉っぽく口を挟んだ。
「お前の指導? 前にザックが彼女を作ろうとして、お前の指示通りに動いた結果……髪の毛をマスタードソースまみれにして帰ってきたじゃないか」
「……え?」
ロジャーが驚いた顔をする。
その一方で、ジェフは勢いよく怒鳴った。
「はぁ!? あれはザックが俺の指示をちゃんと実行しなかったからだ! それでも第三段階までは進んだんだぞ!」
ロジャーは眉間に皺を寄せ、困惑したように尋ねた。
「第三段階? ……何の話だ?」
ジェフはまるで恋愛の専門家であるかのように、自信満々に説明を始める。
「ああ、全部で五段階あるんだ!
第一段階は距離を縮めること。
第二段階は気楽に会話できるようになること。
第三段階はデートに誘うこと。
第四段階は自分のことを打ち明けて、お互いの秘密を共有すること。
そして第五段階が――ご褒美だ。
そこで初めて、相手の本当の魅力や美しさを知ることができる!」
イサアクはまた一枚チップスを口へ放り込みながら、淡々と呟いた。
「つまり、ロジャーはまだスタート地点……第一段階ってことだな」
「うるさい!」
その瞬間、ジェフの携帯電話が鳴り、彼の熱弁を遮った。
ジェフは立ち上がり、数歩後ろへ下がってから電話に出る。
「おお……ペトラ! 久しぶりだな」
電話の向こうから、柔らかく上品な声が返ってきた。
『ジェフ……元気にしてる?』
ジェフは少し困ったように笑う。
「俺は元気だよ……まあ、少なくともまだ生きてる。そっちはどうだ? 誰かに嫌なことされたりしてないか?」
電話の向こうで、小さな笑い声が聞こえた。
『ううん……仮にされたとしても、どうするの? わざわざここまで来てくれるの? ふふっ』
「もちろんだろ。結局、イングランドはベルファストからそんなに遠くないんだから」
『ふふ……それでこそ、私の知ってるお兄ちゃんね』
彼女は小さく息を吐いた。
『じゃあ、あなたが元気だって分かったし、そろそろ切るね。診療所に連絡して、様子を確認しないと』
その言葉を聞いた瞬間、ジェフの表情が変わった。
「……あいつの状態、悪いのか? 父さん、最近ほとんど家に帰ってこないから……俺、何も聞いてないんだ」
『状態は厳しいけど、数か月前に比べればずっと良くなってるよ』
ジェフはほっと息を吐いた。
「そうか……よかった。じゃあ、チャオ」
『チャオ』
通話が切れた。
ジェフは携帯電話をしまい、二人のもとへ戻っていく。
するとロジャーがすぐに尋ねた。
「ザックから?」
ジェフは振り返り、何気なく答えた。
「は? 違うよ。妹だ。……まあいい。さっきの話に戻ろうぜ」
---
一方その頃。
ザックは地下室へ続く階段を、ゆっくりと慎重に下りていた。
そこは完全な暗闇に包まれていた。
光が差し込む場所など一切なく、唯一の光源は、ザックが手にしているフェリックスの携帯電話のライトだけだった。
足を踏み外して転ばないよう慎重に進みながら、ザックは左右の壁を見回す。
そして、いつものように皮肉を交えながら独り言を漏らした。
「くそ……このポンコツライト、状況をさらに悪化させてるじゃないか! 俺が携帯のバッテリーを完全に使い切ってなければ、こんなものをフェリックスから借りる必要なんてなかったのに……。そもそもあの人は年寄りなんだぞ? なんで最新の携帯なんて必要なんだよ。こんなガラクタを持ってるのも当然か……!」
愚痴をこぼしながら、ザックはゆっくりと階段を下り続ける。
足取りは重く、慎重そのものだった。
そしてついに、地下室の底へと辿り着く。
そこは隅々まで闇に覆われていた。
古びた物には埃が積もり、木材が軋む音や蜘蛛の巣が周囲を覆っている。
あまりにも不快な空間に、ザックは露骨に顔をしかめた。
その時――
「ザァァック?」
突然、暗闇の中から声が響いた。
「うわっ!?」
突然の声に驚いたザックは、足元をふらつかせ、そのまま派手に転倒した。
「痛っ……!」
すると、再び声が聞こえた。
「俺は食料品店に行ってくる。夕食に食べるものを買わないとな。もう夜七時だ」
その声の主は――フェリックスだった。
しかし、それが分かったところでザックの安心には繋がらなかった。
むしろ、土埃の中に仰向けに倒れたまま、苛立ちだけが増していく。
ザックはゆっくりと目を開いた。
その時――
天井に、何か奇妙なものがあることに気づいた。
木製の小さな扉。
まるで屋根裏部屋へ続く扉か、隠されたロフトの入口のようだった。
ザックは眉をひそめる。
「……ん? なんだ、これ?」
彼は立ち上がり、コートの背中についた埃を払いながら、携帯電話のライトを天井の扉へ向けた。
「屋根裏? なんで地下室に屋根裏があるんだよ!? くそ……フレデリックって、本当に変な奴だったんだな!」
近くに立てかけてあった、柄の長い箒を手に取る。
そして、それを天井の扉へ向けて振りながら、怒ったように呟いた。
「綺麗な奥さんを裏切って、隠れて子供まで作って……本来なら引きこもり気味の息子、ロジャーの面倒でも見てるべきだっただろ! それなのに、危険な犯罪者たちの事件を一人で調べて、誰にも知らせない……!」
そして、もう一度天井を見上げる。
「そのうえ今度は地下室に屋根裏まであるのかよ!? 本当に、今まで見た中で一番変な男だ!」
ザックは箒の柄の先端を扉へ強く押し当てた。
すると――
ギィィィ……!
木製の扉が開き、大量の埃が一気に舞い落ちてきた。
「ぶぇっ……!」
埃はそのままザックの顔面へ直撃する。
「ハックションッ!!」
大きなくしゃみが地下室中に響き渡った。
ザックは咳き込みながら手で顔を拭う。
「くそっ……! この場所、何十年も掃除されてないんじゃないか……!」
気を取り直したザックは、再び箒を振り上げ、今度は全力で扉を突いた。
バキッ!
扉が完全に開いた。
しかし、その直後――
ガタンッ!
折り畳まれていたプラスチック製の梯子が落下してきた。
「うおっ!?」
梯子はそのままザックの身体に直撃し、彼を再び床へ叩き落とした。
「ぐっ……!」
地面に倒れたザックは、腕で乱れた髪を掻きながら呻いた。
「くそ……! 今日はなんてツイてない日なんだ……!?」
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ザックはプラスチック製の梯子をゆっくりと上り、地下室の屋根裏へと入り込んだ。
そして――
「……!」
目を見開いた。
そこは、彼が想像していたような単なる狭い物置ではなかった。
むしろ、完全な秘密部屋に近かった。
木製のベッド。
小さな机。
そして、隅にはトイレまで設置されている。
「……なんだ、ここは」
不気味さと警戒心がザックの中に湧き上がる。
だが、監視役として、そして探偵としての本能が、彼を一瞬たりとも躊躇わせなかった。
すぐに捜索を開始する。
まずは古びたベッドへ向かい、枕や布団をひっくり返していく。
しかし、そこには価値のありそうなものは何もなかった。
ザックはすぐに顔を上げ、次に小さな机へ向かう。
机の上は完全に空っぽだった。
一見したところ、何の手がかりもない。
だが――
ザックが大きな引き出しを引いた瞬間。
「…………」
表情が凍りついた。
そして、目の前にあるものを見て、完全に言葉を失う。
そこには――
何冊ものファイルが積み重ねられていた。
どれも同じ材質で、そしてすべてが特徴的な青色に統一されている。
ザックは信じられないという声で呟いた。
「……何? 嘘だろ……。本当に……見つけたのか?」
一秒たりとも待てなかった。
ザックは最初のファイルを開き、夢中になってページをめくっていく。
最初のページには、詳細な経歴書のようなものが記されていた。
そこには、背の低い男の写真も添えられている。
その男は禿頭で、茶色い上品なスーツを着ていた。
ザックは慎重にページをめくり続ける。
そして――
見覚えのある筆跡で書かれた、一つの文章に目が止まった。
「C級 ― 2位 ― 『勤勉』」
その一文を目にした瞬間。
ザックの中に残っていたすべての疑念が消え去った。
間違いない。
ついに――
フレデリック自身が記した、あの有名な「C級ファイル」を手に入れたのだ。
ザックの顔に、勝利を確信した大きな笑みが浮かんだ。
「これだ……! 本当に見つけた……! やっと見つけたぞ! いやぁ……もう二度と会えないと思ってたよ!」
ザックは大量のファイルを両腕で強く抱きしめた。
まるで、この世で最も貴重な宝物を手に入れたかのように。
そして、そのまま勢いよく走り出し、埃だらけの屋根裏からプラスチック製の梯子を駆け下りていった。
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玄関近くの応接室。
ザックとフェリックスは向かい合って座っていた。
二人の前には、フェリックスが近くの食料品店から買ってきた、温かく美味しそうなご飯が並んでいる。
フェリックスは炭酸飲料のボトルを開け、感心したように口を開いた。
「本当に大手柄だったな、ザック。こんなに簡単にファイルを見つけられるとは思ってもいなかったよ!」
ザックは一口飲み込みながら答える。
「俺もだよ……。絶対に見つからないと思ってた。でも今回は、運が味方してくれたみたいだな」
フェリックスは炭酸飲料をグラスへ注ぎながら、興味深そうに尋ねた。
「中で少し目を通したと言っていたな。何か分かったか? 変わったパターンでも見つけたか?」
ザックは空になったグラスをフェリックスへ差し出し、真剣な表情で答えた。
「ああ。何枚か読んでみたけど、重要なことが分かった。どうやらC級の犯罪者たちは、本名を隠すために偽名や異名を使っているらしい。……まあ、そもそもフレデリックが彼らを識別するためにそういう呼び名をつけた可能性もあるけどな」
フェリックスは頷きながら、ザックのグラスへ飲み物を注いだ。
「異名か……。実に面白くて賢い考え方だな! ますます興味が湧いてきた。つまり、彼らは単に頭が切れるだけじゃない。自分たちの身を守るため、常に慎重に先の一手まで計算しているということだ」
その瞬間、ザックは何かを思い出した。
彼は隣に積まれていた青いファイルの中から一冊を取り出し、最初のページを開いた。
そこには、先ほどの背の低い禿頭の男――茶色いスーツを着た男の写真が載っている。
「そうだ……思い出した! この男なんだよ。この男を見た瞬間、どこかで会ったことがあるような気がしたんだ。でも、どこで、いつ、どんな状況で会ったのか……まったく思い出せない!」
フェリックスはファイルをゆっくり受け取り、写真をじっと見つめた。
「うーん……。随分と普通の男に見えるがな。こんな見た目の男が、どうしてこんな危険なリストに入っているんだ?」
ザックは両腕を机に預けながら説明する。
「ファイルは全部読んだ。公式には、こいつが犯したと証明された犯罪は一つもない。本名もまだ不明。そして、こいつは『勤勉』と呼ばれている」
一拍置いて、ザックは続けた。
「それと……複数の少女誘拐事件で、主要な容疑者の一人になっている。書かれているのは、それだけだ」
フェリックスはゆっくりとファイルを閉じた。
そして、決意のこもった目でザックを見る。
「なるほどな……。いいか、ザック。今夜はこの家を出ない」
ザックが顔を上げる。
フェリックスは続けた。
「ここに泊まる。そして、このリストにあるファイルを一冊残らず読み込む。そこに記されている情報を、すべて洗い出すんだ」
ザックは小さく笑い、後頭部を掻きながら答えた。
「実は……俺もまったく同じことを考えてた」
そして、何気なく付け加える。
「まあ、どうせ家に帰っても俺を待ってる奴なんていないしな」
第32話を最後まで読んでくださって、ありがとうございました!
ここまで読んでくださった皆さん、本当に感謝しています。
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それでは、また次の話でお会いしましょう!




