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た~まや~! 魔女の呪いを回避してやったぞ! ……おや? 従者の様子が……?  作者: 宮緒葵
解放を喜ぶ少年の章

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6・再びの「た~まや~!」

 最初のターゲットはサンドラだった。



 サンドラにどれだけ無体な仕打ちを受けようと、亡き母を侮辱されようと、カガリは反抗せず従った。前世の記憶が戻る前のカガリ少年が元々従順な子どもだったのもあり、サンドラはカガリが無力で無抵抗な魔女の呪いの生け贄だとすぐ思い込んだ。



 おかげで離れの警備が緩み、少しの間ならカガリも抜け出せるようになったところで、次のターゲットに取りかかる。

 ベルゼウフ家の家臣団だ。



 赤字だらけの帳簿、横領、領兵の不正など、集めた汚職の証拠をリズレインと手分けしてそれとなく流した。わずかに残っていた心ある家臣は見切りをつけて離れてゆき、残った下心しかない家臣も近いうちに訪れる破綻に備え、いつでも逃げ出せる準備を始めた。



 三番目のターゲットは商人だ。



 商業が死んだベルゼウフ領にも、商人がいないわけではない。穀物の流通を握る数少ない商人とつなぎを取り、ベルゼウフ家に納められる穀物の一割ほどを横流しし、倉庫に蓄えさせた。

 一割といっても、元が大きいだけにかなりの量になる。一定量を飢えた家庭に配らせ、残りは半分を貯蓄、半分を投資に回した。



 そうして上がった利益から武器や食料を買い集め、領主一族の放蕩ぶりを広めていった。

 少しずつ、あくまで少しずつ。

 急がなくていい。デズモンドやサンドラに勘づかれないのが最優先だ。



『ご領主様のお屋敷には、金貨がうなってるらしい』

『奥方様は毎日都から取り寄せた絹のドレスを取っ替え引っ替えしてるらしい』

『お坊ちゃんは甘い菓子をたらふく食っちゃあ、癇癪を起こして暴れまわってるって話だぜ』



 領民はだんだん悟っていった。自分たちが困窮にあえぐ一方、領主一家が贅沢ざんまいの暮らしをしていることに……その源が自分たちから吸い上げた税であることに。



 いや、最初からわかっていたのだ。領主一家こそが苦しみの根源だと。



 なのに目をそむけていた。……恐かったから。領主ではなく、領主一家を呪う魔女が。

 でも、本当に恐いのは。

 魔女でも呪いでもない。自分たちを餌にして肥え太る領主一家ではないか?



 カガリにしてみれば当たり前の、彼らにとっては革命的な真実に、領民たちはたどり着いた。



 長きにわたり積もりに積もった恨みつらみは、さながらよく乾いた薪だ。カガリはそこへ小さな火を灯してやっただけ。

 あとは勝手に燃え上がっていく。長い時間をかけ、めらめらと、ごうごうと……。





「た~まや~~!」



 こみ上げる歓喜のまま、カガリはまた掛け声を叫ぶ。カガリもニコニコ、かたわらのリズレインもニコニコだ。

 こちらの世界で目覚めてから苦節十年。まさに予言の王国暦794年、領民は武装蜂起し、領主館を襲撃した。デズモンドやサンドラたちの部屋の位置も見取り図と一緒に横流ししておいたから、仕損じることはないはずだ。



 カガリとリズレインは襲撃の少し前に脱出し、前々から目をつけておいたこの小高い丘で花火、もとい領主館炎上を見物している。



 火の手が上がったということは、領民たちは無事目的を達成して逃げ出したということだ。カガリの存在はベルゼウフ家の系譜には記されていないから、これにてベルゼウフ家は消滅。『ベルゼウフ家の長男』も存在しなくなった。



「長い間お疲れ様でした、カガリ様」

「それはお前こそだろ、リズ」



 ねぎらい返すカガリの黒い瞳に、十年前のよそよそしさも不信感もない。代わりに宿るのは信頼だ。



 この十年間、リズレインはただの一度もカガリを裏切らなかった。自由に動けないカガリの手足となり、危険も顧みず、時には領民反乱軍に交じって行動した。何の見返りも求めずに。



 さすがのカガリも、そこまでされてなお疑うほど猜疑心の塊ではない。出会いの二年後には愛称で呼ぶようになっていたし、五年後にはだいぶほだされ、七年後には前世を打ち明けていた。

 今は全幅の信頼を置いている。



 カガリが呪いを回避しようとしていることに気づいた魔女が妨害に現れる危険性を恐れ、カガリは女性を徹底的に避けてきた。離れのメイドはもちろん、老いも若きも問わず、領民の女性には絶対に近づかず口もきかなかった。紅い目の美女だという以外、魔女の容姿も年齢も不明だからだ。



 その点も男性のリズレインは安心できる。性別を超越した美貌を眺めていれば癒しにもなる。



 しかもリズレインは本職のシェフをしのぐ料理の腕前の主で、カガリを唸らせた。最低限の予算しか割かれない離れでは贅沢な食材とは無縁なのだが、乏しい食材で驚くほど美味な料理を作る。



 転生者として地味に舌が肥えていたカガリには、これ以上ないくらいありがたい才能だった。今や身の回りの世話はもちろん、食事も全てリズレインに任せている。



「お前がいてくれなかったら、正直、王国暦794年には間に合わなかったと思う。……ありがとう。心から感謝する」



いつもお読み下さりありがとうございます。


本作をお楽しみ頂けたならとても嬉しいです。

遅ればせながら、チアーズプログラムに参加させて頂きました。

もしも「続きが気になる」「もっと読んでみたい」と思われましたら、そちらでの応援も頂けると励みになります。

今後もよろしくお願いいたします。


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