大魔顕現――水劉神
……俺は、冷静だった。
怒りというのは、どうやら頂点を超えると逆に冷めるらしい。
しかし、一方で、トオヒサを絶対に許さないという思いが消えたわけでもない。
俺はトオヒサを見据える。
「”久遠”がある限り、お前に攻撃は届かない……」
「そうだ。何を言ったところで、ワタシは”久遠”を解除することはない」
「だが、やってみる価値はある」
俺は、大地に触れ、魔力をまた借りる。
「ガイアニードル」
作り出したのは大地からせり出す小さな棘だ。
形状はある程度イメージで変えることができるが、今回は燃費と速度重視で小さい棘を形成した。
そして、次々に棘が地面から突き出す形で、前方へと放つ。
本来、ガイアニードルは、地面に自分の魔力を伝導させることで発現させる魔法だ。しかし、俺は純粋に大地の魔力だけで、これを発動している。
もちろん、大きな魔力を使って発動したわけではないので、トオヒサが大地に魔力を伝導させれば簡単に相殺することはできる……
しかし、何が重要なのかと言えば、大地が続く限りこのガイアニードルは前進を続ける、ということだ。魔力が途中で切れる心配はない。
「無駄なあがきを。力技で”久遠”を超えることなどできん。お前だって、それを先程見たばかりではないか。ワタシに届くことはなく、魔力は尽きる」
そう言っている間にも、ガイアニードルは超高速で前進を続けていた。
俺は、トオヒサの魔法を警戒し、大地の魔力を使い魔法結界を練り上げる。
物理的な衝撃を防ぐ魔力障壁よりも、魔法を防ぐ目的で使われる魔法だ。
マホロと同じようにロックウォールでも問題ないが、あれは視界が悪い。
ガイアニードルの様子を、見続けなくてはならなかった。
「これで、死ね」
トオヒサが何らかの魔法を飛ばしてくる。
……しかし、その魔法は、魔法結界に阻まれて消えていった。
「ふむ……あれだけの大口をたたくだけのことはあって、貫通力を高めた魔法でも通すことが出来ないか」
トオヒサはそう言うと、懐から小さな箱を取り出す。
箱を開け、中から取り出したのは、マホロの髪飾りと同じ牙の先端部だった。
「これは10年前の巨龍の牙だ。これを触媒に、一撃で決めさせてもらう」
トオヒサの言っていた”アレ”とは、これのことか。
確かに、規格外の魔力が込められている巨龍の牙、そして【久遠】の二つ名を持つトオヒサの力が合わされば、必殺の魔法となりうるだろう。
トオヒサは、牙を地面へと突き立て、魔力を練り始めたようだ。
大魔法である”久遠”を発動し続けながら、並行して巨龍の牙を触媒にした魔法を放つという離れ業は、ひとえにトオヒサの並外れた実力によるものだろう。
「もはや、魔法を見えぬようにする必要すらない。ただ、そこで終わりを待て。ワタシに楯突いたこと、後悔するがいい。」
トオヒサはそれだけ言うと、魔法の詠唱へと入る。
――天道、水分神、我が手へと下れ
トオヒサの周囲に魔力の軌跡が現れる。
巨龍の牙に宿った膨大な魔力を操り、一つの魔法へと変えていく。
――ここに顕現せしはすべてを呑み込む破壊の権化
魔力は徐々に水へと変わりながら、一つの像を形どっていく。
水が集まってできたその魔法の姿は、東方に伝わる伝説上の存在”東方龍”。
一般的に龍といえば翼を持つ大きいトカゲのような魔物を指すが、東方では、翼がなく蛇のような体を持った伝説上の存在を”東方龍”と呼ぶことがある。
神として崇め奉っている地域もあるほどだ。
トオヒサが笏を前に突き出し、詠唱を終える。
「大魔顕現――水劉神」
巨大な水の龍が、唸るかのような音を立て、こちらに迫ってくる。
それは、触れるものすべてを塵に還す破壊の奔流だった。
ゴウゴウと迫りくるその姿はまさに神の名に相応しい強大さと美しさを兼ね備えている。
間違いなく、一撃必殺の大魔法であった。
――だが、水の龍はこちらに当たることなく、中空で消えた。
作者である自分は、今まで数々の世界を救ってきた勇者です。
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