仮面の下に隠された真実
第20話を読んでいただき、ありがとうございます!
少しずつ事件の全貌が見え始める一方で、新たな謎も次々と姿を現します。
ぜひ最後までお楽しみください!
ザックとフェリックスは、高い天井が広がる裁判所の廊下を並んで歩いていた。
ザックはふと足を止める。
この場所を訪れた最後の日のことが脳裏によみがえった。
――フレデリックの死。
あの痛ましい記憶が、今もこの場所に色濃く残っているように感じられた。
その時だった。
ザックが何気なく右を向くと、表情が一変する。
眉間に皺が寄り、不快感が露わになった。
廊下の片隅には、フレデリックがいた。
背を丸めたあの女性と並んで立ち、楽しそうに笑いながら何かを話している。
しかも二人とも、こちらを見ながらひそひそと囁き合っていた。
フレデリックはどこか寂しげな微笑みを浮かべながら言う。
「ご存じですか。高潔な男と偽善者の違いは、人前で被る仮面ではありません。どちらも言葉を選ぶことには長けていますからね」
女性は興味深そうに首を傾げた。
「では、その違いとは?」
フレデリックはザックへ視線を向ける。
そして力強い口調で続けた。
「高潔な男は、誰にも見られていない時でさえ、自らの信念を捨てない。最も弱っている瞬間であってもです。だが偽善者は違う。己の野心や地位が少しでも脅かされれば、たちまち信念を投げ捨てる。高潔さとは生き方であり、偽善とはただの演技に過ぎません」
ザックは拳を強く握り締めた。
「くそっ……!」
彼はすぐにフェリックスへ向き直る。
「フェリックス。君はグリヴォラのことを調べてくれ。俺は少し会いたい相手がいる」
フェリックスは頷いた。
「分かった。後でカフェテリアで合流しよう」
◇
ザックは真っ直ぐリサの執務室へ向かった。
そして――ノックもせずに勢いよく扉を開ける。
リサは驚いて息を呑み、読んでいた本を落としてしまった。
胸に手を当てながら、呆然とザックを見つめる。
ザックは慌てて謝った。
「ごめん! 本当に悪かった! 驚かせるつもりはなかったんだ。ただ、今日のパーティーのことを思い出してもらおうと思ってさ」
リサは本を拾い上げながら小さく笑った。
「忘れてなんていないわよ」
ザックは机へ近づく。
「リサ。君はここで長く働いているよな。フレデリックさんの助手について何か知っているか?」
リサは不思議そうな顔をした。
「え? グリヴォラのこと?」
そして意味ありげな視線を向ける。
「まさか、あなた――」
ザックは即座に手を振った。
「違う違う! 絶対に違う! 変な勘違いはするなよ!」
リサはくすりと笑う。
「そういえば、フレデリックさんを殺した犯人が捕まったそうよ」
「その話なら今朝フェリックスから聞いた」
ザックは続ける。
「それで、グリヴォラは今どこにいるんだ? 今日見かけたか?」
リサは肩をすくめた。
「さあ? たぶん家に帰ったんじゃないかしら。フレデリックさんが亡くなってからは、クラトロスさんの手伝いをしているの。でも彼はとても優秀な人だから、本当は手伝いなんて必要ないと思うわ」
ザックはスーツを整える。
「なるほど。じゃあ俺は行くよ。パーティーの時間になったら連絡してくれ」
リサは意地悪そうに笑った。
「一時間前には電話するわ。あなた、準備に時間がかかるもの」
ザックは呆れたように目を回した。
「はいはい……」
手には、小さなビニール袋。
中にはシミ抜き剤のボトルが入っている。
その時だった。
突然、激しいタイヤの軋む音が響き渡る。
大型トラックがモール正面入口の前で急停止した。
荷台は開いている。
次の瞬間。
武装した覆面の男たちが次々と飛び降りてきた。
近接武器や銃器を手にした集団だった。
警備員たちが制止しようとする。
しかし圧倒的な人数差の前に、あっという間に制圧されてしまった。
武装集団はモールへ雪崩れ込む。
店という店を襲い、金品を奪い始めた。
店員も客も恐怖に包まれ、現場は瞬く間に大混乱へ陥る。
一人の覆面男がイサアクへ近づいた。
武器を向けながら命令する。
「金も持ち物も全部出せ。早くしろ!」
だがイサアクは一瞬も迷わなかった。
鋭く踏み込み、拳を振るう。
次の瞬間、覆面男は地面へ崩れ落ちていた。
完全に意識を失っている。
周囲は混乱の真っ只中だった。
逃げ惑う者。
略奪を続ける者。
警察へ通報する者。
誰一人としてイサアクの行動に気づかなかった。
その時。
イサアクは、別の覆面男が老人を脅している姿を目にする。
彼は倒れた男を放置し、一気に駆け出した。
そして迷いなく拳を叩き込む。
覆面男はよろめきながら後退した。
しかし先ほどの男よりは反応が速かった。
なんとか体勢を立て直し、イサアクを見た後、全力で逃走を開始する。
向かった先はモールの裏口だった。
イサアクも即座に追いかける。
まるで矢のような速さで。
イサアクは覆面男を追い続けていた。
二人の距離は数メートルほどしかない。
走るたびに男の動きは鈍くなっていく。
対照的に、イサアクはまるで疲れを見せない。
やがて二人はショッピングモールから完全に離れ、廃れた古い縫製工場へ辿り着いた。
覆面男はそこでついに足を止める。
息は切れ、全身から汗が噴き出していた。
彼は恐怖に満ちた目でイサアクを見つめる。
その瞬間、男は気づいた。
最初に襲われた時、武器をモールの中へ落としてしまっていたことに。
(くそっ……! なんて間抜けなんだ!)
恐怖が胸を締め付ける。
目の前の男には勝てない。
そう本能が理解していた。
イサアクは背が高く、動きは速い。
細身に見える体にもはっきりと筋肉が浮かび上がり、その拳は鋼鉄のようだった。
それでも覆面男は最後の勇気を振り絞る。
叫び声を上げながら突進した。
しかし――
イサアクは一歩も退かなかった。
鋭い一撃が男の腹部へ突き刺さる。
たった一発だった。
それだけで男の抵抗する意思は完全に砕け散った。
覆面男は地面に倒れ込み、腹を押さえながら苦しげな声を漏らす。
イサアクは冷たい視線で見下ろした。
「その程度の強さで盗賊になろうと思ったのか?」
少し間を置いて続ける。
「それとも、お前が狙うのは老人だけか?」
男は怒りに顔を歪めた。
屈辱に耐えながら立ち上がろうとする。
だが身体は言うことを聞かなかった。
ザックとフェリックスは、いつものカフェの窓際の席に座っていた。
二人の間にはしばし沈黙が流れる。
目の前のコーヒーを眺めながら、グリヴォラの不可解な失踪と事件について考え込んでいた。
やがてザックが口を開く。
「明日もう一度あの家へ行ったらさ……迷惑行為だとか言われたりしないと思うか?」
フェリックスはコーヒーを軽くかき混ぜながら答えた。
「だからこそ、その案には賛成できないんだよ」
ザックは真面目な表情になる。
「でも行けば、彼女が本当にどんな人物なのか確かめられるかもしれない。普通の女性なのか、それともこの事件の重要人物なのかをさ」
フェリックスは呆れたようにため息をついた。
「ザック……お前はまだ、目の前の機会を活かす方法を分かっていないな」
ザックは眉をひそめる。
「どういう意味だ? もっと分かりやすく言ってくれ」
フェリックスは姿勢を正した。
「本当は自分で気づいてほしかったんだが、そんな時間もなさそうだからな」
そう言って続ける。
「さっき、お前は今夜のパーティーに行くと言ったよな?」
「そうだ。リサと一緒に行く予定だ。それがどうした?」
フェリックスは落ち着いた口調で言った。
「それに、お前は俺が参加できないとも言った。裁判所の職員じゃないからな。お前はリサから直接招待を受けたから入れる」
「それもさっき話しただろ。結局何が言いたいんだ?」
フェリックスは小さく笑った。
「グリヴォラも裁判所の職員だ」
一瞬の沈黙。
そして彼ははっきりと言う。
「つまり、今夜のパーティーに来る可能性が高い。だったら、その場で直接話を聞けばいいじゃないか」
その言葉は、まるで雷に打たれたかのようにザックの頭へ突き刺さった。
目を見開き、思考が一気に駆け巡る。
(なっ……!? 待て待て、俺は本当に馬鹿か!? どうしてこんな分かりやすい可能性に気づかなかったんだ!?)
彼は内心で頭を抱えた。
(くそっ……。もし彼女が姿を隠せると思っているなら、今夜その考えを覆してやる。予想もしない場所で、俺が現れてやるからな……!)
ザックはスーツを整え、感謝と自信の入り混じった笑みを浮かべる。
「なるほどな。ようやく分かったよ」
彼はフェリックスを見た。
「その通りだ。今夜のパーティーを最大限に利用してみせる。この事件のためにもな」
フェリックスは満足そうにコーヒーを口へ運んだ。
そして二人は、それぞれの思惑を胸に秘めながら静かに席を立った。
第20話を読んでいただき、本当にありがとうございました!
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それでは、次の話でお会いしましょう!




