↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
社会の裏側  作者: トビー
PR
29/59

「信じる者」

第29話へようこそ!


今回もザックたちの物語を楽しんでいただければ嬉しいです。

それでは、第29話をどうぞ!

目的の地区へ向かうバスの車内は、息苦しいほど混雑していた。座席はすべて埋まっており、ジェフは立ったまま、バスの揺れに合わせて身体をよろめかせていた。一方、イサクとロジャーはそれぞれ席を確保して座っていた。


 乗客が突然増えたことで、ジェフはひどく気まずい状況に陥っていた。たった今乗ってきた一人の女性と、混雑のあまり身体が密着してしまったのだ。


 ジェフは顔を真っ赤にしながら、できる限り自分の身体を小さくしようと必死になった。その様子を見て、ロジャーは口元を手で隠し、笑いをこらえている。


 そんなジェフを横目で見たイサクは、冷たい視線を向け、小声で一言だけ呟いた。


「変態……」


 ジェフは二人の友人に笑われながら、いたたまれない思いでその場に耐え続けた。


 やがて、バスは目的の停留所へ到着した。


 ほとんどの乗客が降り、三人もそれに続いてバスを降りると、そのまま地区の細い路地へと入っていった。


「危うく、あそこでイッちまうところだった……」


 ジェフは顔を赤くしたまま、そう呟いた。


 すると突然、ロジャーが足を止めた。


 顔を真っ赤にしながら、近くの一点を震える指で示す。


「あの子だ……! あそこにいる!……」


 ジェフとイサクは、ロジャーが指差した方向へ視線を向けた。


 数メートル先に、一人の少女がいた。


 彼女は長い掃除用のブラシを手に持ち、まるで清掃員のように、道路を軽やかかつ手際よく掃いていた。


 ジェフは困惑した表情でロジャーを振り返る。


「でもよ、ロジャー……前に彼女はクラスメイトだって言ってただろ? なのに、あの子……どう見ても清掃員じゃないか」


 イサクも一瞥しただけで、いつもの淡々とした口調で呟いた。


「……ブスだな」


「はあっ!? 彼女は清掃員じゃない! 俺には分かる!」


 ロジャーは思わず声を荒らげた。


 ジェフは仲間らしくロジャーの首に腕を回すと、そのまま前へ押し出した。


「分かった分かった。だったら、さっさと行って話しかけようぜ」


 ロジャーは慌ててジェフの腕を首から振りほどき、数歩後退しながら両手を振った。


「予定変更! 緊急で予定変更だ!」


 突然の態度の変化に、ジェフとイサクは怪訝そうな顔をした。


「はあ? ロジャー……俺たちはお前と彼女を近づけるために、わざわざここまで来たんだぞ? 今さら何を考えてるんだ?」


 イサクが冷たく呟く。


「臆病者……」


 ロジャーは再びムッとした表情になり、慌てて弁解した。


「これは臆病なんじゃない! 慎重になってるだけだ! いいか、ジェフ……まずお前一人で彼女のところへ行って話しかけてくれ。そのあと俺が入って、偶然そこで出会ったように振る舞うんだ。分かったか?」


 ジェフは自信満々に頷いた。


「よく分かった。よし、俺が先に行ってくる」


 イサクはその様子を眺めながら、ぼそりと呟いた。


「……面倒な奴」


 ジェフは自信に満ちた足取りで、軽やかに動きながら道路を掃除している少女へ近づいていった。


「こんばんは」


 少女はジェフのほうを振り向き、軽く頷くと、薄い笑みを浮かべた。


 しかし、何も言わない。


 ジェフはなんとか会話を続けようとした。


「今日はいい天気だな……そう思わないか?」


 少女は再び同じように頷き、微笑んだ。


 それでも、一言も口を開かなかった。


 ジェフは頭を掻き、回りくどい話はやめて、いきなり本題へ入ることにした。


「なあ……単刀直入に言うぞ。俺の友達に、君と仲良くなって友達になりたいって奴がいるんだ。あそこに立ってる奴だ」


 ジェフと少女は、彼が指差した方向へ振り返った。


 しかし、そこに立っていたのは――腕を組み、冷たい表情を浮かべた長身の少年が一人だけだった。


 イサクである。


「はあっ!? ロジャーはどこだ!? くそっ……あいつ、俺を犠牲にして逃げやがった!」




警察署では、ザックとフェリックスが再び向かい合って座り、開かれた資料の山を前にしていた。


 フェリックスは手にした不動産関係の書類をめくりながら、記録された日付を注意深く確認していた。


「どうやら、この家が売りに出されたのはフレデリック氏が亡くなってから、たった三日後らしい……。つまり、裏で別の誰かがこの手続きを行ったということだ。まさか、ローレン夫人がやったのか?」


 ザックは両手で頭を抱え、天井を見上げながら力なくため息をついた。


「くそ……いや、彼女がやったとは思えない。でも、その可能性がないとも言い切れない。まずは『ロズボーン』の家へ行って、隅から隅まで徹底的に調べよう。そこで見つけたものを整理してから、ローレン夫人に話を聞けばいい」


 フェリックスは椅子に座り直し、少し口調を和らげた。


「それじゃ……出発する前に、俺と一杯コーヒーでも飲まないか?」


 ザックは立ち上がりながらコートを整えた。


「はあ? いや、今のうちに片付けなきゃならない用事があるんだ。明日の朝に会おう。俺たちは君の車で行くんだろ?」


 フェリックスは小さく笑って頷いた。


「ああ。分かった。気をつけろよ、ザック」


 


 広々としたビリオトスの執務室。


 そこには静寂と威圧感が漂っていた。


 ビリオトスは机の向こう側に座り、冷静で重々しい表情を浮かべていた。


 その前にはバジディオが立っていた。顔は青ざめ、両手を背中で規則正しく組んでいる。


 さらに、その隣には何人もの組織の男たちが同じように厳格な姿勢で立っていた。


 やがて、ビリオトスが沈黙を破った。


 鋭い視線を彼らへ向け、断固とした口調で問いかける。


「お前たち……あいつが拘束されている間、誰も手を出していないな?」


 その場にいた男たちは、全員が同時に従順な声で答えた。


「はい、ボス……誰も手を出していません」


 ビリオトスはすぐさまバジディオへ視線を移し、その目で沈黙を切り裂いた。


「最後にあいつを見たのはお前だ、バジディオ……。本当に、あの場で起きたことに間違いはないのか?」


 バジディオはわずかに視線を落とし、重苦しさを滲ませた、かすれた声で答えた。


「はい……間違いありません。あいつは……自分で自分を撃ったんです……」


 ビリオトスは静かに頷くと、外へ続く扉を手で示した。


「なら、死体は遠くへ捨てろ。跡は一切残すな」


 バジディオがすぐに、低く押し殺した声で口を挟んだ。


「死体の処理は……俺がやります。俺自身で、誰にも見つからない場所へ隠します」


 ビリオトスは一瞥だけを向け、冷たく答えた。


「分かった。好きにしろ」


 バジディオは軽く頭を下げると、踵を返して足早に部屋を出ていった。


 その青ざめた顔には、激しい不安と動揺がはっきりと浮かんでいた。


 


 刑務所の共同房。


 アスコは部屋の隅に座り、ほかの囚人たちの様子を静かに眺めていた。


 その中には、周囲の囚人たちとはあまり変わらない外見をしていながら、どこか権力者めいた雰囲気を漂わせている男がいた。


 男は命令するような口調で叫んだ。


「おい! 今すぐ俺に緑茶を一杯持ってこい! 早くしろ!」


 痩せた囚人がすぐに立ち上がり、手にカップを持ったまま急いで茶の入ったポットへ向かった。


 そのちょうど直後、部屋の外側にある扉が開いた。


 房を担当する看守が入ってきて、手元の名簿へ目を落としながら、何人かの名前を呼び上げていく。


 その中に――


「アスコ・マイクタ」


 という名前もあった。


 アスコは立ち上がり、看守とともに面会室へ向かった。


 そして部屋へ足を踏み入れた瞬間、そこにいる訪問者の正体を一目で見抜いた。


 アスコはザックの向かい側の椅子に腰を下ろした。


 すると、ザックが先に口を開いた。


「アスコさん……ここでは大丈夫ですか? 何か問題はありませんか?」


 アスコは静かに頷いた。


「大丈夫だよ、坊や……。それより、こんな時間にどうしたんだ?」


 ザックは姿勢を正し、少しだけ頭を下げた。


 そして、ありのままの気持ちを打ち明けるように話し始めた。


「フレデリックさんのこと……俺は、本当によく知っているわけじゃありません。きっと、あなたのほうが俺よりずっと彼を知っているし、彼のことも理解していると思います……」


 ザックは一度言葉を止めた。


「こんなことを言うと、俺は最低な人間に聞こえるかもしれません。でも……正直に言えば、俺は彼が亡くなったとき、本当の意味では悲しくなかった。ただ、ショックだっただけです……。そして、その気持ちを自覚するたびに、自分がどれだけ酷くて、惨めな人間なのかを思い知らされるんです。こんな俺には、生きる資格なんてないんじゃないかって……」


 ザックは苦しそうに息を吐いた。


「でも……彼の妻は俺に親切にしてくれた。それに、息子のロジャーまで俺の友達になった。まるで、フレデリックさんが何かの形で俺に彼を託したみたいで……。くそ……なんで俺の許可も取らずに、そんなことするんだよ……。俺なんかを信頼するなんて……!」


 ザックは深く息を吐き、今度はより強い意志を込めて続けた。


「とにかく……最初は、ただ盗まれたパソコンを見つけるために捜査していただけでした。でも今では、殺人事件の真っ只中にいる……」


 ザックは一瞬だけ視線を落とした。


「信じるのが難しいことなのは分かっています。でも俺は、パソコンの盗難とフレデリックさんの死には、間違いなく深い繋がりがあると思っています」


 そして、まっすぐにアスコを見つめた。


「あなたが無実だと信じているのと同じくらい……俺はそれを確信しています」


 ザックは少し苦笑した。


「あなたは今、きっとこう思っているでしょうね。『こいつは何なんだ? 突然やってきて、何を馬鹿なことを言ってるんだ?』って……。まあ、気にしないでください。俺がこれから言いたいことの前置きをしていただけです」


 ザックはアスコの目をまっすぐ見つめた。


「アスコさん……俺は、あなたを助けたい。あなたの無実を証明するために、俺にできることは全部やります」


 そして、はっきりとした声で告げた。


「だから……俺を信じてください。そして、何があっても諦めないでください」


 アスコは、ただ呆然とザックを見つめていた。


 驚きと感嘆が入り混じった表情だった。


 ほんの短い間しか知らない、しかも自分とは深い関係のないこの青年が――ここまで強い意志を持って、自分のために立ち上がってくれている。


 その事実を、アスコはすぐには信じることができなかった。

第29話を最後まで読んでいただき、ありがとうございました!


少しずつ動き始めた事件の行方を、これからも見届けていただければ嬉しいです。

次回、第30話もぜひお楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。