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社会の裏側  作者: トビー
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21/59

勝者の微笑み

第21話です。


 どうぞお楽しみください。

裁判所が職員たちのために貸し切った豪華なパーティー会場。


 会場は大勢の人々で賑わい、ジュースや飲み物の香りがあちこちに漂っていた。


 特徴的な歌声を持つ歌手の歌に合わせ、人々は歌い、踊り、思い思いに宴を楽しんでいる。


 そんな賑やかな空間の中、ザックとリサは一つのテーブルに腰を下ろしていた。


 リサは歌手の歌声にすっかり夢中になり、メロディーに合わせて鼻歌を口ずさみながら、軽やかに身体を揺らしている。


 だが、その隣のザックはまるで正反対だった。


 硬い表情のまま座り込み、鋭く警戒した視線を四方へ走らせている。


 彼が探している顔はただ一人。


 ――グリヴォラ・フロンドーサ。


 しかし、どれだけ会場を見渡しても、その姿は見つからなかった。


 そんな彼の様子を見て、リサが楽しそうに声をかける。


「ザック、踊りましょうよ! みんな踊ってるじゃない!」


 ザックは驚いたように彼女を見た。


「はあ? 何言ってるんだよ。絶対に嫌だ。俺はダンスなんて全然できないし、それに踊ってないのは俺たちだけじゃないだろ? ほら、あそこのテーブルを見てみろよ」


 そう言って右側のテーブルを指差す。


 リサはそちらへ視線を向けると、呆れたようにため息をついた。


「ああ、あれは裁判所のお年寄りたちでしょ? そりゃ踊らないわよ。でも私たちは若いんだから! ほら行きましょう!」


 だがザックはいつもの頑固さを見せる。


「いや、今回はやめておく。俺は本当に踊れないんだ」


 リサは肩を落とした。


「うーん……分かったわ。無理には誘わない」


 リサは再び音楽を楽しみ始める。


 一方でザックの頭は、どうやってグリヴォラへ辿り着くかでいっぱいだった。


 やがて彼は真剣な表情で尋ねる。


「リサ。グリヴォラって本当にこのパーティーに招待されてるのか?」


 リサは不思議そうな顔をした。


「え? どうしてそんなに彼女のことばかり聞くの? もちろん招待されてるわよ。このパーティーは裁判所の全職員が対象なんだから」


 その返答を聞いた瞬間、ザックは心の中で呟く。


(なるほど……。なら残る手は『レックス方式』しかないな)


 彼は再びリサを見る。


「ここに彼女の友達はいるか?」


 リサはすぐに答えた。


「いるわ。カーラよ。グリヴォラの親友なの。さっき見かけたわ」


 ザックの目が輝く。


「その人に会おう。グリヴォラがどこにいるのか聞きたい」


 リサは呆れたように目を回した。


「ついて来なさい。そして少し黙ってなさいよ、ザック。あなた本当におしゃべりなんだから」


 ザックは彼女の後について歩き出した。


 二人が向かったのは会場中央付近のテーブルだった。


 そこではカーラが激しく踊った後らしく、ちょうど休憩していた。


 リサは笑顔で声をかける。


「カーラ! 元気?」


 カーラは振り返り、嬉しそうに微笑んだ。


「リサ! 久しぶりね。最近全然話してなかったじゃない。パーティーは楽しんでる?」


 リサは軽く笑う。


「ええ、もちろん。それより紹介するわね。こちらはザック・レスター。グリヴォラのことを探しているの」


 ザックは礼儀正しく頭を下げた。


「はじめまして、カーラさん」


 カーラも微笑む。


「こちらこそ、はじめまして」


 そして少し悪戯っぽい表情になった。


「でも残念ね。グリヴォラは今日は来ていないの。それに最初からパーティーには来ないって言っていたわよ」


 少し間を置いてから付け加える。


「ちなみに念のため言っておくけど、彼女は既婚者だからね?」


 その瞬間だった。


 リサは大声で笑い出した。


 一方のザックは露骨に驚き、困惑した表情を浮かべる。


「ま、待て待て! そういうつもりじゃない! 本当に違うんだ!」


 リサは笑いながらザックの腕を引っ張った。


「はいはい」


 そしてカーラに別れを告げる。


 二人はそのまま自分たちのテーブルへ戻っていった。


ジェフリーの屋敷の地下室には、押し殺したような呼吸音以外、何の音もなかった。


 部屋の中央では、一人の男が椅子に縛り付けられている。


 イサアクとジェフが覆面を外した後、両手両足を厳重に拘束したのだ。


 二人はその男の正面に椅子を置いて座っていた。


 そして、それぞれ温かいチーズサンドの包みを開き、黙ったまま男を見つめながら美味しそうに食べている。


 イサアクは一口食べ終えると、近くのテーブルに置かれた札束へ視線を向けた。


 そして咀嚼しながら言う。


「このチーズサンド、本当に美味いな……。お前が持っていた金で買ったんだが、最高の食事になった。実に素晴らしい」


 ジェフはジュースを一口飲み、男を見ながら微笑んだ。


「まったくだよ。こんなに美味しいチーズサンドを食べたのは久しぶりだ。お前の金はまともな金じゃないが、おかげで良い食事ができたな」


 男は怒りと絶望の入り混じった目で二人を睨み続けていた。


 しかし、何一つ口を開こうとはしない。


 イサアクはサンドイッチを食べ終え、手を拭いた。


 そしてジェフへ視線を向ける。


「この男は相当頑固だな……。このままでは何も喋らない」


 ジェフは少し考え込んだ後、口を開いた。


「一番良い方法は、すぐにザックへ知らせることだと思う。あいつは探偵だし、自分なりのやり方で情報を引き出せるはずだ」


 イサアクは頷いた。


「その通りだな……。ザックなら、こういう手合いの犯罪者の扱い方を知っている」


ショッピングモールの通路には、組織的な強盗事件の直後ということもあり、混乱が渦巻いていた。


 被害総額は甚大。


 破壊の痕跡が至る所に残されている。


 そんな重苦しい空気の中、数十人もの商人や住民たちが一か所に集まっていた。


 男も女も関係なく、一人の男を取り囲んでいる。


 その中心に立っていたのは――バジディオだった。


 バジディオは群衆のざわめきをかき消すように声を張り上げる。


「私は何度も警告したはずだ! だが君たちは私の提案を拒んだ。『アスコさんがいるから大丈夫だ』『誰も手出しなどできない』とね! ――そして今、どうなった?」


 その言葉に群衆は大きくざわめいた。


「あの連中はアスコさんがいなくなった隙を突いたんだ!」


「そうだ! 逮捕されたと聞いた途端に動き出しやがった!」


「くそっ、あの悪党どもめ!」


「アスコさんは必ず戻ってくる! そして俺たちを助けてくれるはずだ!」


 バジディオは手を上げて彼らを制した。


「その通りだ。私もそう思う。あの犬どもはアスコさんの不在を利用した。だが――まだバジディオという男を知らないらしいな」


 彼は自信に満ちた笑みを浮かべる。


「私に任せてくれれば、部下たちをこの一帯の隅々まで配置しよう。君たちと店を守るためにな。だが当然、彼らにも生活がある。妻や子供がいて、金が必要だ」


 すると商人たちは即座に答えた。


「定期的に少しずつ金を出し合えばいい!」


「それで安全が買えるなら安いものだ!」


 バジディオは満足そうに頷く。


「その言葉を待っていた!」


 そして両手を高く掲げた。


「この提案に賛成する者は手を挙げてくれ!」


 その場にいた全員が迷うことなく手を挙げた。


 バジディオは力強く宣言する。


「よし。ならば安心して商売を続けてくれ。今日からこの場所は私が守る!」


 群衆は次々と散っていった。


 商人たちは店へ戻り、住民たちもそれぞれの持ち場へ帰っていく。


 バジディオは一人、満足げな足取りで外へ向かった。


 そして携帯電話を取り出し、素早く電話をかける。


 数回の呼び出し音の後、相手が出た。


『何の用だ!? 今夜は電話するなと言ったはずだ!』


 苛立ちに満ちた声だった。


 だがバジディオは穏やかな笑みを崩さない。


「君のパーティーなんかより大事な知らせがある」


 彼は短く告げる。


「――私たちの勝ちだ。それだけだよ」


 返事を聞く前に通話を切った。


 相手を怒らせたことなど気にもしていない。


 むしろその顔には隠しきれない喜びが浮かんでいた。


 バジディオは微笑みながら周囲を見渡す。


 まるで全てが思い通りに進んでいることを確かめるかのように。


五十代半ばほどの男は、携帯電話をスーツの内ポケットへしまった。


 見事に後ろへ撫でつけられた灰色の髪。


 隙のない身なり。


 そして厳格さを感じさせる表情。


 彼は喧騒から少し離れながら、心の中で低く唸った。


(あの野郎……後でたっぷり思い知らせてやる)


 男は自信に満ちた足取りで賑やかな会場を横切る。


 数多く並ぶテーブルの中から、一つの席へ向かっていた。


 ザックとリサが座るテーブルだ。


 彼は二人の前で足を止め、落ち着いた声で挨拶する。


「リサさん、こんばんは」


 リサは振り返り、驚いたように微笑んだ。


「あっ……クラトロスさん! こんばんは。こちらにもいらしていたんですね」


 クラトロスは上品な笑みを浮かべる。


「ええ。たまには息抜きも必要ですから」


 そう言って視線をザックへ向けた。


 当のザックは考え事に夢中で、目の前に誰が立っているのかすら気づいていない。


 クラトロスは穏やかに言った。


「どうやら、まだお連れの方を紹介していただいていないようですね」


 その瞬間だった。


 リサはテーブルの下でザックの足を軽く蹴る。


 ザックはびくりと肩を震わせ、ようやく我に返った。


 リサは慌てて紹介する。


「クラトロスさん、こちらはザック・リスター。私の従兄です。ザック、こちらはクラトロス・アーチェリーさんよ」


 クラトロスは姿勢を正し、丁寧に頭を下げた。


「お会いできて光栄です、リスターさん」


 ザックは小さくため息をつきながら答える。


「こちらこそ、光栄です」


 クラトロスは興味深そうに彼を見つめた。


「ところで、裁判所の新しい職員ですか? 初めてお見かけしたもので」


 リサがすぐに口を挟む。


「いいえ。ザックは裁判所で働いていません。今日は私の同伴者として来ているだけです」


 クラトロスは納得したように頷いた。


「なるほど。では、お二人とも良い夜を。失礼します、リサさん。リスターさん」


 二人は手を振って見送る。


 クラトロスはそのまま人混みの中へ消えていった。


 彼の姿が見えなくなると、リサは身を乗り出して小声で言った。


「今の人がグリヴォラの上司よ。さっき話した検察官」


 ザックは目を見開く。


「本当か!? だったら今の人が一番居場所を知っているはずだ! 今すぐ追いかけて聞いてくる!」


 立ち上がろうとしたザックの肩を、リサが慌てて掴んだ。


「やめなさいってば! 相手は大物検察官なのよ? あなたの質問なんて相手にしてくれないわ。放っておきなさい」


 ザックが反論しようとした、その時だった。


 ポケットの中で携帯電話が震える。


 彼は画面を確認した。


 表示されていた名前は――ジェフ。


 ザックは不思議そうに電話へ出る。


「ん? ジェフか。どうした?」


 受話器の向こうから慌ただしい声が飛んできた。


『おい! すぐ俺の家へ来てくれ! 詳しい話はこっちでする!』


 ザックは眉をひそめる。


「でも今は無理だ。そっちの祝いには参加できないって言っただろ。こっちは忙しいんだ」


 しかしジェフは真剣な声で遮った。


『祝いの話じゃない! そんなものは中止した! とにかく急いで来てくれ! かなり重要な話なんだ!』


 ザックは相手の声からただならぬ緊張を感じ取った。


 そして苛立たしげに息を吐く。


「分かった、分かったよ。そこまで言うなら、できるだけ早く向かう」


「遅れるなよ……チャオ」

読んでいただき、ありがとうございました。


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 皆さんの感想を楽しみにしています。


 それでは、また次回。

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