『暴食の決断』
皆さん、こんにちは!
第16話を投稿しました!
ぜひ最後まで楽しんで読んでいただけると嬉しいです!
それでは、第16話をどうぞ!
警察署の中――。
ハリーはようやく一度だけ電話をかける許可を得ると、備え付けの電話機の前に立ち、素早く番号を押した。心臓が激しく脈打つ中、相手が出た瞬間、焦ったように声を上げる。
「ボス!」
受話器の向こうから返ってきたのは、冷たく落ち着いた声だった。
「……誰だ?」
「俺です……暴食です!」
傲慢は興味の欠片もないように小さく息を吐く。
「捕まったらしいな」
「はい……。頼みます、いつここから出してくれるんですか? もうすぐ刑務所へ送られるんですよ!」
数秒の沈黙が流れたあと、傲慢は呆れたように鼻で笑った。
「はぁ? 今なんて言った? 俺がお前を助けるだと?」
ハリーは慌てて言い返す。
「そうです! 何か問題でも――」
その声を、鋭く冷たい一言が遮った。
「よく聞け、暴食」
空気が一気に張り詰める。
「その状況を招いたのはお前自身だ。なら、自分の力で抜け出せ。今のお前は称号を持つ人間なんだろう? それなら、それらしく自分の問題くらい自分で始末しろ」
ハリーは言葉を失った。
「……どういう意味ですか? まさか、本当に助けてくれないってことですか?」
その時、通話時間を管理していた警官が腕時計を見ながら声をかける。
「時間です。通話を終了してください」
ハリーは苛立ちを隠さず怒鳴った。
「うるさい! 今話してるんだ!」
しかし、その頃には受話器の向こうは静まり返っていた。
傲慢は何のためらいもなく電話を切っていたのだ。
ハリーは受話器を握ったまま立ち尽くす。
顔には失望と衝撃が色濃く浮かんでいた。
警官は静かに受話器を取り上げると、ハリーの腕を軽く掴み、そのまま無言で留置場へ連れ戻していった。
◇
その頃、ザックは警察署へ戻ってきていた。
迷うことなく留置場へ向かい、鉄格子の前で足を止める。
中ではハリーが力なく横たわっていた。
留置されて以来ほとんど食事も取らず、ようやく自分が完全に見捨てられたことを理解したのだろう。
ザックは穏やかな笑みを浮かべる。
「どうした? ずいぶん落ち込んでるみたいじゃないか」
ハリーは返事をしない。
目を閉じ、拳を強く握り締め、奥歯を食いしばったままだ。
ザックは落ち着いた口調で続ける。
「なあ、一つ提案がある」
それでもハリーは顔を上げようとしない。
ザックは肩をすくめる。
「ここから少しでも軽い処分で出たいなら、俺と交渉した方がお互い得だと思うけどな。……まあ、その気がないなら別にいい」
そう言って背を向け、一歩踏み出した。
「待て!」
鋭い声が背後から飛ぶ。
ザックは小さく笑うと、そのまま振り返った。
「やっぱりな。お前、俺と似てるよ」
「はぁ?」
ハリーは眉を吊り上げる。
「俺たちは天才でもなければ、大した専門家でもない。でも、目の前のチャンスを利用する方法だけは知ってる」
「黙れ、この野郎! 俺がお前なんかと同じなわけあるか! いいから用件を言え!」
ザックは真剣な表
ハリーの頭の中で、凄まじい勢いで思考が駆け巡る。
(くそっ……この野郎、完全に俺を追い詰めやがった……! どうする? 話すか、それとも黙り続けるか……。いや、適当な嘘を教えてやれば――)
だが、その考えはすぐに自ら打ち消した。
(いや、それは駄目だ。後で嘘だと知られたら、あいつは間違いなく偽名の件で俺を告発する……! くそっ……! でも、本当のことを話したら、今度は傲慢に殺される……。俺はまだ死にたくないんだ。ベルギーへ行って、本場のフライドポテトだって食べてみたい……!)
そこで、ふと一つの考えが頭をよぎる。
(……待てよ。そもそも、なんで俺はあいつを怖がってる? あの思い上がった野郎を、なんで恐れる必要がある? あいつは昔から俺を利用して、見下してばかりだった。利用されてるのは分かってた。でも俺も、あいつを利用して自分の目的を果たせると思ってたんだ。いつも勝手に命令して、気に入らなければ電話まで一方的に切りやがる……。くそったれ。何様のつもりだ。あいつが『傲慢』なら、俺は『暴食』だ。今度は俺が思い知らせてやる!)
ハリーはゆっくりと顔を上げ、鋭い視線をザックへ向けた。
「おい、間抜け刑事。何を知りたい?」
ザックは確認するように尋ねる。
「……つまり、協力してくれるんだな?」
「協力? ああ、そんなようなもんだ。いいから早く質問しろ」
その瞬間、ザックは胸が高鳴るのを抑えきれなかった。
慌てて手帳とペンを取り出し、一言も聞き漏らすまいと構える。
深く息を吸い、最初の質問を口にした。
「まず聞く。なぜ、あのノートパソコンを盗んだ?」
ハリーは素っ気なく答える。
「命令されたからだ。でも、中に何が入ってるのかまでは俺も知らない」
ザックは眉をひそめた。
(こいつですら中身を知らないのか……。ということは、あの秘密を知っているのはフレデリック本人だけ……。本当に厄介な事件だ)
ザックはすぐ次の質問へ移る。
「誰の命令だった?」
「傲慢だ」
ザックは首をかしげた。
「傲慢? ……待て、それは人の名前なのか?」
ハリーは皮肉っぽく笑う。
「本名じゃない。俺たちの世界で使ってる呼び名だ」
「……お前たちの世界?」
ハリーは呆れたように肩をすくめた。
「本当に何も知らないんだな、お前」
ザックはその言葉を気にせず続けた。
「じゃあ聞く。その『傲慢』に関する情報は、あのノートパソコンの中に入っていたのか?」
「いや。何も入ってない」
ザックは思わず声を上げた。
「何だって!? だったら、どうしてパソコンを盗ませたんだ!」
ハリーは首を横に振る。
「知らない」
ザックはため息をついた。
「……分かった。じゃあ次だ。本当のお前の名前は?」
ハリーは少しだけためらい、小さく答えた。
「ハリー……。ハリー、それだけだ」
ザックは不思議そうに尋ねる。
「姓はないのか?」
ハリーは苛立ったように話を遮る。
「残りの質問は? さっさとしろ」
ザックは真剣な表情のまま、次の質問を投げかけた。
「フレデリックの死は、あのノートパソコンと何か関係があるのか?」
ハリーは困ったように眉をひそめる。
「それは……俺も知らない」
ザックは思わず手帳を軽く叩いた。
「くそっ……! 本当に何も知らないんだな!」
するとハリーは声を荒らげた。
「うるさい! 知ってることは全部話した! だから今度は約束だ」
ザックは怪訝そうに首を傾げる。
「約束?」
ハリーは真面目な口調で続けた。
「握手して、同時に『お互いのことは誰にも話さない』って言う。それで契約成立だ」
ザックは少し考え込む。
「つまり……約束みたいなものか?」
「ああ、そんなもんだ」
ザックはさらに確認する。
「それなら、お前がここを出た後も、俺のことを仲間に話したりはしないんだな?」
ハリーは即座に答えた。
「ああ。……でも一つ訂正しておく。俺にはもう上司なんていない」
ザックは思わず口を開く。
「でも、『傲慢』は――」
ハリーは苛立ったように遮った。
「"だった"んだ! もう違う!」
ザックは静かに笑みを浮かべ、手帳を閉じた。
「分かった。それじゃあ今日は帰る。また近いうちに会おう」
そう言って背を向けると、ハリーが慌てて叫ぶ。
「おい! 待て!」
ザックは足を止める。
「今度来るときは、何か食べ物を持ってこい! できればポテトだ!」
ザックは思わず吹き出し、小さく笑いながら片手を振った。
「悪いが、囚人に飯を運ぶのは俺の仕事じゃない」
そのまま歩き去るザックの背中へ、ハリーの叫び声が廊下いっぱいに響き渡る。
「おい、こら! どこ行くんだよ! 本当に腹減ってるんだからなーっ!」
第16話を最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
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それでは、また次回!




