5回目『事後侵食』
【??/?? (?) ??:??】
いつか尋ねたことがある。僕のどこに惹かれたのか。
今にして思えば、少し面倒な質問だったと思う。
でも彼女は真っ直ぐに「あなたの優柔不断なところ」と答えてくれた。
「それって褒めてるの?」と聞き返すと、「優しくて柔軟。だから、いつも誰かのために迷ってるでしょ。私は好きだよ」って。
彼女は悪戯が見つかった子どものように笑っていたっけ。
・ ・ ・
【5/25 (火) 23:00】
翌日から、月曜日、火曜日と、アイカはいつも通りの時間に帰ってきた。
朝起きて、仕事に行き、夜には同じ部屋にいる。
そんな形だけの「日常」が繰り返されるだけでも、僕の心は次第に落ち着きを取り戻していった。
『4回目』、あの日だって、アイカは僕のもとへ帰ってきた。
ただちょっと、外でお酒を一緒に飲んだだけだ。
結局のところ彼女は、僕たちの生活を壊すつもりはない。
僕との絆だって、絶対に壊さない。
これは、浮気した僕への罰。
反省を促すための「あてつけ」であって、本気じゃない。
そう思えば、全7回のうち半分以上を消化し、もはや最悪のピークは過ぎたとも思えた。
あと3回、それですべては元通りになる。
そんな勝手な妄想が、僕の脳内を麻薬のように蝕んでいた。
・ ・ ・
【5/26 (水) 18:45】
『アイカ様、ステータスを「残業」に更新。帰宅予定時間が変更されました』
帰宅後、リビングの壁に浮かび上がった事務的な通知を見た瞬間、微かに胸騒ぎを覚えた。
けれど、僕はすぐにそれを打ち消す。
残業なんて、社会人なら誰にでもあることだ。
僕はスマートフォンを手に取り、「お疲れ様。無理しないでね」とだけ送る。
……既読は、つかない。
仕事に集中しているのだろう。
僕は自分を納得させるように、夕食の準備をしながら彼女の帰宅を待った。
こんなの、よくある平日の風景。そう、ただの日常。
・ ・ ・
午後十時を過ぎた頃、アイカが帰宅した。
「ただいま……」
少し疲れた様子でリビングに入ってきた彼女からカバンを受け取り、僕は努めて明るい声を向けた。
「おかえり。遅くまで大変だったね。……明日も残業続きそう?」
アイカはソファーに座り、一息つくと、感情の読めない声で言った。
「ううん。タカシさんが手伝ってくれたから、もう大丈夫」
その名前に、心臓が縮む。
タカシ。……デート相手であろう男。
「……そっか。彼、同じPJチームなんだっけ」
動揺を隠して絞り出した声に、アイカはゆっくりと視線を向けた。
「そうだよ。……これで五回目」
――は?
何気ない仕事の報告が、一瞬にして「宣告」に変わる。
いつもの日常だと信じ込んでいたこの数時間が、本当は彼女と見知らぬ男との逢瀬の時間だった。
これまでは、「予告」という事前の報告があった。
それは、僕を苦しませるための彼女なりの復讐だったはず。
けれど、今回は違う。
事後報告。
僕は何も知らないまま、苦しむこともできずに、既に彼女と誰かの『五回目』が終わっていたのだ。
「お風呂入ってくる」
彼女はそれだけ言うと、冷めきった夕食に目もくれず、そのまま脱衣所へと向かった。
僕は言葉を失ったまま、その背中を他人事のように見送る。
壁に投影された共有スケジュールが、明滅し、更新を知らせている。
『20:05 オフィス退室済み』
時刻は、二十二時半を回ろうとしていた。
Next chapter... [4/30] 20:30 <tomorrow!> ※Double Update※
▶︎ 次回「2話同時」更新されます
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