3回目『浮遊する文字』
【??/?? (?) ??:??】
アイカとの出会いは、大学の講義で、同じグループになったのが始まりだった。
彼女の持つ独特の透明感と、凛とした佇まいに、僕は一瞬で心を奪われた。
少しずつ交流を深め、想いが実ったときの事は今でも忘れられない。
「ずっと、一緒にいようね」
あの恥じらうように、はにかんだ笑みを。
・ ・ ・
【5/19 (水) 07:20】
『二回目』が終わってから数日、家の中には奇妙な平穏が漂っていた。
アイカは機嫌が悪いわけではなく、むしろ以前よりも少しだけ優しくなったようにも見えた。
それが逆に、僕の罪悪感を刺激し、同時に「もう元に戻れるんじゃないか」という甘い期待を抱かせていた。
しかしそれを裏切るかのように、朝食中の何気ない会話の中で、予告は出された。
「今日は夜ご飯、食べて帰るね。三回目。なるべく早く帰るから」
アイカは微笑んでそう言った。
(ああ、また夜の食事か。前と同じだ)
一度経験したことには、耐性がつく。
僕は少しだけ余裕を持って、彼女を送り出すことができた。
その日は仕事に追われていたこともあり、以前ほど取り乱すことはなかった。
きっと今回も大丈夫。
これまでの2回も、きっと仲の良い同性の同僚か、女友達だったに違いない。
そう、信じたかったのかもしれない。
・ ・ ・
【21:30】
そして、その夜。
まだ九時半。責めるにはあまりに早い時間。
アイカは、特段変わった様子なく帰宅した。
「ただいま。……あ、お土産。駅ビルで美味しそうな和菓子があったから」
「おかえり。ありがとう。……楽しかった?」
「うん。久しぶりにゆっくり話せたから」
アイカが上着を脱ぎ、洗面所へ向かう。
テーブルに置かれた和菓子の袋。
僕はそれを冷蔵庫に入れようとして、袋の隙間に、場違いに洗練されたデザインの電子カードが差し込まれているのに気づいた。
ショップカードにしては、少しだけ主張が強い。
何気なく手に取ると、僕の指先の体温に反応したのか、ぼんやりと半透明のホログラムを浮かび上がる。
手書きの筆跡をスキャンしたような、温かみのあるデジタル文字。
『今日はありがとう。また近いうちに。――タカシ』
指先が凍りついた。
この名前を、ぼくは知っている。
以前、一度だけ、三人で会ったことがある。
アイカの同僚、たしか当時からPJのリーダーを任されていた。
高身長で、モデルのような清潔感があり、それでいて謙虚で気配りができる。
彼が語る仕事の話は僕には難解すぎて、隣で楽しそうに相槌を打つアイカに、惨めな劣等感を抱いたのを覚えている。
あの時、アイカは僕の顔色を察して「タカシさんは仕事の尊敬する先輩なだけ。私は、あなたが一番だよ」と笑ってくれた。
でも、今。
僕よりもずっと大人で、余裕があって。
――そんな男と、二人で、会っていた。
まさか、『一回目』や『二回目』の相手も、彼だったのか?
「否定せずに話を聞いてくれたんだろうか」
「僕の愚痴を言ったんだろうか」
「それとも、僕のことなんて一秒も思い出さなかったんだろうか」
電子カードを握り、潰す。
だが僕の目の前で、「タカシ」という文字が、消えることなくいつまでも揺れていた。
Next chapter... [4/29] 8:30 <tomorrow!>
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