表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/8

3回目『浮遊する文字』

【??/?? (?) ??:??】


 アイカとの出会いは、大学の講義で、同じグループになったのが始まりだった。

 彼女の持つ独特の透明感と、凛とした佇まいに、僕は一瞬で心を奪われた。


 少しずつ交流を深め、想いが実ったときの事は今でも忘れられない。


「ずっと、一緒にいようね」


 あの恥じらうように、はにかんだ笑みを。



 ・ ・ ・



【5/19 (水) 07:20】


『二回目』が終わってから数日、家の中には奇妙な平穏が漂っていた。


 アイカは機嫌が悪いわけではなく、むしろ以前よりも少しだけ優しくなったようにも見えた。

 それが逆に、僕の罪悪感を刺激し、同時に「もう元に戻れるんじゃないか」という甘い期待を抱かせていた。


 しかしそれを裏切るかのように、朝食中の何気ない会話の中で、予告は出された。


「今日は夜ご飯、食べて帰るね。三回目。なるべく早く帰るから」


 アイカは微笑んでそう言った。


(ああ、また夜の食事か。(一回目)と同じだ)


 一度経験したことには、耐性がつく。

 僕は少しだけ余裕を持って、彼女を送り出すことができた。


 その日は仕事に追われていたこともあり、以前ほど取り乱すことはなかった。


 きっと今回も大丈夫。

 これまでの2回(前回と前々回)も、きっと仲の良い同性の同僚か、女友達だったに違いない。


 そう、信じたかったのかもしれない。



 ・ ・ ・



【21:30】


 そして、その夜。


 まだ九時半。責めるにはあまりに早い時間。

 アイカは、特段変わった様子なく帰宅した。


「ただいま。……あ、お土産。駅ビルで美味しそうな和菓子があったから」


「おかえり。ありがとう。……楽しかった?」


「うん。久しぶりにゆっくり話せたから」


 アイカが上着を脱ぎ、洗面所へ向かう。


 テーブルに置かれた和菓子の袋。

 僕はそれを冷蔵庫に入れようとして、袋の隙間に、場違いに洗練されたデザインの電子カードが差し込まれているのに気づいた。


 ショップカードにしては、少しだけ主張が強い。


 何気なく手に取ると、僕の指先の体温に反応したのか、ぼんやりと半透明のホログラムを浮かび上がる。

 手書きの筆跡をスキャンしたような、温かみのあるデジタル文字。



『今日はありがとう。また近いうちに。――タカシ』



 指先が凍りついた。


 この名前を、ぼくは知っている。



 以前、一度だけ、三人で会ったことがある。


 アイカの同僚、たしか当時からPJプロジェクトのリーダーを任されていた。

 高身長で、モデルのような清潔感があり、それでいて謙虚で気配りができる。

 彼が語る仕事の話は僕には難解すぎて、隣で楽しそうに相槌を打つアイカに、惨めな劣等感を抱いたのを覚えている。


 あの時、アイカは僕の顔色を察して「タカシさんは仕事の尊敬する先輩なだけ。私は、あなたが一番だよ」と笑ってくれた。



 でも、今。


 僕よりもずっと大人で、余裕があって。



 ――そんな男と、二人で、会っていた。



 まさか、『一回目』や『二回目』の相手も、彼だったのか?


「否定せずに話を聞いてくれたんだろうか」

「僕の愚痴を言ったんだろうか」

「それとも、僕のことなんて一秒も思い出さなかったんだろうか」


 電子カードを握り、潰す。


 だが僕の目の前で、「タカシ」という文字が、消えることなくいつまでも揺れていた。


Next chapter... [4/29] 8:30 <tomorrow!>


━━━━━━━━━━━━━━━━

▶︎ブックマークへ追加しますか?

▼ あなたへのオススメ!!

【☆☆☆☆☆】→【★★★★★】push!

━━━━━━━━━━━━━━━━

[ Presented by Human × AI ]

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ