マホロを守るという約束を果たすために
「どうすれば……」
「どうしようもないさ。すでに君たちは、ワタシに支配されているのだから。仮に君が魔法を使えたとしても、”久遠”の前では無力だ」
くそっ……ここまでか……
胸に滾る怒りは、マホロを傷つけたトオヒサに対する怒り。
そして……何も出来ない無力な自分への怒りだった。
「危ない! ユウタくんッ!」
無力さに打ちひしがれる俺は、突然マホロに突き飛ばされる。
グシャ
鈍い音が響き渡る。
「あああああああ!!!!」
マホロが痛々しい悲鳴を上げる。
見れば、マホロの右腕が、あらぬ方向に曲がっていた。
トオヒサの見えない魔法が、肩に直撃したのだ。
痛みのあまりしゃがみ込むマホロ。
「今回は岩の弾を打ち出してみたが、弾速がイマイチだったな。やはり、事前に察知されづらい水の弾丸が良いか」
トオヒサは、もはや俺たちで実験をしているような、そんな印象だった。
「マホロッ! 大丈夫か! マホロっ!」
「右腕は……もう動かないかな……。でも、左腕はまだ動く」
マホロは、血に濡れた左腕を前に突き出す。
「許さないよ。私は良くても、ユウタくんに手を出すのは、絶対許さないッッ!ファイアランスッッ!」
そのファイアランスは、マホロと戦った時のものよりも数段大きかった。
マホロの中の怒りの炎、それを体現するかのように大きく、何もかもを燃やし尽くしそうな熱量であった。
事実、腕についた血は水分を失い、急速に乾いていっている。
あんな熱量では、マホロ自身も火傷を負っているだろう。
「無駄なことを」
一直線に飛んでいくファイアランスを避けようともしないトオヒサ。
ファイアランスは、ずっとトオヒサに向かって飛び続けていた。
その勢いは衰えることなく、凄まじい速度でトオヒサに向かっていく。
だが……やはり、トオヒサまで届かない。
「まさか、”久遠”を力技で越えようとでもしているのか? 馬鹿らしい。無意識に植え付けられた遥かなる隔たりは、力でどうこうできるようなものではないさ」
ついに、ファイアランスは空中で霧散してしまう。
「お前はッッ!! ユウタくんを、傷つけようとしたッッ!! 絶対に、絶対に絶対に絶対に、絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に許さないッッッッ!!!」
マホロが、続けてファイアランスを詠唱しようとしているのが見える。
だが、先程のファイアランスの熱によって乾いた血、無惨に折れ曲がった右腕、もはや、痛々しくて見ていることが出来なかった。
「やめてくれ、マホロ! 俺は、マホロが傷つくのを見たくないんだ!!」
「ファイア――!」
俺は、マホロに近づき、その魔力の軌跡を遮断する。
ファイアランスは形になることなく、消滅する。
「ユウタくん、どうしてッ!」
どうしてはこっちのセリフだ。
どうして、マホロはそんなにボロボロなんだ?
どうして、俺は怪我一つ負っていないんだ?
どうして、俺はマホロを守れていないんだ?
どうして、どうして、どうして、どうして!
そんなことを思った俺は、なぜか、マホロを抱きしめていた。
「ごめん……こんなになって……俺は、10年前マホロを守るって約束したのに、また守ることが出来なかった」
口から出た言葉は、意識したものではない。
自然と溢れた出たものだった。
その瞬間、俺は10年前の出来事を完璧に思い出す。
覆っていた布がぱっと取り除かれたかのように、鮮明に思い出すことが出来た。
「マホロを、これ以上は傷つけさせない。もう遅いかもしれないけど、それでも俺は、マホロを守る」
「ユウタくん……」
「もう大丈夫だ。今は、ただ俺に任せてくれ。信じてほしい」
「いつだって、私はユウタくんを信じてるよ」
そう言うと、マホロは意識を失った。
怒りでなんとか意識を保っていただけで、実際にはギリギリだったのだろう。
そんなマホロを、俺はそっと地面に寝かせる。
「無限院トオヒサ……俺は、お前を許さない」
「先程も言ったはずだ。その権利を持つのはワタシであって、君ではない」
「すぐに分かることになる。お前が下、俺が上だ」
「そんな安い挑発をしたところで無駄だよ。魔法が使えない者が何を言ったところで、何の意味も持たない」
俺は、10年前の巨龍との戦いを思い出していた。
あのとき、俺は初めて魔法を使った。
だが、それは俺の知る魔法とは、「同じだが異なるもの」であった。
俺は、最初に魔眼に力を込める。
「魔法なら使えるさ」
作者である自分は、今まで数々の世界を救ってきた勇者です。
当然、【評価ptの数だけ戦闘力が上がる】チート能力を保持しています。
というわけで、広告の下にある☆☆☆☆☆より評価をしておいてください。
約束ですよ。




