表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
た~まや~! 魔女の呪いを回避してやったぞ! ……おや? 従者の様子が……?  作者: 宮緒葵
嗤う魔女の章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/17

5・魔女は激昂する

 劇的な復興を遂げたベルゼウフ領の領主グレンには、あちこちから縁談が持ち込まれたが、グレンはどれも断った。理由はわからない。『女は苦手なんだ』と苦笑していたが、本意とは思えなかった。



 それで良かった。



 グレンの最も近くにいるのはリズレインだ。領民たちもグレンとリズレインを一組の存在として見ている。真っ先に頼られるよう、リズレインも努力を欠かさなかった。子を産めるというだけでグレンの伴侶の座を射止めた女がいたら、リズレインは何をするかわからなかったから。



 二十年以上、グレンのそばにいた。

 最初は『こんなところにずっといていいのか』と気にしていたグレンも、リズレインがそばにいるのが当然だと思うようになっていた。それが嬉しくて、誇らしくてたまらなかった。



 わかっていた。



 生まれて初めての幸福な日々が、いつまでも続くわけがないことくらい。

 魔女とは比べ物にならないほど、人間の寿命は短い。グレンとも遠からず永久とわの別れを迎える日が訪れる。



 覚悟していたその日は、予想よりはるかに早く訪れた。



 秋晴れのある日、大陸の西方を巡り、ベルゼウフ領に立ち寄った行商人が高熱を出して倒れた。間もなく死んだ彼の全身は赤黒く染め上げられていた。



 当時、大陸の西方では未知の伝染病が蔓延しつつあった。非常に致死率が高く、高熱にうなされた末、全身を赤黒く染めて死ぬ。治癒魔術は効かず、特効薬もない。たちの悪すぎる伝染病を、行商人は西方からベルゼウフ領に持ち込んでしまったのだ。



 グレンは迅速に対応した。リズレインの助言に従い行商人と接した人間を全員隔離し、宿は焼却した。



 しかし――それでも伝染病の蔓延は防げなかった。



 ごく短時間、同じ空間にいるだけでも感染してしまうほど、伝染病の感染力は強かったのだ。一人、また一人と領民たちは倒れていった。

 若く体力があれば助かることもある。だが幼児や老人がかかればひとたまりもない。唯一の救いは、一度罹れば二度と罹らなくなることだ。



 グレンの依頼で、リズレインは特効薬を作り始めた。魔女は人間の病には罹らないが、グレンは感染してしまう。五十近い年齢も不安材料だ。



 不安は的中した。



 陣頭指揮を執っていたグレンもまた、病に倒れた。不幸中の幸いだったのは、リズレインが特効薬を完成させていたことだ。材料が貴重な薬草ばかりで、罹患した全員を救うにはとうてい足りなかったが、まずグレンに与えることに異議を唱える者はいなかった。



 完成した特効薬はまずグレンと、その時点で最も重症の者に与えられることになった。グレンは全身に赤黒い染みが広がり、高熱が続いている状態だ。

 もって数日。

 だが、特効薬を飲めば助かる。そうでなければ、作った意味がない。



『……その薬、どうせ苦いんだろ。口直しの蜜湯、持ってきて、くれよ』



 命を失うかどうかの瀬戸際なのに、グレンはそう駄々をこねた。リズレインが作る蜜湯はグレンの好物で、疲れると必ず所望される。気力を取り戻してくれたのだと思うと嬉しくて、『早く飲んで下さいね』と言い置き、くりやへ行った。



 ……行くべきではなかった。



 リズレインが戻った時、グレンの寝室から若い女が出てきた。一度伝染病に罹り、回復したので、グレンの世話役を務めていた女だ。

 二歳になったばかりの息子が伝染病に罹ったが、特効薬の配布対象にはならなかった。特効薬は働き盛りの若い男や子を産める女へ優先的に回される。



 リズレインを見た女が『しまった』とばかりに顔をゆがめた時点で嫌な予感がした。そそくさと立ち去る女を追いかけなかったのは、グレンが呼んだからだ。



『グレン……!?』



 さっきよりどす黒く染まった顔を、一目見てわかった。

 グレンは特効薬を飲んでいない。小さな薬のビンを持っていたはずの手は空っぽだ。

 どこへ……、……まさか!



『あの女っ……!』



 奪ったのか。

 死に瀕した領主から、唯一助かる特効薬を……我が子を助けるために……!?



(……八つ裂きにして、取り戻してやる!)



『行くな』



 魔力で脚を強化し、飛び出そうとしたリズレインに、グレンはのろのろと手を伸ばした。

 置いていけるわけがない。でも、すぐ捕まえなければ、あの女は特効薬を息子に飲ませてしまう。



『奪われたんじゃ……、ねえ。あれは、俺が……、くれてやったんだ』

『……っ! では、蜜湯は……』

『お前を遠ざけるため、だった。お前がいたら、絶対、薬をやるなんて許さなかっただろうから、な』



 その通りだ。リズレインの前でグレンが特効薬を与えようとしたら、リズレインはグレンの口をこじ開けてでも飲ませただろう。



『なぜです!? 私が特効薬を作ったのは貴方のためだったのに、なぜこんな真似を!』

『……もう、五十になる俺よりも、二歳の子どもが生き延びるべき、だろ……どう考えたって、よ……』



 浅い呼吸を繰り返しながらグレンは苦く笑う。

 その笑みが……とてつもなく癇に障った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ