第十七話:新たな役者
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それでは、第十七話をお楽しみください
彼は通りの真ん中を足早に歩いていた。コートは羽織らず、上品なスーツ姿のまま。緑色の瞳は鋭く警戒するように左右へと動き続けている。そして手にはウィンストンの煙草。吐き出された煙が冷たい空気の中へと溶けていった。
そのまま歩き続け、やがて目的地へと到着する。
彼の前にあったのは、小さなパン屋だった。店内は客で賑わい、活気に満ちている。
男は数秒その場に立ち止まると、煙草の吸い殻を地面へ捨て、靴で踏み潰した。そして扉を押し開け、中へと入る。
落ち着いた口調で挨拶を済ませると、すぐにアスコ氏との面会を求めた。
アスコは面会を承諾し、二人は客の喧騒から離れるようにして店の外へ出る。そしてパン屋の入口の脇で向かい合った。
男はスーツを整え、一歩近づきながら懇願するような声で言った。その奥には別の思惑が隠されていた。
「アスコさん……あなたがこの地区の安全のために全力を尽くしていることはよく理解しています。私もそれを心から信じています……ですが、どうか私にも手伝わせてください。私の部下たちを地区のあらゆる場所に配置するんです。そうすれば、この場所は完全に安全になりますよ……信じてください。とても簡単な話です」
アスコは鋭い視線を向け、慎重な笑みを浮かべたまま冷たく返した。
「確かに簡単な話だな、バジディオ。しかし、なぜそこまでしてこの地区を守ろうとする? そもそもここは平和だし、特に問題も起きていない。もう帰っていいぞ」
返事を待つことなく、アスコは背を向け、そのまま店内へ戻っていった。
その場に残されたバジディオの顔には、怒りと苛立ちがはっきりと浮かび上がっていた。
彼は新しいウィンストンを取り出して火をつけると、込み上げる怒りを抑え込むように深く吸い込み、低く毒を含んだ声で呟く。
「くそったれのジジイめ……。あれが最後の警告だったことに、まだ気づいていないのか……。後悔するぞ、アスコ。必ずな」
◇
ザックは携帯電話を取り出し、フェリックスの番号へ発信した。
数回の呼び出し音が鳴る。しかし、相手が応答することはなかった。
ザックは携帯をポケットへ戻し、小さくため息をつく。
(そうだった……忘れてた。今は担当している事件で忙しいんだったな)
通りの真ん中に立ちながら、次に何をするべきか考える。
そして――。
(ノートパソコンの件については、今のところできることは全部やった……。それより問題はリサだ! 百万円賭けてもいい、絶対に怒ってる……。何としてでも機嫌を直してもらわないと! あいつ、ぬいぐるみが大好きだからな。可愛いのを一つ買えば、怒りもかなり収まるはずだ)
ザックは辺りを見回し、自信に満ちた笑みを浮かべた。
(よし、次の目的地は――リサの家! ……いやいや、まずはぬいぐるみ屋だな!)
そして人差し指を空へ突き上げ、勢いよく宣言した。
「よし! 次の目的地はぬいぐるみショップだ!」
◇
寝室では、ロジャーがベッドの端にもたれかかるように座っていた。
その傍らには母親のローレンが座り、優しい眼差しで息子を見つめている。
ローレンは温かく懐かしさを感じさせる声で言った。
「ロジャー。あなたが最近たくさんの辛いことを経験してきたのは、お母さんもよく分かっているわ。新しい友達を作ることなんて、今のあなたには考えられないかもしれない。でもね、レスターさんは本当に特別な人なの。それに年齢だってあなたより少し上なだけよ。ようやく本当のお兄さんみたいな存在と、本当の友達を手に入れられるかもしれないの。だから喜ぶべきことなのよ、ロジャー」
ロジャーは視線を落とし、ためらいがちな表情で小さく答えた。
「母さん……本当に、あの人は僕を友達として受け入れてくれると思う? 前に僕、あの人に酷いことを言ったんだ。嫌いだって言ったし、探偵なんて務まる人じゃないとも言った……。そんなふうに侮辱した相手と友達になるなんて、無理だよ」
ローレンは微笑みながら息子の手を優しく撫でた。
「ロジャー。あなたも言ったでしょう? それは昔の話よ。レスターさんは恨みを抱いたり、いつまでも根に持ったりするような人じゃないわ。お母さんはそう確信しているの」
ロジャーは小さく息を吐き、かすかな希望の笑みを浮かべた。
「分かった……。僕、あの人と友達になってみるよ。考えてみれば、一生ずっと一人でいる必要なんてないもんな」
ローレンは愛情を込めて息子の頬にキスをすると、部屋を後にして自分の部屋へ向かった。
部屋へ入ったローレンは静かに扉を閉める。
机へ向かって腰を下ろすと、一枚の古い写真立てを手に取った。
そこには夫のフレドリックと、幼いロジャー、そして彼女自身が写っている。
ローレンは亡き夫の顔をじっと見つめ続けた。
やがて瞳に涙を浮かべながら、静かで優しい声で囁く。
「フレディ……あなたの遺言は、ちゃんと伝えたわ」
◇
バジディオは自信に満ちた足取りで街を歩いていた。
いつものウィンストンの煙を心地よさそうに吐き出しながら、頭の中では様々な考えが渦巻いている。
その時だった。
彼の足が通りの真ん中でぴたりと止まる。
携帯電話を取り出し、登録されている番号へ発信した。
耳に当てながら、強い期待と焦燥を抱いて応答を待つ。
数回の呼び出し音の後――。
ようやく相手が出た。
聞こえてきたのは、低く、冷たく、そしてどこまでも落ち着いた声だった。
「バジディオか……。こんな時間に何の用だ?」
バジディオは安堵と興奮を隠せない声で即座に答える。
「役にぴったりの人間を見つけたんです! 本当に優秀な役者ですよ、信じてください!」
数秒の沈黙が流れる。
そして相手は慎重に言葉を選ぶような口調で尋ねた。
「本当に確かなのか……? 天涯孤独なんだな?」
バジディオは相手の反応を待ちながら、断言するように答えた。
「ええ。この世に身寄りは一人もいません。そこは心配しなくて大丈夫です」
冷たい声の主は小さく息を吐き、そして一言だけ告げた。
「そうか」
第十七話を最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
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