最初の勝利
皆さん、こんにちは!
第13話までお読みいただき、本当にありがとうございます。
これから物語はさらに大きく動き始めます。
どうぞ最後までお楽しみください!
アイスクリームショップの裏路地では、押し問答は長くは続かなかった。グラトニーは暴力的かつ突如としてロジャーに襲いかかり、力以前にショックのあまりロジャーはその場に崩れ落ちた。
地べたに伏せ、打撃を浴びせられるたび、ロジャーは顔面の痛み以上に、自分の中で何かが粉々に砕け散っていくのを感じていた。ためらいも躊躇もなく繰り出される拳を受ける中で、ロジャーは苦い現実に突き当たっていた。最初から本当の友人など存在しなかったのだ。自分が築き上げてきた信頼も評価も、すべては己の甘さと青臭さゆえの過ちだった。
ロジャーは抵抗をやめた。身体が限界だったからだけではない。怒りにまかせた復讐心すら、冷酷な現実の前に打ち砕かれたからだ。目の前の男がどこまでも冷徹で悪意に満ちた存在であること、そして内なる弱さと絶望が今なお自分を縛り付けていることを、突きつけられたからだ。
グラトニーは冷ややかに手を払うと、地面に転がるロジャーには目もくれず、見下すようなトーンで吐き捨てた。
「二度と俺の前に面を出すなよ、おめでたい奴だ……それと、俺の名前をよく覚えておけ。俺は……グラトニー(暴食)だ!」
彼が立ち去ろうと一歩踏み出した瞬間、ロジャーは残されたありったけの力を振り絞って飛びついた。地面に倒れ伏し、悲惨な顔から血を流しながらも、捨て身の覚悟で両手を伸ばし、グラトニーの足首を固く掴み取った。このまま逃がすことなど、断じて認めるわけにはいかなかった。
突如足を引っ張られた「グラトニー」は、その場で足止めを喰らい、一歩も前に進めなくなった。怒りに満ちた視線で振り返り、怒鳴り散らした。
「何しやがる、このクズが! すぐに足を放せ!」
だが、ロジャーはその罵倒に耳を貸さず、一言も発しなかった。どんなことがあろうと決して放すまいと、鋼のような力で相手の足を力任せに締め上げ続けた。
「グラトニー」は拘束を解こうと、力任せに足を蹴り出し、ロジャーの顔面を何度も何度も踏みつけようとした。怒りに任せて何度も蹴りを繰り出す。しかし、ロジャーは言わば物言わぬ岩石のようだった。鮮血と激痛に塗れながらも微動だにせず、その把握力がゆるむ瞬間は一度たりともなかった。ただひたすらに、捨て身の執念で足を絡め取り続けた。
感情の制御を失ったグラトニーは叫んだ。
「放せ、この野郎! 俺は今すぐ行かなきゃならねえんだよ!」
精神的・肉体的な激痛から目から涙を溢れさせながら、ロジャーはかすれた声で言い返した。
「ここからは行かせない……僕の命に代えても!」
その緊迫した局面に、路地の近くをたまたま通りかかった一人の男が、争う音に気づいて足をとめた。男は喧嘩を止めようと近づき、ロジャーを引き剥がそうとしたが、ロジャーは頑として放さなかった。そして掠れた声を振り絞り、男にしがみつくように助けを求めた。
「頼む……今すぐ警察を呼んでくれ!」
「警察」という言葉を耳にした瞬間、「グラトニー」は激昂し、顔つきを凄惨な怒りへと変えた。鋭い眼光と威圧的なトーンで男を睨みつけた。
「通報してみろ! 後悔させてやるぞ!」
男は脅迫を一瞬躊躇したものの、目の前の暴力の惨状を見て意を決した。スマートフォンを取り出すと、すぐさま緊急通報ダイヤルを押した。
通話が始まると、「グラトニー」の焦りは頂点に達し、なりふり構わず暴れ回って振り払おうとした。しかし、ロジャーの不動の執念と鋼の把握力の前にはあらゆる抵抗も無意味であり、彼は警察の到着を待つ身として、完全に足止めされることとなった。
ザックとフェリックスは、静かな足取りで「コックス」家の邸宅へと向かっていた。玄関の前に立ち、ザックは木製のドアノブを見つめながら、少しの迷いを胸に抱きつつゆっくりと手を伸ばしてドアをノックした。彼の脳裏にふと昔の記憶が蘇る。この場所へ足を踏み入れたのは、フレデリックとローレンの結婚二十周年記念のお祝いの日以来だった。
ほんの数秒と経たないうちに、まるで背後で待ちわビていたかのように、ドアが切迫した様子で開いた。
ザックは挨拶を交わして自己紹介し、同行したフェリックスを紹介した。その瞬間、フェリックスはローレンに視線を留めたまま固まり、顔の筋肉を緊張させた。衝撃と感嘆を隠せない表情で、心の中で呟いた。
(嘘だろ……めちゃくちゃ……美人じゃないか!)
ローレンは静かに微笑み、ザックのことを覚えていると告げると、二人を温かく迎え入れて家の中へと通した。今朝出かけていったロジャーの帰りを首を長くして待っていたため、最初は彼が帰ってきたのだと思ったのだという。
静けさに包まれた家の中にザックとフェリックスが足を踏み入れると、ローレンは二人の後ろで静かにドアを閉めた。
応接室に通され、どこか緊張感の漂う空気の中、ザックは引き締まったトーンで切り出した。
「ロジャーのことで伺いました……実は、なぜ彼がそもそもあのパソコンを学校へ持っていったのか、そしてどうやってジャーメインに説得されたのか、その経緯を知りたいのです」
ローレンはため息をつき、困惑気味に答えた。
「その答えを知っているのはあの子だけです……でも、今朝出かけていってから、まだ帰ってきていないのですよ。出がけに少し時間がかかるかもしれないと言われましたが、そこまで真に受けてはいなかったのですが……」
ここでフェリックスが口を挟み、懸念の混じった探るようなトーンで尋ねた。
「失礼ですが、奥様……息子さんのロジャーが、実際にはジャーメインを探しに向かったということはご存知でしたか?」
ローレンの顔に驚きと不審のの色が走り、すぐに明白な不安へと変わった。
「えっ!? いえ、そのようなことは何も……本当なのですか?」
フェリックスは申し訳なさそうに頷いた。
「はい、残念ながら。ジャーメインの近所の人々からその詳細を確認しました」
ザックは場を宥めるように素早く手を上げた。
「ですが心配いりませんよ、ローレンさん。絶対に帰ってきますから……そもそもジャーメインは自宅に居ませんから、会いようがありません」
ローレンはテーブルへ向かいながら痺れを切らしたように言った。
「すぐに電話をかけてみます……せめて無事かどうかだけでも確認しないと」
ローレンはスマートフォンを手に取り、ロジャーの番号をダイヤルした。数秒の呼び出し音の後、相手が出た。彼女は切迫した声で呼びかけた。
「もしもし? ロジャー、どこにいるの? すごく心配したのよ!」
しかし、受話器から返ってきたのは息子の声ではなく、見知らぬ男の重々しい声だった。
「ロジャー・コックスの母親でしょうか?」
ローレンは目を見開き、不審感を募らせながら動揺して問い返した。
「ええ、そうですけれど……なぜ息子の電話をあなたが? あなたは誰なのですか?」
男は落ち着かせようとするトーンで静かに答えた。
「落ち着いて聞いてください。息子さんは今、安全な状態です。我々が保護し、現在は病院にいます……すぐに位置情報を送信します」
ローレンの顔から血の気が引き、ショックと不安のあまり今にも泣き出しそうになりながら、震える声で叫んだ。
「病院!? 息子に何があったというのですか!?」
男は簡潔に言い残し, 通話を切った。
「お送りする住所にお越しいただければ、すべてお分かりになります」
ザックとフェリックスは言葉を失い、衝撃の視線を交わした。ロジャーに何が起き、なぜ病院に行き着くことになったのか、二人には全く見当がつかなかった。
フェリックスはすぐさま毅然とした態度で乗り出し、申告した。
「ローレンさん、落ち着いてください……私の車で、今すぐその病院の住所までお送りします」
ローレンはその美しい顔に深い不安を滲ませながら切実に頷き、全員が車へ向かって外へと駆け出していった。
第13話を最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。
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それでは、第14話でまたお会いしましょう!




