『スダーヴォヤの手中』
第25話へようこそ!
いつも読んでいただき、本当にありがとうございます。
ここまで物語を追いかけてくださったことに感謝しています。
今回も楽しんでいただけたら嬉しいです。
それでは、第25話をお楽しみください!
バジディオは動揺を隠せないまま、プレウロトゥスの本拠地へと駆け込んだ。
中へ飛び込むと、そこに詰めていた男たちへ短く挨拶だけを投げ、返事を待つこともなくエスベルのいる部屋へ向かう。
エスベルは背が高く痩せた青年だった。
非常に長い髪が乱雑に肩へ垂れ下がっている。
彼は部屋の中を落ち着きなく行ったり来たりしながら、苛立たしげに爪を噛んでいた。
そしてバジディオの姿を見るなり、怯えを含んだ声を上げる。
「バジ……俺たち、本当にまずいことになったぞ……! どうするんだよ、これから!」
バジディオは手を上げて彼を制した。
「黙れ」
鋭い声だった。
「お前はいつもそうだ。問題が起きるたびに取り乱しやがって」
だが、その強い口調は徐々に弱まっていく。
まるで今にも崩れ落ちそうなほど、声は低くかすれていた。
「フォミス……どうしてよりにもよってあいつなんだ……。どうしてだ……」
するとエスベルが感情をぶつけるように言い返した。
「黙るのはお前の方だ、バジ!」
声には怒りが滲んでいた。
「全部お前のせいだろ! あの地区を手に入れたいなんて理由で襲撃を命じたのはお前だ! そのせいでフォミスは今あそこにいて、こんな目に遭ってるんだぞ!」
バジディオは目を見開いた。
「何を言ってる!」
慌てて反論する。
「俺はあいつに直接参加しろなんて命じてない! バスの運転だけしていればいいはずだったんだ!」
エスベルは頭を抱えるように叫んだ。
「あいつは運転免許なんて持ってないんだよ! お前、自分の部下のことすらちゃんと把握してないじゃないか! くそっ……本当に最悪だ……!」
バジディオは苛立たしげに頭をかいた。
そして自分もまた部屋の中を行ったり来たりし始める。
しばらくして、突然その場で足を止めた。
ポケットからウィンストンの煙草を一本取り出し、火をつける。
深く一度だけ吸い込み――
すぐに床へ捨てた。
そして靴で強く踏み潰す。
バジディオはエスベルを見据えた。
その瞳には先ほどまでの動揺がなかった。
「この件は俺が何とかする」
落ち着いた声だった。
「必ず方法を見つける。だから心配するな、エスベル」
そう言って近づく。
床に座り込んでいたエスベルの顔を両手で包み込み、真っ直ぐ見つめた。
「約束を忘れるな」
静かだが力強い声だった。
「俺たちは兄弟だ。兄弟は最後まで互いを守り続ける」
エスベルは小さく頷いた。
その言葉によって、少しだけ不安が和らいだようだった。
彼の口元にかすかな笑みが浮かぶ。
「ああ……。お前ならきっと何とかしてくれる。そう信じてるよ……」
◇ ◇ ◇
同じ本拠地の中――
だが、さらに奥まった暗く静かな一角。
狭い部屋の中では、埃に覆われた窓から差し込む僅かな陽光が床を照らしていた。
その空間に響いていたのは、高らかな笑い声だった。
プレウロトゥスは腹を抱えるほど笑っていた。
その嘲るような視線は、目の前の男へ向けられている。
フォミスは古びた木椅子に縛り付けられていた。
縄で厳重に拘束されている。
顔には無数の痣と固まった血が残り、青白い顔色は痛々しかった。
彼は傷の痛みに耐えながら、ようやく顔を上げる。
プレウロトゥスは一歩近づいた。
疲弊した彼の姿を眺めながら、軽蔑を込めて言う。
「坊主……本当に愚かな奴だな」
唇が歪む。
「俺の支配する地区にある商業施設を襲おうなどと、よくそんな考えを持てたものだ」
数秒の沈黙。
そして冷酷な笑みを浮かべた。
「勇気だけは認めてやる」
彼はフォミスを見下ろす。
「だが――弱すぎる」
フォミスは何も答えなかった。
ただ暗い床を見つめながら、疲労と苦痛に耐えるように小さく呻く。
プレウロトゥスはさらに近づいた。
そして耳元で低く囁く。
「俺の名前を聞いたことはないか?」
その声には重圧があった。
「俺は『スダーヴォヤ』だ」
不気味な笑みを浮かべる。
「そして、お前はここで過ごすすべての瞬間を後悔することになる」
◇ ◇ ◇
夜が街を包み込み始めていた。
強い風が人気のない路地を吹き抜け、かすかな音を立てている。
ザックはロジャーと並んで歩いていた。
新しい友人である以上、自分が家まで送るべきだ――そう主張し続け、ようやくロジャーを納得させたのだった。
歩きながらロジャーは、ジェフとイサアクについて語っていた。
彼らとも友人になりたいこと。
そして三人の間にある兄弟のような絆に強く惹かれていることを。
ザックは小さく笑った。
「実はな、俺たちの絆が強いのは付き合いの長さだけが理由じゃない」
少し間を置く。
「共通点があるんだ」
ロジャーは興味深そうに耳を傾けた。
「共通点?」
「ああ」
ザックは静かに答える。
「みんな家族と離れて暮らしている」
そして説明を続けた。
「俺の家族はスコットランドにいる」
「ジェフの母親は病気の治療のためにトルコにいて、妹はイングランドで暮らしてる」
冷たい夜風が吹き抜ける。
しばし沈黙が流れた。
やがてロジャーが尋ねる。
「じゃあ、イサアクは?」
ザックは深く息を吐いた。
「分からない」
前を見つめたまま答える。
「本人ですら家族について何も知らないんだ。俺たちも、あいつの本当の出自は知らない」
二人はそのまま歩き続けた。
そしてようやくロジャーの家へ辿り着く。
ザックは別れの挨拶をして立ち去ろうとした。
しかしロジャーが慌てて呼び止める。
「おーい、ザック!」
ザックは振り返った。
「何だ?」
「家に入って夕食を食べていかないか?」
ロジャーは微笑む。
「もう友達なんだからさ。断るなよ」
ザックは少し戸惑った。
だが、ロジャーの真っ直ぐな笑顔に押される形で、最終的に了承した。
そして彼と共に家の中へ入っていった。
◇ ◇ ◇
刑務所の面会室には、重苦しい静寂が漂っていた。
アスコは鉄製の椅子に腰掛けている。
目には涙が滲んでいた。
向かい側に座る少女の両手を、彼は強く握っている。
少女もまた静かに涙を流していた。
やがて顔を上げる。
その声は優しく、そして寂しさに満ちていた。
「お父さん……」
涙をこらえながら言う。
「元気? お父さんの大好きなケーキを作ったの。ちゃんと届いた?」
アスコは疲れたように息を吐いた。
そして親指で涙を拭う。
娘を安心させるために微笑みながら言った。
「ああ、大丈夫だよ」
優しい声だった。
「それより、お前は元気かい? マイシナ」
心配そうに続ける。
「誰かに嫌なことをされたりしていないか? 困っていることはないか? 何でも話してくれ。私はお前の父親なんだからな」
マイシナは涙を流しながらも微笑んだ。
「お父さんが家にいないのに、どうして元気でいられるの……?」
声が震える。
「お父さんが帰ってくるまで、私は元気になれないよ……」
アスコは深く頷いた。
その目には確かな信念が宿っていた。
「大丈夫だ」
穏やかな声で言う。
「きっと真実は明らかになる」
そして娘を見つめた。
「私は必ず帰る。だから心配するな」
マイシナは身を乗り出した。
そして父の年老いた手にそっと口づける。
泣き腫らした赤い瞳には、まだ希望の光が残っていた。
この苦しい日々が、いつか終わると信じながら。
マイシナは父の年老いた手を強く握りしめたまま、しばらく離そうとしなかった。
だが、面会時間は残酷なほど早く過ぎていく。
やがて係員が時間切れを告げると、マイシナは名残惜しそうに立ち上がった。
アスコもまた娘を見つめながら、静かに微笑む。
「気をつけて帰るんだぞ」
マイシナは涙を拭い、小さく頷いた。
「うん……また来るね、お父さん」
そして最後にもう一度父の顔を見つめると、ゆっくりと面会室を後にした。
アスコは閉じられた扉を見つめ続ける。
娘の姿が完全に消えた後も、しばらくそのまま動かなかった。
やがて小さく息を吐き、天井を見上げる。
その表情には深い疲労と、娘への尽きない愛情が刻まれていた。
第25話を読んでいただき、ありがとうございました!
少しでも楽しんでいただけたなら嬉しいです。
よろしければ感想やコメントを残していただけると、とても励みになります。
それでは、また次の話でお会いしましょう!




